もしエレジアが白ひげ海賊団の縄張りだったら 作:座右の銘は天衣無縫
白ひげ海賊団がとある秋島に停留した翌日
積荷のやり取りや、船員達のストレス解放などの理由から島についてからは毎回停留は数日から十数日の間続く
その間にも仕事はあるが、それよりも多くの自由時間が与えられる
ウタはその自由時間を使って初めて訪れたその島を見て回っていた
景色や住人達の生活を見ては、そこから思い付いた歌を書き留める
ウタの記憶に強く残るのは何年も暮らしていたエレジアと幼い頃にシャンクス達が拠点にしていたゴア王国のフーシャ村だけだ
シャンクス達と色々な島を巡っていた時の記憶は色褪せてしまって久しい
そしてウタも成長した
島に来た新たな住人から色々な話を聞いて、ゴードンから色々な情景を題材にした歌を教えられ、感性は育った
だからこそ、今目の前にある景色全てが新しく感じる
島の住人に会っては収穫の手伝いをしてみたり、船員達に会えばオススメの店とメニューを聞いて実際に食べてみたり、山の中で猛獣に出くわせば必死で逃げてちょうど近くにいた船員達を巻き込んでしまったり、と毎日を刺激的に過ごす
夜は住人からこの島に伝わる伝統的な民謡をリクエストされ、それを教えてもらいながら一緒に歌ったりという経験は新鮮なものだった
なにせエレジアにあるのはある程度有名な曲ばかりだ
それぞれの島に伝わっているようなマイナーな民謡はない
民謡特有の独特なリズムと歌詞は色々な歌を歌ってきたウタにとっても初めてのものだった
そうして島で過ごすこと数日、次の航海が始まる
1回目の航海の経験を活かそう!と思いつつも千変万化の海と空模様に翻弄され、無理だった
更には2回目の航海にして戦闘が勃発する
相手は白ひげ海賊団のシマを荒らしに来た別の海賊団だ
もちろん、ウタが戦闘に出される事は無かった
だが、その戦闘の様子を安全な船内から覗いていた
能力者達のド派手な戦いぶりと、船員達の息のあった連携
生まれて初めて見た本格的な鉄火場にウタは引き込まれる
やがて戦闘は終わった
白ひげ海賊団側の損害は軽傷者が少しいるだけ
命に関わる様な大怪我をした船員達はおらず、その日の夜には勝利を祝って宴が行われる
本来ならウタはその宴を盛り上げる役なのだが、初めて見た戦闘の光景を思い浮かべて何か思うことがあるのか今回は部屋に篭っていた
何も書かれていない楽譜に何か書いては、確かめる様に数節だけ軽く歌う
それは宴が終わっても続き、同室の住人が戻ってきたら邪魔にならない様に甲板に出て作業を続けた
そして夜が明けた頃
早く起きた船員の1人が目にしたのは、書き上がった楽譜を抱えながら甲板の上で寝ているウタだった
その日の午後、甲板の上には多くの船員達が集まっていた
その中心にいるのは4番隊隊長のサッチと新入りのウタ
戦闘に使えるか試したい事があるというウタにサッチが付き合っている形だ
周りの船員達はその様子を聞いたり、人伝に聞いて集まって来たのだ
「じゃあ、まずコレから。
『家族の交響曲』」
技名を告げてウタが歌い始める
歌詞もないただ、laという音だけで作られたその歌が始まると同時にサッチの体が淡く光り始める
「こりゃあ……!」
そう呟いて軽く確かめる様に体を動かす
そして自身の武器である長刃の包丁の様な武器を持つと、思いっきり空に向かって斬撃を放った
放たれたそれは明らかに今まで使って来た同じ技よりも強く、飛んでいった先にある雲を切り裂いた
それを見たウタは歌を止める
それと同時にサッチの体を覆っていた光は薄まっていき、消えた
「よし!
成功だね!」
嬉しそうにガッツポーズをするウタにマルコが話しかける
「仲間を強化する技か。」
「そう!
