「なあなあ! キョウヘイ早く行こうって!」
「ま、待ってよホミカ! ちょっとあっ」
と、キョウヘイが顔を赤くしてしまったのは、水着姿のホミカがキョウヘイの腕をぐいぐいと抱き寄せて引っ張り、彼女の魅力的な肉体をキョウヘイへ押し付けているからだった。
(む、むねが、あたっ)
そんな少年の純情なんてつゆしらず、ホミカはギラギラとした太陽のような笑顔でビーチへ向かう。
アーカラ島ハノハノリゾート。アローラ地方最大のリゾート地にして、ビーチに直結するホテルの予約は一年先まで一杯という、高級かつレアなレジャー施設。
照りつける太陽、焼けるような砂浜の上。若者二人が水色に輝く海へ駆けだしていく。
先日、とあるポケモンセンター内トレーナー用ホテルにて、キョウヘイとホミカがアローラ地方周りの計画を立てていた時の事。
「とれた! とれたぞ! キャンセル出たんだって、行けるぜリゾート! なぁなあ!」
「う、うん! わかったホミカ! 落ち着いて!」
キョウヘイへ抱き着くようにぐいぐいとカタログを見せつけるホミカ。
キョウヘイが一人で旅をしていた時はキャンプや安宿に慣れたものだったが、年頃の女の子が同じことをする訳にはいかない。
幸いキョウヘイはチャンピオン、ホミカはジムリーダーとして名は売れていたため、賞金制のポケモンバトルには不自由せず、道中それなりのホテルを跨いでも懐には余裕があった。
そんな旅路が続く最中、『アローラ!』と銘打たれた旅雑誌にホミカは目を引かれ、「キョウヘイ行こう!」と即時即決で旅行を決意したのがつい数日前。
最高級リゾートホテルのキャンセル部屋が運よく取れて、二人の気分も絶好調。ことホミカには、上々なテンションと同等の決意がある。
(……キスは、した。めっちゃしてる。でも、今度こそ、キョウヘイに……!)
ホミカとキョウヘイは互いにべた惚れである。一緒の部屋、同じベッドの上で寝ることに抵抗はなく、むしろもっと近くにいたい。
ホミカだって年頃の娘、好いた男と同衾すれば、期待とかすかな欲望が心に灯る。
だが、就寝時は幾度となく、
「おやすみ、ホミカ」
「あ、ああ。おやすみ……」
ホミカはキョウヘイにぎゅっと手を握られた後、
「きょ、キョウヘイ、なあ」
「すぅ……」
「……う……むぅ……!」
(大事にされてる、てのはわかるけどさあ……!)
妙に寝付きの早いキョウヘイに対して、頬を赤らめながら恨めしい目で見つめるホミカが残されるのが常だった。
(色気がないのかな、アタシには……)
共にイッシュを離れてからも「ホミカ、凄くかわいいよ」とキョウヘイは何度も言ってくれる。好きだと言ってくれるし、キスもしてくれる。けれどそこまでだ。
ホミカとキョウヘイは恋人だ。ホミカはジムリーダーを休んでまでキョウヘイについてきた。父親にも紹介したし、将来を誓いあったと言っていいはず。ならばそろそろもう一段階……。
ホミカは自身の背丈の低さと、胸元の起伏のなさを確認するたび、
(……くそっ)
と誰に気づかれることなく舌打ちしていた。
とはいえ、ここで腐らず打開策を考えるのがホミカでもある。
(キョウヘイをその気にさせるには、アタシを、そういう目で見させなきゃ。意識させなきゃいけねえ)
たとえばホミカが下着姿になり、
「キョウヘイ……」
と四つん這いになって誘惑し、胸元を徐々に露出させながら迫るのは、
(む、無理だ! ムリムリ! アタシはそういうキャラじゃねえっ)
とホミカは想像するだけで頭が沸騰しそうになる。
どうすれば自然にキョウヘイから、ワンステップ上の行為に仕向けることができるのか。
そんな折にホミカが見つけたのは『アローラ!』とポップに描かれた旅行雑誌。
少しページをめくれば、真夏の海、、水着で気分は開放的に、リゾートホテルでアツい夜を……。
(こ、これだあ!)
