リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る?   作:タロ芋

20 / 27
お気に入り700突破!!やったね!
感謝感激雨あられと思いながら、気温の高低差に死にかけながらの初投稿です。
どうでもいいですけど、男性が女装して印象がガラリと変わるの良くない?いや、どうでもいいんですけどね。




20

 その後、フキはオカワリをせがむサクラの首根っこを掴んでDAへ帰っていくのを見送り(律儀に団子代を払いに1度、フキは戻ってきた)、その後は特に問題なくリコリコは営業を終える。

 

「ハラヘッター」

 

 店内の清掃を終え、カウンターに座っていたミズキがふとそんなことを零す。

 

「おうどんでも湯掻きます?」

 

「お、いいねぇ」

 

「食べマース!」

 

 夕ご飯を食べていてもおかしくない時間帯。たきなの提案に千束と律刃は賛同する。

 そんな折、ミカは少しだけ申し訳なさそうにしながら口を開いた。

 

「あー、悪いが私は外出する」

 

「あら、そう?」

 

「行ってらっしゃいミカさん」

 

「戸締りを頼むよ?」

 

 そして、ミカは言えば外へと出ていく。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 彼がいなくなったのを確認。残った面々は慌ただしくミカを追跡するための準備をし始めれば、

 

「───言い忘れていたが、ガスの元栓……どうした?」

 

 そんな言葉と共にミカが顔を覗かせるが、首を傾げ尋ねる。

 クルミは何度もジャンプし、ミズキは体操。千束とたきなは鞄を覗いて何かを漁り、律刃はカウンターの戸棚を開け閉めしている。

 誰がどう見ても不信がり、何してんだ? となるのは当然である。

 

「イヤァ……うどんはどこかなーっと? 律刃知らなーい?」

 

「アッレー、ミツカンネー?」

 

「ここにうどんはありませんでしたー」

 

「あ、ない……かぁ〜?」

 

「うどんなら納戸だぞ」

 

「そ、そうだったそうだった! ミカさんあざーっす!!」

 

 もう一度、ガスの元栓を閉めることとうどんの在処を告げれば今度こそミカは扉を閉めて去るのだった。

 律刃は聞き耳を立て、完全に気配が遠ざかっていくのを確認しOKのサインを出せば全員はその場で脱力する。

 

『た、助かった……』

 

 一同の頭にはそんな事な浮かび、そそくさと準備に入る。

 

 千束は大胆なデザインのドレスに身を包み、たきなはスーツを。その後に律刃が更衣室に入り潜入のための変装へ着替えた。

 

「どうよ?」

 

 更衣室から出たきた律刃はそんな声とともに、ヒラリと着物の袖を揺らす。

 スーツや作務衣と違い、普段では見られない女物の和服姿の律刃を見た千束とたきなの2人は思わずと言った様子で感嘆の息を漏らした

 

「「わぁ…………」」

 

 背中まで伸ばした黒髪を編み、団子状にまとめ。顔には淡い化粧が施されていた。

 体格を隠すために着た和服も実に似合っており、その佇まいも併せて古き良き大和撫子然に彼が男だと言うのを忘れ2人は目を奪われた。

 

「似合ってるじゃないか」

 

「様になってんじゃない律刃〜」

 

「男としちゃ、女の格好が似合うのは複雑なんだがね……」

 

 2人がフリーズしている横でクルミとミズキが愉快そうにしながら律刃の格好を褒めれば、当人は複雑そうな顔で腕を組んで唸る。こら、写真撮るんじゃない。

 

「……ハッ! 自然体すぎて流されそうになった! なんで律刃女装してんの!?」

 

 ようやく戻ってきた千束が当然のように突っ込めば、同じく戻ってきたたきながコクコクと頷く。

 聞かれた律刃は小股で歩くことしか出来ない着物に違和感があるのか、落ち着かなさそうにしながらも千束とたきなの方に向いて答える。

 

「なんでって……。変装ならバレにくいのがいいだろ?」

 

「それはそうですが、声でバレないのですか?」

 

「その不安は最もだな。ちょいまち……」

 

「?」

 

 律刃は右手を喉に添えれば、何度か咳払いを行えばあー、とかいー、とか声を出した後に頷けば妖しく微笑み、口を袖で隠しながらクスクスと笑って胡乱げな視線を向ける千束とたきなに語りかけた。

 

