千年樹に栄光を   作:アグナ

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煩悶する想い/陣営一揆

 夢見枕に優しい記憶を思い出す。

 

 それはまだお互いに幼く、そして純粋だった頃。

 フィオレとアルドルが共に歩んでいた時代。

 短くも輝かしかった黄金の記憶だ。

 

 フォルヴェッジ家嫡女フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 彼女がアルドル・プレストーン・ユグドミレニアと交流を持ったのは時計塔に入門する前後。入門前の三か月と入門後の半年間。

 実のところ、一年にも満たない短い時間であった。

 

 出生時から才媛として名を馳せ、次期ユグドミレニア一族当主の候補として名前が挙がっていたフィオレと桁違いの才覚から当主ダーニック直々に魔術教練を受け、自身もまた独自に魔術研究の道を邁進していったというユグドミレニア家の次世代両翼ではあるが、そもそもをして全世界に一族門下を有するユグドミレニア家はその大きさ故に直接交流を得るという機会はそう多くはない。

 

 一族門下の魔術家家主であれば諸々のやり取りのため、ダーニック含む他家当主と交流を持つ機会もあるし、魔術の共同研究のため家同士で接する機会もあるのだろうが、才覚を示しているとはいえ幼き日の時点において二人は所詮、次世代を期待される金の卵でしかない。

 

 フィオレの方は典型的な魔術家に生まれた長子として家の魔術を黙々と学ばされる日々を送り、アルドルの方もダーニックや一族の教導に長けた魔術師から魔術を教導される学びの日々を送っていた。

 そのため両者は基本的に一族内の人間であっても外部と親密を深めるという意味での交流の機会は早々になかった。

 

 加えて両足が不自由なフィオレは専ら家で過ごすことが基本で、アルドルの方は一族内においてダーニックから最も期待と信頼を向けられていたこともあり、学びの合間には一族の魔術師たちへの顔見せ(・・・)に費やされ、世界中を飛び回ることとなる。

 

 自由な時間があっても外に出る機会のないフィオレと、そもそも自由に使える時間が幼少期から少なかったアルドル。

 若手の少ない一族間においては幼馴染と言えるほどに年の近い彼らだが、幼き頃の時分にその道は全くと言っていいほど交わらなかった。

 

 だからこそ、彼らがお互いに面識を持ったのはフィオレが時計塔に入門することが決まった十代の頃合い。互いに物心を覚え、ある程度自らの立場と役目を自覚し、未熟ながらも自立しようと動き出したころである。

 

 名目上はフィオレに先だって時計塔に在籍するアルドルに、時計塔での暮らしや立ち回りを後輩となるフィオレに伝授させる……というダーニックの計らいであるとのことだが、無論それは名目上の話だ。

 

 数多の魔術一族を率いる政治の名手であるダーニックが自身にとっての宝とも言える純血の縁者を一族とはいえ他家の魔術家の嫡女の下に送る。

 

 ……それがどういう意図か察せられない無能ならば以後ダーニックがどのようにその家を扱うか敢えて口にするまでもあるまい。

 時計塔入門前の教導官としてフォルヴェッジに訪れたアルドルをフィオレの父であるフォルヴェッジ当主は当然の様に彼を熱烈に歓迎した。

 

 実際、フィオレの父にとって政治的な意図を抜いてもアルドルが自身が家に訪れたということはパフォーマンス以上に私事的な歓喜を伴った。

 何せ、あの(・・)アルドルである。人一倍用心深く、執念深く、疑り深い、ダーニックが諸手を挙げて、期待と信頼を送る男。

 自身の娘も名を連ねる次期当主候補などという出来レース下において、間違いなく一族内での実権を確約された男が自らの家に訪れたのだ。

 

 これだけで少なくともフォルヴェッジの次代への存続は確約され、また自らの子である才媛と一族内でも桁違いと謳われる男のサラブレッドの誕生も約束された。事情を知る者としては狂喜乱舞するに等しい出来事と言えよう。

 

 とはいえ、そんなものは大人の事情であり、世間知らずな令嬢は無邪気に同世代の者と交流を深められることを喜んだし、事情を察しながらもそれを無視して歩み続ける愚直な求道者は実際(・・)に彼女に会える(・・・)ことを素直に歓迎した。

 かくして、此処に両者の道は遂に交わる。

 

「──こうして顔を合わせるのは初になるが、兼ねてよりその才覚は私の耳にも届いていたよ。まあ年の近いもの同士、堅苦しい挨拶は抜きにして……初めましてだ。フィオレ・フォルヴェッジ。私はアルドル、アルドル・プレストーン・ユグドミレニア。何れ時計塔の学び舎で時を同じく過ごすものだ。以後、よろしく頼む。共にユグドミレニアの次代として一族に貢献できるよう切磋琢磨して行こう」

 

 堅苦しい挨拶は抜きに、と言いながらも、一言目の言葉とは裏腹に二言目には一族への貢献などというお堅い言葉が飛び出す少年。

 ほんのわずかなやり取りで隠し切れない真面目な性格が浮き上がる少年の差し出す手を緊張で少しだけ強張りながらもフィオレは握り返した。

 

 

 

 魔術以外には世間知らずな箱入り令嬢と、目的のために純粋すぎて少しだけ世間ずれした嫡男。面識を得た当初において、両者の交流はどちらかと言えば親しさよりも事務的なやり取りが基本であった。