とキョウヘイをほだして船の上、キョウヘイも珍しいアローラ地方のポケモンたちと独自の風習に興味を持ち、新たな冒険に胸を躍らせた。
そんなこんなでアローラ地方に到着し、真っ先に向かったはリゾートホテル。
「このホテルにいる間はさ、めいいっぱい遊ぼうぜ、なっ!」
ホミカの輝くような笑顔を向けられれば、キョウヘイは快く同調する。
時は常夏、場はホテル、ビーチに直結していることもあり、ホミカとキョウヘイは他の宿泊客にならって部屋で水着にお着替え中。
お風呂場で一足先に着替えを終えたキョウヘイは、部屋内で着替えるホミカの声を待っている。
(ホミカの水着って、確か……)
先日キョウヘイは二人で水着選びにショッピングに行った際、「なあこれ似合うかあ!?」とホミカの水着ファッションショーを見せられていた。
(すっごくかわいかったなあ……! けど、結局どれにしたんだっけ?)
キョウヘイとてれっきとした男、恋人の水着姿に期待しないわけがない。
「い、いいぜー!」
「はーい。入るよー」
ちょっと声が裏返っているホミカにキョウヘイは疑問符を浮かべつつ、扉を開けてホミカの元へ。すると、
「お、おおっ……!?」
「……な、どうだ?」
キョウヘイの視界、大窓のカーテンの隙間から光がさし、ホミカの少し白い素肌に反射していた。ホミカは紫と黒のしましまボーダービキニに身を包み、腕は背に回して組んでいる。ぱっちりとした釣り目は少し伏せられ、上目遣いで口を尖らせ、不安そうにキョウヘイを見つめている。
「変じゃ、ないか……?」
「……すごく……かわいい……」
そうつぶやくキョウヘイは茫然としたままホミカへ釘付けになっている。純粋な好意を抜きにして客観的に見ても、ホミカは美少女だった。
攻撃的に逆立った髪型と瞳、対象的に鼻立ちと口元はかわいらしく、体つきはつつましいが引き締まって健康的だった。
彼女のいつもの挑発的な笑みはなく、どちらかといえばいじらしく可愛らしい、少女と雌のはざまを漂っているような、好いた男にどう思われるのか気になっている、女の表情。
天然100%のホミカの表情と水着姿に、キョウヘイは思考を停止してしまっていた。可愛い、可愛すぎる。
「……へへっ! だろうっ!! さっ行こうぜ!」
ホミカもそんなキョウヘイの呆けた顔を確認すると、不安げな表情を喜色満面の笑みへと変え、彼の手をとってビーチに向かう。
(キョウヘイの、あの顔!!)
ホミカは口端をつり上げずにいられなかった。好きな少年が自身の水着姿を見て、見惚れていた。呆けていた。嬉しい、嬉しくてたまらない。
かつ、ホミカもまたキョウヘイのボクサーパンツタイプの水着姿を見ている。
(引き締まってて結構いい体してるんだな、キョウヘイ……)
ビーチでバカンス、そしていつもとは違う露出の多い異性の姿に、ホミカとキョウヘイは興奮してしまっている。
軽くパーカーを羽織った二人はホテル出て、太陽に照らされたビーチへと向かう。
「すげえ……!!」
ホミカは感嘆の声を上げた。カンカン照りの砂浜、押し寄せる波、思い思いに笑顔で過ごす水着の人々。
その中には若いカップルもいる。水辺で水をかけあう男女、パラソルの下、影の中でその柔肌を擦り付け合うカップル。
(アタシも、キョウヘイとあんな……!)
