リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る?   作:タロ芋

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UA3万突破〜!そしていよいよアニメ本編最終回ですね。長いようで短い。そんなことを思いながらも初投稿です。
時系列的にはアニメ6話はこれで終わりです。折り返し地点に来ました〜。
ではどうぞ。

追記、10月2日に加筆修正


17

「…………」

 

 ふと、たきなは目が覚めた。上体を起こして視線を下へ落とせばふにゃふにゃと寝顔を晒す千束が見える。

 そっと、その柔らかそうな頬を触れる。スベスベとした手触りに軽く指を押し込めばぷにぷにと弾力がある。

 

「えへ、えへへ〜……」

 

 すると、実に幸せそうに千束が頬を緩ませれば釣られたようにたきなも淡く微笑んだ。

 

「トイレ……」

 

 尿意を催し、たきなは千束を起こさないように静かにベッドから降りるとトイレへ向かうのだった。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 手を洗い、用を済ませたたきなはトイレの扉を閉じ寝室に向かおうとした時。

 

「……甘い、匂い?」

 

 微かに鼻腔をくすぐる甘い匂い。たきなは首を傾げれば視線を上げる。

 その先にリビングを仕切る扉が僅かに空いており、その隙間からは光が差し込んでいた。

 

「んー……」

 

 眠気で回らぬ頭でたきなは扉を開き、リビングへ出る。ぼんやりと見渡すとリビングの中央に置かれた机の上に何かが散らばっていた。

 どこかのメーカーの商品のロゴが刻印された長方形の物体と焦げ茶色の細長い紙、なにかを刻んだ葉、数本の細長いスティック状の物体。水の入れられた小鉢。飲みかけの珈琲の入れられたマグカップ。

 どうやら紙と葉のそれらは手巻き煙草と材料の類らしい。事実、その傍らに置いてある灰皿の窪みにある、もみ消され、微かに煙の登る煙草が何よりの証拠だ。

 

 ソファへ視線を向ければ、タンクトップ姿で作業の途中で寝落ちしてしまったのかソファに仰向けで目を閉じ、規則正しい寝息を立てる律刃の姿があった。

 油断しきり、あどけない寝顔を晒すのを見てたきなはぼんやりと頭に感想が浮かぶ。

 

 ──寝顔は結構可愛いんだなぁ

 

 そのまま何秒か見つめていたたきなは何を思ったか、おもむろに彼に近づくと投げ出されていた右手に触れてみる。

 

「んん……」

 

「ッ……」

 

 律刃がうめき声のような寝言を漏らす。

 咄嗟に手を離して律刃を見てみればどうやら起きる気配はなく、たきなは僅かに息を吐いた。

 そして、恐る恐ると再び右手を触る。

 彼の言うところでは右腕は義手らしいのだが、触ってみる限りでは殆ど人の皮膚と変わらない。それどころか僅かに暖かく、聞いていなければ生身と思ってしまうだろう。

 思い切ってたきなは指を押し込んで見ることにした。すると、指先はほんの少し沈めば直ぐに硬質的な感触が指を阻む。

 

「ほんとに義手なんだ……」

 

 呟き、触っていた箇所を手の甲から段々と上へと上がっていき気がついた。肌の色合いが肩口から違うのだ。おそらくはそこから義手と生身の境となっているらしい。

 

「きゃっ……!?」

 

 そのまま観察していたのが行けなかった中、唐突にたきなはグイッと何かに引っ張られるような感覚が襲う。

 

「な、な……!」

 

 気がつけば自分は律刃の腕の中に収まり、抱きしめられていた。抜け出そうとしても力が強くピクリとも動かない。

 心臓が早鐘を打ち、顔へと血が集まっていく。顔を朱に染めてパクパクと口を開くことしかできず、たきなはどうしようと思っていると。

 

「……れ、が……る……ら」

 

「……?」

 

 寝言だろうか? 微かに律刃の声が聞こえ、少しだけ聞き耳を立ててみれば何を言っているのか分かってきた。

 

「俺、が……まも……る、か……ら」

 

 自分を抱く手が強くなる。まるで、もう二度と離したくないとばかりに。

 

「もう……ひと、り…………は、いや、だ」

 

「律刃さん……」

 

 律刃の閉じられた左目から涙がこぼれ、ソファを微かに濡らす。

 普段からは想像できないほどか細い声にどれほどの想いが込められているかはたきなには分からない。だけど、分かるのは彼がそこまで言うほどの何かがあったということだ。

 たきなは顔を僅かに上げ、魘されている律刃へと手を伸ばすとその涙を指で拭う。

 

「……大丈夫ですよ。私も千束もここに居ますから」

 

 そう呟き、たきのは同じように律刃の背中へと手を回す。

 その言葉が伝わったかどうかは定かではない。けれど、安心したように彼は苦しげな様子から安らかな寝顔へと変わり、寝息を立て始めた。

 

「……おやすみなさい」

 

 たきなはそう言うと、同じように目を閉じる。気がついたころにはあれほどうるさかった心臓はゆっくりと鼓動を刻み、意識は微睡みへと消えていくのだった。

 

 

 

 

 起きたらたきなと一緒に寝ていた。付け加えれば抱き合ったかのような格好で。何を言ってるか分からないだろうが以下略。

 

「……どーいうことなの?」

 

 とりあえずたきなには毛布を掛けてやり、律刃は訳が分からないと吐き出す。

 

「…………とりあえず片すか」

 

 机の上に散らばる手巻き煙草の材料を千束に見られたら五月蝿いに違いない。律刃は両手で道具類を片そうとして気がついた。左手の手首の違和感と動いた時に走る脇腹の痛みが無くなってることに。

 

「……治癒速度がまた上がってるな」

 

 忌々しい右腕を触り、律刃は眉をしかめる。

 

「ジンと戦った時だよなやっぱり……」

 

 目の前が真っ赤に染まるアレは過去に何度も同じことがあった。ひとつ言えることは、あの現状が起こったあと(・・・・・・・・・・)自分の体は強くなる(・・・・・・・・・)

