トキシック イディオット   作:o-fan

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pixivに投稿した同名タイトルの同一作品です。
既読の方はご注意ください。


トキシック オズモシス

『もしかしてって思ったら全部タマゲタケだったんだよ』

「あははっ!なんだそりゃ」

ホミカにとって、ここまで声色が軽やかになる相手も珍しい。

日が落ちて数時間が過ぎた後、連なる家々の中から漏れ出す光の数が緩やかに減っていく。

そんな光を未だ灯す家の中、メイクと一日の汗を洗い流し、綺麗さっぱりリフレッシュしたあとのホミカは黒いタンクトップと半ズボンを着、肩にかけたタオルをそのままに冷蔵庫からサイコソーダを取り出しキャップを開ける。

プシュっと音がした後軽く口をつけて味を楽しみ、缶をダイニングテーブルに置きソファーに体を投げ出す。

次いで腕のライブキャスターを顔の正面に持ってくる。

キョウヘイの顔だ。

「それはレアな体験してるよっ。よかったじゃん」

『ホミカも実際目の前にしたらそんなこと言ってられないって…』

笑いながらため息をつくのが見てて面白い。

「そう?あたしならやってやろうじゃんって感じ?」

『ほんとに~?』

「ほんとだよ~」

キョウヘイのいぶかしげな目線に口を尖らして答え、うつ伏せになり足をばたばたさせる。

最近すっかり暇なときに近況を聞くのが習慣になってしまった。

キョウヘイも例え切羽詰ってるときでも律儀に出てくれる。それがまたエキサイティングで面白い。

きっかけはストーカーの一件。互いに連絡先を交換したことを機に、ホミカはバトルのリベンジを遂げる機会を伺っていた。

しかしいざ連絡をして約束を取り付けようとしてみると、なんだかんだでやっぱりこいつは多忙だ。しかも本人から望んで突っ込んでいくからたちが悪い。

一体何時なら会えるのか。繰り返し連絡を取るうちに言葉の応酬が徐々に増え始め、通信に夢中でホミカパパがさびしそうにしている事にホミカは気づかない。

(連絡するたびに喜んでたり落ち込んでたりやけにマジだったり。本当面白いなーこいつ)

予測できないキョウヘイがTVの何倍も面白い。そしてライブキャスターを切るとき、ホミカの顔は決まって笑顔になっている。

…当初の目論見を決して忘れたわけじゃない。

「キョウヘイは明日はどこに行く予定なんだ?」

『バトルサブウェイ。BPをまた貯めにいくよ』

「だったらトーナメントにきなよー。あたしが面白くないじゃん」

『サブウェイもまた違った面白さがあるよ。ホミカも今度行ってみれば?』

「んー。あれギャラリーいないからねー」

バトルサブウェイはどちらかというと修行に近い。

求道者的ですらあるキョウヘイが果敢に挑む姿は想像するだけでさまになっているが、ステージに出て観客の熱い視線を一身に浴びる事を好とするホミカには、少々足を運びにくい。

「そう?サブウェイの、相手が何を出してくるか予測がつかないってのも面白いよ」

「そりゃあPWTで出場するやつは名前と一緒に戦法が知れてるけどさ。キョウヘイの場合毎回面子違うからサブウェイと一緒だよ」

「それもそうか」

他愛もない話が続く。しかしいつもホミカが気になるのは、彼の今の動向。

「キョウヘイはしばらくサブウェイ、ライモンシティにいるのか?」

「そうだね。近くにジョインアベニューもあるし」

「ジョインアベニュー…」

キョウヘイがプロデュースする、ポケモントレーナー達のトレンドの街。最近ではジムリーダーも訪れるというがホミカはまだ行ったことがない。

「ふーん…じゃあさ。今度の週末、あたしライモン行くから、どこかで待ち合わせしないか?」

「おっいいね。じゃあ遊園地とかどう?」

(あっ結構あっさり)

約が取れた。

「遊園地か…」

咄嗟ホミカの思考に、異性と二人っきりでレジャー施設に行ったことなどあっただろうか、そんな言葉がよぎった。

「…ああ。それじゃあ…」

なぜ頬が紅潮し声がどもり、喜びに口が歪むのか。ホミカはその理由を熟考するゆえ、翌日のライブが終わるまで加速した世界を過ごした。

 

「……」

「ホミカ…」

「どうしたんだろうねあれ」

平常運営のタチワキジム、挑戦者とのバトルとホミカのライブが終わり、スタッフ達に混じりステージ上の機材の片付けを行っている中。

一日中ぼけーと呆けた様子のホミカを見つめ、ルーとクックは耳打ちしあう。

「まあ、でも、やっぱあれでしょ。今のホミカの悩み事といったら」

「っだな」

「……ふう」

最近ホミカが空いた時間にしきりにライブキャスターを開いているのは二人も知るところだ。

そしてそのお相手も、もちろん。

バンドメンバー二人が勝手に納得しているのをよそに、ホミカは視線を下に向けて息をつく。

(……明後日か、キョウヘイと会うの)

なにをそんなに悩むのか。今ホミカには二人で会える事を純粋に喜ぶ感情と、混沌に渦巻くぐらついた感情が一つあった。

ホミカにとって、キョウヘイはなんだろうか。

(あたしを負かした相手。超えるべき目標。ライバル)

大切な、友人。…本当にそれだけ?

