ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

11 / 119


申し訳ございません。
まことに勝手ながら1日の投稿量を減らさせて頂きます。
理由といたしましては文章を作るのに時間がかかってしまい、ストックが作れていないので、量を減らしてストックを作るつもりです。ストックが溜まり次第投稿量を戻そうと思っております。




9星:悲劇壊幕

 

「いやぁ、なんとか帰れたなぁ」

「...ぜだ...」

「ん?どうした?」

「何故!?怒らないんだ!私のせいで...お前を危険に晒したんだぞ!」

「でもこうやって無事に帰って来れたんだ。怒る理由がねぇよ」

「そもそも馬鹿なことをした私など...見捨てておけばお前は大怪我をすることもなかったんだ...」

「...おい、お前ふざけた事言ってんじゃねぇぞ!」

「え...」

「アタランテ、俺とお前はまだ付き合いが浅いかもしんねぇ...。けどな!俺がその程度の理由で仲間を見捨てるわけねぇだろうが!」

「...っ!」

「もし不安なら何度だって助けに行ってやる!俺は!決して!仲間を見捨てねぇ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 部屋の中に光が満ち、視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。そして光が収まると同時に地面に叩きつけられる。

 クラスメイトの多くは尻餅をついていたがメルド団長を始めとした一部の人たちは既に立っており周囲への警戒を行なっている。

 転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと100メートルはあるだろう。天井も20メートルほどで橋の下は川などなく、落ちれば1発で奈落の底だ。

 

「お前達!直ぐに立ち上がりあの階段の場所まで行け!急げ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る声にクラスメイトたちは、慌てて動き出す。

 

 しかし、おいそれと獲物を逃さないのがダンジョンという魔物である。

 

 階段側の橋の入口と通路側にそれぞれ魔法陣が出現し、階段側からは大量の魔物、通路側には1体の巨大な魔物が現れた。そして、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きが皆の間にやけに明瞭に響いた。

 

「まさか...ベヒモス...なのか...」

 

 ベヒモス...旧約聖書に出てくる陸の怪物と同じ名前だ...。俺は現実逃避に近い考えをしながら後ろにも目を向ける。そちらからは剣を持った骸骨の魔物『トラウムソルジャー』が無尽蔵に湧いて出てくる。けど、やばいのはやっぱりあっちだ...

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。やはり経験の差と言うべきか。彼の飛ばす指示は実に迅速で的確であった。

 しかし、いや、やはりと言うべきか天之河の正義感が悪い方に働いてしまった。

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル!イヴァン!ベイル! 全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さいメルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達!...」

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

「うっ...で、でも!」

 

 問答を繰り返す中、ベヒモスはここにいる全員を轢き殺さんと咆哮と共に突進を行った。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

 2メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。

 1回きりの、しかも1分のみ許される絶対防御がベヒモスの突進を阻んだ。衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元にヒビが入り粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 それでも諦めず、脱出を試みるが、それをトラウムソルジャーの軍勢が阻んでくる。彼らは知らない。トラウムソルジャーは本来38階層に現れる魔物だと言うことを。そのため今までの魔物から一線を画する強さを持っている。

 俺は雪崩れ込んでくる、トラウムソルジャーを相手しながら周囲を見ていると、ハジメがメルド団長の元へと走っていくのを見た。

 

「ハジメ!お前なんでそっちへ行ってんだ!?」

 

 今すぐにでも追いかけたくなったが、俺がここを離れるとその分戦力が減るため俺は追いかけることができなかった。

 

「くそぉ!邪魔だああああああ!!!!」

 

 俺は感情的になりながら、周囲のトラウムソルジャーを粉砕してゆく、近くにいるのは拳や短剣で粉砕し、遠くで襲われそうになっているクラスメイトを目視すると、即座に弓矢で撃ち抜き守る。それは、時間にすれば僅かだが、俺にとっては永遠に感じられた。

