ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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74星:母と娘【上弦】

 

 

 エリセンの港の桟橋、現在ここには多くの人間がいるにも関わらず静まり返っていた。

 

 理由は攫われて行方不明になっていた少女が空から降ってきたり、少女と共に降ってきた男が膝に悪そうだが何故か真似したくなる着地をした事が挙げられるが、現在の空気に呑まれてしまったからだろう。

 

「ひっぐ、ぐすっ、ごめんなしゃい...」

「もうあんな危ない事しないって約束できるか?」

「うん...やくそくしゅる」

「ならよし、ほらおいで」

「パパー!」

 

 視線を合わせ、説教する白髪の男。そして男を『パパ』と呼び、抱きつく少女は誰が見ても親子そのものだった。しかしそんな心温まる場面を霧散させる場面が隣で発生していた。

 

「......カオリ」

「あの...えっと...そのぉ」

「......下手したらユミトが死んじゃってたよね?」

「...はい、ごめんなさい」

「......それを言うのは私にじゃないよね?」

 

 金髪の少女から淡々と放たれる言葉に、黒竜と共に降りてきた少女は顔を青く染め滝のような汗を流す。その場面を周囲の者たちは自分が悪い訳では無いのに自分が怒られてるように感じ始めていた。

 

「ユ、ユエさん?俺は気にしてないから...な?」

「ユエ殿、今回の件は妾も悪いのじゃ...じゃからカオリ殿だけを責めるのは...」

「......2人は黙ってて」

「「はい」」

 

 助け舟も金髪の少女の一言で即座に沈没する。

 問い詰められた黒髪の少女が周囲に救いを求める視線を向けるが、全員が視線を逸らしたり憐憫の感情と共に首を横に振った。

 

「......どこ見てるの?」

「すみません......」

「......だから、それを言うのは私にじゃないよね?」

 

 その後、黒髪の少女が泣きそうになりながら男に謝罪するまでこの空気は続いた。

 ちなみに、白髪の少年が黒髪の少女を、黒髪の少年が金髪の少女を抱きしめて頭を撫でると、先ほどの事などなかったかのように機嫌を良くしていた。

 

 

「ユミト殿、靴の『空力』使えば安全に着地できたのでは?」

「............あっ」

「......ユミト、正座」

「はい」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「金ランク、さらにはフューレン支部長の指名依頼とは...」

「これで信じて貰えるか?」

「先ほどの無礼を謝罪する。南雲殿」

「疑いが晴れたならそれで良いさ」

 

 ハジメの指輪を返却すると、ハジメは空間庫からイルワの依頼者と事の経緯が書かれた手紙を取り出し兵士の隊長へ渡す。

 隊長は最初疑っていたが手紙が本物だと分かり、周りの兵士へ武器を下げるよう指示した後頭を下げた。

 

「とりあえず聞きたいことは多いと思うが、先にこの子を親に合わせてやりたい」

「その意見には私も同意する。しかし...あの船のことや竜のことは王国騎士として看過できない」

「それなら、俺たちはしばらくエリセンに滞在するつもりだ。だから後日そっちに向かう」

「分かった、私たちはあの建物にいるから落ち着いたらきてくれ。その子を親の元へ連れて行ってやってくれ」

 

 その言葉を残して、隊長は野次馬をちらし兵士と共に離れていった。

 そんな中、ミュウちゃんはハジメの手を取り引っ張り始める。

 

「パパ!こっちなの!早くママのいるお家に行くの!」

「分かった分かった」

 

 急かすミュウちゃんに引っ張られながらミュウちゃんの家へと向かう。

 ミュウちゃんにとっては2ヶ月ぶりの我が家と母親だ。

 ハジメから聞いたのだが昼間は俺たちが構っていたお陰で笑顔だったが夜は恋しかったようで昼間以上に甘えん坊になっていたようだ。

 

「そういや弓人、体は大丈夫か?俺現実でスーパーヒーロー着地なんて初めて見たぞ」

「それが不思議なんだが無事なんだよな。そういや『頑健』のランク上がってたな...スゴいね人体」

「いや、凄いですむレベルじゃねぇだろ」

 

 そんな会話をしていると、通りの先でなにやら騒ぎがあった。

 視線を向けると、若い海人族の女性が壁伝いで歩こうとしており、彼女の友人であろう人たちが必死に止めていた。

 

「レミアちゃん!そんな足じゃ無理よ!」

「そうだぞ!ミュウちゃんは俺たちが連れてくるから家で大人しくしてるんだ!」

「駄目よ...きっと寂しい思いをしてるはず...わたしが迎えに行かないと...うぅ」

 

 どうやら彼女がミュウちゃんの母親のようだ。

 ハジメも気づいたようでミュウちゃんの手を離し、行くよう背中を軽く押す。

 そしてミュウちゃんは両手をいっぱいに広げ精一杯声を出しながら駆け出した。

 

「ママーーー!!!」

「っ!ミュウ...きゃあ!」

「危ねぇ!」

 

 ミュウちゃんの存在に気づいた女性...レミアは、ミュウちゃんを抱きしめようと壁から手を離した瞬間バランスを崩し倒れそうになった。その瞬間、咄嗟に飛び出したハジメに支えられレミアは怪我をすることはなかった。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます...あぐっ」

「ママ!あしいたいの!?だいじょぶなの!?」

 

 ハジメがその場に座らせると、レミアは礼を言うが自身の足が地面に擦れた瞬間その表情を歪める。よく見ると彼女の足には包帯がされており怪我をしているようだった。

 大好きなママが痛い思いをしていると知ったミュウちゃんは、ママと同じくらい大好きで世界一頼りになる『パパ』へ助けを求めた。

 

「パパぁ!ママをたすけて!あしがいたいらしいの!」

「え?ミュウ、パパってどういうこと?」

「パパぁ!はやくぅ!」

「けどあの人はもう...どういうことなの?」

 

 大量の疑問符を浮かべるレミア。そして周囲の者たちも『パパ』の存在に困惑を隠せないでいた。

 そんな『パパ』ことハジメは周囲の反応に顔を引き攣らせているが、最終的に諦めミュウちゃんの頭を撫で始める。

 

「大丈夫だ...ちゃんと治す。だから泣くなミュウ」

「うん...」

「すいません、失礼します」

「え?あっ、あらら?」

 

 ハジメは軽く謝罪しレミアを抱き上げる。未だ混乱しているレミアは目を白黒させハジメの顔を見ていた。

 そして周囲の黄色い声や怒声、香織とシアの圧が強くなったのを無視しながらミュウちゃんの家へと入っていく。

 

「とりあえず、俺たちも入るか」

「じゃな」

「......ん」

「「...」」

 

 ハジメ、強く生きろ

 

 


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