千年樹に栄光を   作:アグナ

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「兵は謀を伐つ」

   ──孫子


王の間に集う/墓場での遭遇

 ミレニア城塞──王の間。

 ユグドミレニア一族が遂に全てのサーヴァントを揃え、“赤”の陣営も動き出し始めてから既に三日の時が過ぎた。

 当に開戦したにも拘わらず未だ状況は小競り合いに留まり、会敵した相手も“赤”のセイバー一騎のみという状況である。

 

 これを単に嵐の前の静寂と取るか、或いは“赤”の陣営が“黒”の陣営に臆していると取るか……何にせよ基本的に『構え』の陣を取るしかないユグドミレニアにとって全ての勝負は“赤”の陣営が攻め込んできてからだろう。

 

 しかし、だからといって何もしないのは単なる怠慢である。状況が動かないのであればありとあらゆる事態を想定しながら常に変状に備える。

 正午の食事を済ませた王の間にはその気概を持つ油断や慢心に遠い魔術師たちとサーヴァントが集っていた。

 

「“赤”のセイバーとの交戦から一日──敵の動きはどうなっている? ダーニックよ」

 

 眼下に集った魔術師(マスター)とそのサーヴァント──アルドルとフィオレ、ケイローンと暇を持て余した“黒”のキャスターを傍目に居城の主、“黒”のランサーことヴラド三世が口を開いた。

 

「ハッ、使い魔や敵陣営の工作員と思われる者たちに多少の動きは見られますが、他に目立った動きは見られません」

 

「そうか」

 

 ダーニックの報告を聞きながら玉座に悠々と腰かけ、顎に手をやってヴラド三世は思索に耽る。

 此度の聖杯大戦、七騎対七騎という空前絶後の聖杯大戦が幕明けてから未だに敵陣営の全容は見えず、判明したのは“赤”のセイバーただ一騎のみ。

 陣を構える“黒”の陣営に対し、“赤”の陣営はその目的の都合、基本的には攻城戦となるだろう。

 

 古今、敵にとって自陣かつ優位な状況が築かれた城というものを攻め落とすのは極めて困難であり、その攻略には綿密な計算と時間が必要となる。そういった意味では状況に変化なしという現状は敵が攻めあぐねていることを意味するとも捉えることが出来るだろう……だが、果たして本当にそれだけと言えるだろうか。

 

 君主として人民をまとめ上げ、自らも前線に立った経験を持つヴラド三世の直感は“赤”の陣営の沈黙を「不気味」と捉えていた。

 故にこそ彼はこの「不気味」さに対して悠然と身構えるだけを良しとはしない。何せここには生前得られなかった頼るべき臣がいる、将がいる。

 

 だからこそヴラド三世は躊躇いなく生前得難かった頼るべき人材を活用する。

 

「さて賢者に御子殿よ、今の状況をどう見る?」

 

「そうですね……」

 

「あー……」

 

 ヴラド三世に問われたケイローンは数瞬の思考を経て、“黒”のキャスターはボリボリと後頭部を雑に掻き、それぞれ発言する。

 

「実際に攻めあぐねているというのがやはり大きいのではないでしょうか? こちらは城は元よりトゥリファスの街自体も“黒”の陣営にとって優位な状況が築き上げられています。確かに敵にも強力なサーヴァントが付いているでしょうが、それでも敵陣に攻め込むのはそう簡単ではないでしょう」

 

「……ま、サーヴァントが守りを固めた城に対して攻城戦ってのは難しい話だわな。現代魔術師には神秘の秘匿って義務もあるみてぇだし、街で奇襲上等の遊撃戦をやってやろうってのも難しいだろ。狙撃や魔術みたいな遠距離攻撃もそれこそ結界でゴリゴリに固められたこの城相手じゃ意味をなさねえ。仕掛けるにしてもまずは仕掛けを施す()を見付けてからなんじゃねえのか?」

 

 ケイローンは事実に基づく考察を立て、“黒”のキャスターは経験に基づく考察を口にする。それにヴラド三世は頷き、次いで今度はマスターらの方へ水を向ける。

 

「では魔術師から見てどう考える? ユグドミレニアの後継者たちよ」

 

