千年樹に栄光を   作:アグナ

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その足跡(ひかり)は極光へ

【観測対象/変更】

【編纂連続体復帰/観測再開/二十一世紀】

【ルーマニア/神天地トゥリファス/書斎】

 

 ──では、その後の話(エピローグ)を始めよう。

 

 

 

 

 単なる記録として、戒めとして、或いは己が決して忘れられぬ出来事(体験談)として。

 俺ことカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは此処に書き残す。

 ルーマニアで起こった聖杯大戦。

 ユグドミレニアが神秘世界において魔術協会、聖堂教会に並ぶ第三勢力とまで成り上がった衝撃の事件と、その末路についての全てを、此処に。

 

 先ず聖杯大戦について。今や誰もが知る通り、聖杯戦争──冬木の御三家が創り上げた膨大な魔力で以て万能を映し込む杯とこれを巡って英霊と魔術師が組んで争う構造(システム)、これを高祖ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが冬木の地より略奪したことに全ての端を発する。

 

 自身が受けた屈辱を晴らし、ユグドミレニアを再興する──そのような思惑の下、ダーニックは長い時を掛けて冬木の地より略奪した聖杯を此処ルーマニアの地に馴染ませ、自身らが主導のもと新たに聖杯大戦の儀を構築した。

 

 時計塔への反旗と共に掲げた“黒”の旗本に集ったのはユグドミレニアを代表する七人の魔術師。

 

 百年近くの時を生き、執念で以てユグドミレニアを拡げ、この儀を主宰するに至った魔術師ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。

 

 俺の姉であり、フォルヴェッジ家が誇る天才。フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 

 ホムンクルスによる魔力供給システムを構築し、ユグドミレニアのマスターたちに大きく貢献したムジーク家の当主、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。

 

 黒魔術師として優れた才を示し、その才能と魔術の冴えを認められ、マスターとして選ばれたアイスコル家の秀才、セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。

 

 年若いながらもゴーレムについての際立った研究成果を示したことでその有用性を認められ、弱冠十三歳ながらも代表として選ばれたロシェ・フレイン・ユグドミレニア。

 

 何の間違いか、たまたま令呪が宿ったことで選ばれた、俺改め、カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 

 そして──誰もが知るユグドミレニアに生まれた規格外の大天才、この聖杯大戦における勝者にして、ユグドミレニア中興の祖……今は亡き、アルドル・プレストーン・ユグドミレニア。

 

 以上七人が“黒”の陣営として旗揚げしたユグドミレニアの総力であり、時計塔が“赤”の陣営に対する対抗馬であった。

 

 今にして振り返れば、この戦いは終始ユグドミレニアが圧倒していたといえる。

 ……後から見て召喚した英霊の質を見れば優位であったのは“赤”だ。

 “赤”のセイバー――かの円卓の反逆者モードレッド。

 “赤”のランサー――神々の王インドラすら認めた聖者カルナ。

 “赤”のアーチャー――ギリシャ神話が誇る美貌の狩人アタランテ。

 “赤”のライダー――世界的な大英雄アキレウス。

 “赤”のキャスター――多くの名作を残した大劇作家シェイクスピア。

 “赤”のアサシン――世界最古の暗殺者、女帝セミラミス。

 “赤”のバーサーカー――帝国(ローマ)への反逆者、スパルタクス。

 

 決して“黒”に集った英霊たちが弱いとは言わない。けれど“赤”に集った英霊たちは何処を見ても誰もが知るような偉大な大英雄や古き時代の先駆者たち。流石は天下の時計塔が本気になって潰しに来ただけはあって、質の桁は“黒”のそれとは比較にならなかった。

 いやまあ、実際の所この目で見たのは半分くらいで“赤”のアサシンに関しては本当に終わった後での事後報告だ。

 

 だけどこうして、記録として一つの歴史として振り返ってみると時計塔の戦力は圧倒的だった。英霊は上記の通りに、マスターたちも一騎当千。結果的には聖堂教会が意図せず潜り込ませた謀略家(スパイ)のせいで実力を発揮できずに台無しになったものの、総力だけを見比べれば、たぶん百回やってうち九十九回勝つのは“赤”の陣営だったはずだ。つまるところ、万が一ほどしかウチに勝ち目はなかった。

 

 それでもウチが勝ったのは、ひとえに例外がいたからだ。まともにやれば万が一であった確率を、確実に叩き落としてしまうような規格外がいたからだ。

 そう──他ならぬ義兄さん、アルドル・プレストーン・ユグドミレニアがいたからこそユグドミレニアは聖杯大戦に勝利できたのだ。

 

 聖杯戦争のスケールに終始圧倒されっぱなしだった俺とは違い、義兄さんは早くからこの聖杯大戦に向けて着々と動いていた。

 当時から世界中で開催されていた亜種聖杯戦争に多く参加したことは勿論のこと、危険を冒しての聖遺物収集、魔術研究のためのフィールドワーク、さらには後に知ったことだが、独自に時計塔や聖堂教会への交渉(アプローチ)も重ねていたらしい。

