リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る?   作:タロ芋

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UA7000突破〜。嬉しいですね。初投稿です。


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「フッ、この勝負俺の勝ちだな」

 

「なんだとぅ……」

 

「さぁ刮目しろ愚民ども! これが俺の切り札だぁ!」

 

「な、なにぃ!!? あんなクソみたいな手数でこれを用意していただとう!」

 

「……俺の、勝ちだ(ドヤァ)」

 

「うぎゃー! 負けたー!!!」

 

「いや、最下位決めるにどんだけ熱くなってるんだお前らは……」

 

「2人は顔に出やすいからね〜」

 

「だいたいこういう心理戦のあるゲームだと2人がビリ決めになるのよね」

 

「反射神経つかうのだとほぼ2人が勝つんだがなぁ」

 

 リコリコ恒例のボードゲーム大会、天高くカードを掲げ机の上に叩きつける律刃。それを見てカードを空中にばら蒔いて絶叫する千束と冷静に突っ込むクルミ。対象的な二人を見て微笑む常連客一同。

 無駄に白熱した勝負だったが、内容がビリッケツと最下位2番手を決める戦いだというのが中々にアレである。

 

「はい俺の勝ちー! お前の負けー!! 焼きそばパン買ってこい」

 

「はぁぁあ!? まだ3回勝負です〜! いい気になんなよな、ガキンチョフェイスめ!」

 

「あ、お前言っちゃいけないこと言ったな!? 童顔なの気にしてんだぞ!」

 

「シャー!!」

 

「フシャー!!」

 

 千束を煽る律刃(ワースト2)と悔しげに唸る千束(ワースト1)。逆に煽り返され、両者は威嚇し合う。どちらも精神年齢が小学生の馬鹿みたいな光景が繰り広げられる。

 そんなバカみたいなことを横目に、たきながレジ締めを終えたようだ。

 

「レジ誤差ゼロ。ズレ無しです」

 

「お、てことはたきなも参加出来るってことー? なら一緒にやろう! そんでもって律刃をボコボコにしようぜ!」

 

「ハッ! かかってこい返り討ちにしてやるぜ」

 

「いえ、結構です」

 

「「…………」」

 

 取り付く暇もない、と言った様子であっさりと拒否されてしまう。たきなが更衣室に行くのを見送る。

 即答に思わず固まる律刃と千束。

 

「おじさん多すぎなのかな?」

 

「恥ずかしいのよ」

 

「そもそも、まだ勤務中の人らが集まってゲームしてるのがアレなんじゃないんですかね」

 

「おっと律刃くん。この場においてその言葉は禁句だよ?」

 

 そう言って苦笑いをうかべる刑事の阿部さん含む常連客一同であった。

 

「ちょいちょい律刃さんや」

 

「……りょーかい」

 

 千束は律刃を手招きし、意図を察した彼は仕方なく立ち上がれば後を追う。

 

「た〜きな、一緒にゲームやろー?」

 

「……もう帰るので」

 

「まぁ、そう言わず少しだけ付き合ってみるってのどうだ?」

 

「大丈夫です」

 

「ダメか……」

 

 更衣室の戸を開き、千束がたきなをゲームに誘う。律刃も声をかけてみるが拒否されてしまったため、仕方なしに厨房にいたミカの元へと近寄る。

 

「たきなのやつどうです?」

 

「少々焦っているな」

 

「あー、やっぱりですか。爆発しなけりゃいいですけど」

 

「時間の問題だろうな……」

 

 たきながリコリコに来てからひと月と少し、未だにDAに戻る手段に目処がついておらず、たきなには余裕が無いように見える。

 そう言い、2人は更衣室のほうへ視線を向ける。

 そこにななんとかたきなを誘おうとする千束であるが、たきなは断固として頷くことは無い。

 

「明日お休みだから皆で集まってボドゲ会やりたいんだけど〜……」

 

「結構です」

 

 扉が閉じられて尚たきなを誘おうとする千束。流石に見てられなくなったので様子を見ていたミカが彼女へ声をかける。

 

「千束、健康診断と体力測定は済ませたのか?」

 