「概ね彼らの言う通りだと考える。現代においても攻城戦……守りを固めた相手への攻勢には相手陣営に対して三倍ほどの戦力差が必要となるのが常識だ。まして“黒”のキャスターによる結界とユグドミレニアが粋を結集した魔術防護、そこに加えて情報不明のサーヴァントらが待ち受けているともなれば、如何な魔術協会とはいえ無策で手を出すことは出来ないと判断できる」

 

「……私もアルドルに同意見です。我々“黒”の陣営にとって“赤”の陣営のサーヴァントたちは未知数ですが、それと同じように彼らにとっても我々のサーヴァントは未知数の存在ですから。アサシンを使ってマスターである魔術師を狙おうにもまさか敵陣営の懐にたった一騎でアサシンを潜入させるだなんて無謀もできないでしょうし」

 

「ふむ……確かに」

 

 ヴラド三世に対してアルドルは現代の常識で以て答えを返し、フィオレもそれに追従する。──尚、フィオレの発言にアルドルは少しだけ微妙な顔をしたのには誰も気づかなかった。

 

「皆の意見はよく分かった。余としても攻めあぐねているという点に関しては同意見だ。ではそれを踏まえて状況をどう見る? いや、“赤”の陣営はどう動くと考える? 我らが構える難攻の城に“赤”の陣営は如何様な攻勢を仕掛けられるか」

 

 次いで問われたヴラド三世の言葉に真っ先に答えたのはやはりギリシャ神話の賢者として名高いケイローンだ。

 

「考えられるとすればミレニア城塞の森林部からの攻めでしょう。何をするにしてもまずは敵戦力の把握が急務です。まさかいきなり全面攻勢とはいかないでしょうから斥候に特化したサーヴァント……もしくは足の速いサーヴァントで攻めかかりこちらの反応を窺うということが考えられます」

 

 攻城戦における攻撃側の着眼点として重要になってくるのはやはり敵の戦力を正確に把握することである。未だに相手陣営に“黒”のバーサーカーと、ルーマニアという土地柄から恐らく真名を把握されているだろう“黒”のランサーことヴラド三世を除けば、敵は“黒”の陣営のサーヴァントの大半を知らない。

 

 特に全騎最優と名高い“黒”のセイバーや三騎士の一角である“黒”のアーチャーの存在も不明である以上、まずは敵に対して様子見の攻勢を仕掛け、そこから得た状況を元手に本格的な城攻めに取り掛かる──。

 

 賢者としての知見からまず以て彼は常識とされる部分から考察する。

 

「そして仮にそのように攻めてくるとしたならば敵の狙いは敵戦力の把握、攻め方に対する我々の備えと反応の観察、それから守りに際して防御ないしはそれに則する魔術や宝具といったものを有しているかも見極めに掛かってくるやもしれません。或いは敵方に攻城に類する宝具があるならば特に」

 

「確かに城丸ごと粉砕できるような宝具があるとすればこっちがどれだけの守りを持っているかは確認したい所だろうよ。あとはそこのアーチャーが言う森からの攻めだけじゃなくて色んな方向から攻めかかることで迎撃範囲を確かめるって手もあるわな。あわよくば戦力を分散進撃、良い感じに相手の手が広くなったところで一気に城を宝具でズドン、ってのもよくある手だろ」

 

 ケイローンの発言に、さらに“黒”のキャスターが付け加える。元よりケイローンが様々な知見から多くの知識を持っているのに対し、“黒”のキャスターはそのクラスに対して戦場を渡り歩いてきたという異例な経験を持つ術者だ。

 数多の戦闘経験から彼は自身ならどう動くかを想定して敵の戦術を組み立てる。

 

「まあ、その場合様子見と見せかけていきなり仕掛けてくるってのもありだな。敵の宝具次第じゃあ初撃でこっちの守りを全部引っぺがすことが出来ても可笑しくはない。例えばあの“赤”のセイバーとかうってつけじゃねえか? あんな馬鹿すか雑に魔力放出してんのを見るに、宝具も大方その類いだろうよ」

 

「確かに、“赤”のセイバーの様子を見るからに対軍ないしは対城宝具を有している、というのは考えられる話ですね。“赤”のセイバーで一気に我々の守りを破り、他六騎で一斉に攻めかかる……考えられる話です」

 

