絶えず天へと捧げられる讃美歌。
奇なる
熱狂、陶酔、狂乱、歓喜……。
生死を懸けた此処にて正気で在れる者など誰もいない。
そう、何故ならば──死を前にすれば正気でなどいられない。
生命にとって、死とは絶対かつ不変なる恐怖である。
古来、秩序を形取るものとして宗教が用いられたのは死への恐怖が理由であった。争いや疫病が猛威を振るう時代において、死への恐怖は弱者強者に問わず、万人に通じる認識であった。
死は恐ろしい──貴族も戦士も民衆も、誰もが万人に訪れる不幸がいつ己に降り注ぐのかと身を震えさせて怯えていた。
だからこそ、「死後の救い」という概念で人々を恐怖から救い、善く在ることでそれが叶うと万人に教え、人々を自発的に善良な秩序を形作るように仕向けさせた宗教は人間社会が未熟であった頃に多く用いられてきたのだ。
──恐怖という感情を麻痺させる劇薬。
嗚呼、それは何とも罪深い。
人は私のことを聖女だと呼ぶ。
国を救った勇敢なる乙女。
恐怖に屈せず旗を掲げた救国の少女。
そして、功績に反して訪れた非業なる終わり。
悲劇の聖女──ジャンヌ・ダルク。
だが、私は自らを聖女だと思ったことは一度もない。
『主』の御名を用いて人々を狂乱させる罪科。
信心深き皆々を
善く生きることが主が説く教えの本質だとするならば、誰よりも何よりもその教えに反しているのは他ならぬ私自身だ。
たとえ万人が万人、私の勇姿を素晴らしいものだと讃えたとしても私自身がそれを認めることは無いだろう。
救いを求めるには我が手は血に濡れすぎている。
何かを救うために何かを切り捨てる。
その選択をした時点で私は既に罪人と化したのだから。
旗を握るその手に震えはない。
指揮する声に躊躇いはない。
“主の嘆きを聞いたのです”──選んだ道に後悔はない。
「畏き御稜威の大王、救わるる者を
よって彼女は旗を振る。
主の涙を、悲劇を止めるために。
全てを背負って立ち上がり、戦うのだ。
恐れ慄け、不信心たる異教の尖兵。
此処に我が旗ある限り、人理の営みは崩れない。
☆
『聖杯大戦』──英霊七騎対七騎による過去類を見ない大規模な儀式。ルーラーことジャンヌ・ダルクが此処に招かれたのはそのイレギュラー性あってのことだと推測された。
だが、既にそのような生温い警戒は更新された。この地に招かれし要因、聖杯は疎か人理を形作る抑止力すら警戒した最大最悪の敵対者がこの地には存在したのだから。
「はぁあああ──!」
大気の壁を突き破り、音速に達する速度で光の槍が振り下ろされる。
身に纏うは穢れなき白亜の鎧。
風に靡くは美しき金糸のような髪。
いっそため息すら漏らしそうになる美貌。
愛深き北欧の神々が具現せしめし天の遣い手。
勇者の魂を救いとる者。
黄昏に散っていった
真名──否、神名スルーズが上空より強襲する。
「ふっ──!」
その恐るべき急降下槍撃を前に、聖女は聖旗を槍の様に取り回しながら真っ向から受け止めた。
衝突と同時に両足が地面に陥没するが、受けた聖女の身体に揺らぎはない。慣性と魔力放出が存分に乗ったAランク相当の一撃を前にしてもルーラーとして、いいや『
一瞬の拮抗、少女の動きが止まる。
「聖女様に近づけるな!!」
「異教の徒に呪いあれ!!」
同時、聖女に襲い掛かる不心得者へ、周囲の兵士たちが血気盛んに躍りかかった。たとえ相手の見た目が見目麗しい少女であろうが関係ない。剣を槍を、はたまた弓矢や砲をその手に取り、躊躇うことなく少女の命を簒奪せんとする。
しかし何れの攻撃も少女に対して掠りもしない。総軍には到底及ばないものの、親衛隊の騎数は二百にも達するというのにその総攻撃を受けて尚、少女は無傷を貫き通す。
兵士たちの剣舞は、舞のような回避機動で華麗に受け流され、驟雨のような槍の突きは悉くが少女の槍技に叩き落された。
「勇猛果敢──ですが、己ではなく他者に