「なあなあ! キョウヘイ早く行こうって!」
「ま、待ってよホミカ! ちょっとあっ」
ホミカはキョウヘイの腕を抱き、ぐいぐいと引っ張りながら海辺へ向かう。キョウヘイが何かを言っているが気にしない、自身の胸の谷間で、キョウヘイの腕を挟んでいるが気にしない。
ホミカの輝くような笑顔と活力は、もうキョウヘイにも止められない。
(ホミカに、こんな顔されたら……)
キョウヘイも見惚れてしまっていた。ホミカの歯を見せる、挑発的で魅惑的な笑顔。ホミカと歩幅を合わせて砂浜へ。
そして二人は体を密着させたまま、青く澄み切った海へ……。
『落雷警報が発令されました。お客様は速やかに建物の中に――』
「……中々やまないねー……」
ビーチのスコールはすぐに止むのが常だったが、キョウヘイがホテルの窓から見る稲光と雨粒は、もう30分以上も続いている。
「……そうだな」
ホミカはベッドに身を投げ出していた。声のトーンは落ち着いていて、目は閉じている。
雨が止めばすぐにまたビーチに戻れるように、2人水着のまま待っている。
(ん……)
ピピっと、ホミカのライブキャスターが鳴った。タイミングが悪いな、とホミカは口に出さず思った。
(ん?)
キョウヘイはホミカの顔を見、その妙な表情を推し量ろうとした。目は細まり、口は一文字。ライブキャスターの画面をじっと見つめた後、口元を腕で隠して目を閉じている。
最近、ホミカには憂いと迷いをもった表情が多い。このバカンスも、どこかホミカはそんな感情を忘れようとしているのではないか、キョウヘイはそんな予測を立てていた。
(バンド、か)
「ホミカに、着いてきてほしい」
ホミカがイッシュ地方を旅立つきっかけとなったあの日、キョウヘイにプロポーズまがいのことを言われてから、どれくらい経ったのか。
カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、カロス、そしてアローラ。珍しい景色、様々な人たちとポケモンと出会い、キョウヘイと全てを共有した思い出は、ホミカにとって一生の宝物だ。金輪際忘れることはないだろう。
当然、長い日数をかけた。キョウヘイの輝くような笑顔を間近でずっと見てきたホミカは幸せだった。こうして今、リゾートホテルで2人泊っているのも最高にドキドキする。
けれど最近、バンド仲間であるルーとクックからの連絡が増えた。直接的に戻ってこいと、言われているわけではない。
だが、彼らの言わんとしていることはわかる。
キョウヘイとホミカはポケモントレーナー。だがもっと根っこの、心身の奥深いところで違いがある。
キョウヘイはジムバッジを集め、リーグに挑戦し、そしてさらなる新しい舞台へ。
ではホミカはどうか。ホミカがもっとも青春を捧げている光景、魂が沸き立つ場所。ベースを弾きならし、極大のサウンドと歓声を一身に受けつつ、バトルフィールドに相立つ挑戦者へ――。
「ホミカ?」
ベッドの上、目を開けたホミカの隣に、キョウヘイが座っている。外は相変わらずスコールの音がうるさい。
「なあキョウヘイ」
「ん?」
「いっぱい写真とったなあ」
「うん」
ホミカは寝そべったままライブキャスターを頭上に掲げ、画像フォルダを開き、次々とスライドさせていく。
「ははっ見ろよこれ」
「ん?」
キョウヘイは寝そべり、ホミカと同じ視点につく。
「ハナダの岬、綺麗な夕日だったね」
「コガネのラジオ塔も面白かったなっ。特別出演なんてさせてもらったし」
「フエン温泉、また浸かりに行きたいね」
「トバリシティ、アタシは嫌いじゃなかったな」