 

 こうして振り返ってみると、その温度差に眩暈を覚える。

 ダーニックの宣戦布告の下、消極的に集まった他家(命令で集まった俺たち)とは違い、ダーニックに迫る勢い、いやダーニックすらも上回る熱量でこの戦いに備えていたのが分かる。

 

 故に戦いのイニシアチブを常に握り続けた立ち振る舞いは当然のことだったと言えるのかもしれない。なにせ、ただでさえ、ずば抜けた天才が誰よりも熱を上げて準備を重ね、備えてきていたのだ、そりゃあ誰も勝てっこない。

 まして命すら燃やし尽くす勢いだったのならば尚の事。本当の意味で聖杯大戦に命を捧げて来た男の勢いは誰にも止められなかった。

 

 ……身内である、俺たちですら。

 

 義兄さんは手始めとばかり大規模な陣営同士の激突が始まる以前に、召喚した“黒”のアサシンで以て敵陣を強襲、最初の一手目でいきなり“赤”のアサシンを脱落させて見せた。

 情報漏洩が少ない状態でのアサシンの初動運用としてはセオリーと言えるけどそれにしたって大胆不敵にも程がある。

 魔術師にとって神秘の秘匿は常識だ。

 だからこそ魔術師の多くは神秘を手繰る場合人目を避けられる夜を選ぶ。

 

 だというのに義兄ときたら真昼間っから堂々と暗殺に走ったというんだから正に常識外だ。時計塔も聖堂教会も出し抜いてサーヴァントであることを隠し続けた“赤”の陣営の神父すら気づけなかったんだからきっと誰であっても気づけない。

 それほどまでに義兄さんの不意打ちは完璧に決まっていた。

 相手の“赤”のアサシンが神代の魔術の心得もあるセミラミスでなかったのなら、この時点で勝負は決まっていたといえる。

 

 なんせこの時点で“赤”の陣営のマスターたちは謀略を企む“赤”のアサシンのマスターである神父、シロウ・コトミネの手によって正気を奪われてたらしいのだから。正気を失った主たちに指揮系統を失った陣営ともなればそれだけで勝負は決まっていただろう。

 何を成すこともなく“赤”の陣営は義兄さんの手によって戦う前に滅び去っていたに違いない。

 

 改めてその手腕に戦慄する。綿密に隠していたであろう陣営の拠点を割り出した探査技量もそうだが、初手で急所を的確に狙って見せた判断も驚異的だ。

 あの時点で誰も“赤”の陣営が神父の手に堕ちていたなんて知らなかったのに、義兄さんだけが急所に気づいて狙って見せたのだ。

 

 一体どこまで義兄さんはこの戦いが視えていたのだろう、主神曰く『あいつは千里眼や未来視の類()持ってないよ』とのことだから、たぶん異能の類ではないのだろうけどだとしたらそれはそれでヤバいと思う。

 ともあれ、いきなり出鼻を挫かれた“赤”の陣営だが、それでも奴らは生き残ったシロウ・コトミネ指揮の下、立て直して見せた。

 そこは流石の時計塔の勢力というべきだろうか。立て直した彼らは俺たち“黒”の陣営に改めて激突を挑み、結果としてあちらは“赤”のバーサーカーを失う代償に、“黒”のライダーを落とした上、こちらの拠点に少なからず打撃を与えた。

 

 また、この戦いで俺たち“黒”の陣営は優秀な魔術師の一人であり、マスターであるセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアを失っている。

 戦後改めて伝えられた彼女の死亡の報告はアイスコルの家人たちには衝撃的な出来事だっただろう。実際、彼女の死亡を伝えられた老婆たちが卒倒したぐらいだ。

 アイスコル家にとってはようやく生まれた若き才能、それが失われた衝撃と絶望は相当なものだっただろう。

 

 義兄さんの暗躍の下、優位を築いた“黒”の陣営は最初の激突で以て振り出しに戻されたといえる。英霊を一騎欠き、数的にも拮抗する形で移行した中盤戦。

 天秤を揺り動かしたのはやはり義兄さん。

 義兄さんはダーニック許可の下、ゴルドを主として戴く“黒”のセイバーを動かして、“赤”の陣営と……その戦に生じて召喚された第三者、調停者のサーヴァントであるルーラーに仕掛けた。

 

 北欧神代より続く大いなる神秘──神の力の一端と、己が構築した魔術成果を用いて。

 今やトゥリファスを覆う大魔術『九つ廻る千年神樹(ナインヘイムユグドミレニア)』。これを使って彼らへと強襲を仕掛けたのだ。

 

