ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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とりあえず、ハジメ側とオリオン側のセリフが分かりづらいので
ハジメ側「」
オリオン側『』
で行こうと思います。


78星:正義と星【下弦】

 

『あ〜〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜っ!!』

 

 突如響いた声に、ハジメと香織が反射的にその方向を見ると

 

『ははっ!いただきだぁ!』

『俺の全財産444ヴァリスがぁぁぁぁぁぁ!誰か取り返してぇぇぇぇぇぇんっ!!』

 

 1人の暴漢が、男から財布を奪い取っていた。

 その財布を奪われた男を見た瞬間、ハジメと香織はとてつもない()()()に襲われた。

 

「ハジメくん...」

「香織も気づいたか?...あの男...『人間』なのか?」

 

 外見は、気弱そうで覇気のない男だが自分たちとは()()()()

 しかし、そんな2人の疑問はアタランテと呼ばれていた少女によって案外早く解決した。

 

『まさか神の財布を盗る者が現れるとは...世も末だな』

『つーか...神のくせに所持金が微妙にしょぼいな』

 

 アタランテと弓人?の言葉に、2人は思わず仰天した。

 ハジメは奈落で弓人から『神は娯楽を求め下界へ降りた』と聞いてはいたが

 

「威厳ねぇな...」

「はは...神様って、私たちと変わらないんだね」

 

 ハジメや香織にとって、神はゲームだと偉大な存在だったりラスボスで出たりするイメージが強いため、目の前の男神を見て思わず脱力してしまう。

 そして弓人?の方を向くと、彼は地面に転がっている小石を1つ拾い上げた。

 

『とりあえず...これを足にぶつけりゃいいか』

『待て、Lv4の汝がやるとあの男の足が折れてしまう。ここは彼女たちに任せよう』

 

 アタランテが弓人?を制止し指を指す。

 そこには、赤髪の少女アリーゼとエルフの少女リオンが暴漢を追いかけていた。

 

『逃げられないわよ!観念してお縄につきなさい!』

『げっ!?【紅の正花(スカーネット・ハーネル)】に【疾風】!?ち、ちくしょう!よりにもよって【アストレア・ファミリア】なんて...くそぉ!』

 

 暴漢はとことんツいていないようだ。

 神から財布を奪ったと思えばしょぼい金額だった挙句、現行犯で捕まりそうになっているのだから。

 それでも暴漢は振り切ろうと通りの横道に飛び込もうとするが

 

『ぐえっ!?』

 

 進路上に突如現れた人影に足をかけられ転倒した。

 

『ダメだよ、悪いことしちゃ。お金は働いて、自分の手でもらわないと』

『アーディ!』

 

 その少女を一言で表すとするなら『可憐』だった。

 リオンが少女の名を呼ぶと、アーディと呼ばれた彼女は両手を広げ満面の笑みを浮かべた。

 

『そうだよ!品行方正で人懐っこくてシャクティお姉ちゃんの妹でリオンたちと同じLv3のアーディ・ヴァルマだよ!じゃじゃーん!』

『いったい誰に説明しているのですか、貴方は...』

 

 リオンはアーディに呆れた眼差しを向けている。

 アーディはそんな視線を気にすることなく、捕らえた暴漢へ話しかけた。

 

『さ、おじさん。盗んだものは返してね』

『...あー、くそっ!もう詰んだ、詰んだ俺の人生!さっさと牢屋にぶち込みやがれ、ちくしょう!』

 

 完全に開き直った暴漢は、自身が溜め込んでいたものを少女たちにぶつけた。

 

『おめぇ等みたいな強い連中にはわかんねーだろうな!こんな惨めな真似をして、食い扶持稼ぐ浮浪者のことなんかよぉ!仕事場も奪われれば店も開けねえ!いつもいつも事件事件で、どこもかしこも余裕がねぇ!!』

 

 確かに、暴漢の服はくたびれており無精髭を生やしみすぼらしい。

 暴漢はその勢いのまま自分の主張を八つ当たり気味に捲し立てる。

 

『職に溢れたヤツなんて、ごまんといる!それもこれも、お前ら冒険者がさっさと悪党どもを追い出さねぇからだ!』

 

 暴漢の言葉に、ハジメと香織は自身の事を思い出す。

 自分達が誰かを助けた際、感謝されこそすれあの暴漢のように非難されたことがなかった。

 

「これが...昔の弓人くんが暮らした世界なんだ」

「完全に言いがかりだが...あんな風になるくらい治安が悪いってことか...」

 

 ハジメは、弓人は前世の話をあまりしたがらなかったのを思い出した。

 恐らく、思い出したくない出来事があったのだろう。

 

 少女たちの方を見ると、その中でリオンは思うところがあるのか俯き表情を暗くしていた。

 

『そうさ!俺みたいなヤツがいるのは、全部お前等のせいだ!俺は被害者だ!』

 

 その暴漢の結論に、リオンの隣で聞いていたアーディは口を開いた。

 