ホミカはふっと息を漏らす。

(…なんで悩むんだろうな)

意識しだしたのは間違いなく、キョウヘイと共に帰路を共にしたあの日だ。

手を取り合い、トラブルを解決し、今共に連絡を取り合う日が続いている。

画面越しとはいえ、ホミカがプライベートの時間を同年代の異性に費やしていることが、今まであっただろうか。

ひたむきで、真っ直ぐで、どんな状況でも笑顔を向けてくれる。

ポケモンに対する愛情が誰よりもすごくて、色んなことができて、一緒に話してて楽しい。

(わっけわかんないな。あいつ)

脳内に煩雑な言葉が沸いては消え、最後にはキョウヘイの笑顔が浮かんだ。

また相対するとき、笑顔を向けてくれる。その期待に胸が高鳴るのはおかしいのだろうか。

『ホミカ…』

「…!!」

「ホーミーカ」

「!!なっなんだ?」

我ながら恥ずかしい思考を霧散させ、ルーとクックに向き直る。

「どうした?最近上の空のこと多いぞ」

「うん?そうか…」

「…」

(こんな恥ずかしい悩みで、心配かけちゃだめだな)

いつものホミカじゃないことは自身もよくわかっている。この二人に気づかれるのも当たり前だ。

ホミカは瞼を閉じ、一度思考に区切りをつけた。瞼を開ける。

「ごめんごめん!こんなんじゃDOGARSのホミカらしくないよな!さっ!ささっと片付けちまおう!」

頬を吊り上げ片歯を見せる。ワイルドな笑顔を二人に見せた後、作業を再開する。

「~♪」

鼻歌を歌いながら活発に動く。しかしルーとクックには、そうすることで無理やりにでも悩みを忘れようとしているようにしか見えなかったようだ。

「う~ん…どう思う?クック」

「さあ。まあいいんじゃないか?ホミカがああ言うならさ。キョウヘイとのことなら、こっちがあれこれ口出すのも違うだろ」

「そうね…あっそういえば」

ルーがなにかを思い出したようにステージを離れ、チラシを持って戻ってきた。

「ホミカ。これこれ!」

「ん?」

「このチラシ、ライブ会場においてもらえないかって話しきてるんだけど、キョウヘイが関わってるところだよね?」

「あいつが関わってるって…?ジョインアベニューかっ!」

手渡されたチラシには、派手に装飾された街並みを背景にでかでかと現チャンピオン監修の文字とキョウヘイの写真が載っていた。さまになっているのがちょっとむかつく。

(そういやライモンの近くだったよなここ)

あいつがプロデュースする街。一度行ってみるべきだろうか。

「どうする?おく?」

「ああ。あたしはいいと思うよ」

「じゃあ話し通しとくね。それはホミカに上げる」

「え?」

「明日行ってきたらどう?現チャンピオンが作った街って結構気にならない?」

「…」

明日ホミカはフリー。どうせライモンシティでキョウヘイと会うならば、一日早く着いてそこで夜を明かしても問題はないだろう。

「そう、だな。よし」

チラシを眺めると、また頬が緩む。どうしようもない乙女の感情の起伏を、ルーとクックは微笑ましく見守っていた。

 

(すげえ!すげえ!すげえ!!)

明くる日ジョインアベニューの通り、テンションの上がった一人の女子が店を片っ端から回っていく。

「こうげきセットとぼうぎょセットととくこうセットとそれから…!!」

「あはは…」

マーケットの前で矢継ぎ早に注文するホミカに、店員はちょっと引いていた。だが興奮したホミカは気づかない。

「お買い上げありがとうございましたー」

「ははっ爆裂ぅ!よしっ!お次は…」

テンションをそのままに使った金額も気にせずショッピングにいそしむ。

ジムリーダーという立場ゆえ自重するということをホミカはしない。

(しっかし本当すごすぎだぜキョウヘイ!こりゃトレーナーが来るわけだ)

マーケット、レストラン、道場、美容室他、さまざまな一流の店が立ち並び、しかもその全てがキョウヘイがスカウトしてきた人材だという。

ショッピングに魅了されるトレーナーとサービスに満足するポケモン。ホミカが夢中になるには10分で事足りた。

ホミカがここを気に入った要因は、なにもサービスだけではない。

今美容室でサービスを終えたミニスカートのトレーナーが、本当に満足した笑顔で出て行くのが見えた。

その隣の道場の経営者であるスキンヘッドの男も、激しく声を出し客から預かったポケモンを鍛え上げている。

みなが活気と笑顔で溢れ、ポケモンに情熱を注いでる。それがこの、ジョインアベニュー。

(…ほんと、すげえよ。キョウヘイ)