これなら問題あらへんやろ? 潜入任務には声を変えるのんはお手の物や。千束はん、たきなはん。お手並み拝見させてもらうけど。かわへんどすか?」

 

「「!!?」」

 

 少し声質は低いが、確かに律刃の喉からは女性の声が出力された。オマケに京都弁である。

 まさかの返答に2人は再びフリーズした。まるで蕩けるような声と妖しい雰囲気に当てられたのか。

 

「「おお〜……」」

 

 ミズキとクルミは拍手を送り、律刃は雅にお辞儀する。

 

「と、まぁこんな感じだから問題ないはず…………どした?」

 

 千束とたきなに振り返れば、2人は熱に浮かされたようにポーっとしており律刃は小首を傾げて聞けば聞き取れはするが、やけにか細い声で千束は答えてくる。

 

「……なんでもないでしゅ」

 

「……です」

 

「そうか? ならいいが……。ミズキ、車頼む」

 

「はいよー」

 

 律刃はそういい、ミズキが車を撮ってくるのを見送ればクルミと雑談に興じ始めた。

 

「あの千束……」

 

「なに、たきな……」

 

「律刃さんのさっきの声聞いてどう思いました?」

 

「……ちょっと、うん。ヤバいね。たきなは?」

 

「……ヤバいですね(語彙力)」

 

 先程の律刃の声ははっきりいって思春期真っ只中の女子2人には刺激がどちゃクソ強かった。

 大人の女ではミズキも入るのだが、あれはギャグ枠だ。

 千束はもともとボキャ貧であったが、たきなも同じくらい語彙力が低下しているのだから、先程のそれの破壊力は推して知るべきだ。

 あともう少しあの声で話しかけられてたらいたいけな少女ふたりの性癖がねじ曲がっていただろう。

 

 だが、タダでは転ばないのが喫茶リコリコの看板娘(自称)の千束である。たきなの腕を引っ張り、律刃に声をかける。

 

「り、律刃!」

 

「どした?」

 

「どうよ! 私たち!?」

 

「……どう、でしょうか?」

 

 胸を反らせ、右手を腰に当て左手を胸へ添えればドヤ顔で千束は律刃へと見せびらかす。

 たきなは僅かに照れくさそうにしつつ、律刃へお披露目をふる。

 

 何度か目を瞬かせつつ律刃は淡く微笑めば彼女たちに向けてなんの含みもない賞賛をなげかけるのだった。

 

「ああ、似合ってるよ。うん、千束は綺麗だしたきなは凛々しさに磨きがかかってるな」

 

「……そ、そっか〜。綺麗か〜! えへ、えへへへへへ〜」

 

「あ、ありがとう……ござい、ます」

 

 純粋な褒め言葉に2人は照れれば、いつの間にか戻ってきていたミズキが心底腹立たしいとばかりに舌を打つ。

 

「……ケッ、見せつけやがって爆ぜろっての」

 

「いつの間に戻ってたんだミズキ?」

 

「ついさっきよ!」

 

「そうか。あと僻むなよ」

 

「僻んでねーし! アンタたち! 時間押してんだからはよしなさい!!」

 

 クルミの発言にミズキはガー、と吠えて反論をするが目の前でイチャイチャされたらそうなるのも無理はないだろう。

 

「っと、ミズキもああ行ってるし行くとしようか」

 

「おうとも!」

 

「はい」

 

 千束を挟んでの記念撮影を終え、3人は車へと乗り込むのだった。

 

 

「そろそろだぞ。準備できたか3人とも?」

 

「はい」「はいはーい」「おう」

 

 クルミからの問いかけに、たきな、千束、律刃は答える。

 千束が梟のチャームを首にかけていたところ、偶然目に着いたたきなが今朝のニュースを口にする。

 

「ソレ、今朝のテレビで……。なんか金メダルとってました」

 

「あ、そーう? 私にもそういう才能があっちゃうのかなー?」

 

「弾丸避けるとか誰にもできることじゃ無いですけど?」

 

「ありゃ勘だよ。ソレみたいに弾より速く動けたらメダル取れるんだけど〜」

 

「人のことソレって言うんじゃありません」

 

 千束の言ったことに、律刃は左手に持ったコンパクトミラーを覗きながら唇をリップをつけた右手の薬指でなぞりながら突っ込む。

 傍から見れば化粧直しをしてる女にしか見えないと突っ込んではいけない。

 

「そこはアランさんの手違いだな」

 

