ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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68星:穢れたオアシス【上弦】

 

「助けてくれたことに感謝する。私はビィズ・フォウワード・ゼンゲン」

 

 砂漠で倒れていた男...ビィズは礼を言い俺たちに頭を下げる。

 近づいた時の彼は、魔力が暴走しており、香織が『廻聖』で治療しなければ血管や内臓が破裂していたらしい。

 

「ゼンゲン...もしかしてランズィ公のご子息ですか?」

「その通りだ」

 

 ランズィ公は、ミュウちゃんの故郷【エリセン】の近くにある【アンカジ公国】の領主だったはずだ。

 

「となると、運送中に襲われたって感じか?」

「いや、そうではない...君たちは見たところ冒険者のようだが、ランクを聞いても良いだろうか?」

 

 ランクを聞く、それはランクの高さによって何かを頼んでくると暗に言っていた。

 ハジメに目配せすると、ハジメもそれに気づいているが、助けた手前最後まで付き合うつもりなのかランクを教えるつもりのようだ。

 

「『金』だ」

「金!?...神よ、貴方の采配に感謝します」

 

 ランクを聞いた瞬間、驚愕し劇の役者のように仰々しく天に祈り始める。

 本当に大貴族なのかと、俺たちが呆れているとビィズは案の定俺たちに依頼してきた。

 

「君たち...いや貴殿たちにアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。私たち...アンカジ公国を救ってほしい」

 

 依頼内容を聞くとこうだ。

 

 4日ほど前から、原因不明の高熱が流行り始めた。

 それは突然の出来事で、症状を訴えるものだけでも2万を超え、死者も出ているらしい。

 原因を調査していると、水源として利用しているオアシスに魔力を暴走させる毒素が確認された。

 そのため水を飲めば毒に侵され、飲まなければ脱水症状に陥るという絶望的な状況となっている。

 

「治療法は、香織がやった魔法以外ないのか?」

「いや、既に治療法は確立している。【グリューエン大火山】のみで採取できる『静因石』を粉末にして服用すれば治療できる」

 

 彼が砂漠にいた理由が分かった。

 

 【グリューエン大火山】は大迷宮の1つのため、領主のゼンゲン公や領主代理のビィズほどの権力がないと手続きに時間がかかり、その間に国が滅ぶ可能性がある。

 

「なるほど、依頼は俺たちにその鉱石の採取か」

「その通りだ」

「けど、その鉱石採取だけだと完全な解決にはならないよな」

「...あぁ」

 

 ハジメの言った通りだ。

 治療できたとしても、安全な水を確保できていなければ根本的な解決にはなっていない。

 ビィズもそれに気づいており、俺たちが採取に行っている間に水の確保をするつもりだったようだ。

 

「よし、一度アンカジに行こう。水についても俺たちに任せてくれ」

「できるのか!?27万人分の飲み水だぞ!」

「ユエ、どれくらいの土地があれば良い?」

「......200メートル四方」

「それなら農業地帯を使ってくれれば良いが...」

 

 それだけの範囲があれば十分だろう。

 ミュウちゃんも預ける必要があるため、俺たちはビィズを車に乗せアンカジ公国へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ビィズの案内で、俺たちはアンカジ公国の農業地帯に到着した。

 

「500メートル四方はある、本当にできるんだな?」

「ユエ、いけるか?」

「......ん、けど一度魔力の補給が必要」

 

 ユエは言葉を止め、蠱惑的な表情で俺を見てきた。

 

「......だから『あれ』頂戴」

「分かった、じゃあ始めてくれ」

「......むぅ、手強い」

 

 どうやら、俺は反応を間違えたようだ。

 気を取り直したユエは、手を前に突き出して魔法を放つ。

 

「......『壊劫』」

 

 その瞬間、黒く渦巻く球体が現れ形を変え始める。

 そして、ユエが最初に言っていた200メートル四方の膜になり、地面を押しつぶすように落下した。

 

 地響きと共に陥没していく大地、そして農地だった場所には200メートル四方、深さ5メートルほどの貯水所となった。

 

 魔力を一気に消費したため、疲労感と共にため息をつくユエ。

 俺はユエを支え、血を飲ませるために腕をユエの口に近づけようとすると、ユエは俺の首に腕を回し抱きついてきた。

 

「......いただきます」

 

 首筋に小さな痛みと、血が吸われていく感覚が発生する。

 どこか官能的な光景に、離れて見ていたハジメたちはどこか気恥ずかしさを覚え、目を逸らしたり頬を染めたりする。

 

「......ごちそうさま」

「ユエ、そういうのは勘違い...されて良いのか」

「......ん、オリオンの血美味しかった」

 

 誰にも聞こえないように、前世の名を呼んでくるユエの頭を撫でてやると、満足したのか立ち上がり水系魔法を発動する。

 

「......『虚波』」

 

 その瞬間、虚空から巨大な津波が現れ貯水所に流れ込んでいく。

 何度か吸血を繰り返し、何度か津波を発生させて200メートル四方の貯水池は、汚染されていない新鮮な水でなみなみと満たされた。

 

「お疲れさん、貧血で倒れる前で良かった...」

「......やめられない、止められない」

「あのユエさん、そろそろ倒れるので勘弁してください」

 

 吸血を続けるユエを引き剥がし、俺とユエはハジメたちの方へもどる。

 そこには、あり得ない光景を目撃して口を開けたまま呆然としていたビィズがようやく再起動し始めた。

 

「あ、ありがとう!これで民が救われる!」

「運搬はそっちで頼む。あとは...オアシスの調査もするか」

 

 オアシスの方も改善できるならそれに越した事はないためビィズに提案すると、彼は快諾してくれたため、ミュウちゃんを預けるために俺たちは一度宮殿に移動を開始した。

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