リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る? 作:タロ芋
「はよーっす」
武器の入ったギターケースを片手に扉を開け、中へと入っていき朝の挨拶をすれば先にいた住人がそれへと返す。
「おはよう、律刃。千束は?」
和服姿の黒人男性、本名不明のナイスガイことミカがおり律刃は肩を竦めて答えた。
「2回ぐらい起こしたけどダメでしたね。まぁ、開店前には来ると思いますよ?」
「フッ、すっかり同居生活が板についているじゃないか律刃」
「勘弁してくださいよミカさん……。何が悲しくて小便臭いガキと同棲しなきゃいけないんすか。つか、いいんですか? 一応あいつあんたの教え子でしょうに。間違いが起きたらどうするんすか?」
「10年も過ごしていてよく言う。ほら、着替えて仕込みを手伝ってくれるか?」
「へぇい」
ミカに言われ、慣れた足取りで喫茶店"リコリコ"の店内を進みスタッフルームへと入り衣服を脱ぎ始めた。
姿見に映る自分の姿を見つめれば、何となく首から下げられたソレを摘む。才ある者に送られる梟を模したチャーム。
「……俺は俺の願いで生きる。他人から与えられた使命なんざクソ喰らえだ」
『自分のために生きなさい。私との最後の約束よ?』
握りしめ、かつての誓いを思い出しながら律刃は誰に聞かせるでもなく呟く。
「さて、今日も働くか」
顔を上げロッカーにあった自分の制服である青紫色の作務衣へと着替えて律刃は厨房へと向かうのであった。
「おはようございまーす」
慣れた手で仕込みを済ましていれば、間延びした声で店内に入ってくるのは亜麻色のゆるふわヘアーに眼鏡をかけた女"中原ミズキ"であった。
「おはよう」
「はよーさん」
入口に目を向けずに返せば、ミズキが顔を輝かせながら律刃へと語りかけた。
「今日も男前じゃない律刃〜。結婚しない?」
「悪いな。素直にタイプじゃないんだわ。ケツとタッパでかくなってから出直してくれ」
「畜生! あとセクハラだぞバッキャロー!」
「ブーメラン乙」
最低でも170後半は欲しい、何度目かも分からないやり取りを済まして準備を進める。
仕事がないためにのんびりと進めていけば、ふとミカが思い出したように2人へ告げた。
「そう言えば今日は新しいリコリスが入ってくるぞ。律刃は問題は無いだろうが……ミズキ、ちゃんとやるように」
「ちょっとー、それってどういう意味よ〜」
「へー、どんな子ですか?」
作務衣姿の律刃は作業の手を止めず、聞いてみればミカはざっくりと説明をしてくれた。ミズキはテレビに視線を向けたまま講義の声を上げるが当然としか言えない。
「命令違反で機関銃を乱射した子だ。名前は"井ノ上 たきな"」
「あー……。あの子か。赤服にいいの貰ってた」
彼はその教えてくれたことからつい最近のあの出来事を思い出した。そういえば、殴られそうな直前、目線があったような気がしていたがどうでもいいことだ。
律刃は新しく来るリコリスのことを思い浮かべ、1人呟く。
「まぁ、ここに来るんなら変人なんだろうな」
ミカ、ミズキ、自分、そして
「フッ、どんな子かはお前が見て確かめるといい。いずれお前たちと肩を並べるのだからな」
「まぁ、気楽にやりますよっと。かんせぇい」
そうして律刃は完成した和菓子をトレーに並べていき、出来に満足して微笑むと同時に勢いよく店の扉が開け放たれる。
「おっはよー! 律刃ァ! まぁた私を置いていったなぁ!?」
騒がしく店内に入ってくるのは自分が
「2回くらい起こしたのに起きずに寝てただろうがバカタレ」
げんなりとした様子で千束に向けて告げれば、千束は首を傾げる。
「あれ、そうだっけ?」
「そうだっつの。つか、朝飯食った後きちんと水につけといたか?」
「もちろん! あと美味しかったよ!」
「なら良し」
「かぁ〜! 朝からイチャコラしやがってよぉ!! 当てつけかぁコノヤロウ!」