その事実を認識したホミカは少し立ち止まり、感慨深げにあたりをゆっくりと見回す。

老若男女、あるものは一人、あるものは二人で、あるものは集団で。パンフレットと買い物袋を片手に、ポケモン達と幸せな時を過ごす。

(あいつにとっては当たり前なんだろうな。あたしがバンドするみたいに)

キョウヘイが作り出した一つの理想郷。ホミカのキョウヘイに対する認識が間違っていないことを、この街は十二分に証明していた。

(明日、か)

待ち遠しい感情を素直に受け止める。今日はあいつは元気に何をしているだろうか。

(そうだ、連絡とってみるかな)

思い立ったらすぐにライブキャスターを起動し、キョウヘイの名前を選択する。

しかし呼び出し音がなる前に、ふと道端の声。

「ねえ!あれキョウヘイさんじゃない!」

「あっほんとだー!」

「えっ!!?」

道行く女性達の声に反応し、すぐに目線を前へ。

(いた!)

見間違うはずのない姿がそこにいた。ただ…

「………………女?」

かわいい女の子を連れ添って。

 

「ありがとうキョウヘイ。わざわざ付き合ってもらっちゃって」

「お礼はいいよメイ」

(…!…って何でとっさに隠れてんだあたしは!)

ホミカは一瞬呆然とした後、思考を切り離したままで咄嗟に店の影に隠れた。

キョウヘイはライモンシティにいると言っていた。ならばライモンのすぐ真下にあるジョインアベニューにいても不思議じゃない。

声をかければいい。よっきたぜ!って。おまえすげえなあって。

なのに体が反射的にこの行動を選んだ。その意味するところを、ホミカは言葉にできない。

(…なに、やってんだあたし。あいつがどこでなにしてようが、関係ないじゃないか)

友人。そう、自分という女友達がキョウヘイにはいるのだから、あそこにいる女の子だって…

「あっ!ここのレストランのおすすめ教えてよー」

「そこは…」

メニューに顔を近づけた二人が、自然に距離を縮ませる。

「これとこれかな。今日はおごるよ。まあ、好きなの選んで」

「えっ…いいの??」

「当たり前だよ。だってメイは」

ただの友人…。

 

「パートナーなんだから」

 

(…!!)

胸が、キュッとしまった。

(…なんだよあいつ)

楽しそうに笑うキョウヘイとメイ。

(あたしにあんだけ思わせぶりなことをしといて)

わかっている。むしろあれだけの活躍をしといて、彼女がいない方が不思議だ。

(キョウヘイにとってあたしは…)

キョウヘイにとってあたしは友人でも、あたしにとっては。それだけの話だ。

相手に悪態をつくのは間違いだということは、理解している。

一方通行の想いを抱いた。ただそれだけ。

(すぐに切り替えて、明日あいつに)

どんな顔をして会うというのか。今この感情を、心を、揺さぶられたままで。

(好きじゃないあんなやつ。ただの…)

そこから先の言葉がなかった。言葉にすれば、本当にそう思ってしまう気がしたから。

二人並ぶその姿はなぜか、まるで最初から運命づけられているように、当たり前に見えた。

「…あーあ」

髪留めをとり、目線を前髪で隠す。荷物はこんなに重かっただろうか。

雨でも降ってほしい。どうしてここは一面屋根つきなんだ。

頼むから、今自分の姿を誰も悟らないでほしい。

「………………あーあ」

ジョインアベニューから去るのに、来るときと比べ倍の時間をかけた。

 

キョウヘイと落ち合う日。

ライモンシティ遊園地にて、ホミカは待ち合わせ場所である観覧車へと歩く。

週末ゆえ、人は盛んだ。

しかしホミカの思考は裏腹に、外界を遮断してより深みへと沈んでいく。

キョウヘイとメイの光景をきっかけに沸き起こった思考。

日を明かしても感情の歯車はギシギシと音を立て続ける。

 

いつも考えていた。

あたしが選んだ道。バンドとジムリーダー。

そのことで誰かに文句を言われたことはない。迷ったこともない。

信じていたからだ。あたしの力を。あたしを支えてくれる仲間を。

楽しく激しく、感情のまま生きる。

なのに、全てにおいてあたしの上を行く奴が現れた。

ポケモンバトルも、ポケモンを愛する心も。

この敗北感は何だ。

だからこそ近づきたかった。キョウヘイのことを知りたかった。

どうしてそこまで、お前はすごいんだと。

バトルで負けたことは何回でもある。

なのに、こいつは。

「ホミカ、いい勝負だったよ」

あたしに笑顔を向ける。優しい言葉をかける。

あたしの力不足で、ペンドラー達は地に伏したのに。

 

あたし自身が許せないあたしを、こいつは許す。

 

 

激しくむかつく。

 

あいつに勝ちたいのに。叩きのめしたいのに。

あいつの隣に誰かがいるだけで、心がきしむ。

 

あいつの笑顔が好きだから。あいつの生き方が好きだから。

あいつと一緒にいる時間が、楽しいから。

キョウヘイを超えると誓ったくせに、あいつと時間を共有して、楽しくて、強くなったと錯覚してる自分が

 

激しくむかつく。

 

 

これだけ考えといて、結局好きな異性が誰か気づいたきっかけが

相手にはもう既にパートナーがいるのを見せつけられたからってのが

 

激しくむかつく。

 

どうすればいい。あたしの望みは。どうしたら叶う。

どうしたらこの悩みは晴れる。

あたしを超えたお前に、あたしは夢中なんだ。

ならあたしがお前を超えれば、お前はあたしに夢中になってくれるだろう?

