リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る? 作:タロ芋
人気のない廃ビル内、その中でいくつもの乾いた発砲音と何かの崩れる音が響く。
「がっ……!!?」
脳天を突く衝撃。視界が明滅し、平衡感覚がブレる。
ジクジクと顎が痛みことからどうやら自分は思い切り下顎の部分を蹴られたのだとリッパーは理解した。
体が宙へと浮かび、景色が流れていく中で強引に体制を整えて地面に着地して前をにらみつければ。
「ッッッ!!」
眉間へと飛んでくる弾丸。
硝煙の昇る銃口に自分をまっすぐに見つめる深紅の瞳。
「舐め……るなぁ!!」
叫び、肉体を全力で稼働させる。
呼応するように右目が一瞬だけ深紅に染まり、体を沈み込ませれば舞う髪の毛の中を弾丸が通過していくのを感じ取りながら前進した。
「まじか! これ避ける!?」
「いい加減に死ねリコリス!」
楽しそうに笑うリコリスに袈裟斬りに刀を振るう。
音すら置き去りにするほどの速さで降ろされた刃はリコリスの体を切ることはかなわず、額が触れ合うほどの顔をこちらに近づけたリコリスは不満げに言う。
「リコリスじゃなくて名前で呼んでよ~」
「ッソが!!」
「あはは! あっぶねぇ!」
刃の向きを下から上へと持ち替え、振り上げる。
楽しそうに笑いながら上体を逸らすことで刃が顎先を掠め、紙一重で避けた。
無論、出来た隙を見逃すリッパーではない。追撃をしようとするが。
「ごっ……がっ──ァ……!?」
腹部に強烈な衝撃。余りの痛みに視界がチカチカと眩み、喉の奥から悲鳴とも呻きとも取れない音が漏れ出る。
「生憎、さしでやりあうならこの撫子さんは負けなしなのさ!」
視線を下に向ければ彼女の爪先が己の腹部に突き刺さっていた。
体の力が抜け、手から刀が零れ落ちる。勝利を確信し、足を下ろそうとしたリコリスだったが次の瞬間にその顔は驚愕に染まることになる。
膝から崩れ落ちかけたとき、リッパ―のその小さな手がリコリスの足首を掴んだのだ。
「ツカ、マエタァァァアッ……!!!!」
「なっ……! いっつッッ!?」
壮絶な笑みを仮面の下で浮かべ、リッパーはようやく出来た千載一遇の好機を逃がさぬようにした。
リコリスは拘束を解こうとするが、その小さな手から想像できないほどの力の強さで足を捕まれておりピクリと動きもしない。
今まで辛酸をなめさせられ続けた憎たらしい笑顔が今は焦りにより歪んでいるのを見てリッパ―は歓喜に震えながら刀を振りかぶろうと……
「な~んてね!」
「は…………?」
体の力が抜ける。
そして腹部に違和感を覚えて視線を下に向ければ、腹部に浅く突き刺さった刀身のみのナイフが見える。
リコリスの手にはバネの飛び出た円筒形の物体があり、ソレがスペツナズナイフだと理解できた。加えてこの不自然な脱力感にリッパ―は刀身に何か薬品か毒物が塗られていることにも。
完全に毒が体に回りきる前にこの存在の首を断ち切ろうとした。
「あらよっと!」
ミシミシと体の内側から響く嫌な音。胃の内容物がせり上がり、舌の付け根が痙攣して喉が焼ける感覚が来たかと思えば、こめかみに衝撃が突きつけた。
自分の小さな体が横方向へと吹き飛び、何度もコンクリートの地面を転がりようやく停止する。
「ゲホッ、ゴホッ……カヒュ……コヒュッ……」
咳き込み、震える喉で何とか息を吸い込みながらもリッパーは体を起こし、刀を握ろうと手を伸ばそうとした。
しかし、
「はいぼっしゅ~」
既のところで指先が刀の柄に触れようとしたところで、気の抜けた声と共にリコリスの足が刀を蹴り、視界と外へと滑っていってしまった。
「……ク、ソ」
空を切った手を握り締め、殺意のこもった眼で怨敵を睨みながらリッパ―は意識を落とした。
「う、んん……」
「お、起きたー?」
微かに鼻につく甘い匂い。リッパーはうめき声を漏らせばそんな声が聞こえてくる。
「んぅ……」
はっきりしない頭でリッパ―は瞼を開くと入ってきた明るい光に視界が白く染まり、何度か瞬きを行い目のピントを補正させれば、視界に自分に対して優しく微笑む顔が映り込んできた。
「…………ぇあ?」
「どったの? 鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔して」
おそらく今の自分の顔を鏡で見ればたいそうな間抜け面をさらしていると確信できるだろう。
自分が殺そうとしたはずの相手にいいようにあしらわれ、おまけに敗北したかと思えば殺されるどころか膝枕をされ、頭を撫でられるという介抱されているという冗談かと疑いたくなるありさまだ。
『また失敗しただと? 何のためのファーストだ? お前のためにどれだけ時間と費用を使っていると思っている?
いい加減リコリスの1人くらい殺してこい無能が!』
上司はそう言い、ベッドのシーツを自分になげつける。
部屋から体液をシャワーで流せず、アザだらけの体で叩き出された。
施設の中を歩いていれば。
『ハッ、天下のリッパーさんもたかだか1人に手を足も出ねぇのか?』
『おい聞いたか、またあいつ失敗したらしいぞ?』
『ハハハ、あれだけ自分はお前たちみたいなのは違うんだーっていう顔してた草してこのザマじゃ笑えるな』
任務に失敗したことを報告すれば上司からはネチネチと叱咤され、ろくに情報を調べずに結果だけを見て自分のことをあざける同僚たち。
最初は無視を決め込んでいた。だが、何度も何度もされれば幾ら感情の希薄なリッパーも限界らしく、今の状況がとどめとなり、ジワジワと瞳が潤みはじめたではないか。
「ふっ……ぐっ、うっ、ぅ〜っっっ!!」
遂に感情のダムが決壊してしまったのかボロボロと涙を流す。だが、最後の意地でリッパーは下唇を噛んで大声を上げてみっともなく泣くことはしなかった。
それでも、呻き声は隠せず涙を拭っても拭っても止まることは無い。
「あ、アレ泣いちゃった? ちょ、どーしたのさいきなり〜……?
ぽんぽん痛い? 痛いのいたいのとんでけーする?」
「うっさいアホォ……! 気味悪いんだよぉ……! 大人しく殺されろよぉッ……!!
なんなんだよお前ぇ……! 意味がわかんないんだよォッ……! いっつも笑顔で気味悪いしッ! 刀当たらないしッ! 気味悪いし!
なんで、殺そうとした俺を助けてるんだよぉ……!!
どいつもこいつも勝手に言いやがって……! クソ上司はキモいし、同僚は雑魚で無能なくせして……!!
ふぐぅぅぅっっっ~~~!!!」
「さ、3回も気味が悪いって言われた……」
傷ついたようにいう撫子にますますリッパ―は惨めな気持ちになるのだった。
リッパー
リリベルとして現役バリバリだった頃の律刃。
何度も何度も撫子に挑んではボコされて帰ってはボロクソに言われた可哀想なショタ。
撫子
何度もいたいけなショタを容赦なくボコったヤツ。
悪気は一切ない模様。ショタコン