頭上より言葉が告げられる──瞬間、少女の姿が消えた。
まるで白鳥が飛び立つように、白い羽毛を残影と残して。
「ッ、下がってください!!」
続く行動を予見して聖女が警告の檄を飛ばす。
だが遅い。
聖女が見上げる先。
晴れやかなる蒼穹を背にして二人の少女が輝きを放つ。
まるで審判の日を思わせる邪悪を滅する黄金の輝き。
それは高純度に研ぎ澄まされた魔力の波である。
一点に解き放たれる太陽の光が生命を焼き殺す強烈な光線と化すように、対象を滅する意図を以て放たれる広域魔力放出は然るべき大量の魔力を消費することを代価に群がる兵士たちを一瞬にして蹴散らした。
「オルトリンデ、援護を」
「了解、対象を聖女に。囲みます」
「くっ!」
スルーズの呼びかけに応じるのはこの戦域に君臨するもう一騎の戦乙女。オルトリンデと呼ばれた濡羽色の髪をした少女が槍を構えて聖女へと攻撃を行う。
かの大神オーディンより授かった大神の槍を模倣した『
それはたちまち檻のようにして聖女の逃げ場を封じ込め、一軍の将をただの一騎に孤立させる。
すかさずスルーズが再び突撃を敢行する。
先の様に周囲の援護はない。
純粋な二騎の英霊同士の技巧を比べ合う鍔迫り合いが巻き起こる。
「せぁああ!!」
速度は歴然なほどにスルーズが上回った。
元より黄昏の戦いを予見したオーディンによって創造されし戦闘個体。
かつてこの惑星の全てを奪わんとした恐るべき凶星から着想を経て創られた使徒である。
神代より空を駆け抜けて来た羽は戦闘機に匹敵する高速を叩き出し、その槍技は生半な
突き、薙ぎ、振り下ろし。
加えて彼女らは常時空を駆る。
戦場において常に上を取られるという事がどれ程の不利か、当然指揮官たる聖女は骨身に染みて理解している。
だが理解して尚、純然たる人の歴史に生まれた聖女に空を駆る術など無い。よって順当に迎撃という手段に押し込まれる。
「流石は、北欧の戦乙女。これが本家本元の力ということですかッ!」
ジャンヌ・ダルク自身、その名声の中に自身が戦乙女と呼ばれていることを認知している。だが、真にそう呼ばれる彼女たちはこと戦闘技能において遥かに聖女を凌駕していた。
そのことに聖女は改めて戦慄と感嘆を口にする。
「ですが……!」
自身の名声に対して執着はないが、だからと言ってこのままやられっ放しでいられるほど聖女もまた大人しくはない。
元より今は聖杯大戦。勝ちを掴み取るのは強き者ではなく最後まで立っていられたものなのだから。
たとえ技巧で劣っていようともやり様は幾らでもある。
自らの聖旗を強く握りしめ、こちらの得物を薙ぎ払おうと下段から薙ぐように放たれる戦乙女の光槍を聖女は敢えてまともに受け止める。
一瞬でも得物を手放せば瞬く間にやられる。その判断からの行動であったのだろうが代償に光槍の薙ぎを受けて聖女は自身の得物ごと空中へと吹き飛ばされた。
そこを当然のように追撃するスルーズ。
羽を持たない聖女は当然ながら空中での自由が利かない。地に足が付いていないのだから踏ん張りも利かず、空に舞う身体を制御する術も持たない。
この上ない隙、この上ない好機。
戦闘個体として生み出された彼女が敵の無防備を狙わない甘さなど持ち合わせているはずもなく、粛々と抵抗の余地がない聖女へと槍を突き立てる。
刹那──。
「はああああああああッ!!」
「ッ!?」
聖女が雄叫びを上げる。
同時に彼女は聖旗と自身の体重移動で強引に体勢を立て直し、追撃して来たスルーズを地面へと叩き返した。
そう、頭上を取られる不利を聖女は当然心得ている。ならばこそ、多少強引にでも相手の攻撃を利用して一瞬でも相手より上に立つことを優先したのだ。
吹き飛ばされ宙に舞った聖女と、吹き飛ばし追撃を選択した戦乙女との位置関係はこの一瞬にのみ入れ替わった。
そして聖女はこの一瞬さえあれば迎撃ではなく戦いに持ち込めると判断したからこそ敢えて敵の狙いを受け入れることを選択したのだ。
