ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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この作品のユエの性知識は『赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくる』レベルだと思っておいてください。


本編です


72星:アンカジ公国への帰還

 

 ここは、【アンカジ公国】と【グリューエン大火山】の中間に当たる位置。

 現在上空にて、黒竜となっているティオの背に乗り、俺はアンカジ公国へと移動を続けていた。

 ハジメから預かった懐中時計の蓋を開くと、そこにはデジタル数字で『25:32』と表示されており、しばらくすると『25:31』に変化した。

 

「恐らくこの数字がタイムリミットなんだと思う。まぁ丸1日残っているから問題ないだろ」

「うむ...しかし後1日しかないとも言える。ユミト殿、少し速度を...っ」

 

 ティオが速度を上げようとした瞬間、表情を歪ませ高度を落としてしまう。

 

「ティオ!大丈夫か!?」

「す、すまぬ!どうやら少し疲れてしまっての!なぁに、もう大丈夫じゃ!」

 

 その言葉は、どう考えても強がりだ。

 【グリューエン大火山】から脱出する時、フリードがダメ押しと言わんばかりに呼び出した翼竜との戦闘があった。

 ティオの体は、その際翼竜から放たれたブレスにより傷つき、鱗は焼け焦げ血が滲んでいた。

 

「ティオ、一度降りて傷の手当てをするぞ」

「もしや心配してくれるのか?ユミト殿は優しいのう」

「いいから降りろ」

 

 有無を言わせない勢いで指示すると、ティオは観念したのかゆっくりと高度を落とし始める。

 そして着地し人型に戻ったティオは、肩で息をしており満身創痍そのものだった。

 

「強がってんじゃねぇよ。ほら、手当てするからこいつに座れ」

「すまぬ...どうやら翼竜のブレスにも毒があったようじゃ」

 

 空間庫から椅子を取り出し座る様に言うと、ティオは悔しそうな表情ではあるが素直に座った。

 その後、神水を飲ませ体の血を拭いてやっていると。ティオは自身の思っていたことをこぼし始めた。

 

「妾は勘違いしておった...ハジメ殿とユミト殿なら、何があっても大丈夫じゃと...」

「......」

「しかし今回のことで痛いほど理解した...傷つく事もあれば少しの油断で死んでしまうと...じゃから、妾が守らねば...」

「馬鹿言うな」

「いたぁ!?」

 

 表情を暗くして後悔した様に吐き出すティオに対して、俺は強めのチョップをティオの額に叩き込んだ。

 痛みと共に顔を上げるティオの顔をしっかり見て、1つ問いかけた。

 

「お前、自分が年長者だからしっかりしないととでも思ってんだろ?」

「うっ...そ、それは」

「悪いが俺は一度もお前を目上に見たことない」

「ユ、ユミト殿!それは酷いのじゃ!」

「そして一度も下に見たこともない」

 

 その言葉に、ティオは驚き固まった。

 俺はその変化を気にすることなく話し続ける。

 

「お前が俺のことをどう見ているかは知らん。けど俺はずっと対等だと思ってる」

「対等...」

「傷ついたり少しの油断で死ぬことがある...けど、それはお前もだろ?」

「しかし...誇り高き竜人族である妾が甘えるわけには」

「そんなもん俺は知らん。生きてるなら...嬉しい時もあれば辛い時もある...だから辛い時は大丈夫なんて言わず、辛いってちゃんと言え」

「ユミト殿...」

 

 こいつは、自分だけ生き残ってからずっと我慢していたのだろう。

 ティオの目的が達成された時、その時が俺たちは別れるのだろう。

 ならその間くらい、こいつには我慢せずいて貰いたい。

 

「......ユミト殿、そういうところじゃぞ」

「なんだそれ?」

 

 よく分からないことを言ってきたが、まぁ気にしなくて良いだろう。

 その後、神水によって体力の回復したティオの背に乗り、アンカジ公国への移動を再開した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そしてアンカジ公国に到着した所、恐らく監視塔から報告を受けていたのだろう香織が俺たちの方へと駆けてきた。

 

「弓人くん!ティオさん!」

「香織か、色々説明することがあるがまずは静因石での治療が先だ」

「それは兵士さんに渡せば良いから!二人の治療が先!」

 

 その言葉を聞き、兵士たちが運搬のため近づいてくる。

 そのため、ティオの治療を先にして貰い俺は空間庫から採取した静因石を取り出し渡していく。

 

「こんな毒素見たことない...ごめんなさい、私じゃあ浄化できない...」

「心配するでない、妾は神水を飲んでおるから次第に治る」

「そっか...じゃあ次は弓人くんって何これ!?」

 

 ティオから離れ診断を始めた香織は、俺の状態に血相を変えた。

 

「全身の筋繊維がボロボロな上に、左腕の腱が切れて骨にヒビが入ってる...」

「な!?ユミト殿!どういうことじゃ!」

「筋繊維がボロボロなのは【魔法】の反動だ。左腕は...多分ブレンネンのせいだろうな」

 

 ここへ移動している間、左腕に鈍い痛みがあったがかなりダメージを負っていた様だ。

 

「すぐに回復するから!」

「ユミト殿...対等なら妾を頼ってたも...」

「...悪い、俺も人のこと言えないな」

 

 その言葉に、2人は困った様に笑いかけてきた。

 そして俺は、ハジメたちのことを説明するため落ち着いて話せる場所に移動することにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それじゃあ、ハジメくんは...」

「ああ、遅れてだが必ず戻ってくるはずだ」

 

 事の顛末を聞き、香織は顔を青ざめ裾を握りしめている。

 想い人とまた離れ離れになると考えてしまうのは、仕方ない事だろう。

 

「香織、ハジメから伝言を預かってる『また会おう』だとよ」

「...え?それだけ?」

「正確には、香織とミュウちゃんに対してだけどな」

 

 死ぬかもしれない状況にも関わらず、どこまでも軽い言葉に呆け、その後吹き出してしまった。

 

「ふふ...うん、ハジメくんならきっと大丈夫だよね」

「当たり前だ。シアに...そして何よりユエが一緒にいるんだ」

「そうだね、だから私は...今私のできることをするね」

「とりあえず国民の治療が完了するまでは滞在しよう。もしそれまでに帰って来なかったら...その時は探しに行くぞ」

「分かった。ミュウちゃんには私から伝えておくね」

 

 そして、香織は治療のため治療施設に戻り。ティオは疲れを癒すために用意された部屋へ移動し始めた。

 そして俺は、椅子に座ったまま迷宮での戦いを思い出していた。

 

 あの時、ハジメが負傷したのは警戒を怠った俺のせいだ。

 フリードを逃したのも、接近できた時に殺せなかったからだ

 俺の『心の弱さ』が、今回のことを引き起こしたんだ

 

「思い出せ、覚悟は『あの日』にしただろ...」

 

 躊躇うな、一瞬でも躊躇うと仲間を失うぞ

 決めただろ、仲間を守るためこの手を血に染めると

 例えそれが、仲間から拒絶されたとしても

 

 

 仲間を脅かす敵は、必ず殺せ

 





投稿ペースが遅くなってしまい大変申し訳ございません

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