「あ……あ〜…………まだ。あんな山奥まで行くのダルいしぃ」

 

「明日は最終日だぞ?」

 

「お前まだライセンス更新してなかったのか……? 俺、この前行けって言ったよな?」

 

「うぇ〜……だってぇ……」

 

「だってもなにもないっつうの。ったく、困るのはお前なんだぞ?」

 

「仕事を続けたいなら行ってきなさい」

 

 バツが悪そうに顔を逸らす千束。それを呆れたように額へ手を当てて顔を伏せる律刃とミカ。

 リコリスにとってライセンスはとても大事なものだ。それがないと銃器の所持や車両の運転全てが違法となる。

 

「そこは先生上手く言っといてよぉ〜。先生の頼みなら聞いてくれるでしょ〜、楠木(……)さんならぁ!」

 

「司令と会うんですか?」

 

「「!!?」」

 

「うぉお!? 馬鹿ァ服ゥ!!」

 

 千束の声に更衣室の扉を開けるたきな。千束は持ち前の反射神経で扉を閉じて男二人を睨みつけた。

 

「ンッ、ンンッ!」

 

「ふぉ、ふぉ〜……」

 

 見てない。見てない。淡い青の下着なんて見てないです。

 

「私も連れていってください」

 

「はやっ……」

 

 わずか数秒で着替えおてたきなが更衣室から出てくる。彼女は深々と頭を下げた頼んでくれば、3人は彼女を見て視線を合わせる。

 

「お願いします」

 

 律刃は肩を竦めてミカへ視線を送り、その視線を受け取っとミカは千束に判断を委ね、千束は二人の意思を汲み取り頷いた。

 

「わかったよ、たきな。行こ?」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

 〇

 

 

 

「んで、なんで律刃もいんの?」

 

「……リコリスに戦闘訓練をつけんだよ。たまたま教官として予定が被っただけだ」

 

 電車の車内、千束は景色を見ながら隣に座る仏頂面の律刃に問う。それに対し律刃は気だるげに答えればポケットから飴を取りだして口へと運ぶ。

 過去に取引をし、律刃の所属はリリベルからDAへと移った。その過程でリコリスに戦闘訓練をつけるという契約もあり今回はその仕事なのだ。

 

 2人の前の座席にはたきなが座り、メモにペンを走らせ何かを書いていれば千束は話しかける。

 

「楠木さんになんて言うの?」

 

「今考えてます」

 

「……たきな! 飴いる?」

 

「結構です」

 

「えへへ……」

 

「お前、これから健康診断だろ?」

 

「1個だけだしぃ」

 

 律刃の注意を受けても構わず包装を解いて食べようとすれば、こちらに視線を向けないたきなが口を開いた。

 

「糖分の摂取は血糖、中性脂肪、肝機能、ほかの数値に影響を与えます」

 

「あ、は、はぁ……い」

 

「フッ」

 

「笑うなこんにゃろう」

 

「うげっ」

 

 鼻で笑った律刃の腹に強烈な肘打ちが炸裂。そんなことがありつつも寂れた駅に3人は降りた。

 外はまだ雨が降り、厚い雲からして晴れる気配は見えなかった。

 

 駅の外に出ると、そこには既に迎えの車がおり傘を指したDAの制服を纏う女性職員がこちらを見れば。

 

「お待ちしておりました。錦木様、井ノ上様、竜胆様」

 

 車に乗り込み、しばらく揺られること数十分。『この先国有地につき立ち入り禁止』の警告と仰々しいゲート前についた。

 

「んべ〜」

 

 過剰とも言えるほどの監視カメラに向けて舌を出す千束。それだけ彼女がここを嫌っているのかを理解出来、そんなに嫌ならさっさと済ませればいいものを、と律刃は思う。

 

「(ホント無駄に広いよなココ。嫌なとこを思い出すぜ)」

 

 自分が元いたリリベルの施設を思い出し、顔をしかめる律刃。かつて自分が半壊させたリリベルの本部は今どうなってるのだろうか? と思いつつ、だだっ広い敷地をさらに10分ほど走り、ようやく目的地のDA本部へとたどり着く。

 