 結果的に手札を見せるだけで“赤”の陣営こそ落とせなかったものの、この中盤戦で義兄さんはルーラー──かの聖女ジャンヌ・ダルクの消滅を成し遂げる。

 何故、中立の立場である彼女にも態々自ら戦いを仕掛け、消滅させるに至ったのかについては今も正確な所は不明だ。

 

 横やりを嫌っただとか、彼女の持つ全英霊に対する令呪特権が散逸するのを恐れただとかいろいろ言われてたけど真実は誰も知らない。

 唯一知ってそうな主神は今も口を閉ざしているから、今後も誰が知ることもないだろう。ともかく、この戦いで以て“黒”と“赤”の戦いは正真正銘の一対一、誰も介入することのできない真の大戦となったといえる。

 

 そして決着を付けるべく始まった決戦。終局を彩る戦いは正に常識外の神秘渦巻く聖杯大戦に相応しい戦いになった。

 互いに情報も戦力も出そろった状態での総力戦は凄まじいものになった。宝具の打ち合い、百戦錬磨の英霊たちによる凄まじい凌ぎあいは、今もこの網膜に刻まれている。

 その中でも、やはり際立っていたのは義兄さんだろう。

 今まで隠してきたその全力、神々をその身に降ろし、神話を現代に構築して見せた技量は凄まじく、明らかになったその戦力は英霊に比肩、ともすれば凌駕すらして見せた。

 

 実際、この戦いで義兄さんは単独で“赤”のランサーを落としていた。今も若干理解を拒む出来事だが、あの大英雄カルナを義兄さんは英霊の力も借りず単独で滅ぼしているのだ。

 ある機会に先生──亜種聖杯戦争の生存者(サバイバー)でもあるロード・エルメロイⅡ世に話したところ、驚きのあまりか、呆然とする猫のような表情になっていた。あのライネスですらドン引きしていたんだから時計塔から見ても義兄さんの活躍ぶりは驚異的なものなのだろう。

 

 そして義兄さんは勢いそのままに聖杯へと肉薄し、ユグドミレニアの中心的人物であったダーニックを殺害した敵の首魁、シロウ・コトミネに戦いを挑み、勝利し、ユグドミレニアの勝利を決定づけた。

 

 個人としての活躍もさるものながらアサシンの特性を生かし切った英霊運用、味方の陣営にすら気取られぬ暗躍、徹底して無駄のない勝利への一手一手の指し手。

 事実上、単独で“赤”の陣営に勝ったような戦いぶりは、正にユグドミレニア最強の魔術師と呼ぶに相応しい活躍ぶりだったといえる。

 

 ──だからこそ、その代償も凄まじかった。

 義兄さんはユグドミレニアのその後の栄光を見ることなくこの世を去ってしまった。

 

 当人からも、そして主神からも改めて聞かされたことだが、そもそも義兄さんは聖杯大戦が始まる以前から死に体だったらしい。

 南米亜種聖杯戦争──今も時計塔において禁忌(タブー)とされる、この激戦に参加した義兄さんは此処で肉体と魂の両方に致命的な損傷を受けていたという。

 義兄さんはこの時点で自身の生存を放棄、そして危機を逆に利用し、死せるオーディンと始まる次代の歴史という神話を再現する発想に至り、聖杯大戦に臨んでいた。

 

 つまり、あの人は初めから決定した自身の死をも利用して、ユグドミレニアを勝たせるべく聖杯大戦に参戦していたのだ。

 それだけの覚悟があればこその活躍と知れば、納得しかない。

 あの人は、本当に、命を懸けて臨んていたのだ。

 

 ……聖杯を利用して生存を願うことも出来ただろうに義兄さんはそれを選ばなかった。こだわったのはあくまでユグドミレニアの栄光。

 正しく神話をなぞる様に、義兄さんという生贄のお陰で今のユグドミレニアの繁栄がある。

 

 ──“赤”の陣営に勝利し、聖杯大戦を征したユグドミレニアは大きく変わった。

 

 先ず聖杯は義兄さんの構築した『九つ廻る千年神樹(ナインヘイムユグドミレニア)』を願いの通り、その膨大な魔力で以てトゥリファスの地に定着させた。

 現在もユグドミレニアの主神として君臨する北欧神話の光の神バルドルの依り代としてもある世界樹再現のこの大樹はミレニア城塞の跡地に生え誇り、ユグドミレニア一族に恩恵を与え続けている。

 

 一族たるものに施す恩恵は二つ、生来の技量をも凌ぐ圧倒的な魔力生成と原初のルーンを基盤とした神代魔術の基盤。

 現代魔術師から見れば垂涎モノの恩恵をただユグドミレニア一族であることだけで受け取ることが出来るという衝撃は瞬く間に神秘社会に伝播し、今までの時計塔一強姿勢を一瞬のうちに打ち崩した。

 

 これまで時計塔の政戦に敗北して下野した零落一族と見下していた魔術師連中も手のひらを返すようにこびへつらい、一族の傘に借りようと集まってきたし、純粋に魔術研鑽に熱を上げて来た者たちも、その恩恵のデカさからユグドミレニアの旗下に集まってきた。

