リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る?   作:タロ芋

4 / 27
初投稿です。最後ら辺殺されそうです


4

「…………あの竜胆さん」

 

「んー、なんだぁ?」

 

「何してるんですか?」

 

「刀の手入れ。お前らだって銃の整備とかするだろう?」

 

「それはそうですが、いいんですか? お店でそんなことをしてて」

 

「客来ないから暇なんだよ。ミカさんからは許可もらってるしな」

 

 閑散とした店内、2階のスペースで愛刀を畳の上に敷いた布に広げ律刃はあぐらを書いてたきなは正座をしてお茶を飲みながら様子を見ていた。

 

「んで、なんだっけか話って?」

 

 鞘から抜かれた刀身を膝と肘で抑え、目釘抜きを使い柄の留め金を外しながら続きを促せばたきなは僅かに頷いて口を開く。

 

「はい、竜胆さんはなぜ銃を使わないのですか?」

 

「近づいて切った方が早いからな」

 

「このまえは殴ってませんでしたか?」

 

「そりゃお前……街中で刀抜くのはダメだろ?」

 

「……銃を使うリコリスの前で言いますかそれ?」

 

「それもそうだな。使う場面がなかったってのもある」

 

 刀身に塗られた古い丁子油を拭紙で拭い取り、刀身に打ち子をポンポンと当てていく。

 

「そうだな。俺がどうやって戦ってたか覚えてるか?」

 

「どう、ですか?」

 

 唐突な質問にたきなが首を傾げるが、言われた通りにこの間の出来事を思い出す。

 

「超至近距離での肉弾戦闘でしょうか?」

 

「そうだな」

 

「普通に車の車体に穴を開けてましたもんね。どんな身体能力してるんですか?」

 

「素手でくまと殴り会えるくらいには」

 

「……本当ですか?」

 

「本当だぞ。俺の家にクマの頭の剥製あるし。見たいなら見せるが」

 

「いえ、結構です」

 

「そっか……。千束のやつはすげーって言ったんだけど」

 

 即答され、僅かにしょんぼりとさせた律刃。たきなが何となくその様子が千束に似てると思った。

 

「んじゃまあ、話は戻すが俺の戦い方な。簡単に言えば俺は身体能力が五感含めて常人よりもかなり高いんだよ」

 

「一昨日、エンストした軽トラ引っ張ってましたね1人で」

 

「んで、それに伴って考えたんだよ。『銃持って撃ち合いやるよりも斬った方が早くないか?』ってな」

 

「何故そうなるんですか?」

 

「何故って……やむを得ず? 昔はお前らみたいに銃使ってたんだが弾無くなったらかさばるし邪魔だし当たらないしでいっその事って感じで。あと大抵の弾丸より殴った方がダメージ与えられたからな」

 

 僅かに遠い目になりながら言う律刃を不思議そうにたきなは見る。

 

「……」

 

「…………」

 

 無言が訪れ、律刃がむき出しの状態で(なかご)部分を掴み、持ち上げれば刀身に歪みがないか細かくチェックしていく。そんな中で。

 

「そういえば」

 

「なんだー?」

 

「何故竜胆さんはこの場所に?」

 

「それ聞いちゃう〜?」

 

「あまり詮索されたくないようならこれ以上は追求致しませんが?」

 

「いや、別に隠すようなことではないが割とグイグイくるのな。千束みたいだぞ?」

 

「それはないです」

 

「即答かよ」

 

 噛み殺すように笑いつつ、律刃はたきなの疑問を何度か頭の中で反芻しながやネル布に丁子油を染み込ませて塗りすぎないよう丁寧に刀身全体に塗り込んでいく。

 

「夢……かねぇ」

 

「夢……ですか?」

 

「そ。昔世話になった人がさ言ってたんだよ。『どこか平和な場所で喫茶店をやりたい』って」

 

 たきなはその時浮かべた律刃の寂しいような、悲しいような、それでいて誇らしげで嬉しそうな笑顔がやけに記憶に残った。彼女は思わずと言って様子で尋ねてしまう。

 

「その人は竜胆さんにとってどんな方なのですか?」

 

「……恩人、かな。これ以上は秘密だ」

 

