ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
「...よし、今日はこんなもんでいいだろ」
「なんだ?もう疲れたのか?私はまだまだいけるぞ」
「駄目だ、ダンジョンは何があるか分かんねぇんだ。余力を残して帰る必要がある」
「ふんっ、臆病者め。ならばお前だけが先に帰るがいい。私はさらに奥へ進むぞ」
「なっ!?アタランテ!お前はまだマップも碌に覚えてねぇだろ!」
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現在、俺たちはオルクス大迷宮の正面入口がある広場に集まっていた。
俺のイメージだと、大迷宮の入口はそのまま洞窟の入口のようなイメージだったのだが、流石に国民が生活の一部として利用している空間といったところか。入場ゲートのような入口があり、制服をきた職員らしき女性が笑顔で受付対応している。
説明を聞く限り、ここでステータスプレートをチェックし、人の出入りを記録することで、死亡者数を正確に把握しているらしい。つまり何日も音沙汰なく出てこなかったものは死亡扱いされるというわけだ。
こうして俺たちはメルド団長を先頭にカルガモの親子のように大迷宮に入っていった。
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オルクス大迷宮は緑光石という発光する特殊な鉱物の鉱脈が光源の役割を果たしているため、松明などの明かりがなくても視界は問題ない。
大迷宮の中は外の賑わいと反対に静寂に満ちていた。しばらく足音を響かせていると高さが7、8メートルほどありそうなドーム状の空間へとたどり着いた。そこには、灰色の体毛を持った魔物がおり、俺たちを目視すると威嚇し俺たちに立ち塞がった。
「よし!この際に座学の復習といこうか!誰でもいい!あの魔物の名前を答えてみろ!」
「お、おい、お前分かるか?」
「いや...魔物の名前なんていちいち覚えてねぇよ...」
「どうしよう...分からなかったらやっぱり怒られるのかな...」
いきなりのメルド団長の質問に対して、クラスメイト達は即座に答えることが出来なかった。そんな中一人が恐る恐るながら手を挙げた。
「えっと...、多分ラットマンだと思います...」
「正解だハジメ!あいつは素早いが、たいした敵じゃない。冷静に行け!そして他の者たちはキチンと勉強をしておけよ!」
ハジメの解答に満足気に笑みを浮かべたメルド団長は、天之川たちへ指示を飛ばす。そしてクラスメイトたちは、ハジメに向かって驚愕の表情を浮かべていた。今まで真面目に訓練に参加せず、図書館で本ばかりを読んでいる『無能』だと思っていたハジメが誰も答えられなかった魔物を答えたことが信じられなかったようだ。
そのことに男子生徒たちはどこか気に食わないような顔をしており、女子生徒たちはどこか感心したような顔をしていた。
「ハアアッ!!!」
「オラァッ!!!」
「フッ!セイッ!!!」
こうしてメルド団長の指示のもと、前衛組の戦闘が始まった。
天之川は純白に輝く大剣で一刀両断し、坂上は正拳突きで殴り倒し、雫は刀が無かったためカットラスに似た形状の剣による流れるような剣技で切り落とした。そして俺は
「ほいっ!」
拳でラットマンの首をへし折り、一撃で沈黙させた。
...やっぱり駄目だな...こんな浅い場所の魔物じゃあステイタスは上がりそうにない...。
メルド団長が試験的に採用したサポーターの人たちが魔石を回収しているのを見ていると後ろから呆れた顔をした雫が来た。
「弓人...弓矢はともかくなんで腰の短剣をつかわないのよ...」
「使うと汚れる、欠ける、すり減る。だからまだ使わない」
「どこのソルジャーよいったい...」
「なんだ、知ってんのか?」
「香織のせいでね...ゲームや漫画を買いに連れ回されたせいで自然と覚えたのよ」
「あの暴走特急め...」
そんな幼馴染のあまり知りたくない情報を聞きながら、俺は雫の手がかすかに震えていることに気づいた。
「やっぱり...慣れそうにないわね...」
「大丈夫か?」
「うん...まだ大丈夫...けど駄目だと思った時にはお願いね」
「おう、任せろ」
この後、魔法の威力が高すぎて魔物を消し炭にしてしまい、メルド団長に注意されたり、ハジメがどこぞの錬金術師のように地面を錬成して魔物の足を止めて止めを刺し、メルド団長に戦い方を感心されたり、弓の使い心地を知るために俺は後衛へ下がったりしながら俺たちは順調に階層を下って行く。
そして俺たちは当初の目的であった20階層へと足を踏み入れた。
俺たちの先導をしていたメルド団長が足を止めると、戦闘準備をする様に促した。魔物の数は1..いや2体か?
「ここには擬態した魔物がいる!周囲への警戒を怠るな!」
メルド団長が忠告した直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は褐色となり、二本足で立ち上がる。カメレオンのような擬態能力があるらしい。
「ハジメ!あの魔物の名前は!?」
「あれはロックマウント!擬態能力と剛腕が特徴の魔物だ!」
俺がハジメに魔物のこと聞いていると、
「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」
部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
前衛組の体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。
そしてその隙を突き傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織たちへと迫る。
避けるスペースも無いため魔法で迎撃しようとした香織たちに衝撃の光景が広がった。
投げた岩の正体もロックマウントだったのだ。両腕を広げ血走った目をした魔物が迫ってくる生理的恐怖から香織たち女子生徒は顔を青くして固まってしまった。
その瞬間1本の矢が香織たちの後ろから飛び出し、ロックマウントの眉間を撃ち抜いた。
「香織!キモいのは分かるが戦闘中に固まるな!」
「弓人くん!ご...ごめん!」
「礼は後だ!今は陣形を整えろ!」
謝罪する香織たちの顔はいまだに青いままだ。それを見た天之川は死の恐怖によるものだと勘違いし、怒りと共に聖剣を輝かせた。
「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」
「なっ!?馬鹿者!」
メルド団長の声を無視して、天之川は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。
その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。
こうしてもう大丈夫だと言わんばかりに笑みを浮かべ香織たちに声をかけようとした。天之川には香織たちの礼ではなくメルド団長の拳骨と説教が待っていた。
「へぶぅ!?」
「この馬鹿者が。気持ちはわかるがこんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!」
「うっ...すみません...」
その言葉に天之川は顔を顰め、声を詰まらせた。そして謝罪を入れていると香織たちが寄ってきて苦笑いしながら慰めていた。
その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。
「あれ何かな? キラキラしてるけど...」
その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。
そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿に目を奪われていた。
「ほぉ、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」
グランツ鉱石は宝石の原石だったはずだ。その美しさから貴族から人気が高くこれを加工した指輪は求婚の際に選ばれる宝石として有名だ。
「素敵...」
メルドの説明を聞いた香織は頬に手を置きながらうっとりとした表情を浮かべた。そして誰にも気づかれない程度にハジメに視線を向けていた。なお、俺と雫、そして『ある1人』には気づかれていたようだが。
「だったら俺らで回収しようぜ!」
そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けて軽快に崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。
「おい!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」
しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。
メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時にサポーターの一人がフェアスコープという罠を見つける道具で鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
しかし、メルド団長も、サポーターの警告も一歩遅かった。
檜山が鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がってゆく。そして魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。
「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」
メルド団長の言葉にクラスメイト達が急いで部屋の外に向かうが間に合わなかった。
まるで転移したあの日の再来のように感じた。
申し訳ございません。
リアルの方が忙しかったので本日最後の投稿です。