 

 これを面白く思わないのは当然の如く時計塔だ。特に時計塔の貴族派であるユリフィスや時計塔院長を務める一族バルトメロイの憤りは凄まじいもので、危うく時計塔総力とユグドミレニア一族という構図での全面戦争が起きかけたほどだった。

 けれど、そこも流石の義兄さんというべきか。そういう展開を見越して、布石を打っていた。憤る時計塔がそれでも戦争の一手を指さなかったのは離間の計があったから。

 

 ロード・メルアステア並びにロード・トランベリオを中心としたユグドミレニア容認論。時計党内における三大派閥、中立派の代表格と民主主義派の代表格のこの動きによって混乱した時計塔は戦争へと踏み切るに至らなかったのだ。

 

 特にロード・メルアステアことカルマグリフ・メルアステア・ドリュークの動きは迅速なもので彼はユグドミレニアの状況を予め知っていたかのように、ユグドミレニアに寛容な魔術師をまとめ上げると次いで創造科(バリュエ)の君主、ロード・バリュエレータを通じ、ロード・トランベリオと交渉。

 

 何らかの裏取引を持ち掛け、それで以て民主主義派をユグドミレニア容認へと傾かせたのだ。後に時計塔との和平協定に際し、出席したカルマグリフは「この選択こそが魔術師としての本義」と語ったそうだが、その真意は不明だ。

 けれど先生曰く「アレは供養の類だろう」とのこと。

 

 時計塔の君主(ロード)、ロード・メルアステアから見ても義兄さんの才能は惜しいものだったのだろう。特に時計塔時代の義兄さんとロード・メルアステアはかなり親しい関係にあったと聞いているし、万が一ユグドミレニアが敗北した際にはメルアステアが義兄さんの亡命先として名乗りを上げていた、みたいな話も聞く。

 

 抜かりない根回しという面もあるにはきっとあるのだろうが、政略を越えた魔術師としての繋がりが義兄さんとロード・メルアステアにはあったということだろう。

 

 抜かりはないと言えば聖堂教会の件もそうだ。当初彼らは硬直した秩序に名乗りを上げたユグドミレニアに相当な警戒を向けていたというが、とある枢機卿の一声で一様に見に回ったと聞く。

 何らかの力が働いていたのは明白だが、彼らが何故その様に動いたのかは今でも不明のままだ。

 

 ただ交渉役と名乗ってユグドミレニアに姿を現したマーリオゥなる司祭の少年曰く「ユグドミレニアには借りがある」とのこと。

 苦虫を何十匹も噛んだようなあの表情を見るに、やはりこちらも義兄さんが何かを仕掛けていたのだろう。

 叶うならば数十倍の貸しがあるのでぶち殺してやりたいが数百倍の借りが出来てしまったので助けざるを得ないと言わんばかりの表情は十代の少年のような容姿に反して凄まじい威圧感だった。

 

 ……ちなみに、これは余談であるが、これら時計塔と聖堂教会との和平協定に当たっては交渉役として立ったのは「生き残り」の中でも唯一大人と言える立場にあったゴルド・ムジークである。彼は後にこれらの交渉ごとに際し、「寿命が五十年は縮んだ」「百回ぐらい死んだと思った」「聖杯大戦の方が平和だった」との言葉を残し、ユグドミレニアにおいて『不死身のゴルド』の異名を得るに至った。閑話休題。

 

 「生き残り」と言えば、ユグドミレニア地位向上に伴って俺たちも立場が変わった。

 

 先ず全ての始まりであるダーニック・プレストーン・ユグドミレニアはその死後において高祖と呼ばれ、讃えられるようになったし、中興の祖である義兄さんに至ってはユグドミレニア一族の英雄として今も語り継がれている。

 一部熱心な義兄主義者に至っては、彼の名と功績を神話にして語り継ぐなんて動きもあるらしい。果たして知る人ぞ知るに過ぎない神秘社会の人物が歴史の大人物のように後世まで長く名を語られるかは不明だが、義兄さんのすさまじさを知る身としては否定できないのが怖いところだ。

 百年後か二百年後か、何かの間違いで義兄さんが英霊として召喚される、そんな未来もあるのかもしれない。

 

 そして死して功績を遺した二人に対し、生き残ってユグドミレニアを運営する俺たちもまた「生還者(サバイバー)」としてこれまでとは違う目で見られるようになった。

 例えば既に挙げた通り、ゴルドなどはユグドミレニアの顧問的立場としてあらゆる交渉ごとに顔を出す交渉役(ネゴシエーター)としてその地位を確立させた。

 内外問わず、色んな折衝ごとに顔を出しては丸く収めるその手腕から、今までの彼を侮る声は一変し、頼れる幹部として称賛する声が多くある。

 

