ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
日間ランキング77位...だと!?
嬉しさと期待に応えないといけないプレッシャーが...
ベヒモスと共に落ちてゆく南雲
それに続くよう飛び降りる三星
そのことにクラスメイトたちは何処か他人事のように見ていた。しかし1人の少女の叫びとともにこれは現実なのだと自覚してゆく。
「離して! 南雲くんの所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」
今にも飛び出さんとする白崎を羽交締めにして抑える天之河
「香織!君まで死ぬ気か!南雲と三星はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ体が壊れてしまう!」
「無理って何!?南雲くんは死んでいない!行かないと...きっと助けを求めてる!」
天之河は白崎を気遣い言葉を掛ける。しかしその言葉を聞いた香織はますます力を強めて行く。
「お、おい雫!俺たちも抑えるぞ!...雫?」
「なんで...弓人が...約束は...私...」
「おい!しっかりしろ!雫!」
坂上が自身も抑えに行こうと八重樫に声をかけるが返事がこない。そのことに疑問を持ち振り返ると顔を蒼白させ瞳に涙を溜めた八重樫がいた。
周りのクラスメイトはどうすれば良いか分からず右往左往していた時、メルドが近づき問答無用で香織の首筋に手刀を落とした。一瞬痙攣し、そのまま意識を落とす白崎。
意識を落とした白崎を抱え、メルドを睨み付ける天之河。しかしそれは、白崎のことを思った行いのため。頭を下げる。
「ありがとう...ございます...」
「礼など...止めてくれ。もう一人も死なせるわけにはいかない。全力で迷宮を離脱する。...彼女を頼む」
「はい...」
離れてゆくメルドの背中を何処か納得のいかない視線を向けていた天之河に八重樫に肩を貸していた坂上が近づいてゆく。
「なぁ光輝...俺馬鹿だけどよ...メルドさんのやったことは間違いじゃねぇってのは分かるぜ...」
「あぁ...そうだな..行こう」
目の前でクラスメイトが2人死んだのだ。クラスメイト達の精神にも多大なダメージが刻まれている。誰もが茫然自失といった表情で石橋のあった方を眺めていた。中には「もう嫌!」と言って座り込んでしまう者もいる。
天之河がクラスメイト達に向けて声を張り上げる。
「皆!今は生き残ることだけ考えるんだ!撤退するぞ!」
その言葉にクラスメイト達は半ば無理矢理体を動かし始めた。
天之河が必死に鼓舞し、メルドが的確な指示を出し、サポーター達が周囲の確認をしながらサポートする。そのお陰で、クラスメイト達は転移する前の20階層まで戻ることが出来た。
「帰ってきたの?」
「戻ったのか!」
「帰れた...帰れたよぉ...」
クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らす。中には泣き出す子やへたり込む生徒もいた。天之河達ですら壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。
しかし、ここはまだ迷宮の中。低レベルとは言え、いつどこから魔物が現れるかわからない。完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮からの脱出を果たす必要がある。
メルドは休ませてやりたいという気持ちを抑え、心を鬼にして生徒達を立ち上がらせた。
「お前達!座り込むな!ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ!魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する!もう少しだ、踏ん張れ!」
少しくらい休ませてくれよ、という生徒達の無言の訴えを目を吊り上げて封殺する。
渋々立ち上がる生徒達。天之河が疲れを隠して率先して先をゆく。道中の敵を、騎士団員達が中心となって最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。
こうして2人の犠牲を出し、オルクス大迷宮の遠征は終了した。