「だろう?」

 

 サーヴァントにとって切り札とされる宝具だが、その宝具にもランク付けのようなものが存在する。その多くは対人、対軍といった自己強化や敵個人に対して害を与えるもの、もしくは複数の味方、複数の敵に働きかけるといった一騎当千の英雄らしいものに占められるが、その伝説によってはそれ以上の大規模破壊宝具……対城宝具といったものも存在している。

 過去には対界などといった世界そのものに干渉する規格外の規模を誇る宝具が存在した例もあるが、そこまで来ると戦術はどう防ぐかよりもどう使わせないかにシフトさせることになるので、また別の話になってくる。

 

 ともあれ今は城の守りごと粉砕可能な大規模破壊宝具を念頭にケイローンと“黒”のキャスターは考察を深めていた。

 

「キャスター。逆にそういった前線での動きを利用して、我々ユグドミレニアの魔術師を狙ってくることは考えられないか? 仮に対城ないしそれに比する大規模破壊宝具でこちらの守りを削ぎ、全面攻勢を仕掛けてきた場合、こちらもやはり全軍を派兵する勢いでなければ太刀打ちできまい。そうした場合、敵アサシンによるこちら側のマスター暗殺などは考えられないだろうか?」

 

 そう発言するのはやはり“黒”のアサシンのマスターであるアルドルだった。自身がアサシンのマスターであり、亜種聖杯戦争においても多くのアサシンを運用してきた観点から彼は前線をオトリとした後方攪乱を想定した。

 

「攻城宝具の仕様次第でもあるが、それに関しちゃ問題ねえだろ」

 

「根拠は?」

 

「外の守りが剝がせても中の守りはって奴だ。確かに対城宝具でも放てば外の結界なんかは破壊できるだろうが城内に仕込んだ仕掛けまでは砕けないだろう。今の俺はキャスターなんでね、そこら辺の仕事は抜かりない。そんで、仮にそっちを攻略され切ったとしてもそん時までには確実に俺が気づく。侮るつもりはないが、たかだか暗殺者程度に後れを取るこたねぇよ」

 

 それは魔術の腕だけではなく、実力にも自信があるからこその発言であろう。此度の聖杯戦争において“黒”のキャスターとして呼ばれた彼だが、本来彼が最もその実力を発揮するのはランサーのクラス。

 つまり元々“黒”のキャスターは前線で戦うことを得手とするサーヴァントなのだ。寧ろ“黒”のキャスターとして呼ばれていることの方が異例といっていいほどに。

 

 そういう意味では元来、正面戦闘を得手とする彼が暗殺者風情に遅れは取らないという趣旨の発言をすることに彼を知る“黒”の陣営は誰も違和感を覚えなかった。

 

 ただ多くのアサシンを運用してきたアルドルだけは重ねて問う。

 

「無論、キャスターの実力は私も把握している。が、アサシンの中には対人に特化した逸材も存在する。過去、私が運用したアサシンの中にも武芸の達人であった暗殺者がいた。その者は攻勢に移っても破られない強力な気配隠蔽スキルを有した上、三騎士のセイバーやランサーといった者たちにも見劣りしない武芸者であったが……それでも問題ないだろうか?」

 

「どんな暗殺者だそりゃあ……あー、そこまで行くと槍なしじゃあちとキツいが持たせるだけならどうとでもなるだろ。少なくとも増援が来るまでは粘ってやる」

 

「なるほど……その場合は状況次第で“黒”のセイバーや“黒”のランサー……ヴラド公に動いてもらえば問題ない、か」

 

 それで納得したのか、アルドルは頷いて口を閉じた。

 

「サーヴァントの動きも気になりますが……おじ様、マスターの動きはどうでしょう? “赤”のセイバーのマスターである獅子劫界離を除けば、未だに動きは見られませんが、“赤”の陣営のサーヴァントの動きに連動して何か仕掛けてくる可能性は考えられないでしょうか?」

 

「確かに王やアーチャーらにサーヴァントの警戒は任せられるとして我々はそちらも考えねばならんな」

 

 フィオレの発言は敵のサーヴァントではなく敵のマスターに焦点を当てたものだ。彼女の言葉を聞いて沈黙を守っていたダーニックが口を開く。

 

