千年樹に栄光を   作:アグナ

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「いけ好かないキャスターめ、光栄に思うが良い──魔術師風情で我が剣の前に立つことを」


聖杯大戦 Ⅶ

 セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。

 

 ユグドミレニアを代表する“黒”の陣営一角。

 騎兵(ライダー)のクラスを頂くマスターである。

 

 彼女の家――アイスコル家は代々黒魔術を基盤とする魔術を継承する家柄で、その歴史はユグドミレニア一族内でも比較的古い血統だ。

 

 彼女の扱う黒魔術とは、基本的に生贄を捧げることで特定の対象に対して、呪いや災厄を呼び込んだり、時には悪魔召喚などを行うことを生業とした魔術基盤だ。

 その特性上、中東や南米、果ては東洋にまで広く存在する『呪術』と重なる部分があるために時計塔の魔術師の一部からは蔑視されることもある魔術でもある。

 

 そんな黒魔術を代々継承してきたアイスコル家には黒魔術儀式において生贄が精神異常(トランス)状態に陥ることはあっても生贄を捧げる術者の側が精神異常(トランス)状態に陥ってはならないという教えが存在している。

 

 これは魔術師としての合理性……黒魔術という一歩間違えれば術者に呪いが返ってくる、いわゆる呪詛返しの危険性から常に厳粛に振る舞うべしという意味もあったが、それ以上に──人間が生命活動のために他の生命を糧とするのと同じように、氷の如き眼で以て厳粛に生贄を処理する。それが生贄を捧げるものが生贄と相対する上での正しい在り方であると。

 そんなアイスコル家の理念からの教えでもあった。

 

 だが黒魔術を継承する家柄として正しくあろうとしたアイスコル家も中世の魔女狩りを契機に衰退の一途を辿っていくこととなる。

 魔女狩りから逃れるため代々身を置いて来た西欧の地からシベリアに拠点を移すと、従来の魔術基盤を失ったことから徐々に廃れていった。

 

 多くの魔術師がそうであったように、歴史あるアイスコル家も没落する──そんな未来を見た彼らは苦渋の決断でダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの甘言に乗り、自らの魔術をユグドミレニアに溶け込ませて延命させることとなる。

 

 どれ程の苦難の果てにも何とかしてアイスコル家を存続させる。

 そうした彼らの執念に果てに生まれたのが、アイスコル家最新の継承者セレニケである。

 

 衰退しかけの一族に生まれた久方ぶりに生まれた赤子。

 一族の老婆たちは彼女の誕生に歓喜し、そして彼女に徹底的に黒魔術を教え込んだ。

 

 獣を、人間を、赤子を、善人を、妊婦を、老人を。

 生きとし生ける生命をくべて神秘を具現する黒魔術。

 

 術者に絶対的な理性の制御を要求する黒魔術は何よりも精神面での強さを要求する。

 如何なる残虐な儀式も執行できる鋼のような理性をだ。

 だからこそアイスコル家の教えにある通りに、老婆たちはセレニケが如何なる儀式においても、心乱さず冷徹な目で以て贄を送れるようにと、彼女を一流の黒魔術師として振る舞えるよう鍛え上げた。

 

 ──ある意味では、セレニケは極めて優秀だった。

 

 彼女は徹底的に己を律した鋼のような精神で、鉄の理性で、彼女は老婆たちの教えの通り本当に、本当に徹底的に我慢したのだ。

 

 自らの内から生じる衝動──生命を弄ぶことへの悦び、生贄への加虐趣味を。

 

 そうセレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。彼女は表面的には、魔術師としては優秀であるが、その性根は黒魔術以上にどす黒く膿んでいた。

 魔術師として魔術に関わることに関しては彼女は徹底的に我慢できたが、ひとたび私事の時間──魔術師でない時間を与えられた彼女は押さえつけていた有り余る情欲を贄に叩きつけた。

 彼女と一夜を過ごして無事だった人間が一人もいないことこそその証明。

 

 純粋な目で世界を見る少年を徹底的に穢し、犯し、苦痛を与えてその涙で喉を潤す。

 魔術師ならざる時の彼女は性癖がために無意味に生命を散らすという意味では魔術師以上に最悪だった。

 ……老婆たちはそんなセレニケの性根を知ってはいたが、目を瞑った。資質だけをみれば黒魔術師として優れた才能を持っていたセレニケである。

 久方ぶりの継承者である彼女の存在と才能を前には少し困った彼女の性質など些事だと感じたのか、或いは若く最新の血族として甘やかしたのか。

 

 ともあれ、鉄の理性の下に隠した欲望は肥大化するばかりだった。

 黒魔術師として表面上は正しく振る舞い、魔術師としてユグドミレニアに貢献する。一方でその身には常に肥大化し続ける加虐趣味を持つ怪物(おんな)

 それがセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアという女魔術師の正体であった。

 