「なんちゅうこと言うんだ貴様!」

 

「そこを右だ」

 

「コホン。まぁ、メダルを取れなくても誰かの役には立てるでしょ。DAに戻されてる場合じゃないのよ」

 

 そして、目的地へと到着した。

 

「おー、やべぇなぁこの雰囲気!」

 

「まさに隠れ家って感じだ」

 

「ここでしょうか?」

 

「ビンゴだ」

 

 建物の中を歩き、たきなが壁の1部を触る。すると、壁の1部から数字を入力する端末が中から現れた。

 

「わー、すげぇ!」

 

 それを見て千束が目を輝かせ、たきなは予めクルミから伝えられていた番号を手早く入力。軽い電子音と共に近くにあった扉がゆっくりと開いた。

 

「通りましたね」

 

「流石ウォールナット!」

 

「じゃ、行くとするか?」

 

「だね。───ミッションスタート」

 

 千束の合図に、律刃の雰囲気は一変すれば歩き方も男のものから女のものへと変化し3人は受付の元へと歩いていく。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。恐れ入りますが、お名前をお聞かせ願いますか?」

 

 受付の問にたきなが胸ポケットから1枚のカードを取りだし、会員証であるソレを受付へと渡す。

 

「山葵のり子」

 

「蒲焼太郎」

 

こざくら餅子さかい。宜しゅう

 

 3人が偽名を名乗れば、耳につけたインカムからクルミのバカ笑いが聞こえてくるが、それを無視して受付の確認が終わるまで待つ。

 

「……確認しました。蒲焼太郎様、ご案内致します」

 

 受付はそう言い、3人を案内する。

 

ほな、行きましょか。エスコート、頼みはるわ旦那はん? 

 

「……ええ。任せてください」

 

 律刃はたきなの腕に自身の腕を絡ませて頼めば、たきなは平常心を保って小さく頷く。

 

「……私もエスコートを頼めるかしらぁ太郎さん?」

 

「ちょ、ちさ……ンンッ! 仕方ない子だな紀子は」

 

 すると、何を思ったかニヤリと笑った千束がもう片方のたきなの腕に自分の腕を絡ませればそんなことを言ってくる。たきなはソレを注意しようとするが、ここで変に怪しまれてはいけないと思い受け入れて歩き出すのだった。余談だが、律刃からはいい匂いがしたとかなんとか。

 

 

 指定した席にたどり着き、3人が座ればそれぞれのグラスにシャンパンが注がれる。

 

「では、ごゆっくりお寛ぎください」

 

案内おおきに〜

 

 店員に向けて律刃が微笑みながら手を振れば、それに会釈をして店員は去っていく。

 

「……落ち着いた雰囲気ですね」

 

「……だねー。大人って感じ。わっ、水槽ある」

 

あんまりキョロキョロしてはると、おのぼりさんにみられるで? 

 

「「……はい」」

 

 律刃はやんわりと目立つマネはするなと告げれば、2人は小さく頷いた。

 

「……それにしても、このお酒どうしましょうか?」

 

 少しして、たきなが机に置かれたグラスを見て困ったように眉根を寄せる。

 拳銃をぶっぱなしたり、車を運転したりしてる癖して今更というがやったことの無いことをするというのはなかなかに勇気がいるものなのだ。

 

「……そうだね。全員未成年だし」

 

「……え? どういことですか?」

 

 千束も同意するように言えば、たきなは困惑した。

 

「あれ言ってなかった? 律刃って19歳なんだよ〜。もう少しで20歳になるけど」

 

「この感覚、デジャブを感じます……」

 

 また、初耳情報である。ずっと成人してると思っていた律刃がまさかの未成年。たきなは何度目かも分からない驚きに目眩がしてきた。

 

 たきなが空を仰いでるのを横に、律刃が躊躇いもなくシャンパングラスを手に取れば、何度かグラスを回しジャパンの匂いを嗅いだ。

 その後に口へと運び、傾かせると透明な液体が彼の口の中へと流れていく。

 

「……うん、3種のブドウの個性がバランスよく調和し、フルーティーな輝き、魅惑的な味わい、エレガントな熟成が感じられるな。実に、不味い」

 

「いや、不味いんかい」

 

「酒嫌いなんだもん」

 

 舌の上でシャンパンを転がし、その数秒後に飲み込めば微笑みを浮かべて感想を零せば千束が突っ込み、空となったグラスを机に置いて律刃は肩をすくめる。

 

