ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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自己満足で書いたものです。
読んでいただけると幸いです。


序星:ある男の話

 

 

 

「くそっ!殺しても殺してもキリがない!」

「もうここまで...しまっ...うわあああああ!」

「必要以上に戦うな!今は生きてオラリオに帰ることだけを考えろ!」

 

 ここは【エルソルの遺跡】ここにはある()()が封じ込められていた。

 その怪物の名はアンタレス、蠍のような姿の怪物であり子蠍を使役している。

 かつてはある精霊がこの遺跡に封印していたが、その封印は解かれこの蠍は外界へ飛び出そうとしていた。

 それを防ぐためアルテミス・ファリミアは万全の準備を整え、アンタレスの討伐へと向かった。

 

 

しかし、大蠍の力は彼女たちの想像を遥かに超えていた。

 

 

一人は、アンタレスに踏み潰され絶命した。

 

一人は、子蠍に囲まれて絶命した。

 

一人は、仲間を庇いに前に出てその仲間ごと貫かれ絶命した。

 

「おい!このままだと全滅だぞ!」

「諦めるな!こいつをここで仕留めないと外にまで被害が出てしまう!」

「なら黙ってあいつに殺されろって言うのかよ!」

「今は言い争っている場合でねぇだろうが!」

 

仲間が一人、また一人と減っていくと共に戦線は崩壊してゆく。

 

「アルテミス様!このまま戦うか、撤退するかご判断を!」

「...仕方ありません。みんな!撤退しなさい!そしてオラリオに増援を求めるのです!」

「っ!聞いたかお前たち!女神を守り撤退しろ!決して恩恵を消させるな!」

 

 こうしてアルテミス・ファミリアの冒険者たちはアンタレスとの戦いに敗北し撤退した。

 しかし、みすみす獲物を逃すアンタレスでもなく子蠍と共に逃げる冒険者達を追い始めた。

 そうして一人、また一人と追いつかれた者たちの命が奪われてゆく。

 

「このままだとオラリオに着く前に全員死んでしまう...奴らを足止めできる方法はないのか!?」

「そんなものがあれば初めからやってるさ!ないからこうして逃げてるんだろ!」

「口を動かしてる暇があったら走れ!追いつかれるぞ!」

 

もうダメなのか?アルテミスの脳裏に最悪の言葉がよぎってしまった。

そんな中、()()()()が口を開いた。

 

「アタランテ、アルテミスとみんなを頼むぞ。」

「何を言って...まさか!?」

「ああ、俺が足止めをする。」

 

「ふざけ「ふざけないで!そんな馬鹿なこと私が認めると思ってるの!?」

「けどアルテミス、あいつの足止めができるのはこの中で()() Lv4の俺だけだ。」

「でも!それじゃあ貴方は...」

「安心しろよ!俺のしぶとさは水浴びを見られたお前が一番知ってるだろ?」

「こんな時に馬鹿な冗談はやめて!」

「冗談じゃねぇよ、俺は必ず生きて帰る...約束だ。」

「...分かりました、ここは貴方に任せます」

「アルテミス様!?」

「しかし!必ず生きて帰ってきなさい、これは命令です。」

「その命令、しかと受けとりました。」

「...っ!アルテミス様たちは任せろ!先にオラリオで待っているからな!」

「必ず...必ず帰ってくるのよ!()()()()!」

 

 男を残し、アルテミス・ファミリアは撤退した。

そして大蠍と子蠍の前に、男は立ち塞がった。

 

「よう、さっきぶりだな蠍野郎。」

「あいにく食われるのは嫌なんでな...全力で抵抗するぜ。」

「まぁ、蠍に言ってもわかんねぇか!」

 

 そして男は、まるで自分自身が死ぬなんて思ってないように笑い弓矢を構え叫んだ。

 

「いらっしゃいませえええええええ!!!」

 

 こうして、多数の犠牲と一人の男の足止めによりファミリアの全滅は防がれた。

 しかし、男がオラリオに帰ってくることはなかった。

 

 

 これは、一人の男が紡ぐ物語

 どの英雄譚にも綴られない物語である


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