ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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68星:穢れたオアシス【下弦】

 

「えー!?またおるすばんなのー!?」

 

 アンカジ公国の宮殿、そこにミュウちゃんを預けようとしたところミュウちゃんは嫌がり始めた。

 

「ミュウも行きたいの!」

「そっかぁ、けどハジメくんが行く場所は危ないからダメなんだよ」

「う〜...でも〜」

「お姉ちゃんも一緒にお留守番するから、ね?」

 

 大好きなパパを困らせたくない、けど一緒に行きたい。

 2つの感情に挟まれミュウちゃんはうめいていると、ハジメがしゃがみ視線を合わせる。

 

「ミュウ、香織お姉ちゃんを助けてあげな」

「カオリお姉ちゃんを?」

「あぁ、お姉ちゃん1人だと大変だからな」

 

 ミュウちゃんの頭を撫でながら話しかけるハジメ

 俺たちがオアシスの調査、静因石の採取に行っている間、『治療師』の香織はこれ以上の犠牲を出さないため、治療施設に行くつもりだ。

 

 お姉ちゃんを手伝う

 お姉ちゃんが喜ぶ

 パパも喜ぶ

 

 ミュウちゃんの頭に方程式が浮かび上がり、任せろと言わんばかりに自身の胸を叩いた。

 

「分かったの!お役に立つの!」

「良い子だ。香織さん、魔力はどれくらい持つんだ?」

「...2日、その間は絶対に死なせない」

 

 2日、【グリューエン大火山】を往復することも考えるとあまり余裕は無いだろう。俺たちは水源の調査のためオアシスに向かおうとしたところ、香織がハジメの袖の端を摘んだ。

 

「香織さん?」

「キス...」

「......はい!?」

「だから...行ってきますのキス...」

 

 香織の爆弾発言に、ハジメは顔を真っ赤に染める。

 そしてドス黒いオーラを身に纏ったシアが笑顔で問いかけてきた。

 

「カオリさん?いくらなんでも調子に乗りすぎでは?」

「だ、だって!シアはもうキスしたんでしょ!?しかも2回!」

「あんな色気もないやつをカウントに入れたくないよぉ!」

 

 救命行為で2度のキスしたことをネタに、何度かハジメを揶揄っているところを見たことがあるが、本音はカウントに入れたくなかったようだ。

 

 シアと香織の口論が勃発している中、行ってきますのキスに反応したミュウちゃんがハジメに近づいていく。

 

「ミュウも!ミュウもパパにチュウする!」

「ミュウ、お前もか...」

 

 諦めの含んだ声を上げるハジメをみて、ここがチャンスとみたのか香織とシアが共闘することを選択した。

 

「ハジメ!昔やり直しを要求した時、やってやるって言ったよね!」

「あ、あれは勢いというかなんというか...」

「ハジメくん!減るものじゃないから良いでしょ!」

「それどっちかと言うと男が言うセリフだろ!?」

 

 押され気味のハジメは俺の方を見てきたため、いつぞやの時のように答えた。

 

「強く生きろ」

「またかよ!」

 

 その言葉と共に、俺、ユエ、ティオは一足先にオアシスへ向かう。

 

 しばらくした後、顔を赤くしたハジメと満足げな表情を浮かべたシアが合流した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 オアシスは、一見すると何の変哲もない。

 しかし、ハジメがモノクル越しに水面を見ると、異変の原因に気づいたのか空間庫からペットボトルの様な金属塊を取り出し適当に投げていく。

 

「ハジメ殿のあれはなんじゃ?」

「魚雷、簡単に言ったら水の中で使う爆弾だ」

「なるほどのう...それを使うということは」

「......水の中に何かがいる」

 

 その瞬間、大量の水柱が発生する。

 しばらくした後、魚雷とは違う理由で水面が揺らぎ始め、『それ』は飛び出した。

 

 『それ』は、体長10メートルほどある、体内に赤い魔石を持つスライムだった。

 

「なんだこいつ?」

「バチュラム...にしては見たことない大きさじゃ」

「何にしろ、さっさとやるぞ」

 

 ハジメは挨拶代わりに魔石にむかって撃つ。

 やはり魔石が核なのか、体内で魔石を移動させて回避した。

 

「やっぱり移動できるか」

「......水に潜り込まれると面倒」

「物理攻撃は効果なさそうじゃのう。『吹き荒べ頂きの風、燃え盛れ紅蓮の奔流』『嵐焔風塵』」

 

 ティオは風属性と炎属性を掛け合わせた魔法を放つ。

 炎の竜巻がバチュラムを包み込むが、バチュラムは即座に再生し答えた様子がない。

 

「......魔石を砕いた方が早そう」

「だな、とりあえず...水面から切り離そう。弓人旋空」

 

 不可視の斬撃が、水面とバチュラムの境を抉り取る様に切り裂く。

 

「......ユミトセンクーいっせーん」

「後は任せてください!」

 

 重力魔法で体重を軽くしたシアが水面を跳ねるようにバチュラムに近づく。

 バチュラムはシアを近づかせない様に触手を伸ばす。

 

「......『凍宮』」

 

 ユエがバチュラムの触手を1本残らず凍らせる。

 それをシアがドリュッケンで砕きながらバチュラムに肉薄した。

 そして重力魔法で加速させた一撃がバチュラムを吹き飛ばし魔石だけの状態にした。

 

「ハジメ!」

「これで終わりだな」

 

 そしてハジメのドンナーの引き金を引き、電磁加速された弾丸が魔石を砕いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「反応もなし...これでオアシスは大丈夫だろ」

「うむ、地下水脈から新鮮な水が出ておる。汚染された水を排出すれば問題ないじゃろう」

「それにしてもハジメ、あの魔物はどこから来たんだろ?」

「魔人族によるものだろうな」

 

 ハジメはどこか確信した様子で答える。

 けれど、ハジメの答えは的を射ていた。

 

 戦争において、食糧や物資の補給は放っておけない問題だ。

 『作農師』の畑山先生が狙われた様に、食糧関係の要所であるアンカジ公国も狙われたのだろう。

 

「それに...魔人族が手に入れた【神代魔法】が魔物関連なはずだ」

「.....それなら納得できる」

「とにかく、俺たちが今やることは静因石の採取だ。行こう」

 

 オアシスの戦闘も終わり、俺たちは依頼された【グリューエン大火山】に移動を開始した。

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