 だがそのおかげもあったのか、クラスメイト達も冷静さを取り戻し声かけをすることで少しずつであるが対応してゆく。

 余裕が生まれたため、先程ハジメが走って行った方角の先を見ると衝撃の光景が写っていた。

 

 ハジメが、ベヒモスと対峙していた。

 

 自身が使える中で最も得意な魔法『錬成』、それを行いベヒモスを抑えている。だが彼の魔力量では時間の問題であった。メルドは魔法の一斉射撃による足止めで彼が離脱する時間を稼ぐつもりだが、それでも賭けであった。

 彼の魔力が尽きる前に配置につく必要があるため、メルドは即座に指示を出す。しかし、出口という希望から離れることに未練のある者もいるため、配置に()()だけ時間がかかってしまった。

 

 

 

 その()()がいけなかった。

 

 

 

 

 陣形が揃う前にハジメの魔力が切れてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 ベヒモスは即座に起き上がり今まで邪魔をしていた者を視界に入れると咆哮と共に踏み潰そうとする。

 

 もはや避ける余力の無いハジメ

 避けろと叫びを上げるメルド団長

 悲鳴を上げるクラスメイト達

 そんな中俺は、何か無いか思考を回し、そして絶望した。

 

『走って助けに行く?』『間に合うわけがない』

『弓矢で腕を撃ち抜く?』『届くわけがない』『仮に届いても止まるわけがない』

『誰かに防御の魔法を唱えてもらう?』『そんな都合よくいるわけがない』『仮にいても詠唱の時間が足りない』『足りたとしても耐えれるわけがない』

『何か無いのか?』『ない』

『なんでもいいんだ』『ない』

『ない...のか...?』『ない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は...仲間を...助けられないのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいえ、救えるわ』『あぁ、救えるとも』

『汝は私の命を救ってくれた』『貴方は私を永遠という退屈から救ってくれた』

『今こそ、その力を解き放つ時よ』『今こそ、その力を友の為振るう時だ』

『『さぁ、今こそ冒険をしよう!オリオン!』』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 周囲が騒然としてる中、『それ』だけは全員の耳に何故かはっきりと聴こえた。

 

 それは、英雄が己が名を響かせるかのように。

 それは、英雄が己の力を誇示するかのように。

 それは、この世界では存在することのない『魔法』だった。

 

 

 

 

 

「『放たれしは必中、我が矢の届かぬ獣はあらじ』」

「【オリオン・オルコス】」

 

 

 

 

 一閃

 

 それは、一本の矢であった。

 その矢は、凄まじき速さを持って今にも踏み潰さんとしている獣の腕に吸い込まれてゆく。

 その矢は、獣の持つ硬い外皮を意に介すことなく刺さり、獣の腕を爆散させた。

 

 少年が文字通り命をかけた足止めにより変化した地面

 少年を狙ったことによる獣の歪な姿勢

 放たれた矢による腕の消失によって起きる重心の変化

 

 この3つの偶然が重なったことにより、獣は少年を踏み潰すことが出来ず転倒した。

 

 その奇跡にも近い偶然により、少年は離脱することができ、騎士団長の合図と共に数々の魔法が放たれた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 良かった...助けることができた...

 

 俺は今にも倒れそうになっているハジメの元へと向かおうとした時、一つの火球がハジメにぶつかり吹き飛ばした。

 ハジメはなんとか立ちあがろうとしていたが、ベヒモスが再び暴れ、ボロボロだった橋は限界を迎え、崩れていく。そしてハジメはベヒモスと共に落ちて行く。

 

 

 気づいたら、体が勝手に動いていた。

 

 

 俺は近くにいるサポーターが背負っていたリュックを無理矢理奪い取るとハジメが落ちていった場所へと走っていく。

 

 俺が何をしようとしてるのか察したメルド団長は必死に俺に止まるよう声を張り上げる。だが俺は足を止めない。落下に対する恐怖はない。今の俺の頭にあるのはただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 待っていろハジメ!俺は!決して!仲間を見捨てねぇ!

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。