 当の本人はそういった賞賛を聞くたびに胃を痛めたような表情をしているが、ダーニックや義兄さんが亡くなった以上、彼らに代わる中心人物的な人材はゴルドしかいないのでこれからもどうか頑張ってほしい。

 

 ……まあ、かくいう俺も人の事ばかりは言えないのだけれど。何せ何がどう間違ったのか今やユグドミレニアの当主は俺だ。

 

 本来であればダーニック、義兄さんに続く人材として当主には姉ちゃん──フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアが選ばれてしかるべきだった。

 けれど、聖杯大戦で姉ちゃんは傷心した。表面上はどれほど大丈夫なように振舞っていても相当に無理しているのが見え見えだった。

 だから俺は俺自ら宣言したのだ。姉ちゃんに代わって、俺がユグドミレニアを支えていくと。元々俺は姉ちゃんの代替品だ。ならそれらしく、姉ちゃんの代わりに勤め上げて見せると啖呵を切った。なので今は時計塔への人質という名目で先生ことロード・エルメロイⅡ世の下で学びつつ、ゴルドを頼りながらも俺がユグドミレニアを運営している。

 

 姉ちゃんはあんな性格だから最後の最後まで迷っていたけれど。結果は今が示す通り。今は俺が一応は当主代行という名目の下、実質的な当主としてユグドミレニアを率いている。

 俺に当主の権利を代えた姉ちゃんと言えば、今は世界中を回る旅をしている最中だ。義兄さんの足跡を追ってみたい、とそう言って姉ちゃんは世界へと羽ばたいた。今もきっと義兄さんが訪れた国で義兄さんの痕跡を辿っていることだろう。

 

 これまた余談になるが、身内としての最後の慈悲か義兄さんは聖杯を使用するに際して、姉ちゃんの足を治していった。

 後で主神に確認したところ「元々参加者の願いは可能な限り叶えていく」という方針だったらしく、『九つ廻る千年神樹(ナインヘイムユグドミレニア)』の機能、魔術刻印を利用した後天的改良によって、姉ちゃんの変質した魔術回路も正常な状態へと正され、足の機能を回復するに至っている。

 

 今では登山だろうと何だろうと余裕でこなせるようになった。自ら掴み取った自由でないからと、姉ちゃんは悲しそうにしていたが、それでも往年の苦悩を知ってる身としては身内の健康は喜ばしい。血のつながりがあるならば尚の事。

 

 変わっていく俺たちユグドミレニアに対して、変わらないものもある。

 一番はやはりロシェだろう。

 これだけ色んなものが変わっていっているのに、あくまで魔術探求に熱を燃やすアイツは変わらなかった。そのおかげか、義兄さんが生前にアイツに与えたというガラテアの設計図から、アイツはガラテアのゴーレムを構築するという義兄さんに並ぶとも劣らない魔術成果を上げることに成功している。

 

 ……まあ余りにも再現度が高すぎたせいか、件のゴーレムを依り代に本物の英霊ガラテアが召喚されてしまう大変な事件が起こってしまったが、それはこの場では置いておこう。あの時は先生にも迷惑をかけてしまったので正直、申し訳ない。

 

 とにもかくにもこれが俺たち、ユグドミレニアが辿った顛末である。

 ……多くのモノを得る過程で、同じぐらい多くのモノを失った。

 

 千年の栄光を──なんて義兄さんは神様にお願いしたらしいけど、実際の所、俺たちが本当にそんなにも続くのか、それは誰にもわからない。

 けれど、託されたからにはその重みを噛み締め、可能な限り次へと繋いでいくのが後世を生きる俺たちの責務だ。

 

 立場不相応な三流魔術師に過ぎない俺に何処まで務まるかは分からないけど、あの戦いを見て来たものとして、そして責任を自ら背負ったものとして、次にバトンを渡せるまで俺はユグドミレニアを支えていく。

 

 それが──義兄さんと交わした最後の約束でもあるから。

 

 

 

「──ふぅ」

 

 一通り書き終え、カウレスは背もたれに身を預けながら眼鏡越しに目元を押さえる。長時間PCモニターに向き合っていた分、相応に眼精疲労が蓄積している。

 筆記に比べれば電子媒体での記録は断然簡易的になったものの、その弊害として長時間使用すればするほどに視力が削られていくというデメリットが発生している。

 

 元々早い段階からPCを導入しているカウレスにとっては慣れ親しんだ問題だが、現代では視力減少やブルーライトによる不眠効果など現代病が騒がれており、また電子情報体の安易な使用は記憶力にも影響を及ぼすとされ、学習現場では寧ろ筆記に回帰する動きが目立っているとも聞く。

 

「……道具なんだから、何事も使い方次第だと思うけど」

 

 何かにつけて悪役にされがちな長年の相棒(PC)を見ながら、ため息を吐く。

 結局人間なんてものは足るを知らぬ生き物なのだろう。

 利便性を追求して生まれた道具にケチをつけ、それ以上を求める。

 物の歴史に限らず、人の歴史はそんなもの。

 