「お前らの分も適当に俺が処理しとくから置いとけ」

 

「はいはーい。相変わず律刃ってお酒不味そうに飲むよね」

 

「酔えねぇもん飲んだって仕方ないだろ?」

 

「そういえば、この前ミズキがネタで買ってきてたスピリタス5本くらい一気してても平気だったね」

 

「す、スピ……? 肝臓どうなってるんですか?」

 

 スピリタスと言えばアルコール度数が90を超えるという酒というよりほぼエタノールのような酒だ。ほんの少し飲めば人によっては急性アルコール中毒になるような劇物を5本。それも一気とは蟒蛇にも程がある。

 律刃の酒豪っぷりにたきなが戦慄しつつ、酒を処理しながら適当に時間を潰していればカウンター席にミカがやってくる。

 

「店長来ましたよ?」

 

「それでね、律刃ってばにゃんこ達に囲まれてオロオロしてぇ……わぁ、先生なんかめっちゃ決めてんだけど」

 

「酒ってまっずい……。マジモンの逢引かやっぱり?」

 

 3人の視線の先には普段の着物ではなく、黒いシャツの上にシミ一つない白のスーツジャケットにネックレスを掛けたお洒落な格好をしたミカがいた。

 どこからどう見ても気合いのいりまくったコーデのミカに千束と律刃の2人は驚きを隠せなかった。

 

『ほら、やっぱりそうだ。楠木が来る前に撤退した方がいい』

 

『いや、だって楠木は───』

 

「「女性()だし」」

 

「『───え?』」

 

 ミズキから引き継ぐようにボヤけば、たきなとクルミが驚いた顔を浮かべてそれぞれの顔を見る。

 

「お、来た!」

 

「誰か来ましたね」

 

「……あれ、あの人って?」

 

「ヨシさん!?」

 

 ミカの約束の相手、ソレは吉松シンジであった。

 

『たぁ〜……、こりゃ逢引だな』

 

「『え?』」

 

 千束、律刃、ミズキの反応に状況の読み込めないたきなとクルミは困惑した様子を見せ、千束は額へと手を当てて顔を伏せる。

 

「あちゃ〜……。私としたことが」

 

『まて、ミカはそう(・・)なのか!? お前ら、それを先に言えよー』

 

「あとでいくらでも謝ってやるから今はさっさとお暇するぞ。ほら、邪魔じゃ悪いから静かに行くぞ?」

 

「ほいほーい」

 

「え、あ。は、はい?」

 

 クルミは事情が呑み込めたようだが、たきなは何が何だかといった様子のまま席を立てばミカ達にバレないようにコソコソと移動を始める。

 

「愛のカタチっていうのは様々なんだよ、たきな」

 

「律刃さんと千束の関係みたいにですか?」

 

「「いきなり何言い出すのかね君は……!?」」

 

 突然のたきなのボケに千束と律刃は突っ込むが、慌てて口を抑えミカとシンジを見る。

 2人はグラスを乾杯し合ってるところから、どうやらバレていないらしい。

 

「ンンッ……、こっちこっち!」

 

「お店の常連なんですから、挨拶をしても……」

 

「いいから! 後で教えたげるから!」

 

「早くお前ら行けって……!」

 

 先頭を千束、真ん中にたきな、後方に律刃という順でインテリアとして置かれていた植物に隠れて出口に向かっていた時、シンジからの口から出た言葉が千束の足を止めた。

 

「手術後、私は君にあの子を託した。その意味を忘れたのかミカ?」

 

「…………え?」

 

「んむ……!? ちょっと、千束!?」

 

「何止まってるだ……!? 早く行けって……!」

 

 たきなと律刃が急かす声を出すが、千束の耳にはシンジの声しか聞こえなかった。その言葉の意味を千束が理解してしまったからだ。

 

「何のために、千束を救ったと思っている? あの心臓だって、アランの才能の結晶なんだぞ?」

 

「……ヨシさん、なの?」

 

「千束! 出ないんですか……!?」

 

「ヨシさんだよ!」

 

「ちょっと、千束!?」

 

「おい、バカ、何して……!?」

 

 千束はそう言ってミカとシンジの元へと向かってしまう。たきなと律刃の2人が引き留めようとするが、興奮した彼女は制止を振り切り2人に声を、話をかけてしまう。

 

「ヨシさん、なの……?」

 

「ッ!? 千束!?」

 