 フィオレは初めての外部との交流ともあって緊張していたうえ、相手が親類を除いて初となる異性との関係ということで距離感がつかめず、アルドルの方はダーニックより受け取った時計塔での立ち回りという教導官の役目を真面目に受け取っているせいで、その役回りを真面目にこなしていた。

 

 無論、フィオレとは異なり自らの立場と政治的な要因を理解するアルドルは自らがどのような立ち回りを要求されているか察していたモノの、この時点において既に千年樹へ栄光を齎すことを考えていた彼は、予てより一族の未来を見てはいても、自分自身の未来に関しては全くの無頓着だった。

 故に彼は言葉を言葉通りに受け取ってこなし、フィオレとのやり取りもあくまでフィオレに合わせた受動的な立ち回りに留まった。

 

 距離感としては今まさに執り行われる聖杯大戦の頃と同じ。アルドルに対して臆するフィオレとそれを察して相手がアクションを起こさない限り関わらないといった風情のアルドルと言った様相だった。

 

 そんな彼らの関係が年相応の親密なものへと変わった要因と言えば。

 

「わふ」

 

「ふっ、良い子だ。犬種はレトリーバーの雑種か何かか? 何であれ良く育てられているのだろう、お前」

 

「わふっ」

 

 ある日の昼下がり、フォルヴェッジの庭で父が拾ってきた雑種犬と戯れるアルドルの姿を見たことが一因であった。

 普段から真面目が服を着て振る舞っている何処か超然とした少年というのがフィオレの中のアルドルだったのだが、その日犬と戯れるアルドルの姿は年相応の無邪気さと生来的な優しさを伺わせるやり取りだった。

 

 犬の方も犬の方で、普段は弟のカウレスを横目にくわっと欠伸する暢気さは何処へやら楽し気にアルドルに撫でまわされていた。

 そんな余りにも予想だにしない光景を目の当たりにしたものだからつい。

 

「犬、好きなんですか?」

 

 おずおずと、そんな疑問を彼に問いかけていた。

 

「ああ。昔……いや、()に飼ってた。血統書付きのそれなりの育ちの奴でね。小さな(ミニチュア)と名付けられているはずなのに、餌のせいか、はたまた血統書が嘘だったのか小型犬にしては大きな奴だった。雑種犬(こいつ)とは真逆によく吠える喧しい奴だったが、()の愛犬だった」

 

 そういって懐かし気に目を細めるアルドルの姿に共有できる話題を持った故か、はたまた同好の士を見付けた喜びからか、内向的な少女は珍しく、さらに質問を投げかけていた。

 

「そう、だったんですね……じゃあ犬についてはそれなりに?」

 

専門職(ブリーダー)ほどではないが扱いには慣れているよ。こいつは君が飼っているのか?」

 

「あ、いいえ……父が少し前に拾って来たんです。でもほら、お父様は少し前に急用で出て行ってしまっているので、代わりに今は私たちがお世話を」

 

「ふむ、そういえばそんな話を────いや、そうか、そういうことか。そうだった」

 

 フィオレの言葉にアルドルは一瞬、何かを思い出したように少しだけもの悲し気に撫でまわす雑種犬の姿を見た後、頭を振って、小さく微笑む。

 

「──良い子だ。フィオレもカウレスもこいつにとっては良き家族なんだろう。きっと君たちの優しさをきちんと理解していると思うよ」

 

「あ──はい……はい! そうだと、良いですね」

 

 今にして思えば──魔術の才覚ではなく、純粋にフィオレ・フォルヴェッジという少女が他者からの意思ではなく、自らの意思で以て育てた成果を褒められたのはきっとアレが初めての事だった。

 だから、とても、いや凄くうれしかったのだと思う。

 そして嬉しさのあまりそこから異性に対する緊張だとか、一族間での距離感とかそういった難しい事情を完全に忘れて、初めて相まみえることとなった同好の士に無邪気に夢中で喋ったと記憶している。

 

 やれ、寝るのが好きな子で日向を探すのが得意だとか。

 餌を食べる時だけ動きが俊敏になるだとか、カウレスのベッドを気づくと占拠していただとか、それを退けようとしたカウレスの手を嚙んだとか。

 

 魔術も神秘も何ら関係のない取り留めのない話題。それを熱中して語るフィオレをアルドルは困ったようにしながら、それでも時折自身も思い出したかのように自らの飼っていたという愛犬の話題を話中に差し込む当たり、話題を楽しんではいたのだろう。

 ……幼年期から多忙を極めたアルドル・プレストーン・ユグドミレニアが犬を飼っていたという話は聞いたことは無かったが、そんなことを忘れてしまう程にフィオレは夢中でアルドルと犬の話をした。

 

 やがてその犬の話題は父の帰還を機に、禁句の話題と化すものの、そうしてフィオレとアルドルは共に仲を深めていった。

 そして時には親しく言葉を交わし、時には競う相手として魔術の腕を切磋琢磨して行く日々の中、ふと彼女は日常の中でアルドルに問いを投げていた。

 

「アルドルはどうしてそんなに頑張るのですか?」

 

 誰に言われるわけもなく、魔術の腕を磨き、知識を身に着け、護身のためと口ずさみながら武芸にすら手を出して、次世代のユグドミレニアの責務を背負って、大人顔負けに多くの人々とのやり取りをこなす。

 良き友人として、競争相手として、アルドルに関わってきたフィオレは一所懸命と言わんばかりに全力で自らの生をひた走るアルドルを見て、自らの内に沸き上がった疑問。

 

