ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
「お前か...俺たちを攻撃してきたのは」
「貴様等の力は私たちにとって看過できない...特にその男」
そう尋ねると、魔人族の男はハジメを忌々しげに睨みながら答える。
男の背後には先ほどまで存在しなかった小型の翼竜が白竜の周りを飛び回っており、白竜同様この魔人族の男が従えているようだ。
「
魔人族の男は、その黄金の瞳を細め睨みつける様に俺たちに質問してくる。
当然答える気は無いため、その言葉を無視して周囲を確認していると、中央の島にあったマグマのドームが無くなって、正方形の黒い部屋が出現しており、恐らくあそこで神代魔法を手に入れることが出来るのだろう。
「ユエとシアは、ハジメを連れてあの部屋に行け」
「な、何故ですか!?私たちも戦います!」
「冷静になれ、この状況での最悪を考えろ」
この状況下での最悪は、ハジメが死ぬことだ。
神水の回復が上回っているお陰で、時間が経てば傷も完治するだろう。しかし、それを待っている間、この足場の少ない環境でハジメを守り続けるのは中々に厳しい。
「見たところ、あの部屋は耐久面には期待できそうだ。だからあの場所でハジメを休めるんだ」
「......それならシアとハジメだけで良いはず」
「ユエも行って欲しいのはあの場所で貰えるはずの神代魔法で強化して欲しいからだ」
ここの神代魔法がどの様なものは分からない、しかしどの様な魔法であれ強力なものには違いないだろう。
「ユエは神代魔法を手に入れてから戻ってきて欲しい、あとあの部屋が安全だと決まった訳じゃないからな...その時にハジメを守ってやってくれ」
「......ん、すぐに戻る」
「という事でティオ。悪いが『竜化』して俺を乗せてくれ」
「気にするでない...妾もあの若造に真の竜を教えてやりたかったのでの!」
その瞬間、ティオの姿が変わっていく。
白い肌に黒い鱗が生え、次第に全身に広がっていく。
背中から翼が生え、その体を大きなものへと変化させる。
そして妖艶な女性の姿から、巨大な黒竜へとその姿を変えた。
「黒竜だと!?やはり貴様等はここで殺しておくべき存在!」
「ストック解放!解放数2!2節詠唱破棄!」
「【オリオン・オルコス】」
ティオの正体を知り、驚愕した魔人族の男は魔法の詠唱を始めた。その手には複雑怪奇な魔法陣が描かれた布を持っており、それを危険と判断した俺は迷わずストックを消費して【オリオン・オルコス】を発動した。
一閃
白く輝く矢は魔人族の男を射抜かんと放たれるが、男が従えていた翼竜たちがその身を盾にし始めた。その結果、矢は男へ届く前に勢いを失い、その輝きを失ってしまう。
「ちっ...」
「見せてやろう!私が手にした新たな力を!『界穿』!」
「っ!皆さん後ろです!」
その瞬間、白竜と共に魔人族の男はその姿を消した。
そのことに驚愕するのも束の間、叫びながら警告するシアの声を聞き反射的に後ろを向くと、大口を開け膨大な魔力を集約させた白龍がそこにはいた。
「......『聖ぜ「待つのじゃユエ殿!ここは妾に任せよ!」
咄嗟に防御魔法を発動させようとするユエを止め、ティオはその口に魔力を込める。
その直後、純白の極光と漆黒の極光がぶつかり合い。轟音と共にこの空間を揺るがせた。
白竜のブレスはティオのブレスと拮抗している様で、その衝撃により誰一人動けないでいたため。俺はその隙を使い、切り札の詠唱を開始した。
「『我が宿命、月女神に請い願う。』」
「『肉体に剛力を、精神に冷徹を。』」
「『そして我が運命をここに定めよう。』」
「『其は、女神の無垢な加護。』」
「【アルテミス・アグノス】」
詠唱を完了した瞬間、淡い光が俺の体を包み込んだ。
全身から力が漲り、灼熱の空間にいるにも関わらず脳がどこまでも冷静に冴え渡った。
白竜とティオの拮抗していたブレス勝負が終わった瞬間、俺は『空力』を使い未だ変化に気づいていない魔人族の男へと跳躍した。
「ぬうう、まさか竜人族の生き残りがいたとは...仕方あるまい、少々危険だがこの【空間魔法】で」
「なるほど、その力は【空間魔法】だったか」
「なっ...いつの間に!?」
ティオの存在を認知していなかったのか、忌々しげに新たな魔法陣が描かれた布を取り出した男は再び詠唱を開始しようとする。
しかしそれは、目の前にまで近づいた俺のブレンネンによる一撃で中断されることとなる。
「くっ...がぁああ!?」
「今だ!行けえええ!!!」
男は障壁で防御をしてくるが、ブレンネンを障壁に叩きつけた瞬間、ジャッキが折りたたまれ発生した衝撃により、障壁を簡単に破壊して男を吹き飛ばした。
ブレンネンの反動により腕が痺れるが、それを無視して下にいるユエたちへ叫ぶ。
俺の声を聞いたユエたちはハジメを連れて、中心の島へと移動を開始した。