「バトルシャトー、つい入り浸っちゃたね。カロスじゃ一番いたかも」
「チャンピオンとも戦えたしなあー……」
突然のスコールが一日中ということはないだろう。多くて一時間も見積もれば、ホミカとキョウヘイは砂浜に駆け出し海を満喫しているに違いない。
ホミカは笑顔のまま息を吐き、旅の記録を指でなぞる。
(何も今キョウヘイに言うことはないだろう)
ホミカは自戒する。雨で気勢がそがれ、一時的にセンチメンタルな気分になっているに過ぎない。
(だけど、いつかはキョウヘイに聞かなきゃいけない)
なら、今でも変わらないだろうか。ホミカの望みと、キョウヘイの答えは。
2人並んでベッドに仰向けになったまま、共にした光景を目で追っている。
「なあ」
「ん?」
「アローラを周り終わったら、キョウヘイはどこへ行くんだ?」
次は一緒にどこへ行くんだ? とは聞かなかった。そのホミカの意を、キョウヘイは察した。言葉が出なかった。
(わかっていたことだけど)
キョウヘイもいつかはこの時がくると覚悟していた。キョウヘイとて帰る家はある。だが、ほぼほぼ無期限の旅路。故郷の地方で頂点を極め、いかなる未知の体験をしても探求心と向上心が満足することはなく、世界中を周り今は南国の果て。
そしてまだまだキョウヘイの知らない大地、ポケモンは無数にいることだろう。
(だけど、ホミカは)
ホミカとて、この旅を心から楽しんでいただろう。数多のポケモンと出会い、新しいライバルができたのは彼女も同じ。一番近くで彼女を見て感じていたキョウヘイだからこそ、ホミカは心から望んで自分の手を握ってくれたと断言できる。
そして、ホミカは飾らない、真っすぐな心をキョウヘイに向けてくれる。
今ホミカが何を言おうとしているのか、キョウヘイはわかっていた。
キョウヘイは笑顔でホミカの方を向いた。彼女に気取られぬよう、泣きそうになる顔をごまかさねばならない。
「まだ、決めてないよ。ホミカは?」
このキョウヘイの発言で、ホミカの瞳が揺れ、唇が一瞬震えた。
「アタシは」
ホミカは真っすぐ、キョウヘイの瞳を見据える。
「アローラを周り終わったら、イッシュに、タチワキに戻りたい」
「……そっか」
「キョウヘイは、帰りたくないの?」
そう問われたキョウヘイは淡々と笑顔で、逆にホミカの方が疑念を持った。
「僕もいつかは、イッシュ地方に、故郷に帰る時が来ると思う。ホミカにとっては、このアローラ地方を周りきったときが区切りになるんだね」
「うん……」
雷が鳴った。数秒の沈黙に、ホミカは耐え切れなかった。
「アタシはジムに戻って、またジムリーダーとして、バンドをしたい。キョウヘイと一緒に旅したこと、体験したこと全部、みんなに伝えたい、歌って、戦って、爆発させたい。させる。それともう一個……」
ホミカは目を伏せた。きっともう一つの願いは叶わないと知っていたから。
でも言わずにはいられない。
「それでいて、隣にずっと、キョウヘイがいてほしい。アタシをずっと見て、触って、感じていて、ほしいんだ。一番アタシの傍で、アタシと……」
あるジンクスがある。若くしてチャンピオンとなった少年は、間を置かずにまた新たな旅に出る。飽くなき好奇心で広い世界を冒険しつづけるものにこそ、ポケモンリーグで優勝する素養があるのかもしれなかった。
このアローラでも未だ強者として健在の、カントーリーグ最年少覇者レッドのように。
『これからイッシュ地方を出て、色んな所を見て、旅をしたいんだ。ホミカ、一緒に来てくれないか』