 リリベルであった時は何一つ疑問には思わず、寧ろ有難いと思っていた現象だがマトモな思考回路を得た今からしたら不気味以外の何物でもない。

 いつか、必ずこれの代償があるかもしれない。いや、寧ろ───

 

「既に起きている。……かもしれないか」

 

 右腕を動かし、ゆっくりと右の拳を握りしめ呟く。

 

 

 〇

 

 

 リコリコ店内、クルミの作業部屋兼私室の押し入れでクルミがパソコンを操作する横で画面を覗く律刃と千束。

 

「地下鉄襲撃犯とリコリス襲撃犯は例の銃(・・・)を使ってるみたいだな」

 

「例の?」

 

「アレだろ。あの取引の」

 

「ご明察」

 

「ああ〜……あの時のか」

 

 パソコンの画面に表示されるいつかの画像。それを見る律刃と千束の2人。

 

「じゃあDAをハッキングしたのもこいつら?」

 

「さぁ?」

 

「ギクッ」

 

 何気なく発した千束の言葉に何故か肩を震わせるクルミ。律刃はなんとなく指摘した。

 

「どうしたクルミ?」

 

「あ、あ〜、ナンデモナイ。モシカシタラチガウカモナァ〜……なんて?」

 

「「うん?」」

 

 目線を逸らすクルミに揃って首を傾げる。

 言えない。あの時、ラジアータをハッキングしたのがクルミ……もといウォールナットだというのが。もしバレたら……

 

『よし、東京引きずりの刑』

 

『試し打ちの的にする?』

 

『サンドバッグがいいのでは無いでしょうか?』

 

 言えるわけねぇだろ。クルミは冷や汗をダラダラと流して早くこの話題が終われと祈りながらパソコンへと向き直る。

 

「あ〜、いや。もうちょっと調べてみる……」

 

「にしてもどうやってリコリスを識別してるのかなー?」

 

「さぁ?」

 

「……僕の見解だとその制服がバレてるんじゃないか?」

 

「おお、なるほど!」

 

「あー……、確かに有り得るかもなぁ。お前らの制服デザイン同じだし」

 

 都市型迷彩服の機能を持つリコリスの制服。何も知らない者からすればただの女学生の制服だとしか思えないソレは知ってるものからすれば格好の的だ。

 

「その発想はなかったぁ〜」

 

 基本、リコリスの目撃者というのは口封じで文字通り消される。つまり情報が流れないということだ。

 だから、誰もその発想には至らなかった。

 

「……別の意見としては顔が割れてるとか?」

 

 律刃は考え込みながら言う。

 

「それは無いでしょ〜」

 

 千束は否定するが、過去にリコリスを襲撃してる身としては苦笑いしか返せない律刃なのであった。

 

 

 

「ドゥルルル♪ ドゥルルン♪ ドゥルルルッルッドゥルルルルン♪」

 

 某奇妙な物語のBGMを口ずさみながら林檎を見事な刀捌きで整形していく律刃。その様を見ながらミズキが突っ込む。

 

「あれ、怪我どったの律刃」

 

「ドゥル……。治ったこの通り」

 

「もうか? 早いな……」

 

「お陰様で。ほれ、林檎食うかミズキ?」

 

「貰うもらう〜……ってなんだこれ!?」

 

「兎」

 

「私の知ってるウサギの林檎じゃない……。よくそんなポントウで出来たわね」

 

「慣れ」

 

「……世界探してもこんなことが出来るのは律刃だけだろうな」

 

 皿に盛られた精巧な兎に斬られた林檎を見てミズキとミカは感嘆としたようなドン引きしたような声を上げる。まさに無駄のない無駄に洗練された無駄に凄い無駄な技術である。とりあえずミズキは記念に写真を撮ってリコリコの宣伝アカウントに投稿した。いいね&RTが速攻で4桁を超えていった。

 

 刀身に付着した果汁を拭い、鞘に納めていればふと座敷で何やら唸っているたきなを発見する。

 

「どうした、たきな? 林檎食うか?」

 

「えっ、あっ、律刃さん……!?」

 

 声をかけられ、たきなはその相手に気がつくと顔を赤くする。

 その様子に律刃は首を傾げる。風邪かな? と今朝起きたことを覚えてないのかコイツ、といわんばかりに鈍感を発揮する馬鹿を前にたきなは何とか冷静になると咳払いをして考えていたことを伝えた。

 

「えっと、家事分担をする時に千束とジャンケンをしたじゃないですか? それで、1回も勝てなかったので何故なんだろう? と考えていたんです。あと林檎は大丈夫です」

 

「「「ああ……」」」

 

 その悩みを聞いた年長組は察する。

 

「"最初はグー"でやってるでしょ?」

 

「それじゃ千束に勝てない」

 

「え?」

 

 ということで入る説明タイム。

 

「千束が相手の服とか筋肉の動きで次の行動を予測してるのは知ってるな?」

 

「グーから始めちゃうと次の手を変えるかどうかを読まれちゃう。変えずにグーだと当然パー。変えると分かればチョキを出せば絶対負けないでしょ?」

 

「つまり、あいこでできる確率が3割」

 

「勝つ確率はゼロだ」

 

アイツ(千束)に勝つには"最初はグー"をやめて最初の勝負で勝つしかない。あいこになったらもう勝てねぇ。それどころかあいこになったらもう一生勝てない……という訳だ」

 

 いつか使ったホワイトボードにデフォルメされた絵を描き、説明の終えた3人。唖然と聞いていたたきなは震えた口で声を出す。

 

「……マジですか?」

 

「「「マジ」」」

 

 3人は頷く。

 

「ついでに言えば俺も似たようなことが出来るな。つっても、予測するんじゃなくて相手が手を動かすよりほんのちょっとだけ遅れて手を出す方法だけどな」

 

 つまりは後出しのようなことだ。どっちもズルだが。

 そして、片方は動きを予測可能。片方は後出しができる。もしその2人がジャンケンをすれば待ち構えているのは一切手を出せない不毛な睨み合いの時間だ。

 

