──“黒”のアサシン、シャルロット・コルデー。
ユグドミレニアの魔術師たるアルドル・プレストーン・ユグドミレニアによって召喚された彼女は“黒”の陣営においても最速で召喚された英霊である。
聖杯大戦が始まるより半年も以前、まだ時計塔への宣戦布告すら終わっておらぬ前夜に召喚された彼女は誰よりも早く現世に呼ばれ、誰よりも深くこの聖杯大戦についての概要を知っていた。
だからこそ──。
『聖杯大戦において、君の役目は暗殺だ』
これから起こりうるであろう、あらゆる
『はあ……まあ、私はアサシンのサーヴァントですし、今更言われるまでもないことですけど……?』
『その通りなんだが……今のはただの独り言だと思ってくれ。気持ちの整理というか、改めてアサシンという英霊は正面から戦う英霊じゃないと言い聞かせたようなものだ』
『えぇ?』
それこそ今更何を言っているんだろうという疑念に満ちた目でシャルロットは主を見つめる。対してアルドルは奥歯にモノが詰まっているような何とも言えない表情のまま、わざとらしい空咳を打って、言葉を続ける。
『コホン……ともかく、君の役目は暗殺だ。主目的はこれから参戦してくるだろう聖人たちへの対応になるが、場合によっては他の対象、英霊やマスターも狙ってもらうことになる。……筆頭は恐らく“赤”のセイバーとそのマスターだ』
『……それはまた。まあ確かにセイバーは最優の英霊ですからね。正面から戦うのは色々と大変そうですから暗殺という話は分かりますけど、そう簡単にいきますかね?』
セイバークラスは最優の英霊。
その知識は当然、召喚に際し英霊として知識に刻まれている。
剣士というのが伝説や神話の花形として君臨する存在であることが多い、という理由もあるが、それを抜きにしても召喚の際に与えられる魔力耐性に高品質のステータスと、召喚される英霊の中でも隙の無さは折り紙付きだ。
今回は聖杯大戦という陣営形式の戦いのために、こちらにも当然、セイバーは召喚できるが、難敵ゆえ、まともに戦いたい相手でないことは確かだ。
楽に脱落させることが出来るなら、悪い話ではない。
『君の言う通り、普通なら卓上の理想論ではあるな。アサシンによるセイバーの排除。字面ほど簡単な話ではない。セイバーは最優と呼ばれるだけに能力値に隙はない。適当な不意打ちは簡単に防がれるし、そもそも彼らの多くは『直感』と呼ばれるシックスセンスによる対応力がある。万全の彼らに闇討ちは現実的じゃない』
『ですよね』
シャルロットの言葉に頷くアルドル。
指摘するまでもなく、彼は問題点を精査済みだ。
その上で。
『──ならばこそ、敢行するなら当然、闇討ちが通る状況を作ってから行う。そのためのカードは既に揃えてある。“黒”のバーサーカー──湖の騎士はそのための存在だ』
『マスターが召喚に口添えしたという英霊さんですか』
『そうだ……敵の“赤”のセイバーは確かに難敵だ。こちらが召喚するであろうジークフリートや、それこそセイバーで呼ばれるランスロットのような一級の英霊に対して一枚劣る存在であるが……その抜け目のなさと直感、比較的に高い幸運性は油断できるものではない』
少なくとも片手間で排除できるような存在ではないだろう。
幾らかの
『だが、一級の英霊と比べれば比較的隙が多いのもまた事実だ。特に、その激情家という気質は解りやすい弱点の一つだろう。狙って冷静さを奪えるというのは付け入る隙としては打ってつけだ』
『……マスターって私たち英霊に対して尊敬を謳う割には畜生ですよね』
英霊にとって生前の無念や葛藤、死後の後悔は重いものだ。