 だからこそ彼女は最初から聖杯など求めていなかった。

 元よりそれはダーニックが手にするだろうし、己に与えられた配役はライダー。

 主力となる三騎士からは程遠く、そもそもをして彼女の性根は聖杯に託すような祈りを持たぬ身である。

 故に聖杯大戦の参加者として、彼女は表面上は正しくマスターとして振る舞いながらも初めから趣味(・・)に走るつもりだったのだ。

 

 英霊──伝説・神話に名を刻みし偉大なる存在、そんな彼らを徹底的に穢して犯して凌辱の限りを尽くすという最低最悪の欲望を満たすために。

 その願いは果たして半分(・・)は叶った。

 

 そう、半分である。

 彼女は願いを完全に結実させることは、出来なかった。

 何故ならば怪物以上の怪物が、彼女の身近に居たからである。

 

 偽りの千年樹など霞む唯一無二の存在。

 真なる黄金千年樹(ユグドミレニア)──アルドル・プレストーン・ユグドミレニア。

 

 あの(・・)ダーニックが狂喜乱舞し、次代のユグドミレニア首領として何もかもを差し出すことを良しとした本物の化け物である。

 彼の存在を知った当初、彼女はアルドルに対して何の感情も抱いていなかった。ダーニックの後継。プレストーンの縁者。『先祖返り(ヴェラチュール)』の肩書をダーニックが称賛する一流の魔術師。

 その程度の認識であった。

 

 だが、その認識はすぐに大きく覆る。

 ──南米の地にて亜種聖杯戦争。

 アルドルをして片目を失うほどの激戦であったという聖杯戦争より帰還したその日。

 彼は持ち帰った戦利品により──奇跡を顕現させた。

 

 

 

『ありえん──ありえんッ! ありえんッ!! 何だこれは!!!』

 

 同席したゴルドの悲鳴が思い出される。

 ああ、今なお決して忘れられぬ。

 悍ましい、余りにも恐ろしい光景が。

 

 

 ──それは一つの『世界』だった。

 

 

 果てなく広がる蒼穹と永遠を思わせる緑の海。

 空を駆けるのは白鳥のように舞い踊る戦乙女たち。

 そして雄々しく羽ばたく太古の竜。

 

 天上を見上げればそこには(ソラ)が広がり、そこには九つの泡沫が異なる景色をレンズの様に映している。

 炎と、氷と、霧と、日と、夜と、森と、川と、そして館。

 そこには多種多様の住民が、荘厳に佇む巨人と神性を纏う獣と神秘を遊ぶ住人たちが暮らしている。

 

 あまりにも出鱈目な御伽噺(フェアリーテイル)

 魔法以上に魔法としか思えない奇跡。

 

 世界の主に曰く霊脈固定型(ルーツレイライン)固有結界(オブワールドツリー)

 『神話再演(ピリオドアルター)北欧神話(ノルドマイソロジー)』。

 文字通り神話の時代を再演する究極の魔術だった。

 

『──を手に入れた時点で構想だけはしていた。発動動力となる魔力が流石に私だけで賄うには最低でも三十年は掛かると思っていたが、仮にも正しく機能する亜種聖杯を手に入れられたのは正直、僥倖だったよ。一度発動させればこのように土地に定着して機能するが、如何せんその発動に大きく魔力を消費する。故に術式や工房までは用意できても機能させることが今まで叶わなかった。まさに怪我の功名といった処かな? 片目を捧げた甲斐はあったな』

 

 そう言って肩を竦める青年が、もはや魔術師には。

 否、同じ人間にすら見えなかった。

 

『北欧神話に語られるユグドラシル……いわゆる世界樹という奴は西欧圏においては元々珍しい神話形態ではない。要は樹木崇拝という概念だからな。ヨーロッパにおいてはポピュラーな信仰と言える。ゲルマン民族の聖なる森、古代ローマの偉人ロムルス王にまつわるイチジクの木、マイナーだがペルクナスを信仰するスタルムジェーの楢も樹木崇拝の一種だな。こういった信仰は東洋圏にも多くあるから人類にとっては普遍的な信仰だと言ってもいい。もっとわかりやすい手短な例を挙げるなら、クリスマスツリーなどはその最たるものだろう』

 

 隻眼のまま語る青年はさながら知恵者のように。

 人間には届かない遥か高みから自らの魔術を詳言する。

 

『元より樹木という奴は人の寿命を超え、その土地を幾年、幾百年と見守るモノ。自然信仰の一種として人がそこに神秘を見出すのはある意味では当然と言えるだろう。樹に神は宿る──転じて実り豊かな豊穣の象徴でもある樹こそが世界である、とな。人を超える寿命を過ごす樹が生命力の象徴であるのは、もはや魔術師である我々にとっては当然の常識だ。術式だけ言ってしまえば私のこれは樹木信仰(それ)を利用しただけのものだよ。規模と掛かる手間を除けば、魔術自体はそう珍しいものではない』

 

 ──ああ確かに、術式だけなら魔術師(わたし)にも分かる。

 これはよくある信仰、迷信を利用した類いの魔術。

 人々の普遍的な意識を利用し、局地的に働く詐術の類。

 