「大人気なくないですか?」

 

「逆に聞くが千束が大人しくやると思うか?」

 

「いいえ、まったく」

 

 性格がまさにクソガキなのを知ってるたきなはミカの問いかけに頷くことしか出来なかった。盛大にため息を吐けば律刃を胡乱げに見ながら少し不貞腐れた様子で言う。

 

「知ってたなら教えてくれても良かったじゃないですか……」

 

「いやー、言おうとしたらアイツ口塞いでくるからな」

 

「……アレはそういう事でしたか」

 

 千束が律刃の口にクッキーを突っ込んでいたことを思い出し、合点が言ったとばかりに手を打つたきな。

 同棲生活でのアレはそういうことなのだ。

 

「組長さんところに配達行くわ〜……って、なにさ?」

 

 扉の奥から黄色のポンチョを装備した千束が出てくれば一斉に視線が向けられる。思わず尋ねると。

 

「いいえ、なにも」

 

「えー、なになに……」

 

 どこか不貞腐れた様子のたきなに千束は首を傾げる。

 

「いーから、配達行ってきなー」

 

「すぐ支度します」

 

「俺もするわ」

 

「あー、大丈夫。制服がバレてるだろーってクルミが言ってたから」

 

「リコリス制服がですか?」

 

「そそ。これなら〜、絶対〜、わかんな〜い♪」

 

 自慢するようにポンチョを広げる千束。

 

「私服だと銃は使えねぇだろ?」

 

「警察に捕まっちまえ〜」

 

「んなことわかってんのよ〜。下に来てますぅ〜! ほらぁ」

 

「……動きズラくないかそれ?」

 

 ポンチョを捲る千束を見て突っ込む律刃。

 

「いつもスーツで刀振り回してる律刃が言う〜?」

 

「…………ノーコメント」

 

「いや、認めちゃってると同じじゃないですかソレ」

 

 目線をそらす律刃に今度はたきなが突っ込む。

 仕方ないでは無いか。アレも言わば都市型迷彩服のひとつなのだから。アレがないと警察にしょっぴかれるのだ。加えて防弾性能のある繊維のせいでちょっと重いのは内緒だ。

 

「……私もそれを着ていきます」

 

「あー、大丈夫! たきな、今日の夕飯楽しみにしてるからね〜♪」

 

「俺がバイク乗せていってもいいんだぞ? サイドカー付けたからたきなも乗れるし」

 

「大丈夫だって〜! 組長さんのところ近いし私がそこらのチンピラに遅れをとるわけないでしょ〜?」

 

「いや、だけどな……」

 

「もう、律刃は心配性だなぁ。そんなに私が大事?」

 

「ああ、大事だ。お前が傷つくのは嫌だ」

 

「…………お、おう///」

 

 どこか茶化すように言った千束に対して、心底真面目な声と顔で言い放った直球ドストレートのどシンプルな律刃の言葉。まさかのカウンターに千束は予想していなかったのか絞り出すような声を出し固まった。

 

「どうした千束? どっか具合が悪いなら俺が変わりに行くが……」

 

「だ、だだだた、だいじょーぶだから!! じゃっ、いってきまー!!」

 

「あ、おい! ……行っちまった」

 

 千束の様子に律刃は近寄ろうとすれば、両手をバタバタと振り回すと慌てたように店の外へと出ていってしまった。突然の暴れように律刃は呆気に取られたように空を切った右手を下ろし、振り返ると。

 

「……なんだよ?」

 

 三者三葉の様子で見てくる3人。律刃が尋ねると。

 

「青春だな」

 

 優しい目で言うミカ。

 

「ケッ!」

 

 妬ましそうに吐き捨てるミズキ。

 

「……甘ったるいですね」

 

 ジト目のたきな。

 

「……なんなんだよいったい」

 

 訳が分からず、そういうしかできない律刃だった。

 

 

 

「…………遅いな」

 

「いつも通りよ」

 

 しばらくして時計を見て律刃が呟くとミズキが突っ込む。

 

「…………まだか?」

 

「いつも通りだ律刃」

 

 今度はミカが。

 

「…………やっぱり何かあったんじゃ?」

 

「……何も起きてませんよ律刃さん」

 

「ぬぅ……」

 

 たきなに指摘され、律刃は手に持ったコップを磨きながら唸る。まだ1時間も経っていないのにソワソワと落ち着かない様子の律刃に3人は顔を合わせた小さく囁きあう。

 

「(律刃さん、千束のことが大好きすぎでは?)」

 

「(そりゃあ、好きじゃなかったらあんなこと言わないでしょー)」

 

「(セーフハウスでも似たようなことをしてただろう?)」

 

「(映画見てる時、律刃さんの膝の間に千束が座ってたり、膝枕されてましたね。千束が)」

 

「(え、なにそれ聞いてないんだけど? ほぼカップルじゃないそれキレそう)」

 

 

「あぁぁぁぁああっ!!!?」

 

「「「「!!!?」」」」

 

 奥の押し入れからそんな悲鳴とともに、某国民的アニメのキャラのごとく襖を突き破ればクルミが両手でタブレットを持ちながらやってくる。

 

「どうしたクルミ。餡蜜なら後で用意するが……」

 

「それは後で貰う! ……じゃなかった! これだ! これを見てくれ!!」

 

 そう言うとクルミはタブレットの画面を拡大させながら4人へと見せた。

 

「これは銃取引の時のDAのドローン映像だ! 殺されたのはこの5人だ!! これが犯人に流出して顔がバレてたんだ!!」

 

「なーんでそんなもんが流出すんのよ!?」

 

「おい、俺の言ったことが当たってんぞ……」

 

「あの時のハッキングか?」

 

「DAもまだその犯人のハッカーを見つけられてないようです!」

 

「アンタの仲間じゃないの? さっさと調べなさいよー!」

 

「う、うぅ……」

 

「なによ?」

 