だからこそ彼らは第二の生に願望機を求めている。
多かれ少なかれ、誰しも自分の人生に思うところはあるもの。
なればこそ、感情というものはたとえ英霊の領域に昇華された大人物であろうともそう簡単に割り切れるものではない。
それをこともあろうに利用しようと宣う主は成程、
『……真っ向からそういわれるとちょっとくるものがあるな──ん、んん。ともあれ盤面次第ではアサシンによる闇討ちでも十分にセイバーを殺害可能だという話だ』
『んー、取り合えず了解しました。じゃあ状況によっては私は“赤”のセイバーさんたちを狙えばいいんですね?』
『ああ。詳細は事象が確定し次第、また追って詰めるがそういうものだと理解してくれ』
アルドルの言葉にコクリと頷くシャルロット。
元より暗殺者の英霊。
闇討ちや不意打ちといった邪道に忌避感は特になく、何よりもマスターの役に立つためにこの身は現世に呼び出されたのだ。
可能である、というなら難易度の高い暗殺とて成功させてみせよう。
『あれ? でもそれって今言う必要ありました? 確かに事前に知っていればやりやすいでしょうけど、状況が確定する前に断言するのはマスターらしくないような?』
こてんと首を傾げる。
マスター、アルドル・プレストーン・ユグドミレニア。
彼は数奇な運命によって特別な知識と視点を持つ魔術師だ。
限定的ではあるが、それこそ最古の王が有するような「全てを視る目」を持つ彼だが、だからこそというべきかイレギュラーの発生を誰よりも警戒している。
特に事前の知識と現実が嚙み合わない事態など最大に警戒する対象だ。だからこそ無闇矢鱈に知識を披露しないし、
こと魔術師としては
だからこそ、余分な知識を予め詰め込ませるのはマスターらしくないと思う。
『事前に言う理由があったから伝える必要があったんだ。暗殺依頼は確定していないが、手段の方は確定しているからな』
シャルロットの言葉を肯定しつつ、アルドルは懐に手を伸ばす。
『いかに状況を整えたとて相手は近接戦闘の名手。ナイフ一本で近寄るには危険極まる獅子だ。だが人間の知識はそういった猛獣に対する適切な対応をキッチリと生み出している。
『成程……つまり、その訓練をしておけ、という話でしたか』
『そういうことだ』
そう言ってアルドルは懐から取り出したものをシャルロットに手渡し、次いで開いた手をシャルロットへ差し向けた。
その所作はまるで婦人を逢瀬へと誘う貴公子のようだった。
向かう理由の方は、この上なく物騒なものであったが。
『さて、構えや姿勢は私が伝授しよう。インストラクターの資格はないが実践経験は豊富だ。ハワイへの予約はもう済んでいる』
『何故にハワイ?』
『こういうののお約束だから、なんてな。何にせよ、訓練さえできる設備があればどこであろうと構うまい?』
『はぁ、了解しました。……でもまぁ、せっかくハワイに行くなら、
『……ま、それぐらいならお安い御用だとも』
差し向けられる手にシャルロットは悪戯っぽく笑いながら手を添える。
それにアルドルは苦笑しながら応えるのであった──。
………
………………。
「──良かった。使い慣れない
先ず第一に訓練の成果をちゃんと結果に出来たこと。
“黒”のアサシンはホッと安堵するように息を吐いた。
これで目的を達成できなかった場合、過去の
そうなっては何だかんだ言いつつ、キッチリと
だが、そんな暢気な暗殺者の内面とは裏腹に被弾者はまさに地獄を直視していた。
「ガッ……は、ァ…………!」
獅子劫の膝が崩れ落ちる。全身から力が抜けていく。
身体の熱量が急速に失せていく。
“こいつ、は……!”