「頑張っているのは君も同じだろう? 生まれついてハンデを背負いながらも結果を出し続ける君の姿勢には私も尊敬を覚える」

 

「あ、ありがとうございます。……ではなく! 私が聞いているのはアルドルの動機の方で……!」

 

「無論。一族がため、我らがユグドミレニアのために。それは君も同じことだろう」

 

「それはそうなんですが……いえ、そうじゃなくて……もう! 私が言いたいのは……!」

 

「何故、一族のために私が頑張るのか、だろう? 分かっている。少し揶揄った許せ」

 

「アルドル!」

 

「ふふ、君はそうしていた方が似合うな」

 

「怒りますよ」

 

「それは困るな、真面目に答えよう」

 

 いつものように年相応の友人同士のやり取りののち、フィオレの疑問に対してアルドルは少し遠くを見るような目で空を見上げながら答える。

 

「君も知っての通り、我が叔父ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの大胆な方針転換によってユグドミレニア一門は枝葉を広げ、他家の血を拾うことで時計塔の者たちの予言を覆し、今日まで存続することとなった」

 

 それはユグドミレニアに列するものなら誰もが知っているユグドミレニア一族の話。かつて栄光への道をひた走りながら、些細な戯言で手折れてしまったユグドミレニア。それが今日までどのように生き残ってきたか、アルドルは語る。

 

「その決断、生半な覚悟ではなかっただろう。魔術師としての常識を知れば知るほどにダーニックの判断にはどれ程の重みがあったのか、その胸中を察することは出来ない程に。そうしてユグドミレニアは一族となった、そうしてユグドミレニアは存続した」

 

 そう、純血ではなく混血を。門を開いて、他家を招き、数を増やして、生き残る。血の連鎖による存続ではなく、家の生き残りに主眼をおいたその判断はダーニックがかつて常識的な魔術師であり、正道を歩みながら栄光をその手にしようと考えていたことを知れば、どれほどの転換だったか想像に難くない。

 

 だからこそアルドルはその判断の重さと決断に畏敬の念を持って語る。先達の偉大なる判断あってこそユグドミレニアは今にあると。

 

「だが一方でユグドミレニアは生き残ることに特化する代償として夢を失った。かつて祖が、ダーニックが願っただろう栄光の未来。魔術を手繰る魔術一家であれば必ず課せられているという冠位指定(グランドオーダー)。その道を辿ることをユグドミレニアは、我が叔父は諦めることとなった」

 

 ──魔術師の総体としての最終目的が『根源』に至ることであるとするならば、冠位指定とは即ち、魔術一門における指針である。

 魔術師たちの家はそれぞれが別系統の魔術基盤を持つように、その魔術ごとの、継承者ごとの、先祖代々の魔術を学ぶ上での目的がある。

 

 何を以って『根源』に手を伸ばすのか、何を以って自らが学び終えたと証明するのか、神代より続く長らく生ける魔術一門に課せられた遠き日からの宿題。

 それこそが冠位指定(グランドオーダー)である。

 

 ユグドミレニアは生き残るためにそれを放棄せざるを得なかったとアルドルは言う。

 

「私はユグドミレニアの原初の願い、定められた役目、指定された到達点を知らないし、別段知りたいとも思わない。……だが今の様にただ存続することだけが願いだったとは決して思えない。少なくとも遠き日のダーニック、彼は一族が大成し、栄光と栄誉ある未来を目指していたはずだ」

 

 今でこそダーニックと言えば様々な他家の魔術一家を手練手管で纏め上げ、かつて一族を衰退へと導かんとした時計塔の貴族たちへの復讐と一族の存続へと熱を注ぐ存在であるが、彼にもまた魔術師として夢見た理想があった。

 アルドルはそれを識っている。そして識っているからこそ、アルドルは。

 

「先祖の期待に子孫は応えるものだろう? 誰かの期待に応えるような生き方をすると昔、()は自らにそのような指定(オーダー)を課したのでね。だから何のために私が頑張るのかと言われると自分のためとしか言いようがないな」

 

 そうして自嘲するように肩を竦めてアルドルは言う。

 その、誰かの期待に応えることこそ、自分のためなのだと。

 あんまりにも矛盾した願いを。

 

「貴方は──誰かの期待に応えることを自分のためだと、言うのですか」

 

「そうだよ。そもそも他者の願いを、期待を負わされたとしてもそれに応えるかどうか決めるのは課せられた本人だ。そして私はそれを善しとした。一族の栄光ある未来をと、祖より願われた期待に応えることを選んだ。ならばその時点で誰かの期待は私の願いなのだよ。即ちは千年樹に栄光を。私にそれを願ったのは誰かだが、選んだ時点でそれは私の願いだ」

 

 だから一族の悲願(これ)は自分のための願いなのだと彼は笑う。

 ──それはなんて純粋な在り方のだろう。

 

 自己犠牲ではなく、自己を担保とした献身でもない。

 その願いを、その祈りを、その期待を善しと思った。

 故に成し遂げようと決めた。

 

 真水が色を受けたように。

 白いキャンパスに色彩を描く様に。

 千年樹の継承者は、疑うことなく先祖の願いを聞き入れ、達成することを当然の定めと決めて歩みゆくことを選んだのだ。

 

 責務でも義務でもなく、やりたいからやると。

 何処までも自分本位な理由で誰かの期待に応えることを選んだ。

 たとえそれが傍から見て献身にしか思えなくとも、それこそが自分のためなのだと。

 