「普通だろ?」
「普通だよね〜」
「ミカァ!! 二人がいじめるぅ!!」
「ハハハ、もう開店の時間だ。律刃、看板を外に出してくれ。千束は早く着替えなさい」
千束が来て一気に店内が騒々しくなるが、この時間は律刃にとっては嫌いではない。堅気とはいえない者達だが、この瞬間は何よりも変え難い事なのだと思いながら喫茶店リコリコはその扉を解放する。
◎
「ねぇ〜律刃ぁ〜。なんかいい感じに行き遅れてる男の子紹介してくんなァい? あとイケメン!」
「最後の注文さえなけりゃ幾らでも紹介できたんだが無理になったな。諦めろ」
「ぢくしょぉ〜!!」
居たとしても真昼間から酒をかっ食らうような女と交際してくれるような聖人がいるとは思えないが。現在、ミカは裏に周り千束は外へ買い出しへ。そうなれば、律刃はミズキの戯言を聞くだけの案山子に徹することになる。
「ここにも母となるべき才能が結婚という障害に阻まれているのよぅ! くぅ〜、不満だわー! 今すぐいい男を私に支援しなさ〜い!」
「ウンウン、ソウダナ-……ん?」
ミズキの戯言に相槌を打ってると、店の外に誰かが来たことを察知する。気配の消し方が上手く、堅気の人間ではないことが分かり僅かにそちらへと殺気を飛ばしてみる。
「外にいるのもなんだ。入ってきたらどうだい?」
そして、声をかけてみれば驚いたような雰囲気と間の後に店の扉がゆっくりと開かれる。頬に湿布を貼っているが10人に聞けば10人が綺麗と答える整った凛々しい顔立ち、つややかな黒髪、セカンドの証である青い制服の美少女がそこにはいた。
少女は一定の足音で店内を進み、カウンターの前に立てば凛々しくも可愛らしい声を出す。
「本日付で配属となりました。井ノ上たきなです」
よく通る声で名乗る少女、たきなを見て律刃は神妙な顔でじっと見つめた後に厳かな声で言うのだった。
「…………思ったよりもまともなのが来たな」
「張り倒しますよ?」
「済まない。ちょっとここって変人が多くてな」
「来たか、たきな」
具体的に言えばミズキとか千束とか。律刃の言葉に真顔で返すたきなに律刃は謝罪を行えば、いつの間にか近くにいたミカがテレビを消して彼女を歓迎した。
ミズキはようやく合点がいったのか、手を打って言い放つ。
「あ〜! DAをクビになったていうリコリスか!」
「クビじゃないです」
初対面で言うにはあまりにもあんまりなセリフに思わず律刃は額へと手を当てて呆れ果て、それに食い気味に否定するたきなと苦笑いをするミカ。そうしてると、たきなはこちらへと向き直り口を開いた。
「あそこで気が付かれるとは思ってもいませんでした」
「そいつはどうも。気配を消す時のコツは完全に消そうとするんじゃなくて周囲に紛れ込むようにやるのがコツだぜお嬢ちゃん」
「了解しました。転属は本意ではありませんが、東京で1番のリコリスから学べる機会を得れて光栄です。この現場で自分を高めて本部への復帰を果たしたいと思います。千束さんよろしくお願いします」
言いながらたきながミズキに視線を向けだが、残念ながらそこで酒を飲んでる残念美女は人違いだ。
「それは千束ではない」
「それっていうな」
ミカが訂正する。この中で女なのがミズキだけだから仕方ないとはいえなくもない。すると、たきなはミカのほうへ驚いたように目を向けた。
「いや、そのおっさんでもねーよ!」
「! まさか!!」
「ソイツでもないわ!!」
ははーん、さてはコイツ変人だな? ミズキの渾身のツッコミを受けてこちらを見るたきなへ律刃は思う。ミカが自己紹介と共に握手を交したところで各々が名乗り出した。
「彼女はミズキ。元DAで所属は情報部だ」
普段の行動でだいぶアレな印象があるが、意外にもミズキは優秀なのが世界の不思議なところだ。
「"元"?」
「嫌気がさしたのよ、孤児を集めてあんたらリコリスみたいな殺し屋作ってるきもい組織にね」
言い方はともかく、ミズキにはおもうところがあったらしい。