……通常、魔術師はそう簡単に死ぬものではない。
否、死にたくても死ねない。
何故なら魔術師に刻まれた先祖代々の制約……魔術刻印という楔が、彼らを強く現世へと繋ぎ止めるからだ。
術者に何かしらの非常事態が起きた際、魔術師としての機能は魔術師自身が持つ意思の有無を問わず、先ずもって術者の命を繋ぎ止めに掛かる。
たとえ心臓を粉砕されたとて、即死には至らない。
そうでなくても魔術師というものは生き汚い。魔力という異なる法則を手繰る彼らは魔術刻印という最終手段の他にも様々な術式や用意によってその身を守るもの。例にもれず獅子劫もそういった手段を当然のように用意していた。
皮のジャケットによる防護措置や『強化』による肉体性能の向上等。
たとえ不意を打たれたとて、反撃の余地が残るようにと。
重ねた準備はしかし、全て無意味であったことを死に瀕して悟る。
“魔術回路が……全て
知っている。知っているとも。
獅子劫のような傭兵なら。
或いは戦場を渡り歩くような魔術使いであるならば。
その悪名を知らぬはずがない。
一度、獅子劫はそれと見えたことがあるのだから。
“魔術師殺し”。
黒いコートに身を包んだ、魔術師という生き物を熟知し、誰よりも魔術師というものを殺すことに長けた魔術師。
かの人物が得物とするその魔弾はひとたび魔術師の身に着弾すれば最後、その体に宿る魔力の源泉、第二の血管ともいえる魔術回路を悉く切り裂き、強引に繋げなおして破壊する最悪の魔術礼装。
魔術師として生きることを徹底して殺す、魔術師殺し。
今に獅子劫の心臓を射抜いたものは、他ならぬ『それ』だった。
「──、────!」
激痛に声を上げることすら許されない。
絶望に嘆く余命さえ与えられない。
思考が偏る。
何処かで、傭兵らしいあっけない最期だと、嘲笑う声がする。
自嘲、自虐、諦観……。
まあ、こんなこともあるだろう、なんて。
そんな思考が走馬灯のように死に瀕した脳を巡る。
“──ああ”
不意に
それは魔術師らしからぬ陽だまりの記憶であった。
いつか、自分の手にあった■せの記録だった。
本を読んでくれとせがむ少女がいた。
なんでと頭を掻きつつ、結局、胡坐を組んで少女を乗せる。
ゴツゴツして座りにくいだろうに、少女は何故かとても嬉しそうだった。
あんまりにも嬉しそうだから毒気を抜かれる。
仕方がねえなと愚痴りつつ、本を広げる。
共感もへったくれもない、ただ文字を読み上げるだけの読書。
だというのに、少女は嬉しそうだった。
■■みたいだな、と思った。
■■みたいになりたいと、少女は言った。
“────”
結局のところ、“それ”が獅子劫の全てだった。
そのために生き足掻き、生き恥を晒し、生きて来た。
“約束”が忘れられなかったからこそ、獅子劫は聖杯を求めたのだ。
記憶の少女がこちらを見てくる。
その顔が、誰かに重なる。
似ても似つかない少女たちの貌が重なる。
“ごっこ遊びかよ──なんて、無様”
ああ、そんなだからお前は負けたのだと魔術師の己が嘲笑う。
非情に徹せないのなら、下らない幻想を抱いてしまったのなら。
それこそが死期。
充足を知ってしまった時点で、魔術師としてとっくの昔に終わっていたのだ。
“──すまねえ、セイバー”
負けたことへの謝罪なのか。
残すことへの謝罪なのか。
もう、その理由を知ることもなく。
獅子劫界離の意識は闇に墜ちた。
もう二度と、それを取り戻すことはない──。
「マス、ター……?」
「────」
消え入るようなサーヴァントの問いかけ。
それに──応える者はいない。
当然だろう。
そこに残っているのはただのモノ。
魂の抜け落ちた空の肉体。
もう何度も、何回も見て来た、生前から積み上げてきた、屍の轍。
そこに、たった今、“赤”のセイバーの主が加わった。
ただ、それだけの話だ。
「──…………」
ただ、それだけの話を“赤”のセイバーはすぐには理解できなかった。
醒めた思考が現実を理解しているのに。
感情が、それに追いつかなかった。