「まあ成せるかどうか知らぬがね。何せこの肉体には能力的な才覚はあれど、それを操る魂の私とくれば所詮はただの凡人だ。魔術師としての常識を知れど、それに徹することが出来ず、されど諦められるほど軟でもない凡夫。それがアルドルというつまらない男の正体だ。何処まで往けるかは知らないが、出来る限り期待には応えてみせるさ」

 

 最後に冗談のようにそんな言葉を付け加えて。

 彼は遠い星を見上げるように笑った。

 

 その様が、その願いが──彼の在り方があんまりにも綺麗だったから。

 

「私は……」

 

「ん?」

 

「私は今まで言われるがままに学んできました。重ねた努力も、積み上げて来た魔術の研鑽も、結局のところ両親に言われるがままにこなしていただけで私自身が、自分で頑張ってきたわけではありません」

 

「いや、そんなことはないだろう。動機がどんなものであれ、自らが積み上げた努力も成果も他ならぬ君自身の頑張りによる結果だ。誰であれ、それを否定する権利はない」

 

「ええ。ですから、私自身がそれを否定するのです。私の努力は、私自身が頑張ったことの成果なのではないと」

 

「…………」

 

「だからこそ、私も自分のために頑張りたいと思いました。貴方の様に、貴方と同じように、これからは誰に言われてではなく、己自身の意志で」

 

 千年樹に栄光を。

 

 何を以って栄光とするのか。どうすれば栄光を掴めるのか。今も昔も分からない。分からないが、少なくともこの時フィオレは決めたのだ。誰の意思でもない、己自身で。

 

「私も貴方と同じように頑張りたいと思います。一族が為、ユグドミレニアのために」

 

 そして何より──憧れた貴方の様に。

 

「これからも貴方と共に歩んでいきたいと、そう思います」

 

「……それは宣誓かな?」

 

「そう受け取っていただいて構いません。今、貴方の願いを聞いて決めたことなので重みはないと自覚してはいますけれど」

 

「いや、そもそも大望の始点など些細なものだろう。重さは時間を伴えば勝手に付きまとうものだ。その始点が今だという話なだけだろう? 決して軽く扱ったりはせんよ。時計塔入門前の宣言としては文句ない。だから返す言葉はこのように」

 

 少女のささやかな宣誓を決して馬鹿にすることなく、遥か高みに見上げる憧れの少年は少しだけ冗談を混ぜるようにして。

 

「──期待している(・・・・・・)。頑張り給えよ、後輩」

 

「はい!」

 

 時計塔に入門する迄の数か月の短い期間。

 彼らは互いに小さな誓いを立てて、笑顔で共に未来を誓った。

 そんな、他愛もない、優しい記憶。

 

 ──そして優しい記憶は辛い現実によって砕かれた。

 少女は現実と戦えるほど強くはなれずに。

 少年は現実を打ち破るほどに強すぎた。

 

 強い光が他の輝きをかき消すように比翼連理の誓いは焼け落ちた。

 よって現実はこの通り。

 

 少女は立ち止まって、少年は何処までも一人、先を往く。

 だからこそ少女は。

 

 フィオレは一人、煩悶するのだ。

 

「あの時、もしも諦めずに、一緒に往くことを決められたのなら」

 

 痛みに砕けず、諦めずに頑張れたのなら。

 

「私は今も、貴方と共に歩めていたのでしょうか──ねえ、アルドル」

 

 

 

 ──ふと、目が覚める。

 目覚めは最悪のものだった。

 

「……ッ、は……あ」

 

 ミレニア城塞に設けられた自室。

 カーテンの合間から差し込む陽光に目を顰め、懐かしの記憶を夢に見たフィオレは胸にトゲが刺さったような痛みを覚えながら状態を起こす。

 

 昨日は──厳密には今日の早朝までは遂に幕明けた聖杯大戦という死線を過ごした。夜明けまで続いた戦いが閉幕した後、こうして自室にて短い休眠の時を得たものの、夢に見た記憶は休息によって緩和するはずの疲れを心なしか寧ろ増幅させているような気がする。

 

 否、そもそもそれだけ疲れていたからこそ疲れるような記憶を思い出してしまったのか。何にせよ。

 

「……そうだ、聖杯大戦。私はこれに勝って……聖杯を」

 

 一族の願いのため? ユグドミレニアのために?

 いや、いや、きっとそうではない。

 私は、今後こそ。

 

「そうすれば、今度は逃げずに、立ち止まらずに、一緒に戦ったって」

 

 ああ、きっとまだ寝ぼけているのだろう。

 寝起きにそんな譫言を呟いて。

 フィオレは今日もまた胸中に煩悶を覚えながらもユグドミレニアの精鋭らしく、マスターらしく振る舞うのだ。

 

 

 

 ──『煩悶する想い』

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「──で、だ。こっからどうすんだよ、マスター」

 

 ところ変わって、場所はトゥリファスにある地下墓地(カタコンベ)

 

 “赤”のセイバーのマスター、獅子劫界離が此度の聖杯大戦において『工房』と定めた彼の拠点。

 獅子劫の寝袋よりやや豪華な寝袋の上で胡坐で腕を組みながら華奢な金髪の少女……“赤”のセイバーは眼前で頭を抱えたまま、向こう数時間唸ったり、頭を掻き毟ったりと忙しない獅子劫に向かって口を尖らせながら言う。

 

 戦闘時の無骨な鎧を身に纏っている時とは異なり、腹部を露出したチューブトップ姿の彼女の姿は端正な容姿と相まって目に毒であるが、主従ともどもその手の色気に無頓着なため、この場において指摘する者はいない。