『樹に神が宿り、世界がある。ならばこそ樹木の内界にこそ世界があるのだと。これはそういう固有結界(魔術)だ。以前、時計塔の書斎で個人を一つの世界と見立てて、その内部時間を加速させる術式、固有時制御(タイムアルター)の術式を見る機会があってな。方向性としてはアレを上手く利用したものだよ。後は空想樹……と、この知識は無用か。まあなんだ、見た目こそ凄いが()を通じて持ち出す都合、外に出せるのは精々この神代(時代)の魔力ぐらいだし、元より黄昏で滅んだと刻まれた神話を再現しただけのものだから神々も居付かない。出来て神話の術式を表に起こすか、起源(わたし)苗木()に縁のある存在を極短時間召喚することができる程度、大したものではない』

 

 しかし真に恐ろしいのはその精神。

 

 この聞いただけでは空想じみた構想を、術式が通るならば実現できるだろう──と。

 普通ならそれだけで止まるはずの思考をそのままに、実現のために行動し、空想としか思えない結果を現実に叶えてみせ、そして手にした成果を単に上手くいった程度にしか考えていない精神性。

 

 この規模に、達成にまで掛かるだろう労力、魔術師における冠位指定(グランドオーダー)にも等しい遠大な術式を完成させるために要するだろう時間。どれも尋常ならざるものなのに。

 一人の魔術師が……否、一つの魔術一族が生涯をかけてやるが如き難業を、アレ(・・)は当然のように実行に移して、そして当たり前のように成功させた。

 理論上そうなるなら出来るだろうと──ただそれだけで。

 アレは御伽噺を成立させた。

 

 ユグドミレニア一族に生まれた天才?

 ダーニックが認めた優れた魔術師?

 プレストーンの正当たる純血の『先祖返り(ヴェラチュール)』?

 

 否、否、否。これは違う。

 根本的に違う、文字通り生きている世界が違う。

 

 アレは子供の空想が現実にあると本気で信じるが如き愚行を平然と行い。

 愚行を真実、偉業へと変えてしまえる桁違いの天才(怪物)。 

 

 畏怖? 畏敬? 

 そんなものでは評せない絶対的な恐怖。

 

『──……ああ、なんと、素晴らしい……ッ!』

 

 あのダーニックが恥ずかしげもなく惜しみもなく滂沱の涙を流している。

 

 そう──これが(・・・)ユグドミレニア。

 あの日、黄金千年樹の異名は真実たった一人だけのものになった。

 

 

 

 だからこそ他のマスターたちには分かるまい。

 あの日、召喚するサーヴァントに関してあの化け物が口を挟んできた時、セレニケがどれほどの恐怖と絶望を覚えたか。

 そして己の願いを通すために如何ほどの勇気、気力、意志を振り絞ったのか。

 

 あの化け物を前に己が希望を認めさせた時に己がどれほど歓喜に、悦びに絶頂したのかを。

 

 そうだ、化け物は化け物同士。聖杯でも何でも勝手に取り合っていればいい。私は初めからそんなものに興味はないし関わらない、関わりたくない。

 

「そうよ、こんな面倒事、私には関係ない。あんな化け物がいるんだもの。初めから人間()には関係ないのに」

 

 ギリッと歯ぎしりをしながら呼び出した黒犬の使い魔を城内に放つ。

 聖杯大戦の戦端が切られ、あの化け物に付き合わされてから暫くたった後、忌々しいことに彼女はダーニックより一つ、新たな役目を負わされていた。

 

 それは侵入した敵の排除……“赤”のセイバーとそのマスターをミレニア城塞から叩き出すことである。

 無論、叩き出すとは比喩であり、言ってしまえばマスターを殺せという話。それも命令は彼女に限らず、ミレニア城塞に坐する全てのユグドミレニアの魔術師に向けてのものである。

 

 一報を聞いた時、セレニケは内心面倒くさがりながらも自らが与えられた役目の通り行動を開始する。

 元より敵の追尾、拘束、呪殺は黒魔術が得意とする領域。

 あの化け物ほどではないにせよ、彼女もまた天才と呼ばれる魔術師だ。

 行動に迷いはなかった。

 

 自室を飛び出し、使い魔を解き放ち、敵を追う。

 

「……にしても何て間の悪い。たかがマスター一人とサーヴァント一騎程度、あの化け物が居れば秒もかからず何とでもなったでしょうに」

 

 忌々し気に呟きながらも、そこには恐れと確かな信頼があった。

 そうアレは化け物だが、同時に味方ではあるのだ。

 だからこそアレの強さも実力もよく知っている。

 正々堂々、正面から戦闘を行う愚行を行わなければアレは下手なサーヴァントなど容易く粉砕する。何せアレ自体が規模だけなら神代の魔術師──下手なキャスタークラスを凌駕する使い手だ。

 

 まして此処はミレニア城塞。アレにとっては文字通りホーム。

 であれば、たとえ性能的に魔力への抵抗力が高いというセイバークラスとてアレは五分以上に戦えるだろうとセレニケは確信している。

 よって侵入者が現れた時に限ってアレが不在である現状を呪う。

 