剣士が呆然とする、その、最中に。
「──さて」
沈黙に響く、女の声。
気づけば、下手人は銃を下げて凶器をナイフに持ち換えている。
直接的な戦闘を得意としていない暗殺者の英霊らしい、静かな立ち振る舞い。
ナイフを構えるその様は一見して隙だらけで、脅威に見えなくて、だからこそ、誰もかれもが油断する。
他ならぬ死神を、天使などと誤認するのだ。
「どうされますか?」
女が問う。座り込むセイバーの英霊に問いかける。
……主を討たれても英霊はすぐには消滅しない。
残された魔力、残存する霊基が損なわれるまで一定のタイムラグがあるためだ。
かつての“黒”のライダーのように、主を討たれたうえで自身の霊核をも損失したならば即死もありうるが、少なくとも、ただ戦闘によって消耗している状態にすぎない“赤”のセイバーにはほんの少し、ほんの少しだけ余命があった。
そう──剣を、一度だけ振るうことが出来るような。
少しだけの余命。
「────」
無言のまま、剣士が立つ。
無言のまま、暗殺者がそれを見つめる。
“赤”のセイバーの足ならば、逃げれば逃げ切れるだろう。
あの女に、満身創痍の己を追いかけるだけの力はない。
暗殺だけが取り柄の手弱女。
眼前の女はそういうものだ。
だから──逃げて新たな契約を結べば、目は十分にある。
幸い“赤”の陣営の首魁は手段を問わない。
憎悪を理由に盟を結べと迫れば、駒が増えると微笑み頷くだろう。
「────」
その上で──選んだのは敵対。
剣を構える。ただ一振りに、残された余命の全てを託す。
戦う理由は色々あるだろう。
主を不意討たれた怒り、憎悪、嫌悪。
敵を叩き切り、その屍を踏み躙りたいという黒い悦楽。
或いは戦友を欠いた、損失感、嘆き、後悔。
敵を討ちたいという、報いる心。
感情が氾濫する、激情が狂おしいほど猛る。
混沌とする心の動き、そのうねりがただ一つの結論を出す。
「──ぉ、ぉぉ、ぉぉおおおおおおおおお!!! てめえええええええええええええええええ───ッッッ!!!」
一足で剣士の身体が霞んだ。
次に視認した瞬間には剣は女の首に肉薄していた。
電光石火──その一刀は、この一瞬に
「────ッ」
反応する間もない。反射する暇もない。
そもそも──そんな力、彼女は欠片も持っていない。
英霊シャルロット・コルデー。
アサシンのクラスの英霊らしく、こと戦闘において彼女は無能だ。
身体能力こそ、英霊となったから生前よりは上がっているとはいえ、英霊同士まともに戦闘すれば一息で殺されるような、そのような能力値しかない。
辛うじて幸運だけが取り柄の三流英霊。普通の魔術師であれば、そう評するであろうし、彼女自身も自分がどれだけ弱いのかよく解っている。
だから、こうなることも分かっていた。
相手が激情家だというのであれば尚のこと。
目の前で主を討たれて無感でいるなどありえない。
激高し、襲い掛かってくる英霊は最優のセイバー。
この時点でどう足掻いても勝ち目も生き残る術もありはしない。
そんなもの、シャルロットは持ってないし考える頭もない。
ただ、それでも。
『──他の何者よりも信頼したからこそ君を召喚したのだよ』
そんなサーヴァントに、そう嘯いた魔術師を知っている。
愚かな人、純粋な人。
どう足掻いても、次の
彼は何にも未来に希望を抱いているのに。
彼に未来にたどり着くだけの余命はなかった。
約束された栄光をその目に確かに見据えながら彼にできるのは託すことだけ。
その功績が報われることも、祈りの結末を見ることも出来ずに。
平和を知ることなく、彼は戦の中で燃え尽きる。
……知っている。知っているとも。
その思いは痛いほどに知っている。
理解できるほどに、共感できるほどに。
ならばこそ、信じられる。
他ならぬ自分自身すら信じられなくとも、彼は信じることが出来る。
同じ鋼の意思を纏い、同じ献身の道を辿りながら、
しかして罪ではなく、栄光を掴み取らんとする彼ならば──。
マスターなら、信じられる──!