キョウヘイは我ながら無茶な誘いだったと思い出していた。ホミカがいくら恋人だといっても、ジムリーダーとバンドをしている少女に対して、終わりの見えない旅路に誘う。
しかしホミカは、
『オッケー、いつ行くの?』
まるで軽くその辺に買い物に行くような気軽さで了承した。
もう幾月経ったのか。
少なくとも、外のスコールが収まるまでこの問答は終わらない。ホミカは身を乗り出し、寝そべるキョウヘイの体に覆いかぶさるようにして、言葉を続ける。
「アタシと、ずっと一緒にいてほしい。一緒に、イッシュに帰って」
キョウヘイが見上げるホミカの姿は美しい。白い肌、挑発的な色合いのビキニ、少しうるんだ瞳はぱっちりとしていながら少し切れ長、口元は小さく尖って愛らしい。
キョウヘイが心から愛していてかつ、こんなに真っすぐで情熱的な美少女が、自分を求めてくれている。こんなに嬉しいことはない。
キョウヘイは手を伸ばし、ホミカの頬に手を添える。
「僕にはまだまだ知らないポケモンがいて、知らない景色がある。チャンピオンの座を返上した後、すぐに見に行こうと思ったよ。だって、イッシュを旅した時、素敵な出会いがたくさんあったから。もっと旅をすれば、もっと素敵なことが待っている。だけど、どうしても一緒にいたい人がいた」
キョウヘイがホミカの頬を手のひらで包み、彼女の柔らかい感触を確かめる。
「旅はしたい。でも好きな人とも一緒にいたい。なら、好きな人と一緒に旅をすればいいって考えたら、すぐにホミカを誘ってた。ついてきてくれて、一緒にいてくれてありがとう、ホミカ」
「……お、おいっ」
ホミカは声を荒げた。まるで別れの言葉ではないか。
「ホミカと僕は違う。僕も親や友人が待っているけど、ポケモンマスターになるために自由に送り出してくれた。僕の旅に、終わりはないのかもしれない。けれど、ホミカにはジムリーダーとバンドがある。ホミカにとってこの旅は、自分を磨いて、その二つをもっと輝かせるため。それで、ホミカにその時が来たというのなら」
「ちっちが」
(ちがうっちがうっ)
ホミカは首をフルフルと振るう。理屈ではそうかもしれない。だが、
(そんな、そんなこと聞きたくないっ、キョウヘイ、アタシは、アタシは、キョウヘイとずっと一緒にっ)
ホミカは言葉が出ない。何を言えばキョウヘイの言葉が止まるのかわからない。
「僕は……」
「僕は……ホミカと一緒に帰るよ。イッシュに帰って、ずっとホミカの隣にいる」
「……え……」
雨の音が聞こえない。
「今、なんて」
「ホミカと一緒にイッシュに帰るよ、僕も。ずっと一緒」
「……! 本気、なのか?」
か細い声でホミカが疑ってしまったのも無理はなかった。キョウヘイはいつまでも冒険を夢見ている少年な気がしていて、そんなところもホミカは好きだったから。
いわばホミカと一緒に帰ってくるようなキョウヘイは、ホミカの願望が作り出した理想的すぎる存在。ホミカは頭の中で、そう結論付けてしまっていた。
ホミカはイッシュに帰る。キョウヘイは旅を続けるため、ここで別れる。ならば、次会えると時は果たして何時になる――。
(そこまで、考えちゃってたのに……! 喜んでんなよなあっホミカっ)
「本気だよ。僕もイッシュに帰って、みんなに見せつけるよ。ホミカと、大事な仲間たちと見て、感じて、学んできたことを。僕らがどれだけ強くなったことを。ホミカに、一番近い場所で」
「……んっ」
「っ!?」
雲の切れ間から日が差している。音をなくした晴れ間の中で、2人の視界は暗闇の中、唇にもっとも愛おしい感触が広がっている。
「ぷはっ……」
「……」
ホミカは押し付けた唇を開きながら離し、水滴を口端から飛ばす。