「勝手に潰し合って、勝手に好きなだけやり合えばいいというのに。全く。ああ──そうよ、そうすれば初めから私は居なくていい。存分に、彼と二人だけで楽しめたのに……!」

 

 本当に忌々しい。

 この手に宿る令呪。

 聖杯獲得を待たずともこれさえあれば自分の願いは今にでも叶う。

 

 シャルルマーニュ十二勇士アストルフォ。

 いとも名高き勇士の中でも最も可憐なる英雄。

 それを穢し、犯し、徹底的に凌辱する快楽に酔いしれることができる。

 

 そのためならば近づきたくもない化け物にだって協力する。

 アレが言う早急に“赤”の陣営を全滅させ得るという作戦が上手くいけば、すぐにでもマスターなどという面倒な役割から抜けることができるから。

 

 そうすれば後は思う存分、魔術師としての責務など投げ捨てて自分の欲望のままに出来る。

 

「そう、それがいいわ。ああ、アストルフォ、アストルフォ! 貴方は一体どんな苦悶(カオ)をするのかしら! どんな声で啼くのかしら!」

 

 あの美しく、可憐な美少年の顔が歪み、涙を流し、小動物のように震えて己に頭を垂れる様を想像するだけでセレニケは身悶える。

 

 ……彼女の願いとは初めからそれだった。

 己の有り余る嗜虐心の全てをあの英霊に叩きつけること。

 ユグドミレニアの誰が聞いても頭を抱えるだろう愚挙こそが彼女の願い、彼女の祈り、黒魔術を司る魔女に相応しい最低最悪な悪意(望み)だった。

 

 勝利の果てに得られる悦楽のためならば、この苦痛としか言えない前戯だって我慢できる。

 聖杯大戦勝利後であれば、聖杯か、もしくはあの化け物にでも言えばサーヴァント一騎程度受肉することぐらいやって見せることができるだろう。

 そうすれば後は己の思うがままだ。

 手元には令呪があるのだ。どんな英霊だって逆らうことは出来やしない。

 

「ふふ、あははは! 口惜しい、待ち遠しい! でも楽しみだわ! ええ本当に!!」

 

 嗚呼──全く! と、その瞬間を思い、喜悦に口元が歪む。

 

 故に願い叶えるためにも、さっさと邪魔者とやらを殺さなくては。

 荒ぶる狂喜とは裏腹に、思考は冷静に彼女は黒魔術を操る。

 

 ユグドミレニアの魔術師、“黒”のライダーのマスター──セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。確かに彼女は黒魔術師としては間違いなく優秀であり、その本性が趣味として人を嬲り殺すという最低最悪の加虐趣味の人間であったとしても、仕事は的確だった。

 彼女の黒魔術は確かに獲物の動きを的確に捉え、フィオレが逃した侵入者の所在へと近づいていた。

 

 ならばこそそれ(・・)は言ってしまえば不幸の類。

 一種の事故、或いはアイスコルに対する生贄たちの呪い。

 運命の嚙み合わせが悪かったともいえよう。

 

 一つ──彼女は優秀な魔術師であり、侵入者たる獲物(マスター)の近くまで真実肉薄していたこと。

 

 一つ──ミレニア城塞に侵入して来た“赤”の陣営のサーヴァントが、他ならぬ“()のセイバー(・・・・・)であったこと。

 

 そう──運命の主演を欠き、本来とは別の流れを辿る世界であっても、因果というものは甘くない。

 ましてやその終焉(けっか)を一度観測した者が、彼女は知らぬとはいえ身近に存在しているのだ。

 であれば同じ結果を呼び込まないと誰がいえよう。

 

 此処に箴言を告げられる魔術師が居れば語っただろう。

 この世界には運命も、因果も確固として存在すると。

 かの魔術師が此度の戦争においてアストルフォ召喚を渋ったのは、何も性能やサーヴァントの気質にだけではない。彼を抱え込むことによって辿る結末。呼び込んでしまう結果こそを警戒していたのだ。

 

 だが智慧を持つ魔術師ならざる彼女はそれを知らない。

 そして知らぬままに箴言に逆らった。

 非常の事態に無知なる者はただそれだけで罪となる。

 因果応報──これはただ、それだけの話だった。

 

 爆発、轟音。

 突如としてセレニケのすぐそば。

 ミレニア城塞の内壁の一角が弾け飛ぶ。

 その中から二つの影が飛び出してくる。

 

 一つは紅の鎧に身を包む騎士。

 一つは青のローブに身を包む魔術師。

 

「な、ッ──!」

 

 驚愕に声を上げるセレニケ。

 目前に現れたのはサーヴァントだ。

 片方は侵入者たる“赤”のセイバー、もう片方は“黒”のキャスターである。

 

 両者は剣と杖を絶え間なく交わし、こちらに気づかない様子で飛び込んできた。

 そしてそのまま。

 

「……あん? チィ──邪魔だ!!」

 

「待ッ──!」

 

 まるで鬱陶しい羽虫を払うように“赤”のセイバーが大剣を振るう。

 

