リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る? 作:タロ芋
『律刃、そっち逃げたー!』
「りょーかいっと。来たか」
作戦通り、自分の待ち構えていた所にやってきた男二人を見て律刃が浅く笑えば。
強面の男たちが怒鳴り散らかし、律刃に対してピリついた殺意を向ける。
「なんだテメェ!」
「どかねぇとぶっ殺すぞ!」
それに対し、律刃は馬鹿にするような表情を浮かべれば緩やかに右手を前に、左手を曲げ腰下へと運ぶ。
「あんまり強い言葉を言うなよ。弱く見えるぜ?」
「「……ッ!!」」
誰が聞いても安い挑発といえるその言葉に、沸点の低い男たちは血管を浮き上がらせ手に持った銃を構えた。
だが、
「フッ……!!」
短い気合いを零し、圧力を込めてコンクリートの地面を踏み抜けば、律刃の体がぶれる。
「なぁっ!?」
相手からすれば突然、目の前に律刃が現れたように見えただろう。
驚愕に顔を染める男は迎撃をしようと銃を構えるが、既に律刃は懐の中へと飛び込んでいる。
銃を持つ右手に対し、律刃が左手の甲を手首に軽く当て狙いを上方向にずらせば、乾いた発砲音が響く。
しかし、弾丸は誰にもいないところに飛んでいった。
「セイッ!」
その場で膝を軽く曲げてしゃがめば、踏み出す。発生した運動エネルギーを澱みなく伝達させ、上体を僅かに逸らし背中を向ければ男に向けて体当たりを放つ。
「ゴァッ!?」
俗に言う
背中を強かに打ち、肺の中の空気全てを吐き出された男は少し呻けばそのまま意識を落とす。
「なぁ……!? テメッ……!」
「遅い!」
自分の相方をやられたもう1人の男が引き攣った声で弾丸を放とうとするが、残心を解いた律刃は前傾姿勢で滑るように移動。
右手を腰下へと運び、肘を曲げれば握り拳ではなく緩く指を折り掌部分を接近した男の顎に向け、下からかち上げるように打ち出した。
空気の弾ける音、男の潰れたカエルのような悲鳴。
「へぶぁ!?」
顎を思い切り掌底で撃ち抜かれた男は垂直に飛び上がり、天井付近まで跳ねたところで重力により背中からコンクリートの地面へと叩きつけられ意識を落とす。
「よし、仕事完了。お前らの方は……何してんだ?」
この間、約10秒。手早く伸びてる男たちを拘束すれば、律刃が振り返るとそこに居たのはワイヤーにより拘束され地面へと転がる千束。憮然とした様子のたきなであった。
これに律刃は困惑。
「千束が余計に弾丸を使いそうでしたので止めさせてもらいました」
「あ、そう……」
説明を聞き、律刃は納得。
この仕事の前に千束が無駄弾プラス現場を破壊し、出費が嵩んでいたので、たきなの行動に律刃は何も言えなかった。
「わかったから、これ早く解いて〜!?」
そんな2人の横で陸に上がった魚のように跳ねる千束であった。
尚、その後の仕事でも弾を撃ちすぎそうになった為に、たきなに首根っこをつかまれ千束は説教されることになる。律刃は呆れた。
〇
「うーむ……。上がらんな」
「……微増ですね」
損失はある程度回復した。それでもまだまだ黒字には程遠い。たきなと律刃はパソコンの画面とにらめっこして頭を悩ませる。
一体何が悪いのか? あーでもない、こーでもないと議論をしつつ問題解決に勤しむたきなと律刃の2人。
「おいゴルァ! 原因の一つお前かミズキィ!」
「冷蔵庫の開けっ放しは電気の無駄です!」
「ヒエッ、メンゴ……」
原因のひとつにミズキが冷蔵庫の開けっ放しによる電気の無駄遣い。
「えーと、3……7……?」
「交代します」
「うん? ああ、頼むよ。……早いな」
会計の速度があまりにも遅すぎたミカに見ていられなかったたきなが変われば、レジ打ちをものの数秒で片付けた。
「うわわ、わぁ!?」
その後ろでは、皿を片付けていたクルミがバランスを崩す。
「あっぶね!?」
あわや大惨事、といったところで律刃が残像が見えるほどの速度で全ての皿を回収。ほっと一息ついた。
「おお、ナイスキャッチ……」
「そりゃどーも……」
クルミに対し、疲れたように律刃は肩をすくめる。
「どうだー?」
「もうちょっとー」
「この配線を切って、と」
人には言えない酒場にて、仕掛けられた爆弾を解除するたきなと千束。律刃はすることが無いのでカウンターにもたれ掛かり、作業の行く末を見守っていた。
「……これをやれば」
「だ、そうだ。無事終わりそうだから、金もらおうか?」
「何を言ってるアル! 終わったらサッサと帰るアル!!」
「そうアル! 痛い目見ないうちに────」
「フンッ!」
「ゲブラッ!?」
「な、何するアルッ!!」
「ラァッ!!」
「ギャァァアアッ!!?」
無事仕事を終え、報酬をもらおうとする律刃であったが追い返そうとするゴロツキに対し、O☆HA☆NA☆SHIで黙らせる。
律刃はニンマリと笑って依頼人の肩へと腕を回す。
「ひぃぃい!?」
「なぁなぁ、依頼人さんよぉ。仕事には対価が必要だ。分かるよな? 分・か・る・よ・なぁッ!?