 ミズキに問い詰められると、クルミは言葉が詰まりバツが悪そうに視線を逸らす。だが、そんなことをすれば当然ミズキは怪しむ。

 

「……あの時の犯人は僕だ」

 

「はぁ!?」

 

「ッ!?」

 

「どういうことだ!?」

 

 衝撃のカミングアウトに4人は驚愕の声を上げる。ミカは慌てて尋ねれば。

 

「依頼を受けてDAをハッキングした! そのクライアントに近づくにはそうするしか無かったんだ……」

 

「ちょっと待って。つまり、アンタがテロリストに大量の銃を流した張本人って理由(ワケ)ェ!?」

 

「ッ、それは違う! 指定の時刻にDAのセキュリティを攻撃しただけだ!!」

 

「そ・う・で・す・か! お陰で正体不明のテロリストがァ? 山ほど銃を抱きしめてたきなは首になりましたァ!」

 

「もういい! やめろミズキ!」

 

「映像は! 映像はそれだけなんですか!?」

 

 ミズキを窘めるミカの横でたきなはクルミを問い詰める。

 ふとクルミが1人足りないことに気がついた。

 

「おい、千束はどこだ!?」

 

「配達に行きました……」

 

「全部じゃないんだ……!!」

 

 そう言い、クルミはタブレットの画面を切り替えて4人に見せる。それは沙緒里を護衛した時、律刃と千束がたきなに対して揉めていたことの映像だった。

 つまりは、対象(ターゲット)の中に千束が入っているといことだ。

 そして、この中で何よりも騒がしくないといけない人物が静かなのに4人は気がつく。気がついてしまった。

 

 

 ─────パキッ

 

 

「ヒッ!?」

 

 小さな音が聞こえ、クルミが悲鳴を漏らし顔を真っ青に染め上げる。たきな、ミズキ、ミカの3人は背筋に冷たい汗が流れながら恐る恐る音のした方へと首を動かした。

 

「…………」

 

 そこには顔を俯かせ、無言で佇む律刃がいた。だが、触れれば切れてしまうのではないかと錯覚してしまうほど、鋭利な気配が全身からは漂い右手に握られていたグラスは無く、代わりのガラス片がその足元に転がってるのが見える。

 

「ミカさん」

 

「なんだ、律刃……」

 

「少し、出てきます。すぐに終わるので」

 

「あ、ああ……」

 

 律刃はミカに言えば、4人に背を向けて店の奥へと行くと作務衣からスーツに着替え、左手にバイクのヘルメット、背には大きなギターケースが抱えられていた。

 律刃は店先に止められていたバイクへ跨がれば、サイドカーにギターケースを固定。ヘルメットを被ればキーを差し込み捻る。眠ってい鉄の騎獣がけたたましい嘶きを上げ、アクセルレバーを一気に振り絞れば甲高い駆動音と後輪が回転し地面を削りながら赤いテールランプの軌跡を描きながら走り去っていった。

 

『もしもし、もしもーし?』

 

「千束! 敵はお前を狙っているぞ!!」

 

『え? ……ちょ、ちょ、ちょいちょーい!!?』

 

「千束? 千束ォ!!」

 

 律刃が走り去ったすぐあとにミカは千束へと電話をかけた。千束が電話に出たかと思えばスピーカーからは車の走る音と何かがぶつかる音が響きわる。

 

「なんかすごい音がしたよ!?」

 

「とりあえず組事務所に向かいます!!」

 

 制服へ着替え終えたたきなはそう言い残し、外へと飛び出していく。

 

「クルミ! 千束を探せ!!」

 

「わかった!」

 

 

 

 〇

 

 

 

『どうだ!? 今回は被害ゼロだろ!? これで文句は無いな!? ないよね!?』

 

「わかったわかった。いい作戦だ」

 

「にしてもコイツだけか?」

 

 千束を引いたパーマの犯人はインカムから聞こえてくる声におざなりに返し、隣にいたフードの共犯者は地面に転がる千束を見てつまらなそうに呟けば足でその体を転がした。

 

「あ? ふぅーん……」

 

 フードの男が転がし、見えた梟のチャームを見て合点がいったようにパーマの男が声を漏らす。

 直後、轢かれたように見せかけていた千束は起き上がれば着ていたポンチョを投げつけ、犯人たちの視界を奪った。

 

「おらぁ!」

 

「「ッ!?」」

 

「がっ!?」

 

「うごっ!」

 

「ぎゃあ!?」

 

 千束は即座に愛銃を発砲。主犯格らしき2人の配下の連中を狙ったそれは命中し、確認はせずに逃げ出した。

 

「チッ! 追え!!」

 

「逃がすなてめぇら!」

 

「ちくしょうポンチョ盗られたァ!」

 

『おいおいおい! 目の前まで追い詰めたのに! 僕のせいじゃないぞこれは!』

 

「……あ? なんだこれは」

 

「死んでねぇぞ?」

 

 部下たちが指示通りに千束をおっていく中で、パーマは倒れている部下の作業着に付着したソレを手に取り困惑した声を漏らす。

 その横で別の部下が息のあることに気がついたフードは首を傾げた。

 

「おい相棒。コレ見てみろ」

 

「なんだよって……んだこりゃ?」

 

 手に持った赤い破片を渡され、同じように困惑する。

 千束の放った非殺傷弾が着弾した時に発生する正体だった。

 

 

 

 始まる逃走劇。しかし、数の上では相手が多いことに加えて敵にはドローンとハッカーがいる。千束はすぐに補足され追いかけ回されることとなる。

 

「はぁ……はぁ、ここまで来ればって……もう来た!?」

 

「また吹っ飛ばしてやる!」

 

「しっつこいなぁ!」

 

 車で追いかけてくる襲撃犯達を見て千束は悪態をつく。

 いい加減ウンザリしてきた千束は即座に転身、愛銃を構える。

 パーマは車から体をさらけだし、同じように銃を構えれば引き金を引いた。

 

「なに!?」

 