「キャスターがいる以上、敵アサシン同様“赤”のマスター自身がこちらに乗り込んでくる可能性は低いだろう。こちらはホムンクルスによる魔力の代替が可能だが、向こうはサーヴァントに対する魔力供給と使用する魔術両面を考えながら戦う必要がある。魔術師自身が前線に出てくることは先の“赤”のセイバーのマスターのように斥候行為や街での活動中でのみとなる。こちらから打って出ない間は魔術師を脅威と捉える必要は無いと私は考える」

 

 それは経験豊富なダーニックらしい冷静な言葉だった。彼の言う通り、戦線が基本的に攻城戦を主体として動くのであればサーヴァントの主たるマスターが出来ることは早々にない。

 まさかマスター自身がサーヴァントを相手取るなどということは不可能なので基本的に魔術師が動くとすればそれは対魔術師を想定した戦いに限られるだろう。

 

 しかしこうしてユグドミレニアのマスターが城に引きこもっている以上、向こうのマスターがこちらのマスターを直接叩くには城に直接乗り込むのが必須。そんな無謀は当然できるわけがないので当然、マスター自身が攻めに加わってくる可能性はまず以て無いといえよう。

 

「こちらに攻め込んで直接打ち果たすより、逆にこちらに向こうの居場所を知られて攻め込まれる方が事だからな。まとまって行動しているのか、或いは“赤”のセイバーのように個々で動いているのかは不明だが、向こうとしては攻めるより寧ろ魔術師としての活動の痕跡を消すことに終始するだろうな」

 

「なるほど……」

 

 ダーニックの説明を聞いて納得したようにフィオレが頷く。

 

 そしてその質問を最後に、あらかたこの場に集う全ての人物が発言を終えたのを見計らい、ダーニックはヴラド三世に目配せをし、ヴラド三世もまた一つ頷いて締めの言葉でこの場を閉じる。

 

「うむ。諸君らの意見、大変参考になった。余から礼を言わせてもらおう。諸君らのような生前は得られなかった頼るべき臣がいることは余にとってこの聖杯大戦における最大の幸運と言えよう──既に戦いの幕は上がっている。今夜か、明日の夜にでも敵は本格的な攻めを見せてくるだろう。努々油断せぬよう諸君らも務めて欲しい。勝利を掴むのは余と我がマスターたるユグドミレニアが率いる“黒”の陣営である。今後も諸君らの活躍に期待する」

 

 そう言ってヴラド三世は薄い笑みを浮かべて言い切り、玉座の間より消えた。

 それを契機に各マスター、サーヴァントらも各々がそのまま雑談にまたは私室へと戻っていく。

 

 その最中──。

 

「ダーニック」

 

 アルドルは解散したその場でダーニックに声を掛けていた。

 相変わらず感情の読めない鉄面皮の親類にダーニックが応じる。

 

「アルドルか、どうした? 私に何か用か?」

 

「ああ、次の戦いの話だ。戦況にもよるが──私の一時戦線離脱の許可を頂きたい」

 

「……ほう?」

 

 その言葉にダーニックは目を細める。

 

 ──確かに聖杯大戦における戦場の花とはやはりサーヴァント同士の激突である。だが、はき違えることはなかれ。これは戦争(・・)なのだ。

 

 来たる戦の足音を聞きながら『先祖返り(ヴェラチュール)』は最後の王手をかけるべく、千年樹の主に一つの献策を持ち掛けた──。

 

 

 

 ──『王の間に集う』

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「暇だ」

 

 ボソリと寝袋に身を包みながら仏頂面で呟く小柄な人影が呟く。

 そして間をおいて応えがないと見るや立て続けに呟く。

 

「あー暇。ちょー暇。暇だなー」

 

「………」

 

 その声、その口調……聞く者が聞けばそれは小柄な矮躯の鎧騎士“赤”のセイバーその人を思い浮かべるだろう。

 実際、件の人物は“赤”のセイバーその人である。しかし、その中身たる人物の正体……それは紛れもなく少年、いや少女のそれであった。

 

 やや色素の薄い金髪を雑に後ろで束ねて、纏う衣服は現地で手に入れたであろうチューブトップという出で立ち。秋だというのに大胆に腹部を晒す様は傍から見て寒そうだと感じるほどの薄着だ。普段は赤いレーザージャケットを羽織ってるものの、此処が彼らが拠点とする『工房』とあって、寛ぐ為に脱いでいる。