 加えて、それを指摘しうる肝心要の主がこれである。

 

 本格的に幕明けた聖杯大戦から既に半日。

 世も明け、外に出れば陽光も注いでいる頃だろうに、“赤”と“黒”の激突を終えてからというもの、獅子劫はずっと休むでもなく、備えるでもなく、これである。

 

 数刻前までは何やら電話を活用して各方面に問い合わせ……主に文句……を付けていたが、それを終えてからというものずっと黙して苦悩するのみ。

 その短い付き合いではあるが主らしからぬと分かる態度に短気な性格の“赤”のセイバーをして、珍しく小一時間は黙って付き合っていたが、流石に我慢の限界であった。

 

 自らのサーヴァントのウンザリしたような言葉を聞いて、獅子劫はようやく、ゆっくりと“赤”のセイバーの方に向けて視線を遣って一言。

 

「……どうする?」

 

「オレに聞くなよ!」

 

 反射的に“赤”のセイバーは叫んだ。

 そしてその怒声に反応して獅子劫も声を上げる。

 

「いや、どうしろもこうしろもねえだろ! 何だありゃあ! ダーニックの奴はまだ分かる! なんせ八十年以上も若作りの怪物だ、魔術の腕も真っ向からじゃどうにもならんって話にも納得できる! だが、アルドル・プレストーン・ユグドミレニア! アレはないだろ!」

 

 そう、獅子劫が頭を悩ませている原因はそれだった。

 “黒”の陣営が誇る最強戦力、アルドル・プレストーン・ユグドミレニア。

 彼が卓越した魔術師であることは時計塔の情報筋からも聞いていたし、ダーニックに次いで強力な敵戦力であると警戒もしていた。だが、しかし。

 

「幾ら最強って言ったって限度があるだろ普通!? 何でサーヴァントであるお前さんと互角(タメ)張れるんだよ!?」

 

「だからオレが知るか! それから互角じゃねえ! あんなもんちょっと驚かされただけだ! やり合えばオレが勝つ!」

 

「その『ちょっと』が出来るのが大分おかしいんじゃねえか! 最優のサーヴァントであるセイバークラスの対魔力を突破するちょっとなんぞ聞いたことがねえ!」

 

 くわっと真っ向から言い合う両者。

 そのまま二人して、獅子劫は理不尽な現実に愚痴り、“赤”のセイバーの方はうじうじと向こう数時間苦悩する獅子劫に付き合わされた不平不満から文句を飛ばす。

 

 なんやかんや似た性質の主従は都合十分ほど無為な言い合いを行った後、気が済んだのか荒くなった呼吸を整えながらようやく本題を口にする。

 

「……取りあえずあのインチキについては一旦おいて現状を整理する所から始めるか」

 

「おう」

 

「さて遂に本格的に戦いが始まって、“黒”の連中に仕掛けたわけだが……まあ互いの戦力を測るって意味じゃあ今回の結果は上々だろ。俺もお前さんも何はともあれ、こうして五体無事に戻ってこれたわけだからな」

 

「ハッ、当然だな。向こうのセイバーやランサーとやり合うならまだしも魔術師風情にこのオレが後れを取るわけないだろ」

 

「……の、割には随分と良いようにやられてた気がするけどな。で、その魔術師風情と戦った所感は」

 

「次はぜってぇぶっ殺す」

 

「さいで」

 

 よほど“黒”のキャスターが気に入らない相手だったのか拳を自らの手に打ち合わせながら犬歯を剥き出しに唸る“赤”のセイバーの姿は正しく怒れる狂犬のそれだ。

 

「それから“黒”の魔術師連中も、だ。あの似非ランサーもムカつくが、“黒”の連中もだいぶムカつく外道だって分かったしな。……クソが、つまんないもん見せやがって」

 

「ふーん。例のホムンクルスを利用した魔力供給システムって奴か。ま、俺としちゃあよく考えたもんだって思ったが」

 

「……おい」

 

「睨むな睨むな、別に真似するつもりはねえよ。つか、真似しようとしても出来んだろ今からだと」

 

 ミレニア城塞での戦いの最中、“赤”のセイバーが一度ならず二度までも宝具を使ったその要因。あの戦い以後、語るのも嫌だと言わんばかりに不機嫌な態度の“赤”のセイバーから獅子劫は聞きだしていた。

 

 彼女曰く──“黒”の陣営は鋳造したホムンクルスから魔力を抽出し、陣営がサーヴァントにその魔力を供給するという聖杯大戦においては反則的とも言えるシステムを運用していたという。

 

 その話を聞いた時、獅子劫は一般的な感性で言えば生命倫理を軽視した外道な手段だと言わざるを得ないものの、魔術師として考えるなら敵ながら上手い手だと思った。

 何せホムンクルスによる魔力供給システムがあればマスターたる魔術師にかかる魔力負荷はなくなる上、魔力の源は掛かる費用を無視すれば幾らでも代替が利く存在である。

 

 確かにこのシステムがあれば“黒”の陣営は主従ともども惜しみなく実力を発揮できたことだろう。もっともそのシステムとやらは目の前の“赤”のセイバーがミレニア城塞の一区画ごと吹き飛ばしてしまったわけだが。

 

「しかし、そう考えると今回の戦いはお前さんのファインプレーだったのかもな。敵のサーヴァントを直接打倒することは出来なかったが、連中の戦略的部分に一発入れてやったんだから。成果としちゃあ寧ろ上々の部類になる、か」