 しかし、その弾丸は千束にかわされお返しとばかりに車へと非殺傷弾を叩き込む。

 窓ガラスを割り、続けて自分を狙った男へと発砲。そのうちの1発が男の頭部へと着弾。

 

「がはっ!?」

 

 衝撃により車から落とされ、男は地面の上に転がる。車はコントロールを失い横転した。

 千束は銃を構えたまま地面に転がっている男へと近づき、問いかける。

 

「アンタが一連の襲撃犯?」

 

「ひでぇじゃねぇか……いってぇ。相棒みてぇに治りが早いわけじゃないんだぜ?」

 

「うっわ……」

 

 落ちた時に頭を打ったのか、盛大に血を垂らすショッキングな姿にドン引きする千束。男の後ろに回って手を上げるようにした。

 しかし、普通ならそこで手を挙げて降参をするのだが男は千束がどんなものを使っているのか知っていた。

 殺意がなく、自分を殺すことが無いこと。なら、あとは簡単だ。

 

「ブッ!」

 

「うわっ!?」

 

 男は千束の両手を掴み、先程拾った赤い破片。塗料の欠片を口内で噛み砕き、唾液に溶けたソレを千束の両目へと吐き出した。

 視界を奪えば、その整った顔へと拳を叩き込む。

 

「ハハハァ!!」

 

「いっ!?」

 

 そして、後からほかの仲間たちがやってきた。

 

「おーおー、やってるなぁ」

 

 車から降りたフードは自分の相棒が千束を殴ってる様を見て愉快そうに言う。

 

「にしても、アイツは来ねぇのか?」

 

 肩にかついだ戦斧を揺らし、フードの男は呟いた。

 

「オラァ!」

 

「あぐっ!?」

 

「いいぞ、やれ真島さん!」

 

「ハハハ、逃げねぇと死ぬぜー!」

 

 自分たちのリーダーが少女をいたぶる様を見て野次を飛ばす男たち。

 

「ゴム弾じゃなく!」

 

「ッヅ!」

 

「実弾にしておけば、良かった……なぁ!」

 

「ゴフッ!?」

 

 真島と呼ばれた男は殴り飛ばされた千束へと近づき、その眉間へと銃口を向ける。

 

「いったぁ……あ」

 

 普段なら避けられるような距離。だが、今は視界を封じられ好き勝手殴られふらついている。まさに絶体絶命の状況。

 千束は己の死を予感した。

 

(これは、死んだかな? ……ごめん、律刃。って、なんでアイツの顔が浮かんだ?)

 

 そんな時、脳裏によぎる彼の顔。苗字とおなじ華の色と同じ綺麗な瞳の彼。

 思わず苦笑しながら、ようやく気がついた。

 

「そっか……やっぱり、私……」

 

お前の使命はなんだ(・・・・・・・・・)?」

 

「────え?」

 

 唐突な問いかけ。千束が顔をあげれば、真島は胸元を叩いて指摘する。

 

ソレ(・・)だよ。ソレ(・・)

 

「っ、これは───」

 

「アランのリコリスかぁ。面白いなお前───」

 

 まぁ、関係ねぇか。真島はそう言い、引き金をひこうとした瞬間────

 

「なんだ!?」

 

「チッ!」

 

「うわっ!?」

 

 遠雷の如く、空気をふるわせる嘶き。

 車の間から飛び出れば地面を削り、バイクを横滑りさせ真島と千束の間にソレは止まる。

 

「誰だ!!」

 

 真島が叫ぶ。

 そして、突然乱入してきたヘルメットにスーツ姿の存在の背を見つめ千束は呆気に取れたように呟いた。

 

「りつ、は?」

 

「すまない、千束。待たせたな」

 

 バイザーを上げ、竜胆色の瞳が優しく千束を見つめる。千束は鼓動がないはずの人工心臓が高鳴るかのような錯覚を覚えた。

 

「えっと、その……」

 

「今は喋らなくていい」

 

 安心させるような声色で律刃は言うと、千束から視線を戻しバイクから降りればサイドカーにのてられていたギターケースから愛刀を取り出す。

 

「よくも、俺の光を奪おうとしたな」

 

 ヘルメットを脱ぎ捨て、仕舞っていた髪の毛が宙を舞う。

 

「よくも、千束を傷つけたな」

 

 鯉口を切り、右手が柄を握れば緩やかに刀身が鞘から放たれる。磨き上げられたかのような刃は車のライトにより、妖しく光を放つ。

 

「俺は今、あの時と同じくらいに機嫌が悪い」

 

 1歩ずつ足を動かし、刀を横へと振るえば右の瞳が段々と赤みを帯びていく。

 

「殺しはしない。だが───」

 

 どこまでも平坦な声の中に果てない程の激情の込められたソレはまるで、自分の喉元に刃が突きつけられたかのよう感覚に襲撃犯たちは襲われた。

 

「死よりも辛い目には合わせてやる」

 

 今、ここに鬼が現れた。

 

 

 

 〇

 

 

 

「やっべ!?」

 

 真島は即座に体を沈みこませた。最早条件反射に等しいそれは確かに真島の命を救う。

 先程まであった自分の首の位置に銀閃が走り、遅れて空気の裂かれた音が響いた。

 

「おいおいおい、殺さないんじゃなかったのかァ?」

 

「1人2人、気にしてどうする?」

 

「ゴアッ!?」

 

 そんな声とともに、真島は後ろへと吹っ飛び車体へとその体を沈みこませる。

 追撃のために、律刃は真島へと突撃し刀を振りかぶると。

 

「おっと、やらせねぇよ!」

 

「ッ……!」

 

 その間に割り込むようにフードの男、フェイカーが戦斧の柄で斬撃を受止め金属どうし特有の甲高い音と火花が飛び散った。

 

「いってぇ……相変わらずの馬鹿力だな」

 

「誰だ、お前?」

 

 鍔迫り合いから律刃とフェイカーは視線を交差し、額が触れ合うほどの距離で両者は睨み合う。

 

「……やっぱり俺のことは記憶にないってか」

 

「何を訳の分からないことを…………」

 

「すぐに分かるだろうさぁ!!」

 