 ──事の全てはそれで終わり。

 

 “黒”の陣営のマスター、セレニケ・アイスコル・ユグドミレニアは“赤”のセイバーの手によって胴体から真っ二つに斬り裂かれ一瞬にして絶命した。

 これにて“黒”の陣営はライダーの主従は脱落。奇しくも彼女が死んだのはライダーが“赤”のアーチャーを討伐する寸前の出来事であった──。

 

 

 

 

「──おいおい、やってくれるねえ。うちのマスターの一人を取りに来るなんてよ」

 

 目前で起こった悲劇──自陣営のマスターの一人が目の前で打ち取られるという光景を見せられても、“黒”のキャスターは何処か楽し気に嘯くばかりだった。

 戦いが始まって以降、いいや否、この戦争が始まって以降、まるで傍観者にでもなったかのように“黒”のキャスターは戦争の推移を何処か他人事のように楽しんでいる。

 

 だが平時からのその調子を知らないだろう“赤”のセイバーは自らが手にした戦果に喜ぶどころか苛立たし気に吐き捨てた。

 

「はっ、仲間の敵をってか。いけしゃあしゃあとよく言うぜクソ野郎」

 

「こりゃまた随分と嫌われたようで」

 

 会話をしながらも両者は絶え間なく互いの武力を押し付け合う。

 剣と杖。

 得物は違うが両者の武器が激突するたびに発生する魔力の渦が壁を、床を、大気を揺らしてミレニア城塞の内部を木っ端みじんに破壊していく。

 

 ユグドミレニアに被害を強いるという意味でなるほど、“赤”のセイバーの行動は確かに戦果を叩き出しており、対する“黒”のキャスターは城を破壊されるのみならず、不運にも味方のマスターの一人を失うという結果を出してしまい、劣勢ということになるのだろうが……。

 現実はそうではなかった。

 

「……ああ畜生! またこれ(・・)かッ!!」

 

 “赤”のセイバーが忌々しいとばかりに赤雷の大剣でもう何度目かになる障害を払う。

 床を壊すたびに、壁を粉砕するたびに、それを契機として襲い掛かる“黒”のキャスターの魔術。

 それが“黒”のキャスターと相対する“赤”のセイバーが先ほど幾度となく受け続ける猛威である。

 

 “赤”のセイバーたる彼女はセイバーのサーヴァントとしての基本性能として当然ながら高い魔力抵抗力、いわゆる『対魔力』を保有している。

 それこそ、現代の魔術師は疎かキャスタークラスが操れる大儀式の魔術を受けても無傷で済ましてしまえるような高ランクの『対魔力』スキルを。

 

 しかし相対する“黒”のキャスターはそれを容易に食い破ってくる。

 襲い来る炎、氷、木々の障害に、魔力糸による拘束。

 本来は実害が出る前に効果を失くすだろうそれらが例外なく“赤”のセイバーに突き刺さる。

 それを気にして対応しようと行動を起せば……。

 

「よっと、お前さんは意外と素直な奴だな」

 

「ガッ──!!」

 

 一気に懐まで距離を詰めて来た“黒”のキャスターの杖術を受ける羽目になる。

 杖の尖端部をさながら槍に見立てて構えた“黒”のキャスターはまるで獣のような俊敏性で瞬く間に距離を詰め、“赤”のセイバーの顎をかち上げる。

 意識の外からの一撃に、受けたダメージこそ軽微なれどその場でたたらを踏む。

 そこに叩きつけられるは“黒”のキャスターの魔術。

 

「アンサズ!」

 

「ッッ!!」

 

 原初のルーン魔術。

 神代の炎が“赤”のセイバーが持つ防護を食い破って襲い来る。

 流石に有する高ランクの『対魔力』のお陰で効果は減衰しているものの、ダメージが入らないわけではない。鎧内部の肉体に強烈な火傷を刻み込む“黒”のキャスターの魔術は確実に“赤”のセイバーを削り追い詰めていっている。

 

 開戦よりかなり経過を過ぎているにも拘わらず、最優を誇るはずの“赤”のセイバーがあろうことか“黒”のキャスターに追い詰められていく様は、仮に常識を持つ魔術師が見ていれば驚愕に値する光景であろう。

 

 ──冬木の術式が外部に流出して幾星霜──亜種聖杯戦争の発達により英霊召喚という奇跡が俗世に見慣れたものとなって以降、魔術師たちもサーヴァントというモノへの見識を深めていき、その性能を正確に評価していった。

 その彼らの見地においていわゆる三騎士……セイバー、ランサー、アーチャーが高い評価を得る一方で、アサシン、キャスター、バーサーカーなどは一般に弱いクラスだと見なされている。

 

 例えばアサシン──冬木の聖杯戦争を基盤とする亜種聖杯戦争において、かのクラスに座るのは稀の例外を除けば、その言葉の語源となった存在……ハサン・サッバーハが呼ばれる。

 そのため一時はマスター殺しにおいて絶対的な優位とみられていたアサシンクラスも召喚されるたびに歴代のハサンの性能が割れていくのに伴い、既知の脅威として低く見積もられていった。