 聞こえてくるわけのない声が聞こえ、ミカは振り返り驚愕に目を見開く。シンジも僅かに驚いた後に、ミカを睨んだ。

 

「ミカ……」

 

「いや、違うッ!」

 

 ただ、間が悪かった。陳腐な表現になるがそうとしかいえなかった。

 ミカにはなんの落ち度はない。ただ、偶然が重なりこうなった。それだけなのだ。

 

「ごめんなさい! 先生のメールをうっかり見ちゃって……」

 

「司令と会うのかと」

 

「すみませんミカさん……。俺が止めるべきだったのに……」

 

「お前たち…………」

 

 目を伏せて心の底から謝罪をする3人を見て、悪気があったのではないとミカとシンジは悟る。

 

「でも……今の話。ちょっとだけ、ちょっとだけヨシさんと話をさせて?」

 

 千束はミカへ頼み、吉松シンジへと向き直る。

 

「なにかな?」

 

 シンジは視線を千束とは合わせず、カウンターへと体を直す。

 律刃はここからは自分たちはおじゃま虫になるだろうと悟った。

 

「悪いけど、俺たちは先に出てるよ」

 

「すみません、後はどうぞ」

 

「うん、ごめんね律刃、たきな」

 

「じゃあ、あとはゆっくり話せよ」

 

 律刃は最後に千束の肩を叩き、たきなを連れてバーを出ていく。

 

「あ、すみません……。吉松さん、の方がいいか。ありがとうございました────」

 

 背後から聞こえる千束の感謝の声。2人は何も言わず、通路を進みエレベーターへと入る。

 

「千束の思っていた人が出会えて良かったですね」

 

「ん、……そうだな〜」

 

 たきなが言えば、エレベーターから見える外の景色をぼんやりと見つめていた律刃が間延びした声で返した。

 

「? なんだか、嬉しそうじゃないですね律刃さん」

 

「そう見える……?」

 

「……はい」

 

 律刃からの問にたきなは頷けば、景色を見ていた律刃の肩が小刻みに震える。どうやら、笑っているようだ。

 

「たきなってさ。なんのために生きてる?」

 

「唐突ですね。なんのために生きる……ですか?」

 

「そ」

 

 こちらを見ずに聞いてきた律刃にたきなは面食らうが、なんて答えるべきか考えてみたが直ぐに首を横へ振り答える。

 

「……ダメですね。分かりません」

 

「だろうな。それでいいんだよ」

 

「はぁ……」

 

 律刃の言っていることの意味が理解できず、たきなは首を傾げることしかできない。

 

『人ってさ。誰かから与えられた使命のために生きるなんてバカみたいでしょ? 

 それじゃあまるで人形みたいじゃん。人は自分のしたいこと。心のそこからそうでありたいと願って、そのために生きれば初めて人は生きてるっていえるんだよ。

 だから存分に頭を捻って悩んで考えて不器用に生きてみな律刃』

 

 綺麗な夕焼けを見つめ、いつの日か少女は心無い機械に教えた。

 

「……俺は自分の心に従ってるよ撫子」

 

 千束の為なら自分は彼女の盾になろう。

 その魔の手を伸ばす存在の首筋に牙を突き立て食いちぎろう。

 彼女の忘れ形見、それを守るためなら自分は喜んで鬼と成ろう。

 

 その後、たきなはエントランスで待ち律刃は一服をするために外へ出ていれば、吉松シンジが建物の中から出てくる。

 

「君は……竜胆律刃くん、だね? その格好では気が付かなかったよ」

 

「ええ、はい。変装のためにって感じで……っと、すみません、消しますね」

 

 律刃が煙草を消そうとすれば、シンジをそれを制止して彼の隣に立つ。

 

「いや、そのままで構わないよ。……私にも貰えるかな?」

 

「構いませんよ吉松さん。どうぞ」

 

 律刃は袖の中に仕舞っていた金属製のシガーケースを取り出せば、蓋を開いてシンジに差し出す。

 等間隔に並んだ煙草のうちシンジは1本取り出すと、律刃はマッチを擦りシンジの咥えたソレに火をつける。

 

「甘い……? それにこの舌触りは……。ペーパーと煙草葉(シャグ)はリコリス、甘草だね?」

 

「ええ。市販だと売ってないので自作です」

 

「いい腕だ律刃くん」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

 シンジからの賞賛に微笑み、2人は暫し無言で紫煙をくゆらせた。

 口火を最初に切ったのは律刃だった。

 

「吉松さん」

 

「なんだい?」

 

「アイツを……、千束を助けてくれありがとうございます」

 

「……何度も言うようだが、私にはそれをやったと言うことは出来ないんだよ」

 

「それでも、です。俺は貴方に感謝をしてもしきれない。本当に、千束を、彼女をありがとうございます」

 

 律刃はシンジとは目線を合わせず、律刃は感謝の念を伝える。

 

「……律刃くん」

 

「はい」

 

「千束の居場所がここではないことは君ならわかっているはずだろう? 