 当家(うち)だって「ユグドミレニアこそが魔術世界の支配者に相応しい」なんて過激層が吹き上がる始末。数が増えるにつれて多く溢れる思想の相違に頭を悩ませる日々が続いている。

 

「義兄さんなら上手くやれた、なんて泣き言だな」

 

 口に出して苦笑する。義兄さんの存在は大きかった分、彼の不在はまるで胸の真ん中がポッカリ空いてしまったよう。

 あの戦いから、かれこれ十年は経つというのに。

 

「ま、俺ですらこの始末なんだから姉ちゃんについては推して知るべし」

 

 ただでさえ、あんな別れ方だったのだ。

 十年二十年どころか一生引きずっていてもおかしくない。

 ……正直に言うならばそこら辺についてはあの義兄さんを一発殴ってやりたいと弟として思わなくもない。

 

「過ぎた話をしても仕方ないか……」

 

 言って伸びをする。一通りの作業を終え、そろそろ休息の一つも取りたいところだが、残念ながら当主としての仕事がまだまだ山積みだ。

 ゴルドに仕事の大半を肩代わりしてもらっているとはいえ、当主は己。代われぬ仕事というものもある。

 

「さて──ん?」

 

 憂鬱な気分でカウレスは一呼吸を入れた後、書斎の椅子から腰を上げ──切る前にピロンと軽快な音が響く。

 PCのデスクトップに表示される通知。クリックして見てみれば、それはSNSを通じたメッセージであった。

 

 差出人は──。

 

 

アイツ(・・・)か。……結局、言って聞かせることは出来なかったか。でもまあ仕方ないか、なんせアイツは義兄さんの──」

 

 

………

………………。

 

 

 ミレニア城塞跡地──地下神殿への回廊。

 それはユグドミレニアにおいても「生還者(サバイバー)」などの極少数が知るユグドミレニアの秘奥へと至る道である。

 

 その道を──一人の女性が歩いていく。

 身目麗しい女性であった。

 

 背中の中ほどまで伸ばした狼を思わせる灰色の長髪。若年者特有の未熟さが残るものの、程よくパーツの整った端正な顔立ちに豊満な肉体は既にしっかりとした女性らしさを漂わせており、それでいて意思の強さが垣間見える金色の瞳が若者らしい勝気な印象を残す。

 白いシャツの上から羽織った黒いコートを風に靡かせ、ブーツを鳴らして歩む様は何処かのモデルを連想させた。

 

 彼女の名はレミナ・エルトフロム・ユグドミレニア。

 

 聖杯大戦当時は若すぎたがため、戦いに参ずることを止められたものの、ユグドミレニアが誇る次代の若き俊英である。

 魔術的な技量はまだ未熟の域にあるものの、ユグドミレニア一族内においては資質とは別の部分で一目置かれた人物である。

 

「──調子よし、準備よし、予習も完璧、ついでに私は今日も美人。うん……これならきっと大丈夫!」

 

 鼻歌でも歌い出しそうな調子でレミナは歩く。

 片手には旅行向けのスーツケースをカラカラ引き、もう片手には古びた本を大事そうに抱えている。『TYPE-MOON material』と達筆な字で書かれたその本はレミナにとって師にして兄にあたる人物──今は亡きユグドミレニアの英雄、アルドル・プレストーン・ユグドミレニアによって与えられたもの。

 魔術の基礎的な内容から始まり、魔術協会や聖堂教会などの各組織に関する詳細や魔法についての考察、英霊の性格や能力、宝具・特性などの話題、果ては吸血種に惑星種(アルテミット・ワン)に係る概要など、見るものが見れば卒倒するような記述が余さず記された書物である。

 

 ──後に偶発的にその存在を知った魔法使いキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグをして「やりすぎだ馬鹿者め」と言わしめる書物は今のところレミナだけが知る宝物として秘蔵されていた。

 

「……見ててね、アルドル兄。私も勝って証明して見せるわ。此処にユグドミレニアの次代ありってね」

 

 師の形見であり、お守り代わりの本を抱きしめ、呟く。

 

 レミナがユグドミレニア一族内でも一目置かれる理由はそれだった。ユグドミレニア一族最高峰の魔術師アルドル・プレストーン・ユグドミレニアの秘蔵っ子。

 それがレミナの立場である。

 

 聖杯大戦にてアルドルがその命を散らす以前、折を見て幾度となくレミナはアルドルよりその知識と魔術の伝導を授かっていた。物語調で教え語られるアルドルの言葉にレミナは目を輝かせながら教え聞かされていたことを今もずっと覚えている。

 

 そしてこう思った──いつか自分もアルドルのように、アルドルの語る英雄たち(かれら)のようになるのだ、と。

 

