ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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12.5星:クラスメイトside 失意と決意【上弦】

 

 

 時間は少し遡る。

 

 ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、谷口鈴は、暗く沈んだ表情で未だに眠る白崎を見つめていた。

 

 ベヒモスの悲劇から、5日経過している。

 

 あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかった上、勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

 谷口は、王国に帰って来てからのことを思い出し、白崎に早く目覚めて欲しいと思いながらも、同時に眠ったままで良かったとも思っていた。

 

 帰還を果たし南雲と三星の死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが『無能』の南雲と『ステータス0』の三星だと知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

 

 死んだのが『無能』と『ステータス0』で良かった

 神の使徒でありながら役立たずなど死んで当然だなどと言う声も聞こえる。

 言葉が出なかった。人が死んだのに何故そんなことが言えるのかと。

 

 実際、正義感の強い天之河が抗議したことで、国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、南雲と三星を罵った人物達は処分を受けた。

 結局、勇者は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり株が上がっただけで、南雲と三星の評価が変わることはなかった。

 

 あの時、自分達を救ったのは、勇者も歯が立たなかった化け物をたった一人で食い止め続けた南雲とトラウムソルジャーに襲われかけた時、矢を放ち守ってくれた三星だというのに。そんな彼らを死に追いやったのはクラスメイトの誰かが放った流れ弾だというのに。

 

 結果、現実逃避をするように、あれは南雲は()()のドジで落ちて、三星も勝手に落ちていったと思うようにしている。死人に口なし。無闇に犯人探しをするより、南雲と三星の自業自得にしておけば誰もが悩まなくて済む。クラスメイト達の意見は意思の疎通を図ることもなく一致していた。

 

 メルド団長が落ちた2人のため、真実を明らかにしようとしたが、教会と国王からの圧力によってそれは叶わなかった。

 

「カオリン...私たち...どうしたらいいのかな?シズシズも部屋に閉じ籠ったきり出てこないし...」

 

 あの日から一度も目を覚ましていない白崎の手を取り、そう呟く谷口。

 

 医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置の一つだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと言っていた。

 

 谷口は白崎の手を握りながら、「どうかこれ以上、優しい彼女を傷つけないで下さい」と、誰ともなしに祈った。

 

 その時、不意に、握り締めた彼女の手が僅かに動いた。

 

「!?カオリン!鈴の声が聞こえる!?」

「...鈴ちゃん?」

 

 そして、目を覚ました白崎に涙を浮かべる谷口

 白崎は、暫く焦点の合わないまま周囲を見ていたが、意識が覚醒してからは、手を握っていた谷口の方を見て声をかける。

 

「そうだよ!鈴だよ!大丈夫?しんどくない?」

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど...寝てたからだろうし...」

「そっか...そうだよね、5日も寝てたんだから...怠くもなるよね...」

「5日...?私...確か迷宮にいて...」

 

 親友が目覚めたことに安心して不意に出た言葉、それがいけなかった。

 徐々に焦点が合わなくなっていく彼女を見て、咄嗟に話を逸らそうとしたが、記憶を取り戻す方が早かった。

 

「それで...あ..........南雲くんは?」

「えっと...そのぉ....それは」

 

 言葉を詰まらせる谷口を見て、()()()()を思い出す。

 しかし、それを受け入れるほどの余裕は彼女には無かった。

 

「......嘘だよね?そうでしょ?鈴ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね?そうでしょ?ここ、お城の部屋だよね?皆で帰ってきたんだよね?南雲くんは……訓練かな?あぁ...弓人くんにもお礼を言わなきゃ...私、ちょっと行ってくるね。だから離して...鈴ちゃん」

 

  現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎ2人を探しに行こうとする白崎。

 そして、そんな白崎の腕を掴み離そうとしない谷口。

 

 彼女は意を決し、口を開く。

 

「......カオリン...あのね?...2人はもう...」

「やめて...」

「カオリンだって...実はもう...」

「やめてよ...」

「2人はあの時...あの奈落に...」

「いや、やめてよ...やめてったら!」

「2人はもう...死んだんだよ...」

「ちがう!死んでなんかない!絶対、そんなことない!どうして、そんな酷いこと言うの!いくら鈴ちゃんでも許さないよ!」

「鈴だって!信じたくないよ!」

「っ!鈴ちゃん...?」

「鈴だって...!信じたくないよ!あの時一人で抑えてくれた南雲くんが!鈴達が骸骨に襲われそうになった時に守ってくれた三星くんが!死んだなんて信じたくないよ!だから...辛いのはカオリンだけじゃないんだよぉ!」

 

 谷口も、限界だったのだ。

 迷宮で魔物に襲われる恐怖

 クラスメイトが死んだことによる恐怖

 人の死に対する貴族達の扱い

 どうにか抑えていたものが、ついに爆発したのだ。

 

 声を荒げ、涙を流す谷口を見て、白崎はその場でへたり込んでしまった。

 認めてしまったのだ。()()()()は現実なのだと。

 

「鈴ちゃん...ごめんね...私、自分のことしか考えてなかった...」

「もう...鈴分かんないよ...カオリンは眠ってたし...シズシズは部屋から出てこないし...」

「え...雫ちゃんが?」

「うん...鈴達が呼んでも出てこないし...ご飯だって全然食べないし...」

「雫ちゃん!」

「あっ!待ってカオリン!まだ安静にしないと!」

 

 白崎は走り出す。親友の元へと

 

 





まぁ実際、弓人はハジメを助けるため勝手に落ちていっただけなんけどね...

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