「ッ!」

 

 フェイカーは叫び、戦斧を振り上げる。ギャリギャリと音を立て斧頭にある湾曲した刃が刀を引っ掛ければ律刃の腕ごと上方向へはね上げた。

 

「ラァ!!」

 

 律刃は驚愕しながらも振り下ろしてきた戦斧の刃先を強引に体を逸らし、僅かな距離の所を巨大な刃が通過する。

 地面に斧刃が半ばほど沈み、砕かれた破片が律刃の体を叩き砂塵が舞い上がった。

 

「チィッ!」

 

 堪らず律刃は距離をとると、フェイカーは砂塵を引き裂いて律刃に肉薄する。

 

「ハハッ!」

 

「……ッ!」

 

 明らかに常人が振るうことが叶わないような戦斧をフェイカーは軽やかに操り、律刃は真っ向から打ち合う。

 戦斧と刀が互いにぶつかりあうごとに空気の弾ける音と膨大な火花が飛び散り、剣戟を重ねていった。

 

「お前たちはなぜリコリスを襲った?」

 

「バランスさ!」

 

「バランス?」

 

 ひときわ強くぶつかり、互いに弾かれたように距離を取り目線は動かさず切っ先を向けたままでありながら、フェイカーのいったことに律刃は眉をしかめる。

 

「相棒が言うにゃこの国をむちゃくちゃにするのにリコリスは邪魔だ。バランスが悪いから殺す。それだけだ」

 

「その言い分だとお前は違うというのか?」

 

「ああその通りだ。俺の目的はお前だリッパー」

 

「……どういう意味だ」

 

「ハハハ、やっぱりテメェは覚えてねぇか。当たり前だよなぁ? そういう奴だよなテメェは」

 

「…………」

 

「「ッ!!」」

 

 全く同時に踏み込み、つんざく金属音が響いたかと思えば気がつけば離れた場所に移動した2人は次々と己の獲物を振りかぶる。

 肉薄したフェイカーの一撃を受け止め、律刃はカウンターのように拳を放ち、フェイカーは柄を動かし受け止めれば戦斧を両手で回転。槍のように構えれば突撃し、怒涛の連撃が始まった。

 

 切りおろし、突き、切り払えば勢いを利用して片足を軸に回転し、踵落としが律刃の頭を砕くために落とされる。

 

「ラァ!」

 

「フッ!」

 

 それを体を僅かに逸らせば頭ではなく地面を砕いた。しかし、かわしきれずに頬に裂傷が作られ、少量の血液を流すが拭わずにフェイカーの胴体へと蹴りを放った。

 

「ゴッ……!?」

 

 フェイカーの体はくの字に折れ曲がり、足に肋骨をへし折る感触を感じながら律刃はそのまま蹴り抜いた。

 口から血反吐を吐きながらフェイカーは吹き飛び、何度も地面を転がりながらも戦斧の柄の石突部分を地面に突き刺して勢いを殺す。

 

「ゲホッ、ゴホッ……!」

 

「無理に動けば折れた骨が内臓を刺すぞ?」

 

「だから……どうしたァ!!!」

 

「なっ……!」

 

 口元を血の混じった涎で汚しながらもフェイカーは負傷をものともせずに律刃へと肉薄する。自身のダメージを勘定に入れない行動には流石の律刃も面食らう。

 

「■■■■■■■ァァァア!!!」

 

 獣のような雄叫びを上げ、跳躍し空中で縦方向に回転しながら勢いよく戦斧を振り下ろす。

 ソレを律刃は愛刀で受け止めるが、斧刃が轟音と共にぶつかりとてつもない衝撃に思わず膝を折る。

 

「グゥッ……ぉぉおお!!!?」

 

「ハハハハハハハッ!!!」

 

 ギチギチと軋む音が響き、なんとかして戦斧を押し返そうとするが力の方向的にはフェイカーが有利なために少しずつ刀が押されていく。

 

「テメェを殺せば俺が贋作(フェイカー)と呼ばれることはなくなる!! アランのクソ共が間違っていたことを証明出来る!!!」

 

「アランだと……!?」

 

「ああ、そうさ!」

 

 フードの奥から覗く2つの青みがかった紫の瞳を爛々と輝かせ、フェイカーの言葉に呼応するように左目の色彩が青色へと変化していく。

 

「その目……お前も!?」

 

「そうだ! お前と同じ、俺はあの連中にこの目(・・・)を埋め込まれた!!」

 

「ヅゥ!!」

 

 ひときわ強く押し込まれ、遂に斧刃が僅かに律刃の肩へと突き刺さり苦痛に律刃は顔を歪めた。

 

「ほんとムカつくよなぁ? アイツらに体を切り刻まれ、訳のわかんねぇもんを植え付けられた。挙句には!!」

 

「うぐっ!?」

 

 頬に蹴りが突き刺さり、真横へと吹き飛ぶ。

 地面を転がるが勢いを利用するように地面を拳で叩き、着地すればフェイカーへと肉薄する。

 

「お前と違って望んだデータを得られなかったから失敗作として贋作(フェイカー)と烙印をつけられた! 