私の歌が届く範囲にいる仲間を強くするの。
多分、人数が増えれば増えるほど効果が薄くなるか私の消耗が激しくなりそうだけど、今みたいに1人だけに使うなら全然大した事なく使えそう。」
「そうか、良い技だよい。
親父に使えば正しく最強になりそうだな。」
「バカ野郎、こんなの使われなくたって俺ァ最強だ。」
その言葉にそれは確かに、と全員が笑う
「それともう一つ。
サッチさん、ちょっとそこ立ってて。
攻撃するから受け止めて?」
「おうよ、かかってきな。」
サッチが武器を構えながらそう答えたのを確認して、ウタも構える
「行くよ!
『風の遁走曲』!!」
ウタが空気を掬い上げるように手を振り上げると共に放たれたのは縦に伸びた飛ぶ衝撃波
「!
っと、らァ!!」
その予想外の攻撃に一瞬驚くサッチだが、すぐにその衝撃波を受け止めると斬り払った
「ありゃ、こっちはちょっと失敗。」
「いやいやいや!?
結構しっかりした攻撃だったじゃねェか!
何が失敗なんだよ。」
「飛ぶ斬撃をイメージしてたの。
鋭さが足りなかったのかなぁ。」
失敗だという言葉に突っ込んできた船員に答えながらウタは考える
「昨日の戦いでみんな飛ぶ斬撃を簡単に使ってたし、シャンクスのも見たことあったからいけると思ったんだけどなぁ。」
「グララララ、戦闘を見て昨日の今日で形にしたってのか。
中々自分の能力を分かってるじゃねェか。」
「うん、と言ってもウタワールドなら簡単に出来る事を現実世界でもやってみようとしただけなんだけどね。
現実世界で音や歌を攻撃に使うには、結構しっかりしたイメージがいるみたいなの。
考えてる事とか、昨日ので考えついた事はいっぱいあるけど、形にできたのは今の2つとあと3つ。
皆の技や能力をイメージの元にしたいんだけど、まだ足りないんだよね……」
その言葉を聞いて白ひげが笑う
「なら、ウタ。
テメェ次からは戦闘に出ろ。
最前線に立てとは言わねェ、後ろから支援するだけで良い。
必要だってんならしっかり目に焼き付けとけ。」
「え、良いんですか親父!
まだ流石に早ェんじゃ……」
「心配ならテメェらでしっかり守れ。
ひよっ子1人いるだけで勝てねェなんて情けねェ事言うんじゃねェぞ。」
「お、おお、そうか。
よっしゃ、俺らのアイドルは俺らで守るぞ!!」
オオオオオオ!!と雄叫びをあげる船員達にバカ息子共め、と笑う白ひげ、予想外の熱量の高さに苦笑いするウタ、隊長達は呆れていた
「そういや、あと3つあるっつってたけど、どんなのなんだ?」
「『音の弾丸』って言ってね。
その名前の通り音速の弾を飛ばせるんだ。
それぞれに色々な性質をつけようと思ってるの。
今出来るのは当たったら強い衝撃を起こす『衝』、一発が重い『重』、当たったら跳ね返る『跳』。
この3つは昨日の夜に使った空き缶に当てて確認したの。」
質問に答えながら指で鉄砲の形を作ってバァン、と撃つふりをする
するとその先にいた船員の1人が胸を抑えてぐわぁ、と言いながら倒れた
「チクショウ、可愛い……!」
「分かるぜ兄弟。」
どうやらウタのガチファンの1人だったらしい
「支援と遠距離攻撃か。
結構、理にかなってるじゃねェか。」
「私の能力の媒体は声や音だからね。
それを活かそうと思ったら自然とこんな形になったの。
自分の身体能力も強化したいんだけど、『家族の交響曲』だと強化率がイマイチになっちゃうんだよね。
多分、自分だけを強化したいのなら別の歌が必要なんだと思う。」
「はァ、よく分からねェ能力なんだな。」
ウタウタの実の能力は幼い頃から扱っているウタ自身ですら何が出来て何が出来ないのか、どうしたら効率よく使えるかが分からない能力なのだ
昨日、戦闘を見るまで現実世界でも使えるか試してみようとしたが、その時はほぼ全く使えなかったのだ
それが昨日の戦闘を見て思いついた歌でやってみた途端に一気に使えるようになった
この能力の鍵は確固としたイメージと歌
それが分かっただけ大きな収穫だが、そのイメージを固めるには何度も見た光景か、相当強く印象に残る光景が必要だ
新技一つ作るのにもかなり苦労しそう……と少し憂鬱な気分になった
航海は続く
そこで得られる経験はウタを強く、しなやかに育てていく
エレジアに留まっていては決して得られない過酷な経験、それがウタの力と変わる
そして、ウタの海賊としてのターニングポイントがやってきた
海軍との戦闘だ
「船、海軍の軍艦だァ!!