 

 少女は、“赤”のセイバーは自身の発言にも無視を決め込むマスター……獅子劫界離に対し、遂に業を煮やしたように叫ぶ。

 

「だッー! 何かないのかマスター! こうもねぐらに引きこもってるだけじゃあ暇で暇でしょうがない! このままじゃモグラに成っちまう……!」

 

「……仕方ねえだろ。動くにしてもあの城の攻略は必須だ。とはいえ七騎のサーヴァントが構える居城に俺たちが単独で乗り込んでどうするよ? 例の“黒”のバーサーカーでアレ(・・)なんだぞ? お前さんの実力なら或いは二対一でも戦えるんだろうが七対一は無理なのはお前さんだって分かるだろ」

 

「けどよう、陰気な場所に引きこもっているだけだと暇で暇でしょうがない。大体なんでねぐらが地下墓地(カタコンペ)なんだよ。あり得ねえだろ、マジで」

 

「……それを死霊魔術師(オレ)に言うかね、お前さん」

 

 魔術師はその活動をするにあたって自らの魔術の研究や拠点を構えた何らかの活動を行うために自らの『工房』を作り上げる。

 主にその条件としては魔術の使用が露見しないよう人目に付かないことと、魔術行使に都合が良い場であること……つまりは良質な霊脈があることなどを条件に自らの『工房』を構える。

 

 獅子劫たちもその例にもれずトゥリファスに『工房』を構えている。但し場所は街中ではなくその外れ……かつ地下に設けられた地下墓地である。

 無論、獅子劫が死体と接することを旨とした死霊魔術師(ネクロマンサー)であることを考えれば、当然かつ最良とも言える選択であるが、理屈が通るからと言って感情は別だろう。

 

 果たして寝袋一つで薄暗い地下墓地に死体を横に寝食ともにしろと言って納得するかと言われれば、少なくとも“赤”のセイバーはこの通りだ。

 

「なぁ、もういっそこのままならオレ一人で街に遊びに行っててもいいか? これじゃあ鬱になって戦う前に退去しそうだ」

 

「あーもう、分かった、分かったよ。どうせ一人じゃ堂々巡りだしな、そんじゃあ俺を手伝ってくれ。もちろん、聖杯大戦に関して、だ」

 

「お、なんだ?」

 

 まるで構って欲しいと強請る娘に応じる父親のような態度で獅子劫が頭を抱えて“赤”のセイバーに向き合うと、途端に目を好奇心に輝かせて応じる“赤”のセイバー。

 我がサーヴァントながら現金な奴である──そう思いながら獅子劫は口を開いた。

 

「話の前に一つ、セイバー。お前さんは仮に戦うとしたら何処がいい? 遮蔽物の多い街か? それとも広い平地か?」

 

「んー、そりゃあまあ平地だな。ちょっと前にマスターには説明したが、オレの真の宝具は対軍宝具だ。遮蔽物がないならないだけ思いっきり放てて威力も出る」

 

「なるほど……因みに、だ。お前さんの宝具でミレニア城塞を攻撃するとしたら城を破壊することは可能か?」

 

「あの城か? あの程度の城なら破壊するだけならどうとでもなる。少なくとも城を破壊するだけならな」

 

「じゃあキャスターないし、他のサーヴァントが守りの宝具を敷いている場合はどうだ、こっから見てもあの結界は中々のモンだぜ」

 

 そういって獅子劫は調査によって作り上げたミレニア城塞の外観図を指でなぞる。

 調査の結果、獅子劫は城外に張り巡らされた結界は二重構造、探知と防御の組み合わせであることと、それがルーンや北欧の魔除けの魔術を基盤とした大規模な結界であることを見抜いていた。

 特にルーンの方は恐らくキャスターの仕事だろう。対宝具をも想定したであろう大結界は恐るべきことにAランクの宝具すら防ぎきって見せるほどの強靭な魔力防護を誇っている。

 

「それでも、だ。マスター、オレの宝具を侮るな。それは侮辱と取るぞ」

 

