リコリス・リコイル 竜胆の花は彼岸の花に何を見る? 作:タロ芋
『……ごめん、こうなっちゃった』
泣きそうな顔で彼女は言う。
『いや、別にいいさ。いつかはこうなるって思っていた。それが、たまたま今日だっただけだ』
少年は気にした様子もなく言えば、少女はくしゃりと顔を歪めてその銃口を向けた。
少年はその様子に苦笑し、鞘から刃を抜き切っ先を向ける。
心のどこかで永遠に来ないのではないかと思っていた別れの時。少年は淡い思いを奥底にしまい、雨に打たれ、体を濡らしながら目の前にいる彼岸花たちへとゆっくりと歩んで行った。
『どうして────なんで、お前は俺を庇った!?』
『げほっ……フフッ、なんで、だろう……ね?』
胸を赤く染め、少年が叫べば少女は口から赤い塊を吐き出し、弱々しく笑いながら言う。
『クソッ、待ってろ今止血してやる!!』
『うう、ん……いい、よ。早く、君は逃げ、て』
『喋るな! いいか、お前を殺すのはこの俺だ! 勝手に死んだら殺してやるぞ!?』
『なに、よ……それ。フ、フ……ゴホッ、ゲホッ』
少年は手を尽くした。だが、いくらやろうとも血は止まらず刻一刻と時は迫る。
『ねぇ……私、君と出会えて……幸せだった、んだ』
『黙れ……』
『わた、し……みたい、な人殺しが、ゴホッ……誰かを、救え、たんだ……て』
『……』
『で、も……わた、しね。恋も、……したかっ、たん、だ』
『……』
『ね、え…………さいご、に、お……ね、が、い』
『ッ……なん、だ』
少年はか細い声を聞き逃さぬよう、少女の口元へと顔をちかづける。
『────ッ』
『!!!』
唇が何かと触れる。少年は目を見開き、少女の顔を見ればイタズラが成功した時みたいな笑顔を浮かべていた。
その笑顔がとても儚くて、綺麗で、絵画のようで、少年は目を奪われる。
『律刃……大好き』
少年、律刃の頬へ手を添えてゆっくりと撫でた。
『貴方の瞳の色が好き』
『貴方の髪が好き』
『貴方の声が好き』
『貴方の不器用な優しさが好き』
『貴方のぎこちない笑顔が好き』
『そして、私を愛してくれて。私を好きになってくれて、ありがとう』
『あなたと過ごした日々は、私とって大切な宝物だったよ』
〇
「うっ……あッ……! なで、しこ……ぉれはッ!!」
叫び、体を起こす。
伸ばした手は空を切り、気がつく。さっきまで見ていた光景は己と夢だと。
「朝……か」
ゆっくりと視線を横に向ければ朝日が昇り、街並みを明るく照らす様子がカーテンのレース越しに見える。
頬に流れる涙を乱雑に拭い、律刃は部屋を出た。
シュ……ボッ
「……フー」
ベランダに出れば煙草に火をつけ、ゆっくりと吸った後に煙を吐き出す。ぼんやりと朝焼けに照らされる街並みを見つめ、律刃は煙を吸って吐くという作業を繰り返し続ける。
今もこの時間の中、リコリスたちはこの目の前の街のどこかで悪人たちを人知れず殺しているのだろう。
それが正しいか否かなどとは律刃には断じる気は無いし、関わりのない事だ。
でも、ひとつ言えることはその活躍は誰にも知られることは無い。何も知らない人々の日常を少女たちの犠牲の上で成り立っていることを知っているのは、それこそ彼女たちと同じリコリスだけだ。
「律刃」
ふと、声が聞こえた。後ろへ視線を向ければ腰に手を当てて自分を呆れたように見ている寝巻き姿の千束がそこにはいた。
「千束か……。今日は早いな」
「まあねー。今日なたきなと出かける日だし早起きなのサ。隣空いてる?」
「…………」
無言を肯定と受け取ったのか、千束は律刃の隣に移動しベランダの手すりに肘を乗せて同じように街並みを眺める。
数秒、数分経っただろうかふと、千束が問いかけた。
「またあの夢?」
「……いいや」
「嘘。律刃ってあの夢見た時はいつもここで煙草吸ってるの知ってるんだから。それに、涙のあと残ってるよ?」
千束は律刃の頬を撫でればそっと、隣に何も言わず外を見つめ続ける律刃に寄り添う。同じ景色を見ながら彼女は安心させるよう、言い聞かせるように呟く。
「私は消えたりしないよ」
「……」
「律刃は寂しがり屋だからね。私が居なくなると絶対泣いちゃうもん」
「千束」
「んー?」
「……ありがとうな」
「フフン、いいってことよ」
その言葉に千束は薄く笑い、律刃は千束から伝わる体温を確かめるのだった。
「……それはそうと煙草吸ってるのは許さんからな?」
「……誠に申し訳ない」
「荷物持ち宜しく〜」
〇
