ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
75星:次なる迷宮へ
エリセンに滞在して3日ほど経過した。
ハジメたちが火山から脱出する際使った潜水艇が、思っていた以上に装甲が損傷しており、その修復と装備している兵器の補充をしており、その間ある種の休息をとっていた。
「ハジメ、ユエたちは?」
「折角海に来たからって水着に着替えてる」
「そうか.......」
「何もするな弓人」
「おっとぉ〜、怖いねぇ〜ってまだ何も言ってねぇだろ」
こいつ...近頃勘が鋭くなってきている気がする。
そんなハジメを見て、ふと気になった事を尋ねてみた。
「お前は水着に着替えないのか?」
「ああ、俺は別にいいかなって。外で遊ぶなんてキャラじゃねぇし」
「このインドア派め...」
最近のハジメは、潜水艇や家に引きこもって作業をしてばかりいる。
好きでやっているのだから放っておいても良いのだが、おそらく...
「お前、最近飯と寝る時以外ミュウちゃんと会わないようにしてるだろ?」
「うっ...」
「理由はこれ以上一緒にいると別れる時辛くなるから...違うか?」
「うぐっ...」
短い時間だが、ハジメはミュウちゃんに対してかなりの愛情を注いでいる。それこそ本当の家族のように見えるほどだ。近くで見ていたためハジメの気持ちは理解できるが
「それに対してミュウちゃんは、薄々分かってるのに我儘を言わないでいて...健気じゃないか」
「...確かに」
「レミアさんも言ってただろ?『お別れの日まではミュウのパパでいて欲しい』ってよ」
「...そうだったな、すまん」
まぁ直後に『べ、別に私は一生でも...って私は何を!?』と言っていたがそこは黙ってていいだろう。
「俺に謝るくらいならさっさと水着に着替えて行くぞ」
「そうだよな、行くか」
こうして数日ぶりに外へ出たハジメと共にユエたちと合流する。
そしてミュウちゃんと思う存分遊ぶ事にした。
「パパー!おさかなつれたの!」
「すごいぞミュウ、その魚は今日のご飯にしような」
「ユ、ユミト殿!これはかなりの大物じゃ!」
「...これ、海底の岩に引っかかってるだけだな」
「なぬ!?」
みんなで釣りをして、釣った魚で食卓を囲み。
「問題はない!15メートルまでなら!」
「ユミトさん...なんで重力魔法とか使わず水の上走れるんですか...」
「信じないだろうなぁ...雫ちゃんに言っても」
「おじちゃんすごいの!」
みんなで海を泳いだりして、沢山の思い出を作った。
そしてついに、潜水艇の修復が完了し『その日』が来た。
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「ほらミュウ、ハジメさんにちゃんと言うんでしょ?」
「パパぁ...いってらっしゃい...」
泣きそうになるのを必死に堪えながら手を振るミュウちゃん。
本当はパパとずっといたい筈だ、けど大好きなパパを困らせたくないために健気に我慢する彼女に、ハジメは視線を合わせ頭を撫でる。
「ミュウ、必ず帰ってくるから...ちょっとだけ我慢な」
「ほんと?」
「ああ、約束だ」
「うん...やくそくなの」
そう言って
―アルテミス様たちは任せろ!先にオラリオで待っているからな!
―必ず...必ず帰ってくるのよ!オリオン!
「......ユミト?」
「どうした?」
「......いや、何でもない」
要領の得ないユエの反応に首を傾げていると、どうやらハジメの方は別れの挨拶が終わりそうになっていた。
「すみませんレミアさん、勝手に約束なんてしてしまって」
「良いんですよ、ミュウも喜びますし...そ、それと...いってらっしゃい、あなた...な、なんて!」
「「...」」
現在、ハジメはレミアの再婚相手としてエリセンの人たちから認識されており、レミアもその事に対して満更でもなさそうであった。
そのせいでハジメは、エリセンの人たちに『レミアという美人の妻がいるにも関わらず女を侍らせるクソ野郎』認定されているが。
こうしてハジメに新たな悩みの種が生まれながら、俺たちは潜水艇に乗り込み【メルジーネ海底遺跡】へ出発する。
香織にとっては初めての真の迷宮攻略になる。この迷宮攻略で以降の同行についても考える必要があるが...香織のことだ、恐らく大丈夫だろう。
「そういやハジメ、迷宮の場所は目星ついてるのか?」
「ミレディから聞いた話だと、『月』と『グリューエンの証』に従えって言われたんだが...」
月...それは文字通り空に浮かぶ月なのか、それとも何かの比喩なのか...とりあえず、夜に改めて探索してみても良いだろう。
そんな気楽なことを考えながら、弓矢の手入れなどをして夜になるのを待った。
そして、この迷宮攻略で嫌というほど再確認させられる。
俺という人間が、どれほど穢れ醜い存在なのだと。
英雄と言われる者たちから、かけ離れた存在なのだと。