「そういうつもりじゃねえよ。俺は魔術師だからな、時にお前さんの誇りを置いても冷静に判断しなきゃいけねえ。そこんところは分かってほしいがね」

 

「……チッ、わぁってるよ」

 

「んじゃあ次だ。仮にお前さんの宝具で城の守りを粉砕したとしてだ。その後、お前さんはどの程度戦える?」

 

「宝具を使った後? ……普通に戦うだけなら問題ねえよ。だけど宝具ってのはマスターも知っての通り使った後は魔力も含めて相当に消耗する。宝具撃った後に連戦ってのは流石のオレもちとキツい」

 

「だよなぁ……」

 

 サーヴァントにとって宝具は文字通りの切り札である。真名解放し、一度発動すれば強大な戦果を得られるが、反面消耗の方も絶大だ。

 まして“赤”のセイバーの宝具は出力換算してA+を数えるほどの強力な対軍宝具。使用すれば並のサーヴァントは粉砕することができるが、使用後は魔力は当然のこと体力も相当に消耗する。

 

 追撃戦を行うならばともなく、連戦ともなれば如何に最優のサーヴァントセイバーといえども持たない。

 

「となると、単騎で攻めるなら城から連中を引き摺り出すのが必須か……だが連中から城の外に出てくるわけもなし……はぁ手詰まりだなこりゃあ」

 

 そういって獅子劫は地下墓地の天井を仰ぐように顔を上げる。

 その言動に“赤”のセイバーはようやく丸一日マスターである獅子劫が何を考えていたのかを把握した。

 

「つまりなんだ。マスターは“黒”の連中の城攻略を考えてたわけだ」

 

「そうだよ。……未だに“赤”の連中と連絡が付かない以上、最悪を想定して一人で戦うことを前提に戦術を組み立てなきゃいかんからな。とはいえ、どうにもならないね、これは」

 

 獅子劫と合流予定だった“赤”の陣営の集合地。

 そこに彼と同盟するはずのマスターもサーヴァントの影もなく、あったのは血だまりと破壊跡のみ。“赤”の陣営と未だに接触できていないというのが獅子劫たちの現状である。

 獅子劫らなりに“黒”の陣営の調査や小競り合いをしつつも、自陣営の様子を気にしていたが、此処までやはり連絡は無い。

 

 痕跡からしてまさか全滅とまでは考えていないが、“黒”のアサシンに分断された傷は思った以上に深いのではないかと獅子劫は考えていた。

 故にこそ単独での“黒”の陣営打倒ないし攻略を考えてはいるも、結果はこの通り。守っていればいい相手と攻めなくてはならないこちらではどうしても出来る手段が限られる。

 

「……セイバー、仮にもお前も円卓の騎士だろ。城攻めの経験ぐらいあるよな?」

 

「仮にもってのは余計だが、ああ、あるぜ」

 

「仮に生前のお前さん……というか、円卓の騎士ならどうやってあの城を攻略してた? 陽動でも破壊工作でも規模は問わんから手段を教えてくれ」

 

「城攻めの方法だぁ? 方法……方法ねえ、そういう小難しい話はアグラヴェインの奴の仕事だったからなー」

 

 獅子劫の藁にも縋るような問いに“赤”のセイバーは暫し、腕を組み考え込んだ後……一つ頷いて口を開く。

 

「そうだな。前あった奴なら教えられる」

 

「おう、そいつはどういう手段だ」

 

「ああ、あん時は確か、言うこと聞かねえ諸侯共の部下だっていう将軍が構えている城攻めだったかな。何でもヴォーディガーンの野郎が呼び寄せた大陸の魔術師だか何だかが妖精の力を借りて馬鹿みたいに強力な結界を築き上げてたんだよ」

 

「へぇ。そいつは確かに今の状況と重なる部分があるな。それで、どうやってその城を攻略したんだよ?」

 

「おう。あまりに強大であんまり時間もかけられないってことで父上の号令の下、全軍での攻撃が決まってだな」

 

「ほう……それで?」

 

「まずガウェインの野郎が聖剣をぶっ放して」

 

「……おう?」

 

「次にランスロットの奴が聖剣をぶっ放して」

 

「…………おう」

 

「最後に父上が聖剣をぶっ放して終わりだ。そん時考案したのはマーリンの野郎だったが、流石父上とだけあって鮮やかな城攻めだったぜ!」

 