劣等感を抱いた相手に、少しでも近づきたい、超えたい。

そして超えた自分の姿を、相手に認めてもらいたい。

 

その相手が好きなら、なおさら。

 

観覧車前に到着。キョウヘイの姿はない。

「ふう…なんだこれ」

自分の出した結論に、ホミカは自嘲した。

結局のところ、ホミカはキョウヘイより上の立場になった上で、自分を好きになってほしいのだ。

(それだけの話しだってのに。うじうじ考えるなんてホントあたしらしくないなあ)

だが結論を出したなら、迷わないのがホミカだ。

メイとか言ったか。

(はっ上等!)

略奪愛結構。誰かに遠慮して、自分の感情を誤魔化して身を引くのはホミカじゃない。

「やあ、ホミカ。待ったかい?」

「いいや。あたしも今来たところだよ」

ホミカの口元が歪む。挑戦的かつ好戦的な笑みに。

「昨日は楽しそうだったなあ。彼女連れて楽しんだ翌日に別の女つれるなんてさ」

「え…!?彼女って」

「まっいいさ。あたしは気にしない」

手持ちを見れば、見越したかのようなベストメンバー。

集中力も十分。頭はさえている。

場所も予定も関係ない。

まずは手始め、あたしに夢中にさせてやる。

 

「キョウヘイ。今ここで、あたしとポケモンバトルしろ」

 

キョウヘイ、あたしを見ろ。

 

「えっ…バトルって」

急すぎる挑戦にキョウヘイはぽかんとした表情を浮かべる。

しかしホミカはすかさずモンスターボールをキョウヘイに見せつけるように手に取り、構える。

「挑戦、受けないなんていわねえよなあ!爆裂!ペンドラー」

「…!いけっルカリオ!」

ホミカがポケモンを出してからのキョウヘイの対応は早かった。

さすが突発的なバトルに慣れてはいる。落ち着かないところを利用して主導権を握る事は難しそうだ。

(まっ関係ない!)

すでに賽は投げられた。この勝負に勝ち、この男の視線を自分に向けさせる。

この世界の誰よりも。

今回ホミカには特段負けられない理由がある故、少しでも有利に運べるようキョウヘイの動揺を誘う言葉はないだろうか。

咄嗟、一つの思いつきを浴びせる。

「キョウヘイ!負けた方は今日、勝った方のいいなりだからな!」

「ええっ!?」

感度良好。ギャンブルをするときホミカは自分が負ける可能性を考えない。

「いくよ!ペンドラー!地震だ!」

 

屋外、しかも日中の遊園地で行われたジムリーダー対現チャンピオンの一戦は、PWT上の制限がない6対6総出の戦いとなった。

ホミカの毒ポケモン達の激しい攻勢を、キョウヘイは的確な指示で受け流す。

キョウヘイが攻勢に回ると、ホミカのポケモン達は傷つきながらもチイラの実やカムラの実を発動させて逆襲する。

「やるなあ!だが勝つのはあたしだ!!」

「それはどうかな!」

名の知れた二人の熱戦に、遊園地のアトラクションそっちのけで多くのギャラリーが周りを囲む。

だがホミカの視界に写るのはただ目の前の現状。戦いが佳境に入り、既にお互い多くのポケモンが力尽きている。

(ちぃっ!やっぱりつええ!だけど!)

「クロバット!クロスポイズン!」

瀕死に近いクロバットが毒を忍ばせた翼を交差させ、キョウヘイのウインディに襲い掛かる。

痛烈な一撃に吹き飛ばされ声をあげるウインディだったが、空中で体を捻らせ着地すると即座に攻撃態勢に入る。

「…よく耐えたぞウインディ!フレアドライブ!」

ウインディはたたんだ膝をばねのようにはじけさせ、口から吐き出した炎をまといクロバットに突撃する。

さしものクロバットもよけることあたわず。跳ね飛ばされたクロバットはくるくると宙を舞い、重力に任せるまま顔から鈍い音を立てて着地した。

「よくやったねクロバット…もどれ!」

しかしホミカの顔には確信があった。次いでウインディの体がぐらりと揺れる。

「ウインディ!」

キョウヘイの叫びと同時に、ウインディが地面に沈んだ。

「クロスポイズンの毒か…!よくがんばった。もどれウインディ!」

「お互いあと一匹だなあ、キョウヘイ!」

「ああ…!」

追い込まれた状況。しかし二人には心からの笑みが浮かぶ。

自分を追い詰める強者の存在がどんなに嬉しいことか。できうることなら、この興奮をずっと味わっていたい。

しかし始まりがあれば終わりがあるのが世の常。

だからこそホミカの情熱が今最高潮に達する。

「爆裂!ドラピオン!!!」

ホミカはこのバトルの発端となった訳をとうに忘れている。

「勝つのは!あたしと!あたしのポケモン達だあ!ドラピオンっ!」

今ホミカの世界は間違いなく、ポケモン達とキョウヘイとホミカしか存在しなかった。

 