 顔認証を済まし、金属探知機に置いていた武器の入ったギターケースを回収。

 自分や千束は顔を知られているのだから、顔パスで済ませてくれても良いではなかろうか? と律刃は思う。

 

「錦木さんは体力測定ですので、隣の医療棟へ。竜胆さんは戦闘訓練のため30分後に訓練棟へお願いします。井ノ上さんは……」

 

 受付の職員に要件を伝え、案内を行えばたきなを見るが彼女は本来ならいないため情報は無いので言葉を詰まらせた。

 

「楠木司令にお会いしたいのですが」

 

 そうすると、予めわかっていたように要件を告げるたきな。職員が手元の機会を見れば。

 

「司令は現在会議中です。お戻りになるのは2時間後ですが……」

 

 律刃と千束の普段の態度からあまり実感はわかないが、普通に楠木は偉いのである。つまり、それだけ多忙なので時間が取れるかは分からないのだ。

 そんな折、

 

「あれ、ほら味方殺しの……」

 

「DAから追い出されたんでしょ?」

 

「組んだ子みんな病院送りにするんだって」

 

 そんな声が聞こえてきた。

 

「(チッ、ド三流が)」

 

 ろくに真偽を確認せず、嘲笑の籠った声色。律刃は内で舌を打って後ろをとおりすぎていくリコリスに侮蔑の感情を向けた。

 

「……何だ、あいつらぁ」

 

 案の定、千束も頭にきたのか人畜無害な表情を険しくさせて件のリコリス立ちを睨みつける。それだけ人が不快なるということだ。

 注意しなければならないのだろうが、逆の立場だったら殺気を飛ばしていたかもしれないので、咎めることはしない。

 

「お待ちになりますか?」

 

「……あ、はい」

 

 職員からの問にたきなは僅かに間を開けて答える。当たり前だ。あんなことを言われて応えない者はいない。

 あまり感情を出さないが、たきなだって1人の人間だ。悪口を入れたりすれば怒るし悲しくもなる。機械ではないのだ。

 

「私、訓練場に行ってきますから」

 

「あ、ちょ、たきな〜!」

 

 脇目も振らず、掛けていくたきなを千束が静止の声を向けるがその背中は止まることなく遠くなっていく。

 

「あの子は……」

 

 ふと、律刃は振り返れば何処かで見た顔のリコリスが今にも泣き出しそうな顔で佇んでいたのが見えた。

 彼の視線に気づいたのか、そのリコリスは直ぐにどこかへ行ってしまう。

 

「ねぇ、何とかならない?」

 

「……その場合、ここが更地になるぞ」

 

「それは……うーん、またの機会に」

 

 困ったように尋ねてくる千束に対し、律刃は腕を組んで答える。そして、八つ当たりのように飴を噛み砕いた。

 

 

 

 〇

 

 

「それで、何か用かリッパー? 訓練はどうした」

 

「んなもん10分で片付けてきたっての。年々質が落ちてんじゃないのか楠木司令? この程度でへばりやがって」

 

 椅子に座りこちらに向け背を向けていた楠木が問えば、壁に背を預けていた律刃が皮肉混じりに答える。

 DA本部、予定していた戦闘訓練を想定よりもだいぶ早く終了させた律刃は司令室に訪れていた。室内には律刃と楠木、その秘書の3人がいた。

 

「30人を相手にその言い草か。相変わらずの化け物ぶりだよ」

 

「そいつはどーも。今はンなことどうでもいいんだ。たきなのやつ、どうにかなんないのか?」

 

「どう、だと?」

 

「ああ。アイツがやったことに関しては仕方ないにしても余りにも処置が重すぎる。オマケにあの噂は何だ? 何もかも全てをあの子になすり付けやがって。……聞いてて虫唾が走る」

 

「組織を守るためだ」

 

「そのために1人を悪者にってか? 巫山戯んな。それに、あの時に偽の取引時間を掴まされたお前らが悪いんだろうが」

 

 組織、組織、組織、実に腹立たしい。

 淡々と告げる目の前の存在に、律刃は自分の手を砕きかねないほど力を込める。

 