 おかしいだろう? もとは同じ存在だってのに!!お前と俺が何が違う?違わねぇさ!」

 

「ッ!」

 

「効かねぇなぁ!!」

 

「ガァ!?」

 

 フェイカーへ律刃は一閃。胴体を斜めに切り裂かれ、フェイカーは大量の鮮血を流す傷口をものともせず、律刃へと拳を叩き込み地面に叩き伏せられる。

 

「でも、それも今日で終わりだ。お前をこの手で殺し、俺こそが成功例と証明してやろう。

 貴様が劣り、おれが優れていると!」

 

「……ッ」

 

 緩やかに戦斧を掲げ、フェイカーは狂笑共に振り下ろそうとすれば────

 

「律刃から離れろクソ野郎!」

 

「あ? ───ガッ!?」

 

「千束!?」

 

 爆走する車の窓から身を乗り出した千束が銃を乱射し、体のあちこちに非殺傷弾が突き刺さるフェイカーは堪らずたたらを踏めば、そんなフェイカーを赤い車体の車が跳ね飛ばした。

 

「律刃さん無事ですか!?」

 

「たきな!? どうしてここに……」

 

「そんなことはいいから早く乗るんだ律刃!」

 

「ミカさん!?」

 

「ほら早く!!」

 

 律刃のすぐ目の前に止まったかと思えば、車の後部ドアが開きたきなが自分を案じるような声をかける。律刃は目を見開けばミカと千束がこちらに向けて手を伸ばした。

 

「ッ、あぁ!」

 

「よいしょお!」

 

 伸ばされた手を掴めば、千束とミカの2人によって律刃は車の中に引きずり込まれる。そこまで広くない車内に押し込まれれば当然、

 

「せ、狭いぃ!」

 

「つ、つめてくださ……」

 

「うぉお!?」

 

「ミズキ、早く出してくれ!」

 

「ばっちこーい! 舌ァ噛むんじゃないわよ!?」

 

 おしくらまんじゅう状態になる。そんな中でミカは冷静にミズキへと指示を出し、ミズキはギアを入れアクセルをベタ踏みすれば車は勢いよく走り出す。

 

「待てゴラァ!!」

 

「逃げんなぁアランリコリスゥ!!」

 

 それを追うフェイカーと復活した真島。

 配下の連中が銃を打つが、防弾性の高い材質の車体とガラスには傷を作るだけで有効打にはならない。

 そのまま逃げようとするリコリコの面々だったが、それを妨害するかのように無人の車が対向方向から突っ込んできた。

 

「あっぶな!?」

 

 だが、上手いことハンドル操作で正面衝突は免れ車体側面を擦るだけに留めるミズキ。

 

「ハッカー! その車は俺が使う!!」

 

 真島は停車した車へと駆け寄った。

 

「ミズキ! オレのバイクのとこ行ってくれ!!」

 

「はぁ!? ンなもん放っておきなさいよ!」

 

「いいから早くしろ!」

 

「ッ……わかったわよ!」

 

 そんな折、律刃は言う。突然ミズキは拒否しようとするが律刃の真剣な声色に押され従うことにした。

 そして、スピードを落とさぬまま車は律刃の乗ってきていたバイクに近寄れば律刃は後部ドアの車窓から身を乗り出してサイドカーに載せられていたギターケースを掴むのだった。

 

「よしっ!」

 

「そんなの何に使うの律刃!?」

 

「見てからのお楽しみだ!」

 

 千束の疑問を有した声に、律刃はギターケースを持ったまま車の屋根へとよじ登る。

 

「ちょ、律刃さん!? ……この!」

 

 突然の奇行にたきなは驚き、止めようとするが敵の銃撃に阻まれ仕方なく牽制射撃を行う。

 

「チッ! 弾切れです!」

 

「ヒィ〜!? あー、ダメだやばいやばいやばい!」

 

 こちらを狙うロケットランチャーを構える男に一同は引き攣った悲鳴を漏らした。

 

「安全装置はコレだな!」

 

 ギターケースの側面にあった出っ張りをひねると、カチリと音が聞こえればケースの先端部が外れ穴が現れる。まるで、銃口のような穴が。

 

「さぁ、鉛玉パーティだ!!!」

 

 ケースを構え、律刃はそんな叫びとともにグリップにある引き金を引いた。

 

 ガガガガガガガガガッ!!! 

 

 けたたましい銃撃音。ギターケースの先端からは激しいノズルフラッシュが生まれ、側面からは大量の空薬莢が排出される。

 

「「えぇええぇえ!!?」」

 

「ヒャッハァ!! 汚物は消毒だァ!!」

 

 千束とたきなは目を見開き、驚愕の声を上げる。

 打ち出された弾丸は見事に敵や車に突き刺さるが、血しぶきの代わりに赤い塗料が舞うのが見えたことからソレらは千束のものと同じ非殺傷弾というのが分かる。

 

「撃たせっかよ!!」

 

「なぁ!?」

 

 ロケットランチャーを構える男を見つけた律刃は銃口をソイツにむけ、その体に非殺傷弾を叩き込んだ。

 その男はバランスを崩したまま引き金を引いてしまい、発射された弾頭は律刃のすぐ側を通り過ぎていったかと思えば、乗り込もうとしていた真島の車へと着弾。激しい音を立てて爆発した。

 

「ヒュ〜、たーまやー」

 

 背後の爆煙を見ながら律刃は口笛を吹き、懐から煙草を取り出し口に咥えるとマッチを擦り火をつけてゆっくりと煙を吐き出すのだった。

 

 

 〇

 

「いて、いてててて!!」

 

「ほーら、じっとして!」

 

 なんとか帰ってきた一同。特に怪我の酷い律刃は上半身を晒し、千束にあちこち手当をされていた。

 そして床には正座をさせられているクルミとソレを仁王立ちで睨んでるたきな。

 

「はい、これでOK!」

 

「いてぇ!? 叩く必要は無いだろ!」

 

「はいはい。それでー?」

 

「つまり、クルミ(こいつ)が原因ってこと!」

 

「なんだよぅ、助けてやっただろう!?」

 

 ミズキの言葉に抗議するクルミ。

 

「たきな〜、あんたは被害者なんだからいったれいったれ!」

 

「どうすんの〜、たきな〜? やっちまうか〜?」

 

「千束〜・・・・り、律刃もなんか言って・・・・・・なんでもないです。ごめんなさい」

 

「まだなんも言ってねぇぞ? つか、謝るのは俺じゃないだろクルミ」

 

「・・・・ごめん、たきな!」

 

 律刃の言葉にクルミはたきなに対して土下座を行う。

 たきなはクルミの謝罪を受け、無言で見ていたがすぐに柔らかく微笑んだ。

 

「あれは私の行動の結果でクルミのせいじゃありません。でも、アイツらは捕まえます。最後まで協力してもらいます!」

 