互いの最後のポケモンが激突し、その中点での閃光の瞬きが消えると共にギャラリーたちから歓声が上がった。

歓声が次第に落ち着いてくると同時に、今度は拍手が沸きあがる。

次いで多くの労いと賞賛の声が聞こえる。また少し経つと、ギャラリー達がまた一人また一人と数を減らしていく。

人が消え視界が開けた後、二人並ぶキョウヘイとホミカの姿。

ホミカは一度表情を消し、雲ひとつない空を見上げた。

どこまでも真っ青。晴れやかすぎるその天候をホミカは視点を集中させずに見つめる。

 

「負けた」

 

一言そう呟いたホミカに対し、キョウヘイは言葉を返さずホミカと同じ視線を辿る事で答えた。

 

バトルが終わった直後、ホミカは悔しさをにじませながらもすぐに戦った自分のポケモン達とキョウヘイに賞賛の言葉をかけた。

負けたが最高のバトルだったとキョウヘイに声をかけ、喝采するギャラリーたちにも笑顔で答える。

その姿はあまりに自然すぎて、キョウヘイにはむしろ不自然に見えた。

満足げな彼女の表情に陰りが見えるのはなぜだろう。

その疑問ゆえ逆にキョウヘイのほうがギャラリーの対応にしどろもどろになってしまった。

人の目があるためホミカに「どうしたの?」とは聞きにくい。そもそも原因が自分にありそうなのは予測できるのでストレートにはまず聞けない。

とりあえず周りの人々が消えるのを待とう。そもそも今日は二人で遊園地に来たのだから、変に気張る必要はないはずだ。

そう考えたキョウヘイは周りに人が消えたのと同時になにかホミカに話しかけようとしたのだが、ホミカの行動と、次いで出た一言に、ただホミカと同じ視線をたどることしかできなくなった。

キョウヘイの認識として、ホミカは切り替えが早い。

負けた後でも笑顔で勝利した挑戦者に賞賛の言葉を述べロックバンドで見送るタチワキジムのスタイルは、ホミカの性格をそのまま体現しているといっていい。

なればこそキョウヘイは、ホミカに軽く憎まれ口を叩かれたあと手を引っ張られて「さっ!遊びに行こうぜ!」とか言うのを予測していたのだが、今のホミカの姿はどうしたものか。

その顔は悲しみこそ見えないが、深く憂いを帯びて虚無感すらある。なにが彼女をそうさせたのか。

そういえばバトルの前気になることを言っていた。何か関係があるのか。

「ホミカ、彼女連れてたって、昨日のジョインアベニューのこと?」

ぴくりとホミカの体が揺れた。互いに空を見上げるのをやめ、視線が交わる。

「…キョウヘイ、勝ったんだから今日はあたしはアンタの言いなり。好きにしな」

こたえる気がないのか、ホミカはそう言って目線を伏せて顔を背ける。

こんなホミカは初めて見る。しかしキョウヘイにはその姿が怒っているようには見えなかった。まるでなにかに、戸惑っているような。

(力に、なりたいな)

ホミカになにがあったのか。できることが例えなくても、相談に乗るくらいは。

この場では、少なくない周りの視線が気になる。この遊園地ならばどこか二人っきりになれる場所は…。

「じゃあ、ホミカ」

「…?」

「一緒に観覧車乗ろうよ」

十歩ほど先にあった。

 

(…最悪だ)

ホミカの心に暗雲が立ち込める。

バトルが楽しかったのは本心だ。キョウヘイにかけた賞賛の言葉も嘘じゃない。

しかしキョウヘイと二人っきりになり、静けさと共に飛来した虚無感。

また負けてしまった。いやそれはいい。いやよくないけど。ただ…。

(奪い取るって決めたのに、なにやってんだあたしは)

ホミカは自分の気持ちに気づき、また諦めなかった。だからこそ思い立ったが吉日、キョウヘイにポケモンバトルを挑んだのだ。

だが結果は、ホミカが望む形ではなかった。

(…くそっ!)