『それがおじさんの言い分?』

「「『え?』」」

『でも、悪いことは悪いことだよね?おじさんが奪われた分だけ何かを奪えば、誰かがおじさんと同じ思いをしちゃうよ?』

 

 その言葉に、思わず暴漢と声が重なった。

 何故ならアーディは、咎めるわけでも同情するわけでもなく、ただただ普通に訪ねたからだ。

 

『それだとおじさんが、おじさんみたいな人を作り出しちゃうかもしれない。私たちが力を尽くす前に』

『そ、それは...』

 

 詰め寄られているわけではないにも関わらず、暴漢は言葉に詰まる。

 そして、アーディは笑顔と共に取引を持ちかけた。

 

『だからさ、誓って。もう悪事は働かないって...そうしたら、今回のことは見逃してあげる』

『なっ!?アーディ、いけません!都市の憲兵【ガネーシャ・ファミリア】の貴方が悪党を見逃すなんて!』

 

 呆然とする暴漢を他所に、リオンがアーディに問い詰める。

 それもそのはずだ。彼女が今やろうとしていることは、己の私情で犯罪者の許すことなのだから

 

『私は情状酌量があると思うけど。確か...『飴と鞭』だっけ?』

『...?それがどうしたのですか?』

『■■■■に言われたんだけど、他の憲兵(おねえちゃんたち)が『鞭』なら、私くらいは『飴』になってくれって...鞭ばっかりだとみんな疲れちゃうからって』

『彼が...』

 

 そしてアーディは暴漢に視線を戻すと、ずっと片手に持っていたものを差し出す。

 それは、簡素な包装に包まれたコロッケだった。

 

『お金は渡せないけど...じゃが丸くん、あげる。また一口も食べてないから、安心していいよ』

『い、いいのかよ...?』

『うん、私のはまた買えばいいから』

『そっちじゃねぇよ!結局俺を見逃して良いのかよ』

『そっちも大丈夫、後で私がいっぱい怒られるから...だから、はい』

 

 暴漢は彼女とコロッケを交互に見た後、恐る恐るコロッケを受け取った。

 

『ちっ、慈善者気取りかよ...悪かった、もうやらねぇ』

 

 暴漢は舌打ちと恨み言を吐くが、小さく反省の言葉を放ち離れていった。

 それを見て、とても嬉しそうに笑うアーディと何故かドヤ顔で何度も頷くアリーゼがいた。

 

『うんうん、これであの人はアーディから貰ったじゃが丸くんで、五臓六腑に塩と油が染み込み改心するに違いないわ!』

『なに訳の分からねぇ理屈を展開してんだよ』

『あっ、■■■■にアタランテ!』

 

 そんな彼女に突っ込みを入れたのは、いつの間にか近づいていた弓人?であった。

 弓人?とアタランテに対して、嬉しそうに手を振るアーディに弓人?は軽く手を振りかえしてやると、顔を俯かせ考え込んでいたリオンへと話しかけた。

 

『さっきのこと、納得できないか?』

『...ええ、その時々で裁き方を変えては秩序が乱れてしまう』

『お前は相変わらず真面目すぎるんだよ、もう少し馬鹿になれ』

 

 そう言って、弓人?はリオンの頭を自然に撫でる。

 そのことに彼女は驚いているが、弓人?は構わず話し続ける。

 

『確かに秩序で人を律するのは大事だと思う...けどな、そうやって抑え続けていると必ず限界を迎えて爆発する。そうなってからじゃ遅いんだよ』

『し、しかし...』

『私も■■■■に賛成。ねぇリオン、君が言っていることは『強い人』だから言えるんだと思う』

『えっ?』

『おじさんが言ってたことも間違いじゃ無い。私たちが『正論』を言えるのは、私たちが力を持ってるからだと思う』

 

 弓人?、そしてアーディの言葉にリオンは衝撃を受ける。

 その光景を見ていたハジメと香織も、2人の言葉に思うところがあった。

 

「『正論』が言えるのは力を持ってるから...か」

「私...ちょっと分かるかも」

 

 弓人?たちの方へ視線を戻すと、彼はリオンに優しく笑いかけながら問いかけていた。

 

『なぁリオン、人を赦すのは...お前の『正義』に反するか?』

『......何故、頭を撫で続けるのです』

『おっと、ついな。悪い悪い』

『いえ...嫌という訳では』

 

 彼が手を離すと、名残惜しそうに見えるリオンは気恥ずかしそうに咳払いをしていると

 

『いや〜、お見事お見事!』

 

 乾いた拍手をしながら、財布を奪われていた男神が近づいてきた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おまけ

 

「ねぇハジメくん...前世の弓人くんの周り、女の子多くない?」

「だよな...あいつの無自覚は前世からだったか...」

「頑張れユエ!私も頑張るから!」

 





ダンまちで一番好きな女性キャラはアーディだったりします
2番目は絶†影ちゃんですね

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