「まだ、行っていない地方あるだろ、いいんだな」
言いながらホミカは力を抜いて、全身の体重をキョウヘイに預ける。
「うん。ホミカと、離れたくないから」
ホミカの背中にキョウヘイの腕が回り、両足が絡み合う。2人の視界には、愛する異性の顔のみ。
身にまとっているのは水着のみ。
「キョウヘイって、そんなにアタシのこと好きだったんだね、えへへ」
ホミカがはにかむように笑うと、薄いそばかすも相まって実年齢よりも幾分幼く見えた。バンドの時に見せる小悪魔的な笑みと違い、キョウヘイの庇護欲を掻き立てる瞳と唇。
「好きだよ。世界で一番。誰よりも」
キョウヘイの旅は終わった。だが、
「……アタシもだ……んん」
もっとも愛する女性の理性を吹き飛ばし、唇をつけ合うことができる。
「んん……ちゅる……ぷはっ」
「んんっ!? ホミカ、舌っ」
「へへ……気持ちいいだろー……んちゅる」
(アタシの理性吹っ飛ばしといて……キョウヘイに理性があるってのは、割に合わないなよなー)
ホミカの理性のたがが外れている。キョウヘイにこすりつけたホミカの水着がずれ始めている。
「なあキョウヘイ、どうする? 外もう晴れてるけど……ちゅっちゅう」
「あっうっ」
キョウヘイは喘いでしまった。ほっぺ、首、顎とホミカの唇に吸い付かれ、まるでドクドクと蠱惑的な少女の毒を注入されているかのよう。
それでいて、ホミカはまた問う。晴れたビーチか、それともビルの一室、ベッドの上で、水着一枚。
キョウヘイとて性別は男。
「ごめん、ホミカ」
「え、んんんっ!?」
少年が獣に変わった瞬間、ホミカは唇をふさがれ密着して抱きすくめられたまま、上下を回転させられた。
「ぷはっ……もう、一生離さない」
「……うん」
(理性、ぶっ飛ばされてやんの。へへ)
圧倒的な優越感と幸福。
ホミカはすぐにキョウヘイの全体重を感じたが、引き込むようにして受け入れた。
見知った風景、嗅ぎ慣れた匂い、「おかえり」と声をかけてくれる大勢の人々。
一歩、また一歩ポケモンたちと共に舗装された街道を踏みしめる中、ホミカは手をつないだ少年の横顔を眺める。
「なあ」
「ん?」
「帰って来てそうそうあれだけど、キョウヘイはパシオって聞いたことある?」
「……うん。あるよ」
人工島、パシオ。そこで行われるであろう祭典は、キョウヘイも聞いている。
「キョウヘイ、行ってみたいんだろ」
「うえ、いや、それは」
「隠さなくていいっての。顔みりゃすぐわかるし。ま、別にすぐって話じゃないし、イッシュでまたしばらく過ごして、そしたらさ……」
「……」
「アタシ達がどれだけ強くなったか、また世界中のやつらに見せつけてやろうぜ! 故郷で満足するまで楽しんだら、また旅のローテーションだ! もうずーっと一緒だからな!!」
輝くような笑顔のホミカにつられ、キョウヘイも頬を緩ませながらホミカの手を引き寄せる。ホミカは驚くことなく、さも当然のようにキョウヘイの首に手を回し、おでこと鼻をつけ合い、街中でもかまうことなく――。
刺激的で騒がしいタチワキジムが戻ってきた。ベースを手に歌声を響かせる少女は、並び立つジム所属トレーナーの少年にもたれかかる。これは自分のものだと、肩をこすりつけて匂いをつける。
「さーて、タチワキジム、ダブルバトルのお披露目だ! 遅れんなよ! キョウヘイ!」
「もちろん! 任せてホミカ!」
「へへ……! 刺激的なバトルにしていくよ!」
片方の手で弦を弾きならし、片方の手にはモンスターボール。タチワキジムリーダー、ホミカの初手は、
「D・O・G・A・R・S……ドガース!」
END