「何をお前が気にする必要がある? 井ノ上はお前にとって赤の他人だろう」

 

「今は仲間だ。それと、全て解決したらたきなは戻れるんだろう?」

 

「さて、……そのようなことは一言も言ってはいないが」

 

「…………ッ、本当にたきなを見捨てたってことかよ」

 

 苦虫を噛み潰したように表情を歪め、律刃は絞り出すかのごとく吐き出した。

 楠木は感情の見せない瞳で見つめ、やがて呆れを含んだように言う。

 

「お前がそこまで人間らしく変えたのは彼女(・・)のおかげか?」

 

「…………オ前ガアイツノコトヲ口ニスルナ」

 

「リッパー、何を!」

 

「黙レ」

 

「ッ!?」

 

 気がつけば手刀が楠木の眉間の1歩手前にまで迫っていた。

 律刃の目は黒く、深く、憎悪の炎があり目の前の存在を殺すことに躊躇がないように見える。黙っていた秘書はようやく口を開いたが、律刃の一言に強制的に沈黙させられた。

 あと少しで殺されるという楠木の目は凪いでおり、その目を見た律刃は手を下ろし、舌を打てば背を向けた。その背を鬱陶しそうに楠木は見送り、最後に口を開く。

 

「お前たちの役目を忘れるな。甘さを見せれば刈られるということをな」

 

「だったらそれごと踏み潰してやるよ。俺はもう二度と、俺の光を失わせない」

 

 自分の手で冷たくなっていく体の温かさ。雨に打たれる自分の体。命の灯火が消えていくのに最後まで自分のことを案じていた存在。

 誰に言うでもなく、律刃は司令室を後にした。

 

 

 

「……いいのですか司令、行かせてしまって?」

 

「構わん」

 

「リッパー……。最強のリリベルですか。初めて見ましたが、何故あのような危険な存在を野放しに?」

 

「19と32と53人」

 

「?」

 

「過去に奴を始末しようと送り込んだ赤服(ファースト)青服(セカンド)白服(サード)たちの人数だ。それを全て奴は単独で撃破した」

 

「なっ……!?」

 

 楠木の明かした情報に秘書は絶句した。

 余りにもデタラメな数。それだけの人数のリコリスをアレ1人で撃破したなどと言われて信じることなどできようか? 

 

「本来ならあんな猛獣を野放しにするのは不味いが、アレを手なずけたリコリスがいた」

 

「錦木千束ですか?」

 

「いいや。千束の前に1人いたのさ。あのバカと同じくらい馬鹿なヤツがな」

 

 楠木はそう言い、机の中から一枚の写真を取り出す。

 写真には嫌がる少年を無理やり掴んでいる笑顔の少女がいた。

 

「……撫子(なでしこ)

 

 複雑な思いを込めた声色で楠木はその名前を紡ぐ。

 

 

 〇

 

 

「あー、くそムシャクシャする」

 

 施設内を歩き、剣呑な空気を隠そうともしない律刃。道行く職員やリコリスはそんな彼の様子を見て即座に道を開けていく。

 つい先程、圧倒的な暴力でリコリスたちを蹴散らした事と漏れ出る殺気のせいで誰も彼を咎めようとすることが出来ない。

 

「あ、あの!」

 

「ア"?」

 

「ヒッ!?」

 

 すると、背後から声をかけられドスの効いた声出を出しながら振り返れば、純朴そうな顔を真っ青にした青服(セカンド)のリコリスがいた。

 しばらくその顔を見つめていれば、律刃はようやく思いだす。受付の時にいた子だと。

 

「君は確か……あの時の。悪いな、怖がらせて。何か用か? えーと」

 

「あ、えっと、エリカです。"蛇の目エリカ"」

 

「了解、蛇の目さんな。俺は竜胆律刃だ。それで何か用か?」

 

「あ、……うっ、その、えっと…………」

 

 漏れ出ていた殺気を霧散させ、律刃は少女に問えば何度か言葉を詰まらせた様子を見つめればその肩に手を置いた。

 

「とりあえず、座れるところ行こうやお嬢ちゃん」

 

「あ、はい……」

 

 

 