あー、分かってくれたらいい。突然大声出してごめんな? うん、話を戻すか。そう、仕事には対価が必要って話だった。
そう、アンタは俺らに爆弾の処理を頼んだ。俺らはそれを引き受けた。そう、然るべき手順。然るべき手続きでアンタは仕事を頼んだんだ。
言いたいことわかる? 逃げようとしてない? してない? そう、ならいい。
んじゃ、アンタはちゃんとお金を払って俺らはそれを受けとってみんなハッピー。それのはずだ。な・の・に?
アンタはきちんと仕事を終えた俺たちに金を払うならまだしも、払おうとせず逆に追い返そうとした。それじゃあ駄目だ。物事にはきちんと双方の合意が必要だ。そうだろ?
うん、うん、そうだ! 同意してくれて嬉しいよ♪
これは一時の間違いだもんな? そうだよなぁ、うん誰にでも間違いはある。でも、俺たち信用されてると思ったのにさっきの傷付いたんだよ。これはもっと色をつけてもらわないと困るなぁー?
え、これだけしか出せない? ハハハ、あんた依頼出す時に見てないのか? 依頼内容の不備、不測の事態が発生した時は追加報酬を貰うってあったろ?
どんな契約もきちんと隅々まで見る。社会人の鉄則だよなぁ? あー、困ったなぁ! ちゃんと全額貰えないのならここにいる意味ないなぁー。たきな、千束、帰るぞー。
あー、最後の2本切ってない? いいよ別に。後はこいつらがどうにでもするらしいし。
……あ? 払う? なら先に言えよ? 俺は言ったよな?
チッ、最初から大人しく渡せってんだダボハゼが。
……ぶねぇなぁ! 何! 人が! 話してる! 時に! 邪魔! してん! だぁ!?
……よし、千束ありがとうな。うん、ひーふーみー……確かにあるな。
あ、天井の修理? 知らねーよ。そこのハゲどもが勝手にイヤッフーって叫んでコイン目当てに飛び跳ねて出来たんだろ?
誰にだって赤い配管工のオッサンみたいになりたくなんだよ。察してやれよ。知らんけど。請求してきたらわかってるよな?