「そう、ですか。すみません出過ぎた真似を」

 

「別に構わねぇさ。とにかく、俺はその人の夢を叶えるために千束の提案を受けてここにいるってことさ」

 

「何故そこであの人が?」

 

 手入れの手を止め、顔をあげれば疑問符を頭にうかべるたきなに律刃が説明する。

 

「ん? 言ってなかったか? 10年前、あの塔で俺がアイツと取引したんだよ。DAと協力する代わりに見逃してくれってな」

 

「初耳ですね」

 

「……あ、そう言えばこれ割と秘密だったんだ」

 

「ええ……」

 

 言ってしまったものはしょうがない。律刃はそう思い、拝みながら言うのであった。

 

「出来ればこれオフレコで頼むわ」

 

「…………なにか美味しいものが食べたいですね」

 

「ふっ、この俺を脅すとはなかなかやるじゃないかお嬢ちゃん……。赤服までもうすぐか? 少し待ってな」

 

 丁度刀の手入れも終え、手早く戻せば愉快げに口角をニヤケながら下の階へと降りていくのだった。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでしたってな。食後の甘味はいるかい?」

 

「いただきます。それにしても、喫茶店なのにさば味噌定食が出てくるもは思いませんでした」

 

「この前、ふるさと納税での返礼品でいい鯖を貰ってな。ちょうどいいと思って出したんだよ。千束には内緒な? バレたら食わせろってうるさいから」

 

 空になった食器を片し、自分とたきなの分の抹茶アイスを用意し席に着く。

 

「……どうして皆さんはここまで良くしてくれるのですか?」

 

 ふと、たきながそう零した。

 

「どうしたいきなり」

 

 アイスをスプーンで掬い、緑色のソレを口に運び甘さの中にある抹茶の風味と苦さに舌鼓を打ちながら続きを促す。

 

「私はDAに戻りたいと公言しています」

 

「しつこいくらいにな」

 

 たきながここに来てから半月、その間になんど言われたかも数えてはいないがかなりの数いっていたはずだ。

 

「なのに、皆さんは私を冷遇せず寧ろ歓迎してきます。千束さんは少々過剰とも言えますが」

 

「どんな形であれここにいる間は仕事仲間だからな。わざわざ関係を悪くするようなことをしてどうする?」

 

 ここにいるのはどいつもこいつもお人好しのお節介焼きばかりだ。なんだかんだ言いつつも放っておくことが出来ず、つい構ってしまう。

 

「そりゃあ冷酷になるのが殺し屋として正しいんだろうな。けど、人としてそれが正解か? と聞かれたら違うだろ?」

 

「まぁ、千束のやつは単純にお前と仲良くなりたいだけなんだろうけど」

 

 口直しの珈琲を飲み、たきなは波紋に映る自分の顔を見つめながら律刃の言った内容を反芻しながら抱いた思いを口にした。

 

「竜胆さんの方がよっぽど千束さんに似てますよ?」

 

「え、マジ?」

 

「マジです」

 

「そうかー……」

 

「なんでそんなに嫌そうなんですか?」

 

「いや、だってそら千束(アレ)だぞ? 人のプライベート関係なくずかずか入ってくるデリカシーの欠けらも無いクソガキだぞ?」

 

「でも、嫌ってはいませんよね?」

 

「…………そこをつかれると痛いな」

 

 嫌いな奴と10年間共に暮らせるほど律刃は人間はできてない。それに。

 

「こんな俺を好いてくれる奴を嫌いになんて出来ないだろ? お前は違うのか?」

 

 その問いにたきなは答えに喉を詰まらせる。律刃は彼女の様子に微笑みながら珈琲を煽った。

 

「……竜胆さん。私はあの時。あの取引現場で命令違反を起こし、銃を乱射したのは間違っていたのでしょうか?」

 

「仲間を見捨ててでも商人を生かして捕縛することが正解だったのでしょうか?」

 

 どこか絞り出す声色の問いかけ。損害に対しての利益。律刃の脳内では即座にその計算をはじき出す。

 リコリスはいわば消耗品だ。減れば増やす。情報というのは価値だ。両者を摂るなら圧倒的後者である。1人の命で複数の命を救うならそちらが正しい。

 