 

 皮肉にも暗殺者は暗殺という暗い術理を世間一般の光に照らされることによって脅威ではなくなってしまったのである。

 それ故に多くの亜種聖杯戦争において暗殺者のクラスはいわゆるハズレのクラスとして扱われるのである。そしてそんなアサシンに続いて評価が低いのがキャスターとバーサーカーのクラスだ。

 

 バーサーカーについては評価が低い理由を語るまでもないだろう。彼らが例外なく持つその特性、理性を失くし暴れるサーヴァントという点である。

 確かに理性を失うことを代償に大幅な能力の増幅(ブースト)を得られるバーサーカーは表面のスペックだけを見るならば三騎士に勝るとも劣らないが、如何せん理性がない上、魔力食いでもある。

 運用するのが強力な魔術師であるならばデメリットを措いても選ぶものもいるだろうが、基本的にバーサーカーの持つ特性と能力は多くの魔術師に好かれなかった。

 

 ではそれに次いで嫌われるキャスタークラスの弱点とは何か、それは言うまでもなく魔術師の英霊であるということだ。

 

 魔術師は基本的に研究者だ。その能力は戦闘において結果的に有効になるものはあっても前提として戦闘のための能力ではない。神代に生きた魔術師ならば例外だが、基本的に魔術師というものは戦闘に向いている存在ではないのである。

 そこに加えて三騎士の存在もある。聖杯戦争における花形とされる三騎士は多くが高い魔力抵抗スキルを有しているのはもはや周知の常識だ。

 

 故に魔術を武器とするキャスタークラスでは多くが、三騎士に傷を付けることすらできないため、基本的には工房ないし拠点に引き籠り知略を弄して敵を倒していくという形になる。

 まともにサーヴァント同士で激突しようものならば、アサシンに次いでいの一番に脱落しかねない存在──それが世間一般におけるキャスターであった。

 

 だが此処に──例外が存在している。

 

 英霊(サーヴァント)魔術師(キャスター)、その真名はクー・フーリン。

 アイルランドに生きる者であれば知らぬ者など誰もいない大英雄。

 太陽神の血を引く半神半人の英雄、アルスターが誇る光の御子。

 

 彼が司るは原初のルーン。大神オーディンが垣間見たという智慧の神秘。セイバーの対魔力を以てしても完全に弾くことの出来ない正真正銘、神代の奇跡である。

 加えて語るならば、元よりかの英雄は後方で魔術を操ることよりも、鍛え抜いた肉体で以て戦場を駆け抜け武勲を勝ち取ることを誉とした英雄である。

 影の国に君臨するという女主人スカサハより受け継いだ魔槍ゲイボルグを操り、数多の強敵を撃滅して来た大英雄……その実力は此度の聖杯戦争における“黒”のセイバーや“赤”のランサー、“赤”のライダーと比べても引けを取るものでは断じてない。

 

 諸事情にて元来手元にあるはずの魔槍こそないものの、得物の違いで“赤”のセイバーに劣るほどのものでは断じてなかった。

 クラス特性により半減した自分のステータスでさえ、彼は自身の魔術で容易に補正してみせた。

 

 ならばこそ形勢は“赤”のセイバーの劣勢……どころか、刻一刻と詰将棋のように追い詰められている状態であった。

 

「クソ、チクチクチクチク鬱陶しいッ!!」

 

 降りかかる“黒”のキャスターの魔術を赤雷で以て強引に振りほどきながら“赤”のセイバーは憤激交じりに大剣を叩きつけに掛かる。

 しかし受ける“黒”のキャスターは巧みなもので、“赤”のセイバーの剣閃を杖に滑らせるようにして受け流し、逆に“赤”のセイバーのその膂力を利用して合気の理で打ち返してくる。

 結果、成立したカウンターは“赤”のセイバーを吹き飛ばし、“黒”のキャスターに魔術を使わせる隙を与える。この光景がリプレイのように繰り返される。

 

「ふざけやがって、クソ……!」

 

 杖の強打を受けて、ふら付きながらも剣を構え直す“赤”のセイバー。

 当初持っていた魔術師(格下)英霊(サーヴァント)などと言った偏見などとっくに消え、紅の騎士は全力で目の前の敵を殺しに掛かっているというのに……。

 

「おっ、どうした? 威勢に勢いがなくなってきたが、これで終いか?」

 

「ほざけよ────ッッ!!!」

 

 当の敵は楽しむ余裕さえ見せて振る舞うのみ。

 それが尚の事、“赤”のセイバーを突撃させる燃料となり、同じ結果を繰り返す。

 

 ──断っておくと“赤”のセイバーは弱い英霊ではない。

 寧ろ最優のサーヴァントに相応しい性能を持っていると言えるだろう。

 

 『魔力放出』スキルによる肉体強化、赤雷を伴う攻撃。

 『対魔力』による強力な魔力保護。

 身に纏う宝具によるステータスの隠蔽。

 