待ち合わせの時間まであと少し。地下鉄の駅前で壁に背を預け律刃は道行く人々を眺め、千束はスマホを弄っていた。
「わぁ……あの人かっこいい」
「ねぇ、声掛けなよ?」
「えー、でもぉ」
律刃は格好いい。童顔ではあるが凛々しい顔立ち、引き締まった体躯に高い身長。今は飴を咥えているが、その姿も様になっており伊達メガネを掛けた彼は道行く女性の視線を集め続ける。
千束はなんだかソレに対して無性に腹が立った。なんだなんだお前たちは? 律刃の見てくれだけでキャーキャー言いおってからに。脱いだら凄いんだぞ律刃は。
「ムー……」
「どうした?」
「べっつにー!」
「飴いるか?」
「……貰う」
差し出された飴を貰い、棒の着いたそれを口へと運ぶ。
独特な風味と甘さ。律刃が好んで食べるフレーバー。
「……あんまり美味しくないねコレ」
「まぁ、日本人の口には合わないやつだからな」
外国ではメジャーなフレーバーだが、千束は海外には行ったことないため本当かどうかはわからない。
この飴は律刃がわざわざ個人で輸入しているのだ。
他愛のない会話を律刃と行い、時間を潰していれば約束の5分前に待ち人がやってくる。
「お待たせしました」
律刃と千束は視線を向けた。
そこにはTシャツにジャージのズボンという休日の部屋着スタイルのたきな少女がいたではないか。
「お……おぉ、お? なんか新鮮だ、なぁ」
「よっ、たきな。…………いや、まぁ予想はしてた」
「問題は無いはずですが?」
「いや、まぁそうなんだが、なぁ……」
試しに周囲を見渡せば、オシャレな人々が沢山。ウン、問題は無いのだが、なぁ?
「まぁ、そんなことより。銃持ってきたな貴様?」
「ダメでしたか?」
「抜くんじゃねぇぞ?」
律刃は察した。千束のやつ、おこである。まさか銃の入ったリコリスの鞄を持ってきてるとは思わず、律刃は笑顔(怒)の千束の横で空を仰ぎみる。
「ところで、おふたりのその衣装は自分で?」
「衣装じゃねぇ……」
「んな、訳あるか……」
なんだろう、始まる前から疲れてきた。
「ねぇ、1枚も持ってないのスカート?」
「制服だけですね。普通、そうでしょう?」
「まぁ、"リコリス"はそうだね。ねぇ、買おうよー! たきな絶対似合う!」
「よく分かりませんし……。千束と律刃さんが選んでくれたら……」
「え、いいの? ヤター!!」
「なぜ俺も……?」
「律刃さんも見たところセンスがいいのでは? と思ったので」
「そうかぁ?」
たきなはそう言い、律刃の私服を見る。
顔には伊達メガネをかけ、髪は折りたたんで一つにまとめ、白い無地のTシャツの上に淡い青のシャツを羽織り。下にはスラックスと腰に巻いたポーチというカジュアルな格好である。
『怪力乱神』という文字の印刷をされたTシャツを着ようとしたら千束に張り倒されたことはどうでもいい事だ。
「まぁ、期待してくれてんのなら応えてみせるさ」
「ええ。楽しみにしておきます」
「おお! これいいねぇ!」
「これとかどうだー?」
「ムムム! そう来たかー。律刃ってば清楚なのが好きなのかなー?」
「物静かなたきたになこれがいいだろ。お前と違って」
「オォン、それどういう意味じゃワレェ?」
「……ガラ悪いなコイツ」
代わる代わる持ってくる服やズボン、スカート。次々と試着させる。
千束と律刃は顎に手を添えてたきなのファッションショーを行う。
「おほぉ! めっちゃ可愛い!!」
「写真撮っとけ」
「ほいほいっと!」
「……どうも」
頬を朱に染めて照れるたきなは可愛らしかった。
ついでにとばかりに買った服に着替えさせたたきなを引き連れ、コスメショップにはいれば2人はあーでもない、こーでもないと化粧品を手に取り話し合った。
「これとかどう?」
「まだそういうのはいいだろ。素材がいいから手はあまり加えない感じでな」
「素材言うなし。あ、たきなってリップグロス持ってるー?」
「千束、律刃さん……そろそろ、本来の目的を」
「「あー……」」
そこでようやくたきなは本題を出す。2人はここに来た目的を思い出し、気まずそうに顔を逸らすのだった。
「んじゃ、俺は適当にぶらついてるわ」
「りょー。終わったら連絡するね」
「? 律刃さんも来ないのですか?」
「わっざふぁっく!? 行かないよ!?」
きょとんと首を傾げて聞いてきたたきなに律刃は大声で拒否した。
何故ランジェリーショップに男である自分が同行せねばならぬのだ。新手の拷問かなにかか?