ただでさえバトルで負けたのだから、今彼女がいるくせに別の女の子と二人で遊園地に来たこのアホを自分に夢中にさせるように動くべきなのだ。

なのに、この体たらく。

(くそっ…)

どうして笑顔ができない。どうしていつもみたいに自然にできない。

それこそがホミカにとってキョウヘイが特別である証なのだが、今はホミカの心情を深いマイナスへと追いやる。

自分の感情の訳のわからなさに、目線が曇る。言葉が尖る。

本当は、今日この日を楽しみにしていたのに。

そうこうしているうちに、キョウヘイに導かれて観覧車の前へとたどり着く。

キョウヘイが係員に話しかけ、二人でのりこむ。

相対するようにすわり、がこんと音がして、ゆっくりと景色が変わっていく。

ホミカの視線は、まだキョウヘイを見れていなかった。

観覧車で、男女二人きり。その事実。

カップルとしてありきたりな状況に、ついホミカは景色を見ながら憎まれ口を叩いた。

「はっ。よくやるよ、あんた」

「?なにが?」

きょとんとしたキョウヘイの表情。本気でなにかわかってない感じだ。

「彼女いるのに…普通二人っきりで乗るかよ」

「彼女?いないよ別に」

 

…………………

 

「は?」

「いやだから。いないって」

「いやちょっとまて!昨日ジョインアベニューで二人でいたろ??頭に二つアンパンみたいなつけた彼女と!」

ホミカは立ち上がってキョウヘイを見つめ、身を乗り出して指を刺す。

そんなホミカに驚いた表情を見せるキョウヘイだが、何とか平静を保ち言葉をつむぐ。

「あっ…アンパン…昨日ってメイの事か。ホミカ来てたんだ。別にメイは彼女じゃないよ。友達で、今バトルサブウェイでタッグマッチのパートナーしてもらってるんだ」

「…っ…!」

思いもしなかった事に、今度こそホミカは言葉につまった。パートナーの意味、まあ確かに彼氏彼女ととるには早計だったかもしれない。

「昨日ちょっとトレインで行き詰っちゃってね。ジョインアベニューならすぐにポケモンを鍛えられるから、二人で色々相談してたんだ」

「相談って…そうか……はー…」

ホミカは力が抜け、乗り出していた体を後ろの席に預ける。

(なんだ…そうか…そういうことかよ…)

結局自分がピエロだったことを悟ったホミカは、座ったまま俯いて体を丸める。なんかどっと疲れた。

「ほっホミカ?!大丈夫?」

急に俯いたホミカを体調が悪くなったとでも勘違いしたのか、今度はキョウヘイが身を乗り出してホミカを気遣う。

そんな中俯いたままのホミカは今確定した事実に対し、思考が次に進む。

(今キョウヘイって、フリーだよな)

ならば。

誰かの手が、こいつに届く前に。

「大丈夫だよー。なあキョウヘイ」

ホミカが顔を上げる。いつも通りの不敵な笑みを浮かべて。

キョウヘイが身を乗り出していたため、顔が思ったより近い。

「そっそう。なに?」

戸惑いながらも、安心したようなキョウヘイの顔。

こんなに顔と体が近いのに、まったくもって嫌悪感がない。むしろ、もっと近づきたい。

ホミカは自分の本能に従い、言葉を出した。

「す」

「す?」

途端、ホミカの顔が真っ赤に染まる。頭ではわかっているが、恥ずかしいことには変わらない。こんな経験初めてだ。

(だけど、それでも)

もう一度キョウヘイの瞳に照準を合わせ、声帯を振るわせる。

(まっすぐに生きるのが、あたしだ)

一度ためらい呼吸をおいて、真っ直ぐに真剣に。

 

「好き。好きだ。キョウヘイ。…あたしと、付き合って」

 

「…え…!」

キョウヘイの目が見開かれたまま止まる。

そしてすぐにホミカの言葉の意味するところを理解したのか、顔に血が集まりだした。

聞き間違えではない。からかわれているわけも、ない。言ったホミカ当人が、口を震わせ実に不安そうな表情で言葉を待っている。

ホミカは、キョウヘイと、付き合いたい。

再認識した後、キョウヘイは驚いた顔を解き恥ずかしげに指で自身の頬を掻いた。

そして、ホミカが待っていた言葉にキョウヘイの本心を紡ぐ。

「なんだよ、ホミカ」

「え…」

ホミカが戸惑いの表情を見せる。が、すぐにキョウヘイは続けた。

「こっちから、…告白しようと思ってたのに」

「…………!!」

その意味するところは、つまり。

「キョウ…ヘイ…」

「好きだよ、ホミカ。これから…よろしくね」

キョウヘイは恥ずかしさを隠し切れなかったが、それでも笑顔でちゃんと答えた。

「……」

しかし、ホミカは呆然としている。

(……あれ?)

小さくない声で言ったつもりだが反応が乏しい。

キョウヘイはもう一度ホミカに声をかける。

「ホミカ??」

「はは…」

今度は反応があった。ホミカの小さな笑い声。そして。

「えいっ!!」

「おわっ!?」

紫色の少女が飛び込んできた。

 

(なんだよこれ。なんだよ。なんなんだよ。嬉しい。嬉しい嬉しい。嬉しすぎる。キョウヘイもあたしのこと…好きだったなんて!)