「うんにゃ、まったく」

 

 頭に浮かんだソレを蹴り飛ばし、律刃は笑って言い放つ。

 

「え?」

 

 どこか惚けたような顔をうかべるたきなに律刃は堪らず笑いだす。

 

「ハハハハ。お前はその時、正しいと思って行動したんだろ? ならそれでいいじゃないか。命令違反? 上等だよんなもん。仲間を見捨てないといけないなんてクソ喰らえだ。お前は人として正しいことをしたんだ。それを誇っても決して恥じるな。誰がなんと言おうともな」

 

 律刃の答えに不満なのか、何か言いたげな様子だが彼は口角を緩ませながら飴を口に咥える。

 

「任務なんざより仲間の命だ。それに、よくよく考えりゃあの時はイレギュラーも多かった。お前の転属もだいぶ怪しいしな」

 

「でも……」

 

「でももヘチマもねぇよ」

 

「痛ッ!?」

 

 左手でたきなの額を弾き、でこぴんというには可愛くない音と衝撃にたきなが思わず仰け反る。痛む額を押えて涙目で下手人を睨むが、顔が整ってるだけに寧ろ微笑ましいと律刃は思う。

 

「仲間や友達が死んだらもう二度と会えないんだぜ? それに比べたら今回のはたかが銃1000丁と黒幕連中をぶちのめせば済む話だ。んで、それを持ってDAに帰って『私がやってやりましたが貴方たちは随分と手際が悪いのですね?』って嫌味のひとつでも言ってやれ。絶対、楠木のやつは面白い顔になるからな」

 

 悪戯小僧っぽく笑って言い放ってやれば唖然としていたたきなが不意に吹き出し、笑い始める。

 

「……ここにいると私が非常識なのではないかと思ってしまいます」

 

「安心しろ。俺が通った道だ井ノ上」

 

「たきなです」

 

「おん?」

 

「苗字ではなく名前で呼んでください。私も律刃さんと呼ぶので」

 

「……おう!」

 

 仲が縮まったことを理解し、たきなの願いに律刃は嬉しそうに笑うのだった。

 

 

 〇

 

 

「ん〜♪ ん〜♪ んん〜♪」

 

 なにやら帰ってきてたら律刃のやつが妙に上機嫌だ。タオルを首にかけて風呂上がりのいっぱいをするためにキッチンに入れば鼻歌交じりに晩御飯を作っているではないか。

 好奇心旺盛で眉目秀麗、まさに美の化身たる千束はその様子にとても気になってしまった。気になったからには突撃あるのみである。尚、律刃の迷惑については考えない模様。

 

「おらおら〜! なに上機嫌に鼻歌歌ってんだよ〜。この千束様にも教えろよ〜!」

 

「おい、いま火の近くにいるんだからじゃれるんじゃねぇっつの!」

 

「うお〜! 言うまでこの千束ホールドからは逃さんぞー!」

 

「ったく、子供かっての。これでも食べてろ」

 

「おほ〜、食べる食べる〜」

 

 お腹に手を回して抱きついて問い詰めるが、即座に律刃はひっつき虫をひっぺがして小皿に盛り付けた唐揚げを押し付けた。扱いが完璧に幼子のそれである。

 

「ねえ律刃〜。たきなどうだった〜?」

 

 唐揚げを頬張り、リスみたいに程をふくらませながら千束が尋ねれば同じように唐揚げをひとつまみしてる律刃は答える。

 

「食べながら喋るんじゃありません。問題なかったな。教えたことはすぐに覚えて優秀な子だよたきなは。うん、美味い」

 

「へ〜、それはよかった〜……ん?」

 

「ほれ、もう出来上がるから皿出してくれ」

 

「ほ〜い。ごっはん〜ごっはん〜♪」

 

 なにやら違和感があったような気がする千束。しかし、それには気が付かずに晩御飯に舌鼓をうつのであった。

 

 そして、翌日。律刃とたきなが互いに名前呼びしていることに気が付き、何があったのか問い詰めるが2人して顔を見合わせて『秘密です(だ)』と言って口を噤んでしまうのでリコリコがいつもより少し騒がしくなってしまうのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。