「────!」
一歩の踏み込み、間合いを詰める。
ただ一足、その一足に全てを懸けた。
何故ならばこれは暗殺、己の領分。
戦闘などという力の拮抗ではない、一方的な暴力の行使。
組み上げるでたらめなプランニング。
真っ向から、この英霊の不意を穿つ。
破綻した目的を行使するために、暗殺者の英霊が凶器を刺す。
──交錯する。
得物の
総じて天秤は剣士に傾く。
運命が決する、結末が収束する。
剣士が暗殺者の首を刎ねる。
その因果はどう足掻いても覆らない。
暗殺者にはそんな力は存在しない。
故に、ただ一言。
『
背中を押す、魔法のような
剣が振られる。
悔恨に濡れた憎悪が、赤雷となって青空を穿つ。
大気を焼く魔力の猛りはしかし、アサシンを捉えてはいなかった。
「────ッ!!!」
──空中を舞うシルクハット。
振り抜かれた剣の下、死を構える女がいた。
「──その憎悪に終止符を、『
刹那で剣士は仕留め損ねた事実を悟る。
斬り返す二度目の斬撃。
だが、応じるが刹那では天使には届かない。
次瞬の斬撃が振るわれるよりも────この一撃の方が、何倍も簡潔だ。
「────あ」
と、剣士が口から吐息を漏らす。
心臓を穿つ、小さなナイフ。
返り血に濡れながら、確かに捉えた死の感触に息を吐く。
「──この勝利は貴方に、マスター。輝ける貴方。どうか、後悔のない人生を。貴方が私を信じてくれたように、私も、貴方の勝利を信じていますよ」
「──見事」
ついに捧げられた最後の令呪。
マスターとして結ばれた契約が消え失せるとともに魔術師は一言、ただ告げた。
翡翠の大樹、神話の領域、黄金の王宮。
貴き世界樹の頂にその魂は君臨している。
「流石は私の英霊。流石は我がサーヴァント。これにて全ての手筈は整った」
ピシリ、と。工房に傷が奔る。
信じがたいほどに膨大な魔力が現実という名の世界を犯し始める。
書き換えられる人の理。
秘匿された神理が、森羅万象という絵図の浸食を始める。
「長かった。長かった。ここまでの道は素晴らしく長かった」
──最初はただ、衝動があった。
欲しかった天稟。満ち溢れた絶景。
やっと得た『特別』を証明するために、挑戦したいと思った。
生と死の果ての先にある未知の結末。
そこに辿り着きたいと願い焦がれて立ち上がった。
「美しいものを沢山、見た。人の世が織りなす綾模様、かつて俺が愛した世界を果て無く歩き回った」
多くの未知があった、多くの物語があった。
そこに自分があるという事実が何よりも輝かしい。
満ち足りていた、何もかもが満ち足りていた。
「約定をした。必ず成すと、胸に誓いを突き立てた。流されるままに生きるのではなく、この世界に生きるのだと責務を背負った」
──お前は誇りだという声を識った。
無味乾燥とした文字ではない。
肩に置かれた手の熱を覚えている。
眩し気に細められた視線を覚えている。
万の言葉よりも雄弁に語る万感の一言を記憶している。
「素晴らしい、夢のような人生だった」
故に自ら幕引くことに躊躇いはないと魔術師は言う。
奇跡のように得た第二の生。
これを使い切ることに後悔はないと春風のような笑みを浮かべる。
「この
『委細承知』
宣誓する魔術師に応えを神意を返す光の化身。
蜃気楼のように定まらない意識の塊が急速に形を獲得していく。
惑星に生じる星の生む重力とは異なる力場。
桁違いの魂が持つ重力が星を軋ませる。
『我が
「──勝利を。運命を覆した先にある、未知の結末を」
問いに返す魔術師に迷いはない。
膨大な意思の奔流、莫大な情報量に押し流されながらもその魂に陰りはない。
木っ端に過ぎない一個人の意思が、あろうことか神理に拮抗する。
世界を隔てて尚、意思を失わぬ至高の魂。
その輝きに、神の器たるものとして不足はなく──。
『──よろしい。ならば次代を成す大神として、その祈りを聞き届けよう』
代償に、有頂天外せし魂。
神降ろしの秘儀に耐えんとするその身は果てに神と成るだろう。
「語るに及ばず、誓いは此処に──」
告げる。最後の
旧き書庫を漁り、現代に呼び覚ませし、巫女の御業。
『「──神格装填、
──“光あれ”と神はおっしゃられた。
斯くして世界に“光”は満ち溢れた。
停滞した日曜日。休まれた神は此処に再び目を覚ます。
全ては黄昏の果てに消えた懐かしき風景を蘇らせるために。
次代を担うと神話に謳われた最後の神は礎の旗を立てる。
「人理よ、聞け! 我が名は
魔術師アルドルの肉体を纏って神が降誕する。
宣誓とともに錨のように突き立てられる
刹那、突き立てられた槍の先から溢れ出す、黄金の魔力光。
──古き神話よ、甦れ。
──春の季節よ、今に目覚めよ。
──“光あれ”と神が命ずる。
始まる創世神話。ただ一人のために謳われる最新の
「幕切れは派手に、鮮烈に──さあ、往こうか
斯くして冬の冷気は過ぎ去り──実り豊かな春が訪れる