「ほっ…ホミカ!?」

ぎゅうと抱きしめることでホミカは返答する。キョウヘイの膝の上に馬乗りになって座り、キョウヘイの顔にホミカの顔を摺り寄せる。

キョウヘイも驚いた様子だったが、ホミカの愛情表現がどうしようもなく愛おしくなり抱きしめる。

「…あたしのものだ。キョウヘイは今日から、あたしの彼氏だ」

「うん…ホミカが彼女なんて、夢みたいだ」

「……」

キョウヘイの言葉がこそばゆいのか、はたまた嬉しすぎるのか。ホミカはさらに抱きしめる力を強くする。

好きな相手と抱きしめあうと、こんなにも幸せな気持ちになれるのか。

ひたすら、ひたすらに互いの暖かさに浸る。

「そうだ」

「ん?」

「あたしっていう彼女がいるんだから、他の女の子と二人でいるなよ。仕方ないときはいいけどさ」

この朴念仁には一言いっとかないと。

「もちろん。ホミカを不安になんてさせないよ。ホミカだって同じだからね」

「ああ。そっちもちゃんと繋ぎ止めてくれよ」

言いながらホミカは抱き合った態勢をそのままに、顔をキョウヘイの正面に持ってくる。

見つめあい、言葉をなくす。それだけで十分だった。

しかし、キョウヘイが思わず言葉を出す。ホミカの少しの異常に。

「ホミカ…泣いてる?」

「え…あ」

ホミカもキョウヘイに指摘されてようやく気づいた。

(ばーか。喜びすぎだ。あたし)

「…言わないのが花ってもんだろ…」

そう言ってこつんとホミカはキョウヘイとおでこを合わせた。

「ごめん」

微笑した返答がくる。鼻先がこすれあい、互いの距離を認識する。

好きだ。大好きだ。愛してる。

音に出ない言葉の応酬。

どちらともなく目を瞑り、ゆっくりと二人、唇の柔らかい感触に酔いしれた。

 

観覧車の今の高さを、二人は気にしない。

重なったときと同じように、またゆっくりと互いの距離が離れた。

ホミカの薄く唇を突き出した、扇情的すぎる表情。キョウヘイは真正面から見つめるゆえ、脳内に映像を焼き付けてなんとか滅茶苦茶に自分色に染めたい衝動を押さえつける。

(これ…やばい…!)

ホミカもまた同じだった。キョウヘイに愛されている。キョウヘイに抱かれている。キョウヘイとキスをしている。

キョウヘイとの相違点はただ一つ。ホミカの理性がとっくに吹っ飛んでいることだった。

「んちゅう…!!」

「んんむっ!?」

ホミカの唇が再度、キョウヘイへと飛び込む。

最初のキスが触れ合うキスならば、今度は押し付けるキス。

陶酔した表情でキョウヘイに抱きつく力を強くする。

キョウヘイの口腔内から空気を吸出し、より強く接触していく。

(キョウヘイ…キョウヘイ…キョウヘイ…!!)

(ホミカ…ホミカ…!!)

ホミカの情熱的な愛に、キョウヘイも魅了された。

体を強く抱きしめ、唇の当たる角度を変える。

互いの体の隙間を少しでも埋めようと、しきりに体をすり合わせる。

「んぷはっ…キョウヘ…ちゅ…んん…ちゅう」

「ホミカ…!んん…!んんっ…」

息継ぎに口が離れても、また顔を見合わせれば愛しさが溢れて止まらない。

(キョウヘイ…好きだ……好き……大好き…)

愛の言葉の変わりに口付けし続けるならば、終わりなど来ないだろう。

ホミカは自覚しながら行為に没頭する。

仕方ないのだ。口を合わせるたびに、心が震えて、愛おしさが増大していく。

「んんっちゅ…んんっちゅうう…」

もうずっと、このまま。

しかしキョウヘイの常識的な理性が、まだほんの微粒子として残っていた。

「んん…ほっ…ホミカ…!これ以上は…!」

「ん…んあっ!?」

ホミカもようやく現状を把握した。ここが観覧車内だということに。

「えっ…えっと…あれっ!?」

ホミカはキョウヘイが観覧車がもうすぐ終わることを伝えようとしたのだと思い、周りを見渡したのだがどうも様子がおかしい。

観覧車が、上昇している。

「え…え…」

つまり、二人して一周していることに気づかなかったということ。それすなわち。

「………その…みられちゃった…よねえ……」

「あ………あ……」

今度こそホミカの顔が限界まで紅潮し、顔が奇妙に痙攣しだす。

「あっホッホミカ!大丈夫!?」

「大丈夫…なわけないじゃん…」

ホミカはキョウヘイの肩に顔を預けて隠し、羞恥に身を震わせる。どんな顔して観覧車を降りればいいのか。

「えっと…まあ…二人が付き合ってるってのが早く広まるって事で…」

「だからなんなんだよ。ばか」

「あはは…ごめん」

そんな会話をしていても二人抱き合ったままである。

「まっ…あたしも気づかなかったしさ…ていうか…」

(キョウヘイがとめなかったら…あたしあのまま…!)