 ……リッパーと呼ばれた君ならば」

 

「……千束の使命、ですか?」

 

「────」

 

 無言は肯定と受けとり、律刃は壁から背を離せばシンジを見据えて右手を掲げる。

 

「俺は化け物だ。俺の手ならいくらでも汚れてもいい。けど、千束は……あの子は手を汚すには余りにも優しすぎる。

 それでも、貴方がアイツをそうさせるのなら俺は……、吉松さん。貴方を、アランを俺の全てを使ってでも止めさせてもらう」

 

「そう、か……。君はそう来るというんだね」

 

「ええ。俺の恩人に報いるために。彼女の忘れ形見を守るために俺はここに居ます」

 

 微笑み、律刃は告げる。

 シンジは僅かに眉根を寄せれば、煙草を握り潰して律刃の肩を叩き傍を通り抜けた。

 

「煙草、美味しかったよ律刃くん。では、また」

 

「吸いたくなったら何時でもリコリコに来てください。千束が喜ぶんで」

 

 律刃からの声にシンジは片手を上げて答え、迎えに来ていた車に乗り込む。

 走り出した車のテールランプを見つめ、律刃はそれが見えなくなるまで見送った。

 

 

 〇

 

 

 無事帰宅し、遅めの食事もとって風呂を終えてさぁ寝ようといったところ、律刃はなんともいない顔でソファに寝そべり、自分の胸元に顔を埋めるひっつき虫の対処に困っていた。

 

「なぁ、千束。元気出せよ?」

 

「むぁ〜……!」

 

「ほら、明日も仕事だから寝ようぜ?」

 

「んぼぼぉぼぼぉ〜……!!」

 

「何言ってっかわかんねぇ」

 

 帰宅してからずっとこの調子の千束に律刃はどうすりゃええねんと思う。

 殺しの技術は学んでいても、こうした場合の対処の仕方なんぞ全く知りもしないのだ。

 一日で知るにはあまりにも大きすぎる情報。自分の恩人が店の常連だったなんて予想もできない。

 

 感謝を伝えたかったのに袖にされてしまっては仕方ないのだろうが。

 

「(困ったなぁ。こうなって嬉しい俺がいるのに困惑を隠せねぇや)」

 

 自分に甘えてくる千束に愛しいという感情を抱いてる自分に律刃は自己嫌悪を覚える。

 

「(ほんと、人間らしくなったよな俺は……)」

 

 思い出すのは真っ白な天井と壁に囲まれた四角い部屋。その中心でナイフを片手に頭からつま先まで血で真っ赤に染めた幼き自分の姿。

 

「(俺はこんな資格なんてないのにな)」

 

 小さな背を抱くことも出来ず、かといって振り払うことも出来ない己の弱さに少年はただ宙を仰ぐ。

 

「(撫子、俺は……)」




律刃
千束を救った相手、シンジに大してジェラシーを覚えていた無自覚系執着強め面倒くさ主人公。
女装には対して抵抗ないし、もし千束が頼めば普通にやるしむしろ喜んでやる。
なお、理由としてはリリベルの頃に潜入暗殺任務のために教えられたのと、上司の慰安(意味深)任務のための模様。
声質も変えることできCVイメージは酒呑童子を演じてる悠木碧さん。
ついでにスピリタス5本を一気してもシラフのままという恐るべき酒豪。なお、酒は風味が苦手なので嫌い。あと酔えないので。

千束
自分を救ってくれた人がまさかの相手に驚いているし、律刃の女装に脳が破壊されかけた。
多分、律刃にあれで迫られてたら「お姉様!」って言ってたかも。

たきな
千束の恩人が見つかってよかったが、それはそうと律刃に性癖がまた歪まされそうになった。



貴方の感想、評価がモチベになります。
誤字脱字、毎度ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。