 

「ふふん、ざまあみやがれってんだ」

 

 ふと、獅子劫が何気なしに呟くと“赤”のセイバーは鼻を鳴らしながら得意げに胸を張る。

 こういうとこは意外と単純な奴だなと思いながらも、獅子劫は少しだけこの単純さが羨ましいと思った。

 

「ともあれ、総評としちゃあ俺たちは五体無事、向こうのサーヴァントとは会敵する機会は少なかったものの“黒”のマスターの主力と言える二人の魔術師に威力偵察が出来て、その上で一発入れてやった。多少トラブったが、結果的に良い感じの所に収まったわけだ」

 

 そう言って先の戦いを振り返り、まとめる獅子劫の言葉に“赤”のセイバーはうんうんと満足げに頷いて見せた。

 

 ……これは余談だが、実のところ“赤”のセイバーは直接敵サーヴァントを打倒することは出来なかったものの、“黒”のライダーのマスターたるセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアを混戦の最中仕留めたことで間接的に“黒”のライダーを打倒している。

 しかし肝心の本人、“赤”のセイバー自らがその出来事を半ば忘れてしまっていたため、獅子劫も“赤”のセイバーもその事実に気づくことは無かった。

 

 閑話休題。

 

「それで次はどうやって連中に仕掛けようって話になるわけだが……正直ぶっちゃけるとどうにも手がない」

 

「おい、マスター」

 

「待て。文句は一先ず置いて、良いからまずは話を聞いていけ」

 

「む……」

 

「……こっちから手が出せない主な理由は三つだ。一つ、連中が一つの拠点を構えた陣営なのに対して、俺たちは現状、単独であるって点だ」

 

 そう言って獅子劫は指を一本立てながら理由を語り始める。

 “赤”のセイバーは真剣みを帯びる獅子劫の語り口に黙って耳を傾けた。

 

「先の戦いじゃあ“赤”のアーチャー……例の女弓兵からの伝言で“赤”の陣営の動きに合わせてこっちも立ち回ったわけだが、これは形だけ見れば陣営として連携を取った風になるが内実は違う。今回は偶々向こうの動きとこっちの思惑が一致しただけであって陣営として同じ方針で動いているわけじゃあ無い」

 

「まあ、そうだな」

 

 そう、今回の動きはあくまで向こうの方針がこっちの方針に沿う形であったため同意しただけのモノ。獅子劫も“赤”のセイバーも共に“赤”の陣営に属する存在だが、個人的な思惑を優先して動き回る“赤”のセイバーの主従は“赤”の陣営であっても陣営として動いてはいない。

 

 そしてそれは“赤”の陣営にしても同じことだろう。獅子劫らのスタンドプレイを戒めるわけでもなく、向こうは向こうで勝手に行動している。

 

 詰まるところ、“黒”の陣営はユグドミレニアの旗の下、ダーニックの旗下で統一した動きをしているのに対し、“赤”の陣営は陣営として纏っていないのだ。

 この一点だけでもまず以てチームワークという点で不利を強いられている上、そのチームワークを乱している当人が獅子劫とそのサーヴァントたる“赤”のセイバーである。

 

 少なくとも獅子劫と“赤”のセイバーは現状、“赤”の陣営を頼るつもりも、特段協力するつもりもない。そうすると二人は“黒”の陣営に単独で挑む羽目になる。

 単純な数的劣勢。

 これが一点。

 

「二つ目は連中が大聖杯を手にしていることだ。優勝賞品が向こうの手にある以上、サーヴァントを打倒するだけでは足りず、向こうから賞品を奪取する必要があるってことだ。で、こういう構図な以上、仕掛ける側は常にこっち。敵は待ちに徹するだけで優位を作れる」

 

「ふん。ま、絶対に仕掛けてくるってわかってんなら待ってるだけでいいからな」

 

 古今において城攻めが戦場において難問とされる理由は守る側に優位があるからだ。

 これが真実、国と国の戦争であるならば、兵糧攻めや破城兵器などを持ち込むことで手も広げられるのだろうが、これはあくまで七騎と七騎の英霊同士の戦である。

 少なくとも兵糧攻めなどという迂遠な手段は通用せず、また優勝賞品を握っている以上、城ごと吹き飛ばすなどという手段を取ることもできない。

 

 敵サーヴァントを全て撃破し、大聖杯も奪う。

 ここまでして初めて“赤”の陣営は聖杯大戦を制せるのだ。

 

 一方、“黒”の陣営はそうしてあの手この手と趣向を凝らして飛び込んでくるだろう“赤”の陣営に備えて万全の姿勢を整えておくだけでよい。

 優勝賞品が手元にあり、後は“赤”のサーヴァントを喰らいつくすのみ。しかもその喰らう対象は条件の都合上、自ら“黒”の陣営という虎の穴に飛び込まざるを得ないのだ。

 攻め手の不利と、守り手の有利。

 これが二点目。

 

「そして最後の一つは言うまでもなく最大の不確定要素……敵のマスターだ」

 

 眉間にしわを寄せつつ、獅子劫は忌々し気に言いまとめる。

 最大の難問にして第三の要素。

 即ちは──未知数の敵手の存在。

 

「んで、マスター。結局あいつは何なんだ? 魔術師ってんだからオレの対魔力を突破したことについちゃあまだ分かる。そういうこともあるだろうよ。でもあいつはオレの攻撃を剣で弾きやがった。それも殆ど素面の状態でだぜ? 当代の魔術師ってのは早々サーヴァントと斬り合える剣士だったりすんのかよ」