 懐かしいなーと喜ぶ“赤”のセイバーの傍らで獅子劫は静かに頭を抱えて項垂れた。

 ……忘れていた。“赤”のセイバーは円卓の騎士に名を連ねる存在。未だ神秘が地上に色濃く残った時代を生きた英雄である。

 近代の常識的な城攻めに関する戦術など期待するだけ間抜けだろう。

 

「オーケー。確かに参考にはなった」

 

「おう! そいつは良かったな!」

 

 なるほど流石のミレニア城塞と言えどもセイバーの宝具を三連ぶっぱできれば攻略は容易いだろう。

 問題があるとすればそれほどの魔力量を現代魔術師である獅子劫が持ち合わせていないということだけだ。

 

「……はあ、もういっそ令呪でセイバーの宝具を三回叩きつけるのが最適解に思えて来たぜ」

 

 きっとミレニア城塞も粉砕できるだろうと肩を竦めながら脳筋的思考に奔りかける自分の投げやりな思考を自覚し、眉間を指で押さえる。

 取り敢えず最終手段は聖剣ぶっ放し(それ)にするとしても、獅子劫は現実的な攻略手段を考えなければならない。

 

「しかし、どうしたもんか……」

 

 せめて一騎、可能なら他のマスターと連携できれば、とそこまで獅子劫が考えた時だった。

 先ほどまで退屈を持て余した猫の様だった“赤”のセイバーの気配が一変する。

 

「……マスター! 何か来るぞ! サーヴァントだ!!」

 

「何ッ!?」

 

 “赤”のセイバーの突然の檄に、飛び上がるように獅子劫は身なりを整える暇もなく、片手に銃を、“赤”のセイバーの方は剣を構える。

 ──仮にも魔術師が居を構える工房。アサシンが有する気配遮断スキルでもない限り、こちらに知られず忍び込むことなぞ不可能なはず、ならば“黒”のアサシンによる侵攻か、果たして警戒を露わにする“赤”の主従の前に現れたのは──。

 

「──ふむ、お守りとやらを外すのを忘れていた。すまんな驚かせてしまったようだ。汝らは“赤”のセイバーとそのマスターで間違いないな」

 

「お前は……」

 

 現れたのは端正な顔立ちをしながらも何処か野性味を感じさせる一人の女性だった。“赤”のセイバーよりも一回り高い背丈に、当代の衣服を身に纏った姿は一見して何処かしらの女学生とも取れることだろう。

 だが彼女の古風な言い回しと、放たれるサーヴァントとしての桁違いの霊格がそれを否定する。

 謝罪に次いで少女が名乗る。

 

「私は“赤”のアーチャーだ。故あって“赤”の陣営の代表として汝らへの伝言を任された。構えは解かなくても良いので話を聞いてくれるとありがたいが」

 

「“赤”のアーチャー……それに“赤”の陣営の伝言だと……?」

 

 思わぬ来客に、思わぬ発言。

 少女の言葉を繰り返しながら獅子劫は当惑する。

 “赤”のセイバーと言えばまだ警戒しているのか剣を構えて少女の方を睨んでいるが向けられる敵意をそよ風と受け流しながら“赤”のアーチャーは続ける。

 

「──今夜、“黒”の陣営。ミレニア城塞に対する城攻めを開始する。可能ならばこちら側に協力して欲しい……これが我らの陣営を率いるものからの伝言だ」

 

 それは奇しくも獅子劫が思い描いていた理想的状況。

 “赤”の御旗の下に協力して城攻めをするという提案だった。

 

 ──沈黙を守っていた“赤”の陣営がついに動き出す。

 その事実に、獅子劫は背筋に冷たい戦慄と武者震いを自覚しながら。

 

「詳しく聞こう」

 

 短く、“赤”のアーチャーにそう返していた。




「呵々々々! そうかお主がランサーか! 
 しかし踏み込みが浅い! 
 呼吸を隠せ! 
 術の練りが甘いわ!
 お主の本気はその程度かッ!
 なっとらん!!(ズドンッ!)」

「………実際目にすると一周回って笑えてくるな。これがアサシンのサーヴァントか」


──とある亜種聖杯戦争にて
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