「ほら、ぶどうジュースでいいか?」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

「よっこいせっと。……それで、たきなのことかい?」

 

「っ、はい……。その、竜胆さんはたきなと一緒に来たんですよね?」

 

「俺じゃなくて千束のやつの付き添いな。まぁ、変わんないか」

 

 自販機のあるスペース、ベンチに隣合うように座る2人。律刃はブラックの缶珈琲を。エリカは律刃から投げ渡されたジュースを受け取り、頷く。

 

「その、たきなは楽しくやってますか?」

 

「いいや、まったく」

 

「そう、なんですか……」

 

 即答した律刃に沈黙してしまうエリカ。そのまま短い時間無言が続き、律刃は苦い液体をちびちびと飲みながらやがて口を開いた。

 

「たきなは後悔してたよ。あの時、君を見捨てれば良かったのか? ってね」

 

「ッ!」

 

「まぁ、即座に否定してやったが。仲間見捨てて任務遂行だなんてバカバカしいだろ?」

 

「でも、それが無ければたきなは左遷されることも……」

 

「そうしたら蛇の目さんはここにはいないだろう?」

 

「それは! ……それは、そうですけど」

 

 否定しようと一瞬語気を強めるが、直ぐにか細くなっていく。小さい体躯がより小さく見えるほど縮こまらせる彼女を横目に、律刃は穏やかな言う。

 

「人ってさ。残されるのは結構きついんだぜ? それが自分の手でやったことなら尚更な」

 

「え……?」

 

「たきなは優しい子だ。君自身も恐らくわかってるんだろ? 聞こえてくる噂にだって君が泣きそうになってることくらい俺が分からないと思うか?」

 

「……」

 

「もし、君が『あの時死んでればたきなはここにいたかもしれない』って思うのは勝手だ。だが、そんなことを言われたたきなはなんて思う? 

 本気でそんなことを思ってるならそれはたきなに対する侮辱だ」

 

「でも、なんて言えばいいのか」

 

「別に複雑に考えることなんてねぇさ。単純でいいんだよ単純で」

 

 そう言って律刃は隣にいる少女の頭を優しく撫でる。

 

「『助けてくれてありがとう』って伝えたら喜ぶと思うぜ? たきなのやつ、普段は仏頂面だけど誰か褒められたり感謝されたりしたら結構分かりやすく柔らかくなんだよ」

 

「……そう、なんですか?」

 

「おう。見たいならリコリコに何時でも来てくれよ。歓迎するぜ?」

 

「……じゃあ、機会があれば行きますね」

 

「あいよ。……にしても遅いな千束たち。もうおわってもいいころなのに」

 

 立ち上がり、時間を見れば千束の検査が終わっている頃合いだ。なのに連絡ひとつない。そんなことを思ってると。

 アナウンスが流れ、14時から模擬戦が始まるらしい。

 

「あ、いたいた〜。エリカ、たきながフキと模擬戦するんだって……誰?」

 

 すると、物陰から背の高いカチューシャをつけたリコリスがやってくる。エリカの名を呼んだことから知り合いらしい。

 

「ヒバナ……。この人は竜胆律刃さん。たきなと一緒に来てた人だよ」

 

「ああー……って、この人さっき戦闘訓練で30人相手に無双してた人じゃん!」

 

「え?」

 

 ヒバナというリコリスの叫びにエリカはギョッとして律刃を見る。

 

「おいおい人を化け物みたいに見るのやめてくんないか?」

 

 肩を竦めて言うが、事実なのでそれ以上は何も言わず律刃はゆっくりと歩く。

 

「んじゃ、またな蛇の目さん。あとコレやるよ」

 

「あ、はい竜胆さん。ありがとうございました」

 

「いいってことよ。ああ、あとこういう事をやってたらいつ死ぬかも分からないんだ。早めにたきなと話し合えよ〜」

 

 そう言い残し、片手を揺らしながらその場を去っていく律刃。その背を見送り、小さく片手を振るエリカと怪訝な顔のヒバナ。

 

「ねぇ、エリカ。あと人と何話したの?」

 

「秘密! それよりも早く模擬戦見に行こうよ」

 