 

「んなわけあるか! ありゃあ例外中の例外だ!」

 

 だからこそ未知数が過ぎるのだと頭を抱える。

 ──アルドル・プレストーン・ユグドミレニア。

 あの邂逅の後、獅子劫はすぐさまアルドルについて改めて資料を見直すのと同時に、今回の仕事の依頼主……ロッコ・ベルフェバンに文句……もといアルドルについての情報提供を呼び掛けた。

 

 かの魔術師は長年、魔術協会や聖堂教会相手に大立ち回りをしてきた人物である。現代魔術の総本山であればそんな要注意人物の詳細なデータぐらい収めていることだろうと見こんでの話だったのだが……。

 

「まさか、風聞以上の情報は全部白紙とはな。クソ、ここにきて時計塔の権力が絡んでくるとはな。もっとキチンとマークしておくんだったぜ」

 

「ふん、権力ね。貴族派と中立派だったか? いつの時代もその手の下らねえ話は尽きねえのな」

 

「その下らねえ話とやらを煮詰めたような場所が時計塔だからな。そういう意味で言えば向こうは圧倒的な準備を重ねてたわけだ」

 

 そう言って敵手の入念さに獅子劫は改めてため息を吐く。

 

 ……元々アルドル・プレストーン・ユグドミレニアが時計塔に在籍していたことも、考古学科(アステア)に属していたことも、その考古学科のロードにして時計塔内に存在する三大派閥の中立派筆頭、カルマグリフ・メルアステア・ドリュークと懇意であることも把握していた。

 

 しかし、だからと言って時計塔内に君臨する十二の君主(ロード)、それも中立派筆頭格という大人物が手ずから動くほどの影響力を持っているとは思わなかった。

 ロッコ曰く、件のロードの手によって時計塔内に収蔵されて然るべきはずのアルドルの詳細な情報は掻き消されていたり、都合よくボヤかされたりしていたとのことだ。

 

 これではアルドルを警戒しようにも世に流れている風聞以上に警戒する手がない。

 

「現状、コイツに関しちゃ情報を揃える手がねえ。下手すりゃあのダーニック以上に質が悪いぞコイツ」

 

「……そんな警戒するほどかね。魔術師にしちゃあそこそこやるみたいだが、初見で面食らっただけで真っ当にやり合えばオレが勝つぞ。これは絶対だ」

 

「お前さんが確信をもって言うならそうなんだろうな。尤もコイツが真っ当なら、だが」

 

 “赤”のセイバーの言葉に、獅子劫はやれやれと首を振りながら資料をバサリと投げ捨てる。

 それを何となしに見た“赤”のセイバーは何となしに資料を拾い上げた。

 

「──南米亜種聖杯戦争に関するレポート?」

 

「ふん、辛うじて掠ったアルドル・プレストーン・ユグドミレニアにまつわる情報が記載された資料だよ。何でも時計塔でも箝口令が敷かれているってヤバい戦いだったらしいな。ま、資料を見て納得したが」

 

 告げて、獅子劫は資料に目を落とした“赤”のセイバーに雑に内容の概略を述べる。

 

 ──南米亜種聖杯戦争。

 それはメキシコはチワワ州のとある街で行われたという亜種聖杯戦争の名である。

 時計塔に属する魔術師ではなく、アメリカ合衆国……一つの国家に忠誠を誓っている魔術師一派によって企画、実行されたそれは始まりからイレギュラーだらけだったという。

 

 まずこの亜種聖杯戦争はそもそもの目的が他の亜種聖杯戦争のように冬木の聖杯戦争を再現することを念頭に置いたものではなく、別の目的を理由とした実験的なものであったという点。

 そしてこれが仮にも一つの国家、ただの在野の魔術師ではなく、国家権力に後押しを受けたプランであったという点。何より亜種聖杯として核に選ばれた聖杯が……それこそ聖杯というに相応しい魔力リソースを持ったそこらの亜種聖杯戦争とはかけ離れた完成度を誇っていた点などおよそ、亜種と呼ぶには余りにも過ぎたものであったという。

 

 当初、戦いは内々の……それこそ合衆国政府の実験に協力する者たちでのみ密かに行われる予定であったという。しかし、実験の舞台として選んだ地──メキシコのチワワ州であることが元の住人達……遥か古くから土地と共に神秘を引き継いできたメソアメリカの先住魔術師たちの怒りに触れる。

 

 さらには先住民族のみならず、アメリカ合衆国一派の魔術師側……彼らに亜種聖杯を提供したというオブザーバーを名乗る人物が思惑とは裏腹に、戦いを喧伝したことで混迷は深まる。

 

 結果、亜種聖杯戦争は過去に類を見ない規格外の規模となったという。

 そして、招かれた英霊も規模に見合う規格外の者たち。

 

 エジプトの神王(ファラオ)に、ヨーロッパの父たる大帝。

 ギリシャ神話最強の大英雄に、中世錬金術の大家。

 さらに最悪の猛威を振るったという先住魔術師たちが呼び出した『死の聖母』。

 

 いずれも召喚された時点で優勝が確約されるような規格外の英霊ばかり。

 加えてマスターの方も、一国家のバックアップを受ける組織に、世界的な規模で活躍するマフィアの一団、遥か古よりメソアメリカの魔術を語り継ぐ先住魔術師たちと、組織規模で動き回れる者たち。