「あー、とりあえず言えるのは肌に合ったものと洗濯のしやすい物な。あと値段についてはケチらないこと。じゃ!!」
捲し上げるように律刃は告げると、そそくさとその場から立ち去る。
たきなはそれを見送り、ふと口を開く。
「そんなに一緒に行くのが嫌だったのでしょうか?」
「…………誰だって来ないと思うよー?」
「そうなのですか?」
千束は苦笑するしかなかった。
店内に入り、様々な下着を見る2人。色んな柄や生地のそれを見るがたきなには何がいいかはよく分からない。
助け舟を出すように千束はたきなへと尋ねる。
「どう、好きなのあった?」
「好きなの……を選ばなきゃいけないんですか?」
「え?」
「仕事に向いてるものがいいですね」
つまり、
「あー! 銃撃戦向きのランジェリーですかぁ? そんなもんあるかァ!!」
「
「いや、先生そんな事考えてるわけないだろ。だいたい、トランクスなんて人に見せられたもんじゃないでしょー?」
「パンツって見せるものじゃなくないですか?」
「いざって時どうすんのよ?」
「"いざ"って時ってどんな時です?」
「そりゃあ! 異性に見せる……た……め………………」
顔を真っ赤にし、押し黙る千束。
その異性と言った瞬間に何故かここにはいない律刃の姿が思い浮かんだのだ。冷静になんてなれるわけがねぇのである。
(ちょっと待て。なんで今アイツのことを!? あんな、口の悪いガキみたいな性格で、負けず嫌いで、いつも自分のことよりも私の事を気にかけて、ピンチになったら体を張って助けてくれて、美味しいご飯作ってくれて、なんだかんだ言いながら構ってくれて、それで、それで…………)
「ふぉぉおおおおお…………!!!」
そんでもって今朝の事である。いや、だって仕方ないでは無いか。普段は堂々としてるくせしてふとした時に見せる弱った顔を見せられたら……こう、ね?
というか、もし自分が求めたら律刃は断るのだろうか?
『あの、ね律刃。その……』
『俺もその、初めてだから…………うん』
「ウオオオオオアアア──ーッ!!」
ブンブンとヘドバンし始め、千束は桃色なそれをかき消した。
「…………」
「うわ、ちょ!?」
使い物にならなくなった千束をたきなは引っ張り、試着室へと引きずり込む。
「え、な、なに!?」
「千束のを見せてください」
「わっざふぁっく!?」
「見られて大丈夫なパンツかどうか知りたいんです!!」
「え、えぇ、えええ……?」
しゃがみ、たきなは千束の下半身へしなくてもいい注視をする。困惑を隠せない千束。むしろ、困惑するなと言うのが無理である。
「早く!」
「は、はぃぃぃい……」
迫真の声で急かされ、千束は気圧されながらもズボンを抜いで下着をたきなへ見せるのだった。
「……これが私に似合うと言うと違いますよね?」
「その通りだよなんで見せたの私!? 律刃ァ! ヘールップ!!」
悲痛な叫びは店内に木霊する。お客様、店内ではお静かに。
「へくちっ!!」
「
「
「
「
「
千束がたきなに下着を見られている間、適当にぶらついていた律刃は迷子らしきロシア人の女の子をみつけ一緒に親御さんを探していたのであった。
律刃
迷子の親御さんを探してる。飴あげたら喜ばれた
千束
たきなにパンツ見られた+妄想で恥ずか死にそうになる
たきな
無知ゆえセンスが終わっていたが、この度見事にお洒落さんとなる。でもやっぱりトランクス良くないですかね?
迷子
優しいお兄ちゃんと一緒で嬉しい。飴貰ってもっと嬉しい。ついでに言うと初恋をしてしまった