「? はいはい」

 

 律刃に渡された飴をポケット入れ、エリカはヒバナを連れて走り出した。その後、模擬戦の結果を見て自分の事のように喜んだりしたとか、してないとかを

 

 

 〇

 

 

 壁に背を預け、待っていれば律刃は聞こえてきた足音に目を開き顔を向ける。

 

「よう、おつかれさん。結果は……聞くまでもないな」

 

「ふっふっふー、圧勝です!」

 

 いぇーい、と両手を上げてくる千束に付き合って小さくハイタッチ。

 後ろにいるたきなを見遣れば、どこかすっきりとした面持ちだ。

 

「1発かましてきてやりました」

 

「ハハハ、そいつはいい。溜め込むのは毒だからな。定期的に発散するのが健康にいちばんさ」

 

「じゃ、終わったことだし帰ろう!」

 

 と言ったところで。

 

「オイ」

 

 声をかけられ、振りえればたきなに殴られた傷とあちこちにペイントの汚れをつけた目つきの悪い赤服がいた。律刃はその顔見て呟く。

 

「おー、誰だっけ?」

 

「フキだ! "春川フキ"いい加減名前覚えやがれ竜胆律刃!!」

 

 こめかみに血管を浮き上がらせ、地団駄を踏む赤服もとい春川フキ。今回の模擬戦の対戦相手となった人物がいた。

 

「ハハハ、俺弱いやつに興味無いし」

 

「コノッ!! ……チッ!」

 

 律刃の物言いにフキは盛大に舌を打つがそれ以上は噛み付こうとはせず、たきなを睨みつけ指を向けた。

 

「お前、模擬戦なんだぞ。後ろから撃てばよかったのに、後ろから突っ込んできて殴るなんてバカげてる」

 

「……これでおあいこですね」

 

「ハハハハハハ!! たきな、お前言うなぁ! いいねぇ! そういうの大好きだぜ? 俺は!」

 

 薄ら笑いをうかべ、言い放ったたきなに律刃は盛大に笑う。鋭い切り返しにフキは顔を更に赤く染めて吐き捨てた。

 

「チッ! やっぱお前使い物にならねぇリコリスだよ! 命令違反に独断行動、二度と戻ってくんじゃねぇ! あといつまでも笑ってんじゃねぇぞヤニカスが!」

 

 肩をいからせて去っていく背中を見送り、たきなと律刃は互いに目を合わせてクスリと笑いあう。外に出れば、すっかり空は晴れて綺麗な夕焼けが空を彩っていた。

 

 

 

 

「律刃〜、なんかちょうだい」

 

「どら焼きならあるぞ」

 

「ムグムグ、たきなさあ……」

 

「なんです?」

 

「私を狙って打っただろ?」

 

 帰りの電車の中、律刃が持っていたどら焼きを頬張りながらそんなことを言い出す。

 たきなが乱入してきた時、確かに彼女は千束を狙っていたように見えた。

 

 たきなは千束から渡された飴を受け取り、外を見ながら言う。

 

「きっと避けると思いましたから」

 

 詳しいことは律刃にはわからない。けれど、随分と信頼が高まったなと思う。

 

「非常識な人ですよ千束(・・)は」

 

 そう言い、飴を口に運ぶたきな。

 千束の呼び方にさんが無くなり、心境の変化があったことを察して微笑む。

 

「でも!」

 

 千束が

 

「まぁ……」

 

 律刃が

 

「「スッキリ、したな?」」

 

 2人が問えば、

 

「ええ」

 

 イタズラ小僧のような笑み浮かべ、答えるたきな。

 

 それと同時に千束のスマホが鳴りだし、通知を見ればボドゲ大会のメッセージだった。

 もちろん、返事は参加の言葉。

 3人で笑う写真を送り、電車の中で笑い会うのだった。




律刃
ふたりが仲良くなってよかった。それはそうとボドゲ大会ではビリだった

千束
たきなが呼び捨てでご満悦。それはそうとボドゲ大会ではワースト2位だった。

たきな
信頼が高まった。ついでに律刃から痛い殴り方を伝授された。ボドゲ大会ではワースト3だった。

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