「かはッ……!」
端正な顔を苦悶に歪ませ、スルーズが地に押し付けられる。
そこへ聖女は先ほどのお返しとばかりに猛攻を加えた。
流石は戦乙女とだけあって予想外の損傷からもすぐさま立ち直って迎撃を行うが今度は同じ地に足が付いたもの同士。
対等な条件下ではその技巧は拮抗する。
いいや……否。
「……あまり誇りたい話ではありませんが。力はどうやら私の方が上のようですね」
「くっ、おのれ……!」
絶えず叩きつけられる聖旗の乱舞。
スルーズはそれを巧みに捌いていくが、如何せん一撃一撃が重い。神霊として顕現するスルーズの性能は並のサーヴァントを遥かに上回っているモノの、それは調停者として招かれている聖女も同じこと。
通常の英霊よりステータスに補正が掛かっているルーラークラス。それが今や世界の後押しを受けて『冠位』の称号を得ているのだ。
《オルレアンの乙女》は恐るべきことに事、
だからこそ力比べではスルーズは聖女の後塵を拝することになる。
十合、二十合──三十二合。
技にて聖女の一撃を受け止め続けたスルーズであるが、力に押し負けて僅か体幹がブレた一瞬の隙に聖女が渾身の一撃を叩きつける。
「そこです!」
「きゃっ!?」
壮絶な激音と共にスルーズの華奢な肉体がもんどり打って地面を回る。
体中に軽い打撲を負いながらうつ伏せに倒れ込んだスルーズはすぐ様体勢を整えようとするが……一手、既に聖女は決めに動いている。
「天罰よ、此処に!」
「ッ、ああ!!」
降り注ぐは光の矢。
さながら
致命的な部位への攻撃は携える盾にて払いのけるが、それでもその全てを防ぐことは出来ず二、三発と被弾し、悲鳴を漏らす。
「まず一騎、仕留めます!!」
「させないッ!!」
くるりと聖旗を取り回し、構え直して聖女が疾駆する。
この上ない好機。敵が複数いる以上、仕留められるところから数を減らしていくのは戦の常道である。
聖女は容赦なく倒れているスルーズに止めを刺そうと動くが、それをさせまいと援護に徹していたオルトリンデが強引に割り込む。
片手で聖女が止めと放った聖旗の一撃を受け止めて、もう片手でスルーズの身体を抱え込み、即座に空中へと離脱する。
「っ……!」
スルーズの槍捌きを貫いただけあって聖女の一撃は片手で凌げるものではなく、僅かにオルトリンデの身体を掠めたが、彼女は構わない。
流石の聖女もすぐに遥か空中にある敵への追撃は出来ないという判断の下、オルトリンデは距離を優先した。
途中、オルトリンデの邪魔に遭っていた兵士たちが先のお返しとばかりに砲撃や弓の雨を降らすものの、聖女ならばいざ知らず、兵士の技量で戦乙女に傷を付けられるはずもなく、離脱を許すことになる。
「ふぅ……仕留め損ないましたか……」
こちらの攻勢が届かない位置にまで一瞬にして駆け上がった戦乙女たちの姿を見送って聖女は少しばかりの無念を口にしつつ息を整える。
流石にそう簡単に討たせてもらえる相手ではないとはいえ、意識を割かねばならない対象は少ない方が良い。
ましてや──敵の全貌が明らかになっていないならば尚の事に。
「北欧神話に登場する神霊に等しい半神の存在ワルキューレですか。通常の聖杯戦争においてはまず呼び出されないはずの存在ですね」
頭上よりこちらを睨みつけるオルトリンデ、並びに負傷から立ち直るスルーズの視線に正面切って返しながら、聖女は厳しい表情で言葉を漏らす。
「ルーラーのクラス特性たる『真名看破』が正常に働いている以上、サーヴァントとして現界しているのは間違いありませんが、クラスは持たず霊基も英霊の持つそれとは性能が異なっている。……この時代にあって限りなく神霊クラスの出力を許すなんて一体どんな手段を」
前提として聖杯大戦と呼ばれるこの戦い。冬木の地より持ち出された聖杯を巡るこの儀式のサーヴァントは既に揃っている。