よし、分かればいい。あ、あとあの酒は払わねぇからな? 勝手にぶっぱなしたハゲどものせいだからな? んじゃ、邪魔したなー」
首が天井に突き刺さり、愉快な前衛的オブジェになったごろつきをバックに歩いていく3人。
「いやー、想定より多く貰えたねー!」
「ですね。収支はプラスです」
「そいつは良かった」
「あ、そういえば見た? 見たー? たきな、律刃! 私撃ったの1発だけ! どうよ〜」
「へーへー、見てましたよー。よく出来ましたねー。飴ちゃんあげよう」
「えー、なんか雑ゥ! たきなぁー!」
「ええ、よく出来ましたね。花丸です」
「えへへー、褒められたぁ!」
「たきな、あんまり褒めると調子乗るぞコイツ」
「なんとぅ!? 私は褒められて伸びるタイプなんですぅ!!」
「はいはい、すごいすごーい」
褒めろ褒めろとじゃれつく千束に、律刃とたきなが適度に相手するのであった。
〇
「かっっっっっっらぁ!!!?」
ビリビリと空気を震わせる悲鳴が轟く。
「はぁ!? これのどこが辛いんだよ! めちゃくちゃ甘口だろ!」
「何処が!? めっちゃ辛いんだけど!!?」
机の上に置かれるグツグツと煮立つ物体。
鼻を突くような香辛料の香りの中に確かな旨味の感じる匂い。真っ赤な粘土の高い液体にはひき肉や白い絹ごし豆腐が沈む、中国の料理。麻婆豆腐がそこにはあった。
そして、それを見てなんとも言えない顔のミズキとたきな。顔を真っ赤にして牛乳をがぶ飲みする千束と憤慨する律刃というカオスな光景が広がっていた。
この集まりは経営回復のための新メニュー開発会議で、最初の一発目は律刃の作った麻婆豆腐だ。
過去にたきなやクルミがまだいなかった時、律刃は千束、ミズキ、ミカの3人に渾身の麻婆豆腐を振舞った。振舞ったのだが、その時の感想が。
『麻婆かとおもったらただの爆弾だった』
『口の中とお腹が焼け爛れたようにズンガズンガして汗と震えが止まらない』
『ラー油と唐辛子を百年間ぐらい煮込んで合体事故のあげく、『オレ外道マーボー今後トモヨロシク』みたいな料理』
という、散々なものであった。これに律刃は激怒した。こんなにも美味しい麻婆豆腐を食べて美味しさが分からないなんて。こいつらはなんて馬鹿舌なんだと。(とても失礼)
その時から律刃は試行錯誤を繰り返した。
律刃からしたら些か以上に物足りない辛さまで落としながらも、旨みはそのままの渾身の出来の麻婆豆腐。
そもそも喫茶店なのに麻婆豆腐とかどうなの? という突っ込みが出そうだが気にしてはいけない。
そんな麻婆豆腐を千束が試食した結果が前述の牛乳がぶ飲みという結果である。
とりあえず、千束だけの評価だけではなんとも言えないので、一応辛さをやわらげる牛乳を用意した後。
たきなとミズキはおっかなびっくりと言った様子でレンゲにほんのちょびっとだけ律刃の特製麻婆を掬えば口へと運ぶ。
「辛ッ……! あ、だけど美味しい! けど、やっぱり辛っ!?」
「うーん、まぁあの時のに比べたらだいぶ食べやすいわねぇ。でもやっぱりこれでも辛すぎるわね……」
舌を刺すような刺激の後に来る確かな旨み。これはたしかに美味しい。美味しいが、やはり辛い。
千束よりは辛いものに対して耐性のあるたきなは少しは耐えたのだが、すぐに根を上げ牛乳へと手を伸ばす。
過去にこれよりやばい劇物を経験しているのと大人のミズキは普通にしてられるが、それでも一般的な麻婆豆腐に比べれば些か辛いと言えるものだった。
「そんなに辛いか?」
「「「辛い」」」
「むぅ……」
律刃の確認に3人は頷く。多数決の結果、あえなく律刃の麻婆豆腐は新メニューに入ることは無かった。
流石にここまで言われては律刃は無理に騒ぐことなく、名残惜しそうに、実に名残惜しそうに麻婆豆腐を下げるのであった。
「チックショー、本命だったのになぁ……。ムグムグこんなに美味いのに」
「その口ぶりだとまだあるの?」
せっかく作ったのに捨てるのは勿体ないので、麻婆豆腐に追加で七味をぶち込みながら頬張る律刃。
そんな様子にドン引きしながらも千束が聞けば、まだ辛みか足りないのかさらに七味を倍プッシュしながら律刃は言う。
「ああ。これ作る片手間にって感じだけどな」
と言い、律刃は厨房の冷蔵庫からトレーに乗せられたケーキを持ってくる。
まずひとつは王道のショートケーキにストロベリーソースを掛けたもの。
2つ目は透き通った青いゼリーのタルト。
3つ目は抹茶などを使ったスポンジに餡子を練りこんだクリームを乗せた和風ケーキ。
4つ目はレモンやオレンジなどの柑橘系などを使ったタルト。
5つ目は紫芋とさつまいもを使ったタルトという、5種類の鮮やかなスイーツだった。
「わぁ、綺麗! それに美味しそう!!」
「ですね。それにこの色ってもしかして……」
「私たちイメージした感じ?」
「お、せいかーい。どうだー?」
そう。このスイーツはリコリコのメンバーをイメージしたものだ。上から千束、たきな、ミズキ、クルミ、ミカの順だ。と、そこで気がつく。
「あれ、律刃のは?」
「……ほんとです。律刃さんが足りませんね」
「たしかに。あんたのがないわね」
「いや、俺は別に必要ねぇだろ?」
「「「いや、いるでしょ(う)」」」
「麻婆豆腐じゃだめ?」
ダメに決まってんだろ、3人のそんな視線で律刃は肩を落として七味だらけの麻婆豆腐を平らげれば自分をもしたスイーツを作るのだった。
甘さ控えめなチョコケーキにブルーベリーソースをかけたケーキを追加。鮮やかな6種のスイーツが新たなメニューとして出されることが決まる。
「実は私も新しいメニューを考えてきたんです」
「えー、たきなもー? 見せて見せてー!」
「分かりました。あっと驚かせてみせます!」
そんなことで、たきなも新メニューを持ってくる。持ってくるのだが、そのあまりのインパクトに3人は見事に度肝を抜かれてしまう。
「「ウンッ────!? 」」
「コォン!!?」
余りにもあんまりな見た目のソレを見て、千束とミズキの言いそうになった口を目にも止まらぬ早さで塞ぐ律刃。確かに連想するのも無理はない。無理は無いが、少し黙ろうか?