 そこに加えて彼女自身が高い才覚を持っているが故に、騎士としては正当ならざる剣術なれど、戦争をこなすものとしては一級品の腕を持っている。

 並のサーヴァントでは歯が立たない程に“赤”のセイバーは高水準の能力を持っている。

 

 だからこそこの場合、かの騎士の劣勢は性能差ではなく相性の差であった。

 

 騎士にあるまじき暴力的なまでの戦闘スタイルは言うまでもなく、戦場の激戦の中、騎士自身が自らのみで培ってきた術理である。正当な合理に基づいて鍛えられた剣術とは異なり、一瞬の判断が命取りとなる戦場での戦いで培われただろう直感と経験、さらには騎士自身が生来有していただろう才覚も相まって、暴虐を術理として成立させる剣使いとなっている。

 

 言うなれば獅子の剣。戦って、戦って、戦い抜いた果てに辿り着く自らの生存と敵の殺戮に特化した剣技。これを前にすれば二流、三流の使い手は一瞬で葬り去られるであろう。

 

 なればこそ戦地での経験を土台とした凶剣は、同じく戦地にて鍛え上げられた経験によって粉砕される。何せ、かの騎士と戦うのはあまりの強さがため、自らが掲げた誓いを徹底的に悪用され、不利を強いられながらも最後の最後まで戦い抜いた誇り高き大英雄。

 “黒”のキャスターにとって“赤”のセイバーの振るう術理はもはや見慣れた術理であり、自身もまたそれの奏者である。

 

 故にこれは単なる必然……よりその道に通じたものが勝つという当たり前の差であった。

 

「にしても俺が言うことじゃねえが若いねえ。才覚だけで見るならそのうち俺とも張り合えたんだろうが……惜しいねえ、俺とまともにやり合うつもりなら後十年は必要だろうよ」

 

「うる……せえ……!!」

 

 もはや殆ど無傷の“黒”のキャスターに対して満身創痍といった風情の“赤”のセイバーである。このまま互いに術理をぶつけ合ったとしても先に壊れるのは“赤”のセイバーであろう。

 だが生来、激情家である“赤”のセイバーに冷静に敵を分析し、思考し、攻略法を編み出すといった振る舞いは不可能だし、そもそも付け焼刃では目前の大英雄は倒せない。

 

 ならば、取れる手段はもはや一つ。

 己の誇りを掲げて、敵を撃滅するまでである。

 

 元より彼女(・・)は、その激情(憎悪)武勲(悪名)を刻んだ英霊なれば──!

 

「いけ好かないキャスターめ、光栄に思うが良い──魔術師風情で我が剣の前に立つことを」

 

 マグマのように煮えたぎる感情を言葉に乗せながら“赤”のセイバーは戦いが始まってより、初めてまともに剣を構える。

 凶剣を扱う剣使いにはあまりにも似合わない素振りだ。

 それを前にして“黒”のキャスターは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ハッ、思いきりがいいじゃねえか若いの。宝具とはな」

 

「怖気づいたか魔術師。ならそのまま惨めに死ね!」

 

「まさか、そういうのは嫌いじゃねえってだけだ。流石にうちの居城でその暴挙は許さないがな。まあ、戦場に踏み込んだ以上、生死は自己責任とはいえ一応味方(マスター)の一人を守り切れなかったこともある。どれ、ちったあ仕事をしますかねぇ──!!」

 

 そういうと“黒”のキャスターも杖を構え直して──。

 一つの術理を行使する。

 

 しかしそれはアルスターの大英雄が誇る技に属するものではなく──。

 

 

 外部より九つ廻る千年神樹(ナインヘイムユグドミレニア)への接続(アクセス)を確認。

 霊器(アカウント)確認──認証、臨時接続を許諾。

 魔術式(ソフト)智慧の泉(アウルゲルミル)”──起動。

 第九世界観(パターン・グラズヘイム)にて開始します。

 

 

 霊脈を介して伝わる言葉に“黒”のキャスターは笑う。

 よくぞ此処まで練り上げたと呆れ交じりに感嘆する。

 敵を前にして“黒”のキャスターは暫し敵ならざるある魔術師を思う。

 

「自らの運命を知る北欧の神々にとって“運命を変える”って言葉がどれほど重いか。それを知らぬアンタじゃないだろうに。流石は大神の後継(ヴェラチュール)見守り役(オレ)の役割を除いても、個人的に魔術師らしくないアンタの気質は嫌いじゃない」

 

 故に任された役ぐらいは全うしようと“黒”のキャスターは誰かに告げ──。

 

我が麗しき(クラレント)──」

 

大神坐するは(アルフォルズ)──」

 

 紅の騎士は遂に伏せられた貌とともに真名を晒し、

 青い術師は遂に隠された秘密を垣間見せる。

 

 その名は──。

 

父への反逆(ブラッドアーサーァァ)ッ──!」

 

十三の玉座(グラズヘイム)ッ──!」

 

