ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
アンカジ公国に帰還して3日経過した辺りで、国民の治療で香織が居なくても問題ない状態となったが、その間にハジメたちが帰ってくることは無かった。
「ミュウちゃん。迷子のパパを探しに行こうか」
「パパを?うん!探しに行くの!」
「けど弓人くん、ハジメくんがどこにいるのか分かるの?」
香織からの質問に、俺はタイムリミットが表示されていた懐中時計を開けリューズを押し込む。すると、懐中時計の文字盤がソナーの画面の様になりある1点が光り始めた。
「それは?」
「ハジメから渡された物だ。恐らくこの光っている場所にハジメがいる」
「ほんとに!?じゃあすぐに行こう!」
「待て待て。ティオ、地図とコンパスを持ってきてくれないか?」
今すぐに飛び出そうとする香織を落ち着かせ、ティオに持ってきてもらった地図を広げコンパスと懐中時計を並べる。
「ここがアンカジ公国、つまり俺たちのいる場所だ。そして光が示してる場所は...大体ここら辺だな」
「けどここって...」
俺が指差した場所は、【グリューエン大火山】から離れミュウちゃんの故郷である【エリセン】近くの海域であった。
「恐らくじゃが、溶岩によってそこまで流されたのじゃろう」
「一番良いのは水中...最悪なのは地中にいることだな」
水中なら水深次第で潜ればいいが、地中にいられると合流すること自体が難しい。だが何はともあれ俺たちは光が指し示す場所へと向かうことにした。
その際、ビィズから感謝として大金を渡され何かあった際力になるため是非頼ってほしいと言われた。
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「もー!ミュウを忘れてお家に行くなんてパパはしかたないの!」
「そうだねー、ハジメくんは仕方ないねー」
「けどティオお姉ちゃんとっても早いの!」
「はっはっはっ、嬉しいことを言ってくれるのう。落ちぬよう気をつけるのじゃぞ」
「はーいなの!」
現在俺たちは、ティオの背に乗り【エリセン】へと向かっていた。
その理由は当初予定していた場所へと向かっている時、地図と懐中時計と睨み合っていると光が徐々に【エリセン】へ向かっていることに気づいたからだ。
「ストップだティオ。この下にエリセンがある」
「分かったのじゃ、このまま降りるのか?」
「...いや、少し離れた場所から高度を落とそう」
流石に黒竜状態のティオがこのまま降りると大騒ぎになるため、適当な場所で小舟を出して近づいた方が良いだろう。
「だからミュウちゃん、もうちょっとだけ我慢な...って香織。ミュウちゃんは?」
「え?ミュウちゃんならここに...ってあれ?どこに隠れたんだろ...」
すぐに見つかるだろうとミュウちゃんを探していると、突如ティオが驚愕の叫びを上げた。そして俺と香織はティオが見ていた方を見ると...
「パパー!」
大の字で落下していくミュウちゃんがいた。
「「ミュウちゃあああああああん!?」」
「まさかハジメ殿がいるから大丈夫だと思って...いやいくらなんでもお転婆すぎるのじゃ!?」
「良いからティオ急いで降りろ!...って香織?なんで俺の肩を掴むんだ?」
「弓人くんも飛び降りてミュウちゃんを助けてあげて!」
その言葉に俺は耳を疑った。香織の顔をよく見ると目の中に渦が巻いており、完全に暴走していた。
「いや待て待て待て!この高さで水面に叩きつけられたら大怪我じゃすまねぇよ!」
「大丈夫!生きてたら私が治すから!だから早く!」
「いや!ちょ...すごい力だ!」
「鳥になってきて!弓人くん!」
「畜生!やってやろうじゃねぇかよこの野郎!」
どこから出てきているのか分からない力で投げ飛ばされた俺は、腹を括りミュウちゃんを助けるべく姿勢をまっすぐにして落下していく。
「ミュウちゃん!こっちに!」
「あ、おじちゃん!はいなの!」
どうにかして近づくことに成功した俺はミュウちゃんに手を伸ばし叫ぶ。
当のミュウちゃんは、全く怖くないのか何気ない様子で伸ばした手を握ってきた。
そしてミュウちゃんを抱き寄せた俺は、全力でハジメたちが外に出ていることを祈りながら落下を続けた。
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【グリューエン大火山】から脱出...いや、マグマに流されて海へ投げ出されたハジメたちは現在、ミュウの故郷である【エリセン】の港の桟橋にて海人族と人間の兵士たちに囲まれていた。
「だから話を聞いてくれ、俺たちはその攫われた『ミュウ』を連れてくる依頼を受けたんだ」
「エリセンの管轄内に無断で侵入したうえに、自警団の者たちを襲った言い訳にしては無理があるぞ!」
「そうだ!どうせお前たちがあの子を攫ったんだろ!」
聞く耳を持たないとはこの事だろう。今回脱出に利用した『潜水艇』はトータスの人にとっては未知そのもの、警戒することは当然とも言える。
しかし一方的に決めつけ、拘束してこようとしてくることにハジメも苛立ちを覚えてしまった。
「だから!あんたらの管轄内に入ったのには理由があるし、あいつらに至っては話をする前に攻撃してきたんだから正当防衛だ!」
「――メー」
「しかし事がはっきりするまでは大人しくしてもらう、抵抗するなんて考えるなよ」
「――ジメー」
「うん?なんか聞こえてこないか?」
ハジメの言葉に、海人族や人間の兵士たちは気を逸らすつもりかと更に睨みを強くするが。次第に大きくなってくる『人の声』に気づき、全員で声の主を探し周囲を確認し始める。
「......ユミト?」
空を見上げて呟いたユエの言葉に、ハジメとシアも思わず空を見上げ...そして固まった。
そこには
「ハジメエエエエエエエ!!!!ミュウちゃんを頼むうううううう!!!」
「パパー!」
ミュウを抱きしめて絶叫する弓人と、ハジメに向けて手を振るミュウがここに向かって落下していた。
宇宙を背負っていた2人だが、弓人の言葉にハジメは即座に反応して『空力』と『縮地』を使いミュウの下へと駆け上がっていき、弓人に受け渡されるようにミュウを抱きしめた。
そして弓人は、落下の勢いそのまま桟橋へぶつかり砂場でもないのに何故か土煙が大きく舞い上がる。
この場にいる全員が見つめる中、土煙が治まった場所には片膝と右手を地面に置く...いわゆる3点着地をした弓人がそこにはいた。