 その言葉に千束とミカが微笑み、律刃は呆れたように肩を竦める。ミズキはやれやれと言ったように首を振る。

 

「もちろんだ! ・・・それと、早速だが奴の名前がわかったぞ」

 

 クルミはタブレットを取りだし、5人は画面をのぞき込む。

 

『真島さぁ〜ん!』

 

「真島さぁ〜んってね」

 

 

 

 

「・・・・・まじキッつい」

 

「頬骨骨折、内出血多数、肩の切り傷に肋の罅に肉離れ。数え上げたらまだ増える。良くもまぁ、こんだけ痛めつけたもんだね?」

 

「ッス。すいません、迷惑かけて」

 

 ベッドに寝そべり、呆れたように自分を見つめる山岸女医に律刃はバツが悪そうに頬をかく。

 近くのパイプ椅子には手当をされた千束と付き添いのたきなが座っていた。

 

「別にいいのよ。怪我人や病人を治すのが医者の仕事だからな。けど、暫くは安静にしなさいよ? いくらアンタみたいな人間離れした治癒能力をもっていても、重症をおったら治療に専念なさい」

 

「…………ッス」

 

「それにしても、アンタらが怪我をするなんて珍しいわね」

 

 律刃と千束を見て山岸女医は言う。

 

「千束の弱点は"目"ですね。律刃さんは身近な人ですか」

 

「いや、誰だって目は弱点だろ」

 

「…………誰だって大切な人を傷つけられるのは嫌だろ」

 

 たきなの言ったことに、2人が突っ込む。

 

「いいトリオじゃないアンタたち」

 

 3人の仲睦まじい様子に山岸は柔らかく微笑む。

 

「…………こんな猪娘らの手綱を握る身にもなってくださいよ」

 

「おぉん? なんだとコノヤロウ! 誰よりも猪なのは律刃でしょ〜! それと、嬉しそうにしたらどうなんだ〜コノコノ〜」

 

「肋はやめろっっっ…………!!」

 

「あ、ごめん!」

 

 千束につつかれ、思わず唸る律刃に千束は慌てて謝る。肋骨にヒビが入っているので、少し刺激を与えられたらかなり痛いのだ。

 

「…………それでさ、たきなも一緒にいれば安心だし暫く3人で同棲続けない?」

 

「…………ではジャンケンで千束が勝ったら続けましょう」

 

 たきなは言うと、律刃をチラリと見る。その視線を受けた律刃は肩をすくめてベッドへと体を沈みこませた。

 

「お、いいねー! 律刃もいいー?」

 

「お好きにどーぞ」

 

「よーし、律刃から許可も出たしやるぞ〜! 千束さんの無敗伝説がさらに続いちゃうなぁ! いくよ〜最初は───

 

「じゃんけん!!!」

 

「うぇぁあぁぁあ!!?」

 

「ポン!!」

 

 千束の言葉を遮り、食い気味に大声で叫ぶたきな。突然の大声に驚いた千束は咄嗟にパーをだす。たきなが出したのはチョキだった。

 

「うわぁぁあ!!? 負けたぁぁあ!!」

 

「〜〜〜!! よっし、よしよし、よし!」

 

「残念だったな千束」

 

「り、律刃! たきなにバラしたでしょ!?」

 

「大人気なくズルするお前が悪いんだろ?」

 

「ぐぬぬぬゆぬぅ〜!!」

 

 律刃の正論に黙り込む千束。ようやく勝てて嬉しいたきなを横目に律刃は懐から飴を取り出し、口へと運ぶのだった。

 

 

 〇

 

 

「チッ、せっかくの機会だったのにあのリコリス…………!!」

 

 苛立たしげに悪態をつくフェイカー。

 

「12年前も殺せそうだったのに邪魔をされた。それも同じリコリスにだ!!」

 

 右手がコンクリートに叩きつけられ、血が飛び散る。

 

「クソ、クソクソクソクソッ!!」

 

 何度も何度も拳を叩きつけ、その度に血が飛び散り遂に拳が砕け常人なら叫ぶほどの怪我をおってもフェイカーは手を停めない。

 まるで何も感じてない(・・・・・・・)ように。

 数分にも及ぶ自傷行為が終わり、フェイカーは右手をだらりと下げる。しかし、その拳は見るも無惨な姿となっており皮膚は裂け、所々には筋肉の中に白い物体が見え隠れしていた。

 しかし、数秒後に異変が起こる。傷口の筋肉が盛り上がり、脈打ち凄まじい速度で修復を始めて行ったのだ。ジュクジュクと音をたてたかと思えば、右手は無傷のままにそこにはある。

 

「今度こそ、お前を殺すぞリッパー!!」

 

 風が強く吹き、フードが外れる。

 童顔な出で立ち。青みがかった紫の瞳。黒い髪。律刃と瓜二つの顔を憤怒にゆがめ、フェイカーは左の瞳が青く光らせながら怨嗟の声をあげるのだった。




律刃
17話にしてようやく刀を使った。
千束を殴られて激おこプンプン丸になったし、今度真島会ったら殺すと思ってる。
それはそうと千束が無事でよかった。
フェイカー?誰だお前

千束
本気で死ぬかと思ったけど、律刃に助けられて乙女メーターが跳ね上がった。

たきな
ふたりが無事でよかっと。それはそうと律刃と一緒に寝た(健全な意味で)
千束にじゃんけんで勝てて凄く嬉しい。

クルミ
だいたいこいつが原因。もし千束が死んでたらそれはもう酷いことになっていたので命拾いした。

真島
千束の厄介オタク。律刃に今度あったら殺すリストに入れられた。

ロボ太
不憫枠。頭のおかしいテロリストに神経をすり減らし、パワハラみたいなことをクライアントからされてる可哀想なやつ。でも、それはそうとやらかしたことはやらかした事なので律刃と遭遇したらもれなくぶっ血killされる。

フェイカー
律刃に対して並々ならぬ執着を抱いてる追っかけ。
尚、律刃は記憶にないしなんだてめー、気持ち悪いな。と思われてる。


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