「彼は"
「宜しく」
「宜しくお願いします竜胆さん。それで、千束さんは?」
「あいつなら今は買い出しに行ってるよ。もう少しで帰ってくると思うからまぁ席に───
律刃がたきなに席を進めようと最後までいい負えぬうちに、外が騒がしくなり始める。どうやら、この店の看板娘のお帰りらしい。
「先生たいへ〜ん! 食べモグの口コミでこの店のホールスタッフがかわいいって、これ私のことだよね!?」
「私のことだよ!!」
「「冗談は顔だけにしろよ酔っぱらい」」
「あ、ついでに言うならイケメンの厨房スタッフもいるって写真付きで書いてあったよー。良かったね律刃〜。あんなに可愛かったのがこんなに凛々しくなってお姉ちゃん嬉しい〜!」
「暗殺者が目立ってどうすんだよ……。つか、年齢的にはお前が妹みたいなもんだろ?」
一気に騒々しくなり、千束はいつものメンツに知らない顔があることに気がついた。
「あら? リコリスだね。私というものがいながら二股だなんて!! 酷いわ律刃! 私のことは遊びだったのね!?」
「んなわけあるか! 俺はもっと全体的に大きいの好みだっつの」
「え、つまり私?」
「シャラップ!! お前は引っ込んでろアル中!」
どうしてこうも女連中の頭の中はおめでたいのか? 連続して押し寄せるボケの連撃に律刃は思わず天を仰ぎみた。神はどうやら自分のことが嫌いらしい。
「例のリコリスだ。話しただろう? 千束」
「え!?」
「お前も忘れてたのかよ」
「今日からお互い相棒だ。仲良くしろ」
どうしてこうもあんぽんたんが多いのか、律刃がツッコミを入れるが聞く耳を持たない千束はミカの言ったことに表情を喜色に染めていく。
「この子がぁ〜!? よろしく相棒! 千束で〜す」
「井ノ上たきなです。よろし──「たきな! 初めましてよね?」──はい……去年京都から転属になったばかりの
──「ほ〜! 転属組ぃ! 優秀なんだね。歳は?」──16で──「ほぉ! 私がひとつお姉ちゃんか〜! でも"さん"はいらないからね! ち・さ・とでおk〜?」──はあ……」
「それまでにしてやれ千束。井ノ上がお前の押しに困惑してるぞ?」
「あぁん! もっとお話しようよ〜!! 律刃のいけずぅ〜」
「変な猫なで声出すんじゃない」
鳥肌が立っただろこの野郎。
「あ、ところで私がたきなと組むと律刃が1人だけどどうするの先生?」
「律刃は優秀だからソロでも大丈夫だろう」
「だ、そうだ」
「そうなんだ…………律刃ってばぼっちなんだね?」
「喜べ。今日の晩飯は麻婆豆腐な」
心底哀れみを込めて言い放ったこのガキにキレ気味に言う。大人気ない? 知ったことか。
「ちょ! それはさすがに酷くない!? 堪忍してくださいよ〜律刃さぁ〜ん!! あんな劇物食べたら私死んじゃう!!」
「なんでだよ麻婆豆腐美味いだろ麻婆豆腐」
「あんな食べ物通り越して最早兵器のどこに美味しさなんてあるのさ〜!」
「ハッ! お子ちゃま舌はこれだから! ミカさんミズキ! 美味いよな俺の麻婆豆腐?」
「「…………」」
律刃の視線にそっと2人は視線を逸らし、沈黙してしまう。過去に彼特製の麻婆豆腐を振舞ったことがあるのだが、その時に3人は暫く寝込みリコリコが休業を余儀なくされたことは苦い記憶として刻み込まれている。
「あ、そういえばこの前のアレ! 凄かったね〜! 顔のそれは名誉の負傷?」
千束はたきなの頬の湿布を指摘すれば、僅かにたきなは気まずい顔をしながら視線を横に向ける。
「いえ……」
「チームリーダーの赤服にやられたんだよ。見てたけどいいのが入ってたな」
「え、誰に?」
「確か…………誰だっけか。お前とよく喧嘩してた子だよ。目付きの鋭い」
律刃の話の内容に千束は記憶の引き出しを開け始め、その特徴に合致する人物を探さ始め、合点が言った様子で張り上げた。
「フキかぁ〜!!」
案の定、千束はその少女に電凸したのは言うまでもない。