10時方向に3隻確認!!」
突然の見張り番からの報告が船に響き渡る
ウタにとっての初戦の相手は海賊団ではなく、正義の使者たる海軍となった
「海軍……いつものだろうな。
適当に戦ったら追い払うだけに済ませるぞ。」
「あいよ。」
「いつもの、って?」
偶然、すぐ横にいた白ひげとマルコの会話を聞き、疑問を感じたウタが質問する
それに答えたのはマルコだ
「俺達は新世界のバランスを守る四皇って括りになってる。
バランスを守ってるし、まともにやれば間違いなく大損害を受ける相手、海軍といえども考えなしに潰そうと出来るわけじゃねェんだよい。
だが、知らねェ内にクソ強ェ奴が仲間になってたり、いつの間にか急成長してた奴がいたら困る。
だから威力偵察とあわよくば戦力を削りたいって事で、定期的にああやってちょっかい出してくるんだよい。
ウタもこの戦いで活躍すりゃあ、立派な賞金首デビューにならァ。
どうする?
別に賞金首になるのが嫌ってんなら、この戦いは辞退しても構わねェよい。」
賞金首になる
いつかはなるのかもしれない、と漠然と考えていたがこんな早くなるとは思っていなかった
どうしよう、と一瞬迷うがすぐに腹を括った
「やる!
私だって新入りだけど白ひげ海賊団の一員だよ!
それにシャンクスの所にいた子供が成長して白ひげ海賊団に入ったなんてすぐにバレそうだし、それだけのネームバリューがあったら懸賞金が掛けられるのも遅いか早いかでしかないからね。」
自分の特徴的な紅白に別れた髪を弄りながらそう答える
シャンクスの所にいて色々なところを見て回った時も、これまでのエレジアでの生活ででも私みたいな髪を持った人は見た事が無かった
普通にバレてもおかしくない
「良い覚悟だよい。
右舷からの接敵になる、ウタは左舷側で待機しとけ。」
「了解!」
マルコからの指示に従ってウタは船の左舷で位置に着く
もう海軍の軍艦は目で見えるくらいの所まで近づいていた
「総員、戦闘配置に付けェ!!
海軍との戦闘だァ!!
名を上げてェ奴ァ、クソッタレ海軍に喰らい付けェ!!
既に賞金首の奴ァ、間違っても賞金を落とされるような甘っちょろい戦いをするんじゃねェぞ!!
行くぞ息子達ィ!!
開戦だァァ!!!」
その号令に合わせて雄叫びが上がり、大砲を撃ち始める
軍艦も負けじと撃ち返してくる
飛んでくる砲弾を戦闘員や隊長達が撃ち落として対処し、船には絶対に着弾しない
「すごい……!」
「跳べる奴ァ、俺について来い!
切り込むぞ!!」
そう言って青い炎を纏って飛んでいくマルコを中心に数十人の船員達が空を駆けていく
「え!?
空中を飛んでる!?」
「ハハハハハハハハ!!
流石に知らねェか!