“黒”と“赤”を合計した十四騎。即ちセイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。
戦いの末、何騎かの英霊は儀式から脱落しているモノの大聖杯が現世に呼び込む英霊の枠は埋まり切っているのだ。
故に調停者として大聖杯と抑止力の判断の下、遣わされたルーラーのような例外中の例外でもない限り新たに英霊が呼び込まれるはずはない。
「あり得るとすれば一つは、英霊として呼び出されながら受肉し、現世に留まり続けた者」
此処とは別の聖杯戦争で勝ち抜き、勝者となった英霊が受肉した上でもう一度聖杯戦争に望む。
……そのような例は聞いたことがないが、手段としてはあり得る可能性の一つである。
「そして、もう一つの可能性……ある意味では受肉した英霊以上に信じがたい話ですが、聖杯戦争とは関係なく、サーヴァントを呼び出したという可能性です」
可能性、と自ら仮定しつつも半ば後者であることを確信するように聖女は言葉を言い放つ。
そう、あまりにも信じがたい話だが、聖杯戦争と呼ばれる儀式なしにサーヴァントを、それも神霊クラスの存在を呼び出した可能性を聖女は疑っていた。
理由の一つは他ならぬ聖女自身、事ここに至るまで戦乙女たちの存在を認知していなかったからである。
ルーラークラスには幾つかの特権が存在する。調停者という役目の都合、他の英霊やマスターと高い確率で敵対しかねないことからそのステータスは通常のそれよりも大きく上乗せされることに加え、『真名看破』といった英霊の詳細を掴み取る特権スキルの存在、それに付け加えて高い索敵能力を有するという特徴があるのだ。
少なくともトゥリファス。聖杯大戦の舞台となったこの地に集う英霊を感知できる程度には広範囲かつ高精度の索敵技能を聖女は有している。
にも拘らず、聖女は今の今まで目の前の戦乙女たちの存在を感知できなかった。これほどまでに強大な霊基、魔力を有する存在にも拘わらずだ。
「或いはアサシンの持つ『気配遮断』のような特殊なスキルを有している可能性も考えられますが、私の目に映るステータスにそういったものの存在は見られない。必然的に彼女らの存在は第三者の存在を指し示すことになる」
戦乙女自身に隠蔽にまつわる技能がないのであれば、それを為した存在はまず間違いなく彼女たちを呼び出したもの、それも英霊たるルーラーに対する高い隠蔽能力を有するほどの超抜級の使い手という事になる。
隠していたのか、或いはこと此処に至って初めて顕現させたのか。状況の次第は推測しがたいが、どちらにせよ彼女たちほどの存在を呼び出せるという一点だけでもはや最大限の警戒をせざるを得ないだろう。
「ユグドミレニアの魔術師、アルドル・プレストーン・ユグドミレニア。抑止力すらも敵性判断を下すほどの存在。貴方は一体何者なのですか」
今や聖女は唐突に現れた未知の敵を眼前の戦乙女以上に警戒していた。ただの魔術師というには余りにも常軌を逸している。
神霊クラスのサーヴァント召喚、局所的な空想具現化。
ともすればユグドミレニア総力で以ても叶うかどうか怪しい奇蹟をただ個人の技量のみで可能とするなど天才や鬼才を通り越している。
今も囁く抑止力の神託──『敵を滅せよ』という使命からも察せられる通りかの者は世界の秩序に対して余りにも外れすぎていた。
「まさか……『根源接続者』? いいえ、それならばそもそも聖杯大戦に身を投じる理由がないはず。大戦に参した以上は願いと、聖杯に頼らざるを得ない能力の上限値が存在するはず。どれほど空前絶後であっても魔術師という枠に彼が捕えられていることに疑いようはない」
あくまで『魔法使いじみた魔術師』。恐らくそこがアルドルという魔術師の限界点のはずだ。だとすれば神霊ワルキューレの存在も、空想具現化による環境変化もまた魔術の範疇ということだが……。