 

 その結果、起こったという文字通りの戦争は、規模と被害のあまり時計塔においても箝口令が敷かれるほどの凄まじい規模のものになったという。

 

「……なんだ、このF-15撃墜って」

 

「ああ、何でも規模が規模なんで戦い中盤には一部の米軍まで動いたんだとよ。で、残らず土地柄無視して突如出現したピラミッドから飛んできた熱線にまとめて全部焼き払われたと。戦闘機以外にも戦車の方も何台か吹き飛ばされたってな、被害としちゃあ中隊規模の損失だったか? そりゃあ箝口令も敷かれるだろうよ」

 

「へぇー……ってパーシヴァルの野郎も呼ばれてたのかよ」

 

 獅子劫の解説を聞きながら、しげしげと興味深げに“赤”のセイバーは資料を流し見る。

 何やら読み物を楽しむような態度の“赤”のセイバーに呆れながら獅子劫は……。

 

「そして戦いを勝ち抜き、亜種聖杯を手にしたのが……他ならぬ件の魔術師アルドル・プレストーン・ユグドミレニアだ。しかもコイツは他の参加者と違ってユグドミレニアの援護を受けずに、文字通りサーヴァントと単騎掛けでこの戦いを制してやがる」

 

 とてもではないが人間の所業ではない、と付け加え、ため息を吐いた。

 

「ハッ、オレは寧ろ興味は湧いた。あん時はアグラヴェインみたいに裏でコソコソ立ち回る奴なのかと思ったが、存外派手に動き回る野郎みたいだしな。よし、アイツもオレが倒すぞマスター」

 

「…………お前さん、大物だわ」

 

「当然だ。オレは王になるのだからな!」

 

 その思考、楽観と取るか慢心取るかはさておき、これだけの話を聞いて尚、“赤”のセイバーは怯むどころか寧ろやる気になっている。

 ここまで来ると一周回って頼もしい上、何故だが何とかなるような気までしてくる。

 

「やれやれ……ま、そうだな。未知数だからって今更怯んでも仕方ないか。既に賽は投げてしまったし、後は野となれ山となれと考えた方が前向きか。……まさかお前さんに励まされるとは」

 

「うん? おいマスター、そりゃあどういう意味だ?」

 

「褒めてる褒めてる。とはいえ、流石に昨日の今日で攻めかかるのは何にしてもよろしくない。まずは一日、休息の時間を取ることにするか、異論はあるか、セイバー」

 

「……ま、それが妥当か。それでいいぜ、マスター。んじゃあ、さっそく飯にしようぜ飯。休憩するならまず飯だろ。オレはステーキでいいぞ」

 

「はいはい、りょーかいしましたよ。王様」

 

 方針に納得して、先ほどまでの血気は何処へやら鼻歌を歌いながら赤いレーザージャケットを羽織る“赤”のセイバー。

 その切り替えが早さに思わず獅子劫は苦笑する。

 

「そんじゃ、遅めの昼でも──」

 

 取りに行くか、と言いながら獅子劫もまたジャケットを羽織ろうとして……。

 

「ッ、マスター!」

 

「なにっ?」

 

 突如として“赤”のセイバーが獅子劫の肩に手をやり、そのまま引っ張って後ろに倒す。

 あまりに唐突な不意打ちに獅子劫は驚きながら目をやると眼前にはいつの間にやら臨戦態勢を整えた“赤”のセイバーの姿と──もう二つ。

 

「──おっ、なんだ飯食いに行くのか。なら俺たちも同伴させてもらおうか? なあ、“赤”のセイバーのマスター」

 

「…………」

 

 見知らぬ長身の青年といつか見た女弓兵がそこに居た。

 “赤”の陣営がサーヴァント──“赤”のライダーと“赤”のアーチャーである。

 身構える“赤”のセイバーを眼前に、されど長身の青年、“赤”のライダーは涼し気に口を開き。

 

「そう警戒するなよ。飯食って親睦を深めようって話さ。ちょっとばかしこっちも事情が混んでてね。お前さんたちと一度腹を割って話し合いたいのさ」

 

「事情だと?」

 

「ああ」

 

 警戒しながらも訝し気に疑問を浮かべる“赤”のセイバー。

 それに“赤”のライダーは悪戯を仕掛けるような笑みを浮かべて、

 

 

「なに、ちょっとした事情さ──“赤”の陣営の裏切者に関する、な」

 

 

 ──かくして運命の筋書きから外れた邂逅が此処に成る。

 以て聖杯大戦は更なる混迷へ。

 万全盤石の読みを崩すべく、謀略家の一手が投じられた。




《ドキドキ! 南米亜種聖杯戦争!》

セイバー:
フランシスコザビッ!? 留学中!?
よっし、良く分かんないが行くぜマスター!!

ランサー:
これがアメリカンサイズという奴ですか!
素晴らしい! 何事も大きいことは良いことです!
ところで貴女は食べないのですかエルザ殿?

アーチャー:
なんでさ

ライダー:
お前、余の、嫁の、墓を暴いたな? 死ね。

キャスター:
フランチェスカ? オブザーバー?
良く分かりませんが彼女は邪悪だ。殺しましょう。

バーサーカー(アヴェンジャー):
不愉快な神性の気配がするな。
神もそれに類するものも皆殺しだ。

アサシン:
死死死死死死死死死死死死死


オブザーバー:
ごめんね☆

ファルデウス(祖父):
胃が、胃がぁぁぁ!?
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