それを確認していると、主では無い存在が乗っていたことに気づいた白竜が暴れ始め振り落とされてしまう。なんとか体制を立て直そうと『空力』を使おうとした瞬間、飛翔してきたティオが近づいて来てくれたため、体の向きを変えティオの背に乗ることに成功した。
「ユミト殿!大丈夫か!?」
「助かった、このまま一気に行くぞ!」
「任せよ!」
ティオはその身を翻し、魔人族の男がいる方向を向く。
男の方も白竜の背に着地しておりその黄金の瞳で俺たちを見据えていた。
「神代の力を使ってなおここまで追い詰められるとは、あの一撃は貴様にぶつけるべきだったか...」
「安心しろ、仮に俺が狙われてたとしても...そん時はハジメにやられてただろうよ」
「減らず口を...」
挑発的に言葉を返しながら、俺たちは互いに警戒する。
すると、『念話』によりユエから嬉しい報告が届いた。
『......ユミト、ハジメが目を覚ました』
『それは本当か!』
『悪い、迷惑をかけた』
『そんなもん欠片も感じてねぇよ!』
親友が無事だったことに、思わず頬が緩んでしまう。
しかし今は戦闘中、即座に切り替え男との決着をつけようとした瞬間、男は何か決意をした様に小鳥の魔物を呼び出し何かを伝えた。
その直後、地響きと共にマグマが荒れ狂い始めた。
「なっ!?お前!何をした!?」
「要石だ、この【グリューエン大火山】は活火山なのにも関わらず噴火した記録がない。それはつまり、地下のマグマ溜まりからの噴出をコントロールしている要因があるということ」
「それが要石か...まさか!?」
「その通り、業腹だがそれを破壊させてもらった...冥土の土産に我が名を教えてやろう!我が名はフリード・バグアー!貴様等はこの大迷宮もろとも朽ち果てるが良い!」
男...フリードはその言葉と共に首にぶら下げたペンダントを掲げると、天井にヒビが入り地上までの直通の穴が作られた。
フリードはもう一度俺たちを睨みつけると、白竜へ指示し天井の通路へと消えていった。
「行かせるものか!」
「待て!ハジメたちの方が先だ!」
「す、すまぬ!分かったのじゃ!」
フリードを追いかけようとするティオを止め、ハジメたちのいる場所へ移動しようとしたところ、再びハジメから『念話』が届いた。
『焦っている様だが何があった!』
「お前らこの振動を感じてないのか!?」
『振動どころか音一つ入って来ない!だから外の状況が何一つ分からねぇ!』
どうやらあの部屋の性能は、俺の想像を超えるものだったらしい。
俺は今の状況を手短に説明すると、ハジメは少し考えた後ある決断をした。
『...ユエ!こいつを弓人の所に飛ばしてくれ!』
『......ん、ユミト...受け取って。『界穿』』
その瞬間、俺の目の前が歪み空間庫の指輪と懐中時計の様なものが現れた。
「こいつは...さっきの男が使ったやつか』」
『......【空間魔法】この迷宮で手に入った神代魔法』
【空間魔法】...どうやらあの男もここで手に入れていたらしい。
俺は指輪と懐中時計を受け取った後、ハジメの狙いを理解したため確認のため問いかけた。
「ハジメ...そういうことなんだな?」
『ああ、弓人はティオと一緒にアンカジへ先に戻ってくれ』
「な!?見捨てることなどできる訳ないじゃろ!」
ハジメの言葉にティオが反発する。
確かにハジメの言葉をそのまま受け取ると、俺たちだけ生き残ってハジメたちを切り捨てろと言っているようなものであった。
「落ち着けティオ」
「ユミト殿!これが落ち着いていられるか!」
「良いから落ち着け、何もハジメは無駄死にするっていった訳じゃない...恐らく『あれ』で脱出するつもりだ」
「『あれ』じゃと!?じゃが『あれ』はまだ試運転もしておらぬはずじゃ!」
確かに『あれ』はぶっつけ本番で使うのは賭けだ。
だが今は時間がないため、その案で動くしか無かった。
「ティオ...お前のその優しさは美点だ。だが今はハジメたちを信じるんだ」
「信じる...」
「そうだ。仲間ならその言葉を信じろ」
「...分かったのじゃ!ハジメ殿!ユエ殿!シア殿!必ずまた会おうぞ!」
『頼んだぞ...それと香織さんとミュウに伝言だ。『また会おう』』
「必ず伝える!だから死ぬんじゃねぇぞ!」
こうして俺たちは、一時的に別れることとなる。
しかし悲しさは少しも感じない、なぜならすぐに再開できると確信しているからだ。
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三星弓人 Lv.6
力: G : 281 → F : 312
耐久: G : 226 → G : 253
器用: G : 235 → G : 247
俊敏: G : 250 → G : 274
魔力: H : 196 → G : 213
頑健: E → D
対魔力: F
千里眼: E
直感: G
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