thε seβen woαld   作:アルゴ・ノヴァ

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かつては窓越しに。

今までは画面越しに、会えていた。否、そうでしか会えなかった彼女が。

 

「おかえり、兄さん」

「ああ、初めまして……ただいま」

 

今はデジタルな世界で、会えるようになった。

これは、一人の人間が世界中の人間を巻き込んだ、たったひとつの愛の物語――

 

*****

 

 世界の為に何かを成すとか、人類を救う為に抗うとか。

 そんなことができる人間でもなく、器を持ってはいない。

 

『……兄さん、聞こえる?』

「ん? どうした?」

 

 姿は見えない。彼女がカーテンを閉めているから、僕は本来その声がする方に顔を向けるだけだ。

 彼女はカメラ越しに、こちらを見ている……はず、だ。

 

『ちょっと、兄さんの声が聞きたくて』

「……そうか。具合はどうだ?」

『うーん、いつも通りだよ』

 

 無理やり声を出しているようには聞こえなかった。

 でも、僕にはわかる。わかってしまう。

 

「……明日花、その……」

『……いいんだよ、兄さん。私の世界に、兄さんがいるだけで十分だよ』

 

 ブツっと音を立てて通信が切られる。

 部屋を跨いだその先の、今日も1人でいる彼女を想う。

 

「……もうすぐ、完成するからな。もうすぐ、もう少し……」

 

 (ヒロイン)を家に残し、脱落者()は仕事へ出かける。

 

*****

 

 誰かを失うと、永久に残り香を出すだろう。忘れたくても忘れられなくなるだろう。

 だが、死者の顔はすぐに忘れてしまうらしい。それも、どれだけ親密な関係であったとしても。

 どうも人間は、記憶から消えた実在しなくなったものを消したくなるらしい。

 

 だが一方で、声は覚えているそうだ。

 その魂の声は、受けた人の中で無限回に反射され、共鳴し、共振する。

 私を忘れないでと、そんな思いなのだろうか。

 結局、外見に囚われてはいけないというメッセージに過ぎないのだろうか。

 

『人類の手先はついに仮想の世界に! 数多くのARデバイスを手掛けてきた「アルカディア」から、フルダイブ型ゲーム機を発売! まだ見ぬ景色を、味わおう』

『「アルカディア」から発売されたスペックについて、私なりのお話をしようと思います。まずは――』

『小売価格20万。ソフトは付属していないため追加購入しなければならないが、そもそものスペックが計り知れないため……』

『世界最速先行プレイレビュー! フルダイブの極地を見てきた!』

 

アルカディアよりヴァーチャルリアル、フルダイブ型ゲーム機発売決定!

Virtualial, full-dive game consoles will be released from Arcadia!

Виртуальные игровые консоли полного погружения будут выпущены из Аркадии!

"아카디아에서 가상리얼 풀다이브형 게임기 발매 결정!

从阿卡迪亚开始发售虚拟、全潜型游戏机!

Virtuelle, Full-Dive-Spielkonsolen werden von Arcadia veröffentlicht!

 

『今、世界中で話題となっているゲーム機。その機械を使って動かすゲームタイトルが先ほど発表されました!』

 

 僕は、パソコンのファイルをクリックする。

 発売まで持ち込んだゲームは、全て合わせ五種類。

 絶対的な平和と、必然的な争い。2点を対極に置く。開発自体は続けるため、試験も兼ねたテストプレイである。

 だが、完成度は妥協していない。

 

 1000人のプレイヤーが、1000個のクリア要素を求め、1000体の敵を倒すゲーム。

 そして、それを動かせるだけのスペックを持ったVRマシン。

 当時学生だった彼が、凄まじい快進撃を業界に殴りつけながら、弱冠23歳にして完成されたソレは。

 

『急な電話失礼します。ご家族の方ですか? 明日花さんの容態が暗転し、緊急連絡先の親族方にかけています。今すぐに病院にお越しください――』

 

 まさに今、急転する彼の世界とともに、スタートを切ろうとしていた。

 

「――明日花!!」

 

*****

 

 VRの使い道として、娯楽やリモート会議の他、医療機械としても可能性がある。

 そしてある程度のVR、それもこの世界にはいまだ未実装の「フルダイブ」であれば、痛覚遮断ができるのだ。

 脳への直接的な電気信号の送信は、かつては実験用マウスに限られていたが、こうして民間用となったデバイスでそれができれば、病院で痛みに苦しむ人を救える。

 

 もう一つ、言っておこう。病に動けない人や五感に異常がある人だけでなく、根本的に問題を持つ人を救えるという話を。

 いや、むしろ彼はそれを目指して開発していたはずだ。

 例えば、病原菌に対する免疫がない人など。

 そして、彼の妹が罹患している「陽光塩化症候群」について。

 

 世界の楽しみを教えたい、その一心で出来上がったゲームは、次第に人に知れ渡り、クラウドファンティングが設営され、国が承認した事業となった。

 シンプルなのだ。百体のボス、七百体の固有種、二百体のフィールドボス、三百個のクエスト、四百個のアイテム。これら全てのデータを埋めきることだけ。

 プレイヤーはEスポーツの大会などで名を挙げた人。そして、NPCとしてAIを。

 

 だから誰も、本人ですら、把握しきれない単純なプログラムがあった。

 

 

 

 

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