リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る?   作:タロ芋

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直ぐに消えたけどランキングに乗ったので初投稿です。


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「ウォールナットの暗殺ゥ……?」

 

「うひ、うヒヒヒ〜」

 

「おっと、起こすところだったアブねぇアブねぇ」

 

 幾つかネットにばらまいていた暗号を解いたら1度だけ使える秘匿のメール回線、PCの画面に映るそれを見ていた律刃は訝しげな声を上げる。

 

「えーと、依頼人は"ロボ太"……誰だ?」

 

 ブリキのロボットのようなアイコンを見つめ、依頼者の名前を呟く律刃。ウォールナットは知っている。ネット黎明期からいる凄腕のハッカーで日本一ともくされるほどの大物。

 リリベルだった頃に数回ほど奴の暗殺を実行したことあるが、その度に偽物でリリベルのクソ上司に叱責された苦い記憶がある。

 

「偽物だろ絶対?」

 

 律刃は顎に手を添えて考え事をしていれば、手元に置いていたスマホの着信音が鳴り響く。ソレを手に取り見ればどうやら『酔っ払い』との文字。どうやらミズキからの電話だ。

 

「もしもしコチラ律刃。どした?」

 

『あ、もしもし律刃〜。ちょっと依頼入ったんだけど来れる?』

 

「へ〜。実は俺もなんだよ」

 

『え、そうなの? どんな内容?』

 

「ウォールナットの暗殺」

 

『え?』

 

「え?」

 

「んふふ〜、律刃〜。サルミアッキは鼻に詰めたらダメだってば〜」

 

 律刃の膝を枕にして寝ている千束の意味不明な寝言が響くのであった。

 

 〇

 

 

「なるほど。そう来たか……」

 

 定休日のリコリコ。その店内にて私服姿の律刃、ミズキ、ミカの3人は顔を合わせて眉根を寄せる。

 

 リコリコは時折だが、護衛などの依頼を受け付けており今回きた依頼が『ウォールナットの護衛』。

 そして、律刃はリッパーではく別の名を使い暗殺者として偽装してダークウェブなどで来た依頼をリコリコやDAに流しているが、今回まさかの依頼が『複数によるウォールナットの暗殺』といったものだったのだ。

 

 もちろん、律刃は暗殺などはする気はない。仕事を遂行したように見せて依頼人を突き出すつもりであった。

 

「どうしますミカさん? ウォールナットの方は受けるつもりなんですよね」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

「あったり前でしょ〜? 相場の3倍で一括前払い! こんな上客逃す手はないわ!!」

 

「こっちの方は成功すれば相場の5倍か……」

 

「どんだけ殺したいんすかねこのブリキ野郎」

 

「とりあえず言えることは……」

 

 ミズキに頼み、依頼人のロボ太というやつのことを調べてもらったのだが経歴はウォールナットに比べれば見劣りするが、相手が悪いだけで十分なものだ。律刃が抱い感想としてはウォールナットを目の敵にするコンプレックスマシマシのクソガキだろうか。

 

「「「赤字だから受けざるを得ない……」」」

 

 喫茶店リコリコの経営状態は割と火の車なのである。切実な叫びに大人3人は苦々しく言葉を絞り出し、ため息を吐いた。

 

『随分とお困りのようだな』

 

「ッ──! 誰だ?」

 

『ここさ。随分とザルな障壁だったからね。楽に侵入できたさ』

 

「んな!? 誰がザルよ!」

 

 唐突に聞こえてきた耳障りな声。変声機を用いているのかザラザラとした質感の声が聞こえてくるのはミズキのPCからだ。自分の組んだ障壁をザル呼ばわりされたミズキはキレるが無視される。

 律刃はPCを睨みつけると、くぐもった笑い声と共に画面にノイズが走ればひとつのアイコンが表示され、下手人は名乗る。

 

『ウォールナット、と言えばわかるかな? どうやら困っているようだから僕が君たちを手助けしよう』

 

「なんだと?」

 

『ああ。もちろん、キミたちをハメるつもりなんて無いさ。そんな余裕もないしね』

 

 律刃はそっとミカに向けてアイコンタクトを行えば、頷いた為に警戒を解きひとまずは話を聞く態度へとなる。

 

『さて、初めまして……かなリコリコ。改めて僕はウォールナット。ハッカーだ』

 

「……ミカだ」

 

『そうか。ではミカ、僕からの提案だがそこにいるスーツ姿の君だ。君がリッパーだな?』

 

「どうやってその名前を?」

 

『今はどうだっていいさ。ロボ太からの暗殺依頼、それを受けるんだ。受けて僕を殺せ』

 

「は? どうやって────あぁ、そういう事か」

 

「ちょっと、どういう事よ。私にも説明なさいよ」

 

 何かを察した律刃。分からないミズキは教えよう求め、次に気がついたミカが説明を行ってくれた。

 

「律刃に依頼を出した人物、ロボ太の依頼内容は複数人でウォールナットを殺せというものだ。彼が言いたいのはその雇ったヒットマンたちの前、もしくはロボ太の目の前でウォールナットが死んだと見せかければいい。影武者を、用意してな」

 

「影武者ァ? そんなのどうやって用意すんのよ。ウォールナットは顔も正体もふめ……い…………あぁ! なるほど!!」

 

 そこまで言ってミズキは気がつく。そう、そうなのど。ウォールナットの正体は誰も知らない。誰も知らないからウォールナットは自分を殺せというのだ。

 