 幼心に何処か託すような語り部は彼女の責任感と義務感を育ませ、成長させる水となり、土となった。だから慕っていたアルドルの死を知った時もレミナは悲しむより先に奮い立った。次は自分の番なのだ、と。

 

 そうして現在──大学一年生になったレミナはこの度、その成長を示す機会に恵まれた。北欧で行われるという新たなる聖杯戦争、亜種二連聖杯戦争の参加者に選ばれるという形で。

 

「──よし」

 

 改めて決意を胸に、一呼吸。

 ぎゅっと握りこんだ拳を胸元に一息入れたのち、レミナは回廊の最奥部、秘奥へと繋がる門へと手を掛けた。

 

「──レミナ・エルトフロム・ユグドミレニアが参りました。北欧の理想、光の神、我らがユグドミレニアに君臨する偉大なる主神。この度は御身が祖国、北欧地域への出立前の拝謁にお伺いしました」

 

『うん、堅い堅い。カウレス君にもたびたび言ってるけど、ボクはフランクで全然問題ないぜ。寧ろそういうの苦手だし』

 

 扉を開けるなり仰々しい様で礼を取るレミナに困ったような声が返ってくる。

 レミナが下げた頭を上げると、眼前には黄金といった印象を抱かせる青年の姿。

 人型なれど人間離れした魔力と美貌と圧迫感を纏うこの青年こそユグドミレニア勝利の証にして、栄光の誓約者。

 

 アルドル・プレストーン・ユグドミレニアがその身を賭して、この世に現した神霊、北欧神話に名高き光神バルドルである。

 声音の通り、困ったような態度で頬掻く彼にしかしレミナは毅然と返す。

 

「そうは申されましてもバルドル様こそ我らが主神にして我らが一族の王にございます。寵愛を賜る身として相応の態度を取るのは当然のことです」

 

『んー、単にビビってるカウレス君とはまた違った礼の払い方。アイツ……アルドルほどのは置いておいてももー少し軽い方がボクとしてはやりやすいんだけど……』

 

「それこそまさか。神々の友人足り得る我が尊敬すべき兄上、アルドル・プレストーン・ユグドミレニアに比べればまだまだ未熟な身の上。ならばあくまで臣下として振舞うが相応であると存じます」

 

『……おーい、アルドルー、君たぶん育て方間違ってるよー?

 

「? 申し訳ございません。何かおっしゃったでしょうか?」

 

『いや全然?」

 

「聞き間違いでしたか……失礼いたしました」

 

『いやいや』

 

 何やら呟くバルドルに小首を傾げるレミナ嬢。

 魔術師としての技量はともかく人格面に若干天然気質のあったかつての相棒を思い、バルドルはそっとため息を吐いた。

 

『まあいいさ。それよか挨拶だろ? 話はカウレス君から聞いているよ。なんでも君、北欧──ノルウェーの首都オスロで行われる亜種二連聖杯戦争に参加するんだろ?』

 

「はい。ユグドミレニアの名を背負うものとして、これに挑むは当然の義務ですから」

 

 亜種二連聖杯戦争──それは聖杯大戦後により広く伝播され、開催されるようになった亜種聖杯戦争の一種。サーヴァントを二騎一組として運用し、最後の一組になるまで戦う今までにない極めて変則的な聖杯戦争である。

 

 変わったところはそれだけではなく、この亜種二連聖杯戦争は一般に広く伝わる聖杯戦争のそれとは異なり、魔術師(マスター)は殺し合いの対象にならず、あくまでサーヴァントを指示する指揮官という立場のみで、全てのサーヴァントはこれを攻撃対象にはできない。

 また戦争の主催は時計塔に属する北欧系の魔術家系が複数手を組んだ結社的な体を取っており、さらには当事者である魔術師(マスター)とサーヴァント以外にもその戦いぶりを観覧する観客まで存在する始末。

 

 戦争というよりはかつてローマで開催されていたという剣闘士たちによる闘争のような見世物(ショー)の類。それがレミナがこれから臨む亜種二連聖杯戦争である。

 

『世俗に疎い身だけど、かなり変わってるのは分かるぜそれ。殺し合いじゃない聖杯戦争なんてアイツを見てきた身としては何とも不思議な気分だ』

 

「そうですね。神秘を根源へ挑む動力とする魔術師的な視点からも些か俗物的すぎる催しだと思います。実際、時計塔ではそういう声もあるとカウレス兄から聞きましたし」

 

『だろうねー』

 

 英霊とはそも容易く届かぬ神秘の具現だ。それを持ち出してやることが観客を呼び込んでの戦争ごっこ(ショービジネス)ともなれば、顔を顰める者が少なくないのは当然だろう。聖杯戦争の歴史に喧嘩を売っているにも程があるし、何より今まで根源を求め、その身を代えてでも聖杯に祈った者たちへ失礼が過ぎる。

 

『でも、挑むんだろ?』

 

「はい、それがユグドミレニアとしての当然の選択ですから」

 

