リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る? 作:タロ芋
「ん?」
キラリ、と視界の隅で何かが光る。たきなは着替えていた手を止めて光ったそれへと近づいた。
「これ、千束の……ですか?」
アラン機関が支援を行った人物に送られる梟を模したチャーム。それが更衣室の隅に転がっていた。
たきなはそれを摘み、微笑んだ。
「いつもは肌身離さずにいるのに、千束はおっちょこちょいですね」
ハンカチで丁寧にチャームを包めばたきなは更衣室を出る。
「千束、これ落ちてましたよ」
「おん? ありがとーって……これ私のじゃないよ?」
「え? でも、確かに千束のものだと……」
たきなは千束のものだと思っていたら違かったことに驚き、思う。では、これは誰のなのだろう。更衣室にあったということは客のものではない。なので、従業員のものだ。
千束は除外。ミカも無い。クルミだろうか? いや、それも無い。ミズキは……絶対ない。ということは……
「どうしたんだお前ら?」
「あ、律刃〜。ちょいちょいこっち来て」
「? なんだよいったい藪から棒に……」
そんな時に後ろから声がかかる。振り返れば何時もの作務衣姿の律刃が立っていた。千束の手招きにに律刃は胡乱な目をしながらこちらに来る。
「律刃さん。ひょっとして、これは貴方のものでしょうか?」
たきなはそう言い、ハンカチに包んでいたソレを彼へと見せる。律刃な怪訝な顔をしていたが、それを見た瞬間に合点が言ったように声をはりあげた。
「あー、確かにこれ俺のだな。どっかいってたかと思ってたけどどこにあったんだ?」
「更衣室の隅っこに落ちてましたよ?」
「そっか。ありがとなたきな」
「いえ。それにしても……、律刃さんもアランチルドレンだったんですね」
たきなが感慨深く呟く。まさかの2人目のアランチルドレンがこんな身近にいたのだ。
「あれ、言ってなかったか?」
「言ってないね」
たきなからチャームを受け取り、雑に懐にしまいながら言えば千束の言葉に頷き、テレビへ視線を向ける。
「そうか。まぁ、別にどうでもいいことだ。……にしても、まだやってるのかアレ」
「脱線事故のやつねー。もう1ヶ月だっけ?」
「ええ、あの社長の人も災難ですね。何も知らされていないんですから」
「……ココ最近物騒になってきたな」
テレビに映るのはひと月前に起こった列車の脱線事故……という体にした本当はテロが起きたことを隠すためのニュース。
犠牲者はゼロといっているが、実際はどうだろうか。
たきなはテレビを見つめる律刃の横顔を見て、気がついた。いままでは気が付かなかったが、彼の青みがかった紫色の瞳が光の加減によって右の瞳が左の瞳よりも僅かに色が淡いことに。
「ん、なんか顔についてるか?」
じっと見つめていれば、視線に気がついた律刃が問いかける。たきなはそれに少し慌てながら答えた。
「あ、えーと律刃さんがアランチルドレンならどんな使命があるのかな……って」
「んー、秘密♪」
「律刃、男なのにウィンクは気色悪いよ?」
「ハッハッハ、こやつめ。ハッハッハこやつめ」
「うぎゃー!!? たきな助けて〜!!!」
たきなの質問に律刃は片目を瞑って言えば、千束のツッコミに満面の笑みでアイアンクローを放つ。
ミシミシと割と洒落にならない音が聞こえるが、ほぼ千束の自業自得ということなのでたきなは止めずに優しく見守るのであった。
〇
「と、いうことで今回の依頼の概要を説明しま〜す! 楽しいお仕事ですよ〜!」
「ドンドンパフパフー。なぁ、これ必要?」
「必要!!」
「そっかぁ……。にしてもこの太鼓どこにあったんだ……」
タブレット片手にテンション高く声を張る千束。隣に無駄に大きい太鼓を持った律刃。心なしか目が死んでるように見えるが気のせいだろう。
それを見るたきなとミズキ。律刃は邪魔くさい太鼓を床におろし、椅子へと座った。
「ミズキさんは説明しないのですか? 私、もう把握してますけど」
「なんかやたらやる気なのよー」
「そこ! 私語は慎む! それとそこの栗鼠! ゲームしてない?」
千束は2階でVRゴーグルをつけてゲームをしていたクルミへ注意を送る。
「聞いてるよ〜」
「ならよし!」
「いや、いいのかよ……」