たきなはそんな様子に可愛らしく首を傾げる。どうやら気がついてないようだが、ちょっと心配になってしまう。
「どうでしょうか? 寒くなってきた今の時期に美味しい、ホットチョコたっぷりのパフェです!
律刃さん、厨房担当として忌憚ない意見をお願いします」
「うぇ!?」
たきなに聞かれ律刃は葛藤する。こんな明らかに見た目がアレなモノをメニューとして出して良いのだろうか? 確かにインパクトはある。これを見たらまず間違いなく記憶領域に深々と刻まれるだろう。
冷や汗を浮かべ、視線が泳ぎまくる律刃。
そして意を決して重々しく口を開いた。そうだ。こんな明らかにアレなモノを出すのはダメだと言うのだ。
「たきな……」
「はい!」
「……イイトオモウヨ!!」
無理だった。だって仕方ないじゃないか。キラキラと純新無垢な目を向けられては『これ、完全に
「そう思うだろお前ら!? ナッ!?」
律刃は千束とミズキに投げれば。
「え!? う、うん! とってもいいんじゃないかしら! 独特で奇抜って感じ!」
「そうそう! バズり間違いなしってね!」
「そ、そうですか!? いやぁ、私ってばこういうのに才能あっちゃったりすんですね! えへへ……」
3人の褒めっぷりにたきなが嬉しそうにはにかめば、3人は顔を突合せて話し合う。
「まぁ、たしかにある意味才能だけどさぁ」
「静かに! 」
「でもあれ、本気でメニューとして出す気? 」
「仕方ねぇだろ! あんなキラキラした目で見られてて本当のこと言えると思うか!? 俺には無理だ! 」
「いや、だけどさぁ……」
尚、結局メニューとしてソレを出すこととなるのだがネットでバズり大盛況となる。
余談だが、こっりとメニュー表の端の端に麻婆豆腐も追加したらやみつきになる人が少数だが出てくることとなった。
〇
客足がある程度落ち着き、喫茶店の仕事ではなく人助けの方をたきな、千束、律刃の3人でこなしていた時。
千束と律刃が外回りの依頼を片付けるため、街中を歩いていた時に律刃が唐突に立ち止まった。
千束は首をかしげ、彼に声をかける。
「…………」
「律刃〜、どしたのー?」
「ん? あー、千束。悪いが用事思い出したからちょっと先いっててくれ」
「? 別にいいけど早く来てね!」
「へーへー」
元気よく走り出す千束の背を見送れば、完全にその背が見えなくなったかを確認すれば律刃はとある店の中へと入っていく。
「いらっしゃいませ。なにか御用でしょうか?」
「すいません、ちょっとオーダーメイド頼みたいんですけどいいですか?」
「ええ、構いませんよ。デザインについては────」
「そうっすね。こういう感じで───」
店員と話している彼の横顔はどこか楽しげに見えた。
律刃
麻婆豆腐最高!麻婆豆腐最高!さァ、お前も麻婆豆腐最高と言いなさい。
千束
律刃の作るご飯は好きだが、麻婆豆腐だけは無理。作ったらまじビンタするくらいには嫌い。
たきな
辛党なのは知ってたが、七味唐辛子の瓶を二三本一気に使うとは思わないじゃないですか・・・・
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