 光神バルドルの問いにレミナは然りと頷く。

 ──聖杯戦争と言えばユグドミレニア。聖杯を以て大成して以降、ユグドミレニアは神秘社会においてそう言われるようになった。

 聖杯によって魔術協会に比肩する組織になったこともそうだが、大きいのはやはり“赤”の陣営という時計塔の戦力を一蹴した方の話だ。

 

 聖杯戦争で時計塔を打ち負かしたという事実は、聖杯よりも大きくユグドミレニアのブランド価値に貢献し、今でも聖杯戦争にユグドミレニアの名があればそれが最有力候補と恐れられるほどに聖杯戦争の家系であると認識されている。

 

 そんな立場もあってレミナに掛かったであろう誘いの声。これから逃げるのは家名を貶めることになる。それは出来ないし、許せることではない。

 

『ふーん。じゃあ、参加するのはただの義務感? どんな形であれ聖杯戦争だ。願いをかなえられる機会は貰える筈だけど、あくまで君が望むのは勝利したという事実だけだと?』

 

「はい。恥ずかしい話ですけど、参加を表明するに至っても、私個人は聖杯に託す願いを未だに見つけられていませんし」

 

『そうなんだ』

 

「でも……」

 

『うん?』

 

 ──レミナに聖杯に託す願いはない。

 けれど、家名以外に聖杯戦争に臨む理由はある。

 

「私は──勝ってみたいんです。聖杯戦争に参加して、ただ勝ってみたい。アルドル兄がそうであったように。一人の魔術師として、ユグドミレニア一族が誇る一人として、私は、私たることを証明したいんです」

 

『──そっか』

 

 バルドルを見上げるレミナの視線を受けてバルドルは優しく微笑んだ。

 それで光神は何故かつての相棒が彼女を贔屓していたのか、なんとなく悟った。

 

『そういうことならボクとしては気持ちよく送り出すしかないねぇ。ま、どっちにしろボクに君を止める権利もないんだけどね。でも大丈夫かい? ユグドミレニアはこの地に依存している。外に出れば君とて精々が優秀な魔術師程度に収まってしまうだろうけど?』

 

「そこは立ち回りでカバーします。幸いアルドル兄に聖杯戦争に関してはよく言い聞かされていますから。英霊との信頼関係、運用法、気を付ける要点はしっかりと頭に入っています。それに英霊に関してもアルドル兄から聞いている限りの英霊については容姿も能力も宝具もきちんと暗記してますので」

 

『──……おおぅ、それはそれは』

 

 勉強熱心なのは良いことだが、アルドルの齎す状況の網羅というのは別の意味でヤバいのではないだろうか。

 光神はふとそう思ったが、最終的に気にしないことを選ぶ。悩むのは人間たちや抑止力の仕事であって今の自分は見守り、彼らを庇護するのみ。

 

 とりあえず抑止力が本腰入れてブチ切れるまでは静観でいいだろうと余計な言葉を飲み込んだ。

 

『まいいさ。そういうことなら精々頑張ってみたまえよ。五月蠅く言うゴルド君はカウレス君と一緒にこっちで宥めておくから君は君の往きたい道を行くと良い』

 

「──はい。今度会う時は必ずや勝利の凱旋とともに」

 

 そう言ってレミナは不敵な笑みを浮かべながら、光の神に頭を下げてその場を後にする。──帰り際の道中、レミナは緊張が解ける脱力感と共に確かな手ごたえを感じていた。

 

「よし、良し! 言ってやったわ! 宣言してやったわ! これで私もアルドル兄と同じ土台に立った!」

 

 令呪の宿った手を空に翳し、レミナは吼える。

 数多の死線を潜り抜けた尊敬すべき背中に比べたら安い戦場、それも九度の戦を越えた彼と比べ、自分はまだ初戦も初戦、ようやく初陣に立った未熟者に過ぎない。

 

 けれど、それでも。それでも自分は聖杯戦争に参加するのだ。

 アルドル兄と、尊敬する師にして兄たる彼と同じ舞台に立ったのだ。

 

「……ッ!」

 

 身体が震える。恐れではなく武者震い。

 此処から己は始まる。魔術師レミナ・エルトフロム・ユグドミレニアとしての戦いが開幕する。誰のためでもなく己と己が信じる者のため、ただユグドミレニアの栄光を証明すべく、遂に彼と同じ地平に立ったのだ。

 

「──必ずそこ(・・)に追いついてみせます、アルドル兄! 千年樹に栄光を!」

 

 ……失われたものは多くあった。

 ……取り戻しがつかない損失も多くあった。

 

 それでも──新たに生まれ、続くものが確かにある。

 かの足跡に続くべく、次代の光は旗を上げる。

 その身は未熟なれど先代よりの教えは確かに受け継がれた。

 

 

 

 斯くて光は極光となり、物語は続いていく────。

 

 

 

【千年樹に栄光を 了】

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