『ハッカーは顔を知られない方がいい。今回はそれを利用させてもらう』

 

 リスのアイコンが表示された画面越しだが、その向こうでは彼(もしくは彼女)がニヤリと笑ったように感じることができた。

 

 

 〇

 

 

 

『よーし、来たな。早速だがターゲットの説明を──』

 

「必要ナイ、サッサト始メヨウ」

 

『───チッ、つまらん奴だ。いいだろう標的を絶対殺せ。失敗は許さないからな!』

 

「アア」

 

 小憎たらしい声が耳に当てていたスマホのスピーカーから聞こえなくなり、インカムを小突く。

 

「うし、作戦開始だ。頼むぞミズキ」

 

『はいはいっと。そっちも頼むわよ律刃』

 

「おう。……千束のやつ怒るよな絶対」

 

『仕方ないでしょ〜。これもお金のためよ!!』

 

「うーん、この守銭奴……。怪我、するなよ?」

 

『はいはいっと。そっちこそ怪我しないでよー? 千束慰めるの面倒なんだから』

 

「ハハ、誰に物言ってやがる。んじゃ始めるぞ! まずはお前の後ろにいるヤツらを処理する」

 

 軽口を最後に通信を切り、足元に転がしていたヘルメットをつま先で蹴りあげ頭上高く跳ね上がったそれを掴んで被れば律刃はコンクリートへと突き刺していたモノを引き抜く。

 長さはおよそ3m程で先端が尖り一定間隔で節目のようなものがある槍のようなものだった。律刃は右手に握るそれを体を捻らせながらゆっくりと持ち上げ、振り絞っていき手が自分の頭より後ろへと運ぶ。次に左腕を突き出し、指でL字を作り、目標との距離を図る。

 

 常人では捉えられないほど遠く、ウォールナットに扮したミズキの乗る車とそれを追う殺し屋たちの車両。それらを律刃の両目は鮮明に捉えた。

 

 ──敵の車両数……3台。距離およそ4.63km。幸いにも民間車両はなし。そして、風速やや南より…………

 

「スゥゥゥゥ…………ふぅぅ…………ッ、今っ!!!」

 

 槍投げの如く、勢いよくコンクリートの地面を踏みしめ全身の超密度の筋肉を稼働。己自身を投擲機へと変化させ、砲弾を投擲する。踏みつけられたコンクリートが僅かに埋没し、放射状にひび割れていたことから途轍もない力が込められていたことは容易く理解ができるだろう。

 

 ドォオォン!!! 

 

 容易く空気の壁を引き裂き、街中に一筋の流星が走る。そして、その砲弾は1台の車へと着弾した。車のボンネット部分へと突き刺さり、道路へと縫い付ければ即座に槍のギミックが作動。節目部分が開閉すると内部から外気に触れれば即座に硬化する特殊薬品が放出されエンジンが爆発する可能性を消し去った。

 

「もう1発!!」

 

 当たったことを確認せずに2本目の槍を引き抜き、先程と同じように投擲。

 

 ドォオォン!!! 

 

 2台目の車も同じ運命に辿り、間髪入れず3射目へ。

 

『お見事だリッパー。その距離から狙撃を成功させるとはな。いや、この場合は砲撃かな? どんな身体能力をしているんだ。むしろ人間なのか君は?』

 

 ウォールナットの賞賛の声。まゆひとつ動かさず律刃は手首を揺らしながら答える。

 

「正真正銘人間さ。とりあえず数は減らした。残りのグループはそっちでどうにかしてくれよ?」

 

『そのために君らを雇ったんだ。せいぜいこき使わせてもらうさ。そっちも上手く殺してくれよ?』

 

「はいよ。んじゃ、通信終わるぞ」

 

 インカムを小突き、律刃は自分のいたビルの屋上から非常階段を数段飛ばしで降り、数分も経たずに高層ビルの最下層へと降り立ち路肩に止めて居たバイクに飛び乗る。

 挿したままのエンジンキーを捻り、熱の入った騎馬を走り出せば律刃は打ち合わせをしたポイントへと走り出す。

 

『クソ! 訳が分からないぞ!? 雇ったグループのひとつがやられた!!』

 

「所詮ハアマチュア。無理モナカロウサ」

 

 苛立った声がインカムから響き、変声機によって声が機械的になった律刃がロボ太へと返す。まさか、それをやった犯人が雇った自分だとは思わないだろう。ほくそ笑みながら律刃は尋ねた。

 

「ソレデ、目標ハ追イ込ンデイルノカ?」

 

『ああ。なにやら女二人が合流したが問題ない。今奴の乗ってる車の操作を奪って海にぶち込んでやるさ!!』

 

「ソレハ上場。ソノママ私ノ出番ハ無サソウカ?」

 

『ハッ! 所詮は老害! 僕にかかれば楽───うぉあ!?』

 

「ドウシタ?」

 

『ドローンを撃たれて驚いただけだ! チッ、奴ら逃げやがったな。行先は……スーパーの跡地か。ポイントを送る、直ぐに向かえ! もうひとつのグループも向かっている!』

 

「了解」

 

 一方的な通信が切られ、内部がディスプレイになっているヘルメットに千束たちと合流したウォールナット(ミズキ)が向かっているだろう地点までのナビが表示された。

 それを確認し、アクセルを捻って加速させる。




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