ありゃあ、六式って海軍や世界政府が使う体術の技の一つ、『月歩』だ。
超人的な脚力で空気を踏んで空を跳ぶって技だな。
出来ればかなり便利だぞ。
俺は出来ねェが!」
ウタのすぐ隣にいた船員の一人がウタの驚いた様子に笑って答えてくれた
既に軍艦の一つでは船員達が大暴れしているのか爆発が起こっている
やがて軍艦との距離が近づき、普通に飛び移れるほどの距離にまでなった
そうなれば、後は敵味方入り乱れた戦いが起こるだけだ
船員達が飛び移って攻め入ったり、逆に飛び移ってきた海兵達と戦ったりだ
「行くよ、『家族の交響曲』!」
モビー・ディック号に残って海兵達と戦う船員達に対して強化をかける
その途端に船員達の体が淡く光り、力や速さ、耐久力などが強化される
「ぐっ……!?
なんだ、急に強くなった……!?」
「こりゃあ、ウタちゃんの……!
良いねェ!
最高だぜこりゃあ!!」
それまではある程度互角に戦えていた海兵達が押され始める
急激なパワーアップに何かタネがあると踏んだ何人かの海兵がウタに気付いた
「あの少女だ!
あの歌が奴らをパワーアップさせている!
アイツを狙えェ!!」
「させるかァ!!
俺らのアイドルに不埒なマネしてんじゃねェぞ、海兵共!!」
だが、気づいた所で対処は出来ない
すぐに白ひげ海賊団の誰かが邪魔に入って、ウタを狙う事は出来ない
「クソッ!
何とか隙を作らねば……!」
歯噛みする海兵達
その時、軍艦からまた一人海兵が飛び乗ってきた
「!
道を作る!
あの少女をやれェ!!」
それを確認した途端に海兵の1人が周りを一瞬だけ抑えて、ウタがフリーになった
「!
了解しました!」
その命令をすぐに理解したその海兵は言われた通りにウタに向かって一直線に走っていく
「!
ヤベェ!
ウタちゃんが!」
「!
ごめん、少し支援切る!!
『音の弾丸・衝』!」
歌を止め、飛び上がった海兵に対して技を放つ
「くっ……!」
着弾と同時に破裂して衝撃を放つ
それを受けた海兵は何とかガードして無傷で降り立つが、衝撃に押されて下がってしまう
「『跳』!」
「!?」
続いて放たれた弾丸は全く見当違いの方向に飛んでいったかと思えば、反射して海兵の頭の横からぶつかる
完全に意識の外からの攻撃に脳が揺らされて思わずふらついた
その一瞬の隙に他の船員に後ろから殴られて、その海兵は倒れた
「ありがとう!
支援再開するね!」
とどめの一撃を放った船員に感謝を伝えてから、もう一度歌い始める
もう一度強くなった船員達に押されて海兵達は一人、また一人と沈んでいった
戦闘は白ひげ海賊団の圧勝に終わった
軍艦の一隻の甲板の上に気絶した海兵達が山積みにつまれ、わずかに残った非戦闘員の海兵達が涙目になりながら船を動かして海域から去っていった
「おととい来やがれ海軍!!」
「ざまぁねェぜ!!」
「俺の賞金上げろよォー!!」
逃げていく軍艦に対して船員達が思い思いに煽りつつ、傷の手当てを受けている
初の戦闘を終えたウタは無傷だ
余韻に浸りつつも、無傷であったことからサッチに引き抜かれてキッチンに立つことになった
技名は曲の種類や音楽用語から
ぶっちゃけ能力者は初見殺しも甚だしいから、新世界の海兵でも雑兵レベルなら対策なしじゃ、どうしようもないと思う
感想、評価お待ちしてます
感想見るの楽しいし、高評価来ると嬉しいんじゃ
皆も気に入った小説あったら積極的に感想や高評価あげたげて
作者は須く単純だからそれだけで嬉しくて小説に力の入る生き物だから