「えー、おっほん! 依頼人は72歳、男性、日本人。過去に妻子を何者かに殺害され、自分の命を狙われた為にアメリカへ長い間避難していた。現在は……き、きん……?」
「筋萎縮性側索硬化症だ。症状は段々と全身の筋肉が痩せていくっていう病気だな。現在も治療法は見つかってないやつだ」
「おー、律刃よく知ってるね。意外だ」
「そいつはどーも」
飴を咥え、律刃はおざなりに返す。
「……自分では動けないのでは?」
「そう! 去年余命宣告を受けたことで最後に故郷の日本。それも東京を見て回りたいって」
「観光……ですか?」
「泣ける話でしょ〜? 要するに! まだ命を狙われてる可能性があるため、body guardします!」
無駄に流暢に喋り、えへん! と胸を張って千束は説明を終えたきなは疑問をなげかけた。
「なぜ命を狙われているのですか?」
「それがさっぱり! 大企業の重役で敵が多すぎるのよ〜。その分報酬はたっぷりだから!」
ミズキは目をお金のマークに変えて笑う。結局のところソコである。
「まぁ、敵が来ても俺らがどーにかすればいいがな」
「日本に来てすぐ狙われるとも思えないけどねー。行く場所はこっちに任せるらしくて、私がバッチリプランを考えるから!」
「旅のしおりでもつくろうか?」
クルミの提案に千束は指を鳴らし、その提案を歓迎した。
「それだ!!」
「あ、なんか嫌な予感が……」
律刃は逃げようとした。
「挿絵、頼んだ!!」
しかし、千束に回り込まれてしまった!!
ということで急遽決まった旅のしおり作り。絵心がわりと残念な千束に変わり、彼女のやけにふわっとしたアイディアをどーにかこーにか形にして律刃は絵を描くのであった。尚、頻繁に仕様変更が起こったためにその度にアイアンクローと汚い悲鳴が炸裂したのは言うまでもない。
〇
「お待ちしておりました〜……っあ……」
リコリコの扉が開かれ、千束は店内に入ってきた人物を見て呆気に取られた様子で目を丸くする。
「遠いところ、ようこそ」
その人物は車椅子にのり、目をゴーグルで覆い至る所にチューブが繋がれ正に機械に生かされているという有様のやせ細った老人であった。
そして、口は動かずに機械で合成された音声がスピーカーから聞こえてくる。
『少し、早かったですかね。楽しみだったもので』
千束は惚けていたが、その声に反応し用意したしおりを手に持って口を開く。
「……あ、いえ! 準備万端ですよ! 旅のしおりも完璧です!」
「千束、データで渡そうか?」
「え? ……あっ!」
クルミの提案に千束は気付く。老人、松下の枯れ木のような手は既に用途の意味をなさず、この紙のしおりを持つことが出来ないことに。
『助かります。あとはこの方たちにお願いするので、下がっていいですよ』
松下は護衛をしていた黒服たちに告げ、彼らを下がらせる。
『今や機械に生かされてるのです。おかしく思うでしょう?』
「いやいや、そんなことないですよ!
千束は松下にそう言い、己の胸元へ手を当てる。
『ペースメーカーですか?』
「いいえ。
「え?」
突然の告白。たきなは困惑を隠すことが出来なかった。
『人工心臓ですか。そして、そこの方は義眼、義手と……』
松下は座敷に座っていた律刃へ向けば対して気にした様子もなく、その右手をひらひらと揺らす。
「アンタらのは毛が生えてるけどねー」
「「機械に毛ははえねーっての」」
「あの、それってどういう───」
「出来たぞ〜」
『おお、これは素晴らしい!』
「では、東京観光しゅっぱーつ!」
「あんまし走んなよー」
車椅子を押し、外へと出る千束の後を追うように律刃も立ち上がる。
2人の背を見ながらたきなは問う。
「あの、今の千束と律刃さんの話って……」
「たきな行くよー!」
「あ、はい!」
だが、聞こうにも千束の呼び掛けにより叶わなかった。
その様子を見ながら、ミズカはミカへと尋ねる。
「言ってなかったの?」
「……2人に任せればいい」
「僕にも説明しろよ」
千束の心臓が機械だということ。律刃の目、腕、足もそうだということを知っているのはミカ、ミズキ、当人たちだけだ。
クルミは僅かに視線を険しくさせながらミカへと言うのだった。
〇
律刃
今明かされる真実(特に隠してない)
絵は上手
千束
今明かされる真実(特に隠してない)
画伯
たきや
今明かされた真実×2
画伯
貴方たちの感想、評価がモチベとなります。