 桁違いの魔力を伴って発動する宝具と魔術。

 極大まで増幅した赤雷が“黒”のキャスターを飲み込まんと奔り、それを拒むとばかりに顕現するは十三層に及ぶ大結界。かの騎士王アーサー・ペンドラゴンに向けられる憎悪を北欧の神々が坐する玉座を再現した神代の魔術が受け止める。

 

「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 咆哮と共に吹きすさぶ赤雷は正に竜の息吹にも等しい威力だ。

 カテゴライズは対軍、威力はA+という尋常ならざる魔力の波動。

 かの騎士王を呪い殺さんとする呪詛の具現はこれ以上なく、紅の騎士の──否、彼女の真名を詳らかに明かしていた。

 

 何故ならばかの騎士王を憎みながらも円卓の一人として名を刻んだ英霊はたった一つしかない。

 かの王に反逆し、かの王の王国を滅ぼした原因となった者。

 即ち──反逆の騎士、モードレッド。

 アーサー王の伝説において最も悪名高い(有名)な騎士の一人。

 

 だが、反逆者が侵攻を防ぐのは規格外の神聖結界。

 本来、“黒”のキャスター……英霊クー・フーリンを以てしても使用する事叶わぬ北欧が神々の秘術である。真名解放をしたモードレッドの宝具ですら貫通させることの敵わないこの結界の正体は十三の神々の神性を一層ごとに重ねたもの。

 神聖不可侵──神の血を持たざる妖精王国の騎士たちでは突破する事能わず。

 

「──にしても、これは大人げないと思うんだがね。親バカの謗りは免れないんじゃねえか? なあ──」

 

 ボヤくように誰かに対する言葉を“黒”のキャスターが口にした瞬間、爆裂する魔力光が“赤”のセイバーと“黒”のキャスターを飲み込み──。

 次瞬、強烈な爆発を伴って、ミレニア城塞の一角を文字通り吹き飛ばした。

 

 

 かくして──。

 

 

「よっ、と……ま、運がなかったな」

 

 崩落する瓦礫と共に地下にまで落ちて来た“黒”のキャスターは眼前で片膝のまま、荒い息を吐いている円卓の騎士に語り掛けた。

 

「────」

 

「ちょいとオレにも事情があってね。森の賢者はちと休みで、今は出稼ぎの最中だ」

 

 “黒”のキャスター……この聖杯大戦における“黒”の陣営の魔術師。

 ──という肩書にもう一つ、背負う役割があるのだと魔術師は言う。

 

「にしてもオタクのその顔、随分と見覚えのある様だが……。はっ、変わった運命もあったもんだぜ。まさかこんなところであの騎士王様(・・・・・・)とそっくりな顔に会うことになるとはね。アイツに息子がいるなんて話は聞いているがさて──」

 

 恐らくは自らのステータスを秘する宝具と併用できないのだろう。剣の真名解放と共に明らかとなった“赤”のセイバーの素顔を眺めながら、何処か懐かし気に“黒”のキャスターは呟く。

 

「────」

 

「さて、まあこれも戦争の習わしだ。今からお前を殺すわけだが、最期になんか言い残す言葉はあるかい?」

 

 憎悪を象徴と掲げる“赤”のセイバーとは異なり、先ほどとまるで変わらない、ともすれば“赤”のライダーに通じるような快活さのまま殺意を向ける“黒”のキャスター。

 だが、そんなことよりも──“赤”のセイバーが見ているのは……。

 

「──おい」

 

「あん?」

 

「なんだ、これは」

 

 意図せず露わとなったミレニア城塞の地下区画。

 その光景を前に“赤”のセイバーは感情のこもらない声で問う。

 それにああ、と“黒”のキャスターは肩を竦めながら、

 

「なんだ、オタク。魔術師の工房には縁がなかったのか。見ての通り、うちの工房だな」

 

「はっ──これが、なるほど、そうか──」

 

 告げる“黒”のキャスターの言葉に、何処か伺い知れない様子でクツクツと笑う“赤”のセイバー。

 今、眼下に広がる光景は彼女にとってはとある特別な意味で度し難かった。

 

 見渡す限りに広がる水槽。

 その中に浮かぶのは人型の──ホムンクルス。

 培養槽の彼らは例外なく、今まさに魔力を吸われており──。

 

 “黒”の陣営が持つ反則クラスの所業。

 今なお、英霊たちに魔力を捧げ続ける生贄たちがそこにいた。

 

 それを目の当たりにした“赤”のセイバーは。

 

「死ねよ、屑共がッ────!!!」

 

「なにッ──!?」

 

 魔力、再装填。

 真名解放。

 

 それは“黒”のキャスターでさえ予想外の行為。

 宝具の連続発動(・・・・)

 百戦錬磨の“黒”のキャスターですら予想外の事態に咄嗟に身を守ることしかできず。

 

我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)ッ──!!!!」

 

 激情のまま振るわれた憎悪が全ての趨勢を揺るがした。




今回のあらすじ

ペロニケ「アストルフォきゅんペロペロ(原作通り)」

キャスニキ「戦場では自己責任だろ。あと授業参観はどうかと思う」

反抗期「あのクソ女みたいなことしてんじゃねえ(キレ)」

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