ホミカがまた顔を赤らめていると、今度はキョウヘイがホミカに顔を近づけて耳打ちする。

「どうする?下につくまで」

……

「…キョウヘイは?」

「言っていい?」

「…やっぱ言わなくていい」

(こいつはあたしとキスしてる間、周りの目を気にする余裕があったんだ…)

ホミカは、なんかむかついた。

「どうする?ホミカ」

「言わなくてもわかるだろ?」

「うん」

実に楽しげにキョウヘイはうなずいた。

「…」

互いの吐息がまた限界まで近くなる。

「キョウヘイ…今度は…」

呟きで唇がかすれあう。

「…あんたの理性、ぶっ飛ばすから」

彼らが何週することになったかは、二人だけの秘密だ。

 

翌日。

ホミカの希望もあって、キョウヘイはホミカを伴いメイにホミカとの関係を伝えることとなった。

そのときのメイの落ち込みようを確認してホミカは大いに安心と充足感を得るのだが、同時にメイの落ち込む理由を悟れないキョウヘイに対し危機感を抱くのだった。

また数日後、ルーとクックがもってきた大衆誌の『ライモン発!キョウヘイ♥ホミカ!係員を尻目にもう1周♥』の文字を見て発狂するのだが、まあロックな彼女には些細なことである。合掌。

 

 

「あー気持ちよかった!あんな記事書いた奴らぶっ飛ばせて本当気持ちよかった!にしし!」

「他のジムリーダーたちも協力してくれたしね。すっごい生暖かい目で見られたけど」

人里はなれた、名もなきとある草原にて。

太陽光が暖かく降り注ぎながらも心地よい風が吹く小高い丘の上で、少し後ろ髪を引かれる想いで二人は眼下に広がるイッシュ地方を見つめていた。

「さてと、イッシュ地方を出る最後にルーとクックにメールしよ」

「バンド活動、本当によかったの?」

「別にこれで解散ってわけじゃないしな。一端離れた方が見つかる事だってあるし、ライブなら道端でだってできる。それにさ、キョウヘイだって、帰ってくる場所はここだろ?」

「うん。そうだね」

若いチャンピオンが王座に定住しないのは、ポケモン界の常だ。

無論キョウヘイも例外ではない。共に強くなってきた相棒達と新たなる冒険、新たなるステージへ。

「送信完了っと。それじゃ」

「うん…ホミカ」

「なに?」

「ありがとう。隣にいてくれて」

イッシュ地方を出ると決断してホミカに伝えるとき、迷惑とわかっていても言ってしまった。

一緒に来てくれないかと。

ホミカの返事は即答だった。

「ははっ今更なんだよ」

ホミカに聞けば、ある程度予測していたことだったらしくルーとクックにもあらかじめ話していたそうだ。

もし黙って行ってたら物理的にぶっ飛ばすといわれ、冷や汗をかいたものだが。

しかしあのホミカが、ジムリーダーもバンドも休業してまで着いて来てくれた事が本当に嬉しい。

「それでも、ありがとう」

「う……」

顔を赤くしてそっぽを向かれては、キョウヘイもお手上げだ。ホミカかわいいという意味で。

「別に、礼を言われる筋合いはないっての!あたしがキョウヘイについて行くのは、半分は自分を磨くためなんだからな!戻ってきたらすぐバンドとジムリーダーを再開して、イッシュ地方のやつらの理性をみんなぶっとばしてやるんだ!」

「ホミカなら絶対できるよ」

「!そっそれと!お前にあたしから勝ち逃げさせないためだ!この旅の間で、絶対勝ちをもぎ取ってやる!」

「うん、いつでも受け付けるよ」

「…あっあと…それと…」

「?」

「キョ…キョウヘイが……あたし以外の…女に…」

目線を泳がせごにょごにょと言葉を収束させるホミカが、どんなに愛らしいことか。

(ああ…かわいい…かわいすぎる…)

キョウヘイの理性がぶっ飛ばされた!

「ホミカ!」

「うわっ!ちょ!?」

急にキョウヘイに抱き寄せられたホミカが嬉しさをにじませながらも戸惑いの声を上げる。

「ホミカはほんとかわいいなあ…」

「なっ!?…や…やめろよ…」

こう見えてホミカはストレートな言葉に弱い。まあ好いた男限定ではあるだろうが。

わかっていながらキョウヘイは言葉と抱擁を続ける。

が、ホミカの理性は踏みとどまった。

「キョ…キョウヘイここじゃ…せめて…」

「うん。わかってる」

そう言うとキョウヘイは名残押しくはあるが抱擁を解除する。

これ以上は互いの理性が持たなくなる。とんだ色ボケカップルであった。

二人抱き合っていた体を、今度は揃ってイッシュ地方に背中を向ける。

向かうは未知。新しい舞台へ。

「それじゃあ今度こそ、行こうか」

キョウヘイがそう言いつつホミカへ手を差し出す。

「うん。…あの夜とは逆だな」

ホミカはしっかりと手を握る。

「走っていく?あの時みたいに」

「いいじゃん。望むところ」

互いに顔を見合わせ、最高の微笑み。

「…せーのっ」

「「GO!」」

新たなる旅路を、最高のパートナーと共に。

故郷を笑顔で走り去る二人の冒険譚が記事になるのは、そう遠い未来じゃないだろう。

 

END

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