「いいえ、それこそあり得ない。一連の現象は魔術というにはあまりにも常軌を逸している。神代の魔術であっても、現代でこれほどの事は為せない」
単純な話、魔術という規格ではこの一連の現象を説明付けることができないのだ。如何に込んだ術式を練り上げようとも神秘の衰退した現代でただの個人による魔術で此処までの事は出来やしない。
それこそ魔術では単に出力が足りないのだ。ましてや局所的とはいえ星の改変など人理ではなく星の理に類する権利。
そんな非常識、それこそキャスターの持つ宝具であっても……。
「────
──アルドル・プレストーン・ユグドミレニアは
召喚したサーヴァントの枠は不明だが、令呪を持ち、聖杯戦争に参加している以上は英霊たる存在の主を務めるものの一人。
常識外の神秘を個人で行使することが可能であり、ルーラーの目を掻い潜って何らかの手段を用いて神霊サーヴァントを世界に招けるほどの技量を有し、そして抑止力に排斥対象とされるほどの秘密を持った存在。
「
聖女は己の思い至った推測に戦慄する。
神霊召喚、環境改変、星の権利、抑止の敵。
英霊の宝具ですら不可能な一連の奇蹟。だが、アルドルという魔術師が本当に空前絶後の魔術師であり、マスターだとするならば、魔術とは別にこれほどの奇蹟を為せるだけの手段が一つだけ存在している。
人理に記録させし、彼の異名が聖女の脳裏へと過る。
魔術師たちは彼の事をこう呼んでいた。
気づきを得た刹那に、聖女は突如として増大する魔力反応に顔を上げる。
そこには──万の兵士たちを前にしても尚、不敵な笑みを浮かべる魔術師の姿があった。
「さて──神の名の下、恐怖を忘れた聖女の尖兵共。お前たちの信仰は果たして終焉を望む憎悪を凌駕できるか?」
描かれるは
千年樹を名乗るユグドミレニアに生まれた神域の天才は威風堂々と抑止の尖兵たる者たちに相対する。
挑むように、或いは受けて立つように。
「季節は移ろい、春から冬へ。怒りに燃える者よ、憎悪を吼えろ」
かくして神話の伝承が紐解かれる。
黄昏を経て神々は地表を去った。
なれどもその憎悪、その記憶は一秒たりとも陰り無く。
たとえ人々が神話の時間を忘れようとも。
この恐怖は生命の根幹に刻まれしもの。
「
魔術師が告げた瞬間、
石を落とされた湖面の様に。
空間へと広がる波紋。
同時にそこから溢れ出すように圧倒的な冷気がたちまち世界を激変させた。
春から冬へ。
生命の脈動を感じさせる緑の風景は一瞬にして凍てついた。
トゥリファスへ降り注ぐ冷たく白い嵐。
太陽の輝きを覆う分厚い曇天。
人知及ばぬ薄氷の地獄、何人も生きることを許さない静寂の世界。
『九つ廻る千年神樹』──
再現に特化した魔術師たるアルドルが
そして……。
「異なる神を断罪せんとするその傲慢を挫こう。身の程を知れ、神の代行者を名乗る人間ども。
空間に響き渡る様、さながら遥か天から降り注ぐようなアルドルの不可思議な声に聖女も、兵士たちも反応できない。
彼らは一様に変わっていく世界の様を、再び激変する環境に……否、否、否である。彼らが見るはただ一点、変わる世界の中心点。
春を冬へと変えてみせた門より溢るるものをただ凝視していた。
暗く、昏い底。
日の光など存在しない冬の光景。
監獄と見紛う暗闇の孔。
そこから何かがこちらを覗き込んでいる。
射殺すような鋭く冷たい邪眼。
唸りと共に吐き出される極寒の冷気。
恐るべき冬の権化。
何に? 愚問である。この世全てにである。
「
聖女も兵士たちも、それから目を離すことなど出来ず。
「ッ!!!
一瞬の躊躇いもなく発動される聖女の宝具。
だが、それすらも。
「やれ、
『──────■■■■■■ッッ!!!!!!』
世界に轟き渡る邪竜の咆哮。
神代より今を生ける最強の幻想種が全ての信仰を薙ぎ倒した。
某戦神「ぶっ殺すぞ
邪竜「ぶっ殺すぞ
遊星の化身「困った時の協力、良い文明」
神話の後継「先達のリスペクト、良い文明」