ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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睦月:奈落の吸血姫
1星:ありふれた日常からの別れ


 

 

「はぁ...またあの夢か...」

 

 そんな言葉と共に俺は、あまり良い目覚めとは言えない朝を迎えた。

近頃、同じような夢をよく見る。

 アルテミスと呼ばれる女性やその仲間達が蠍の化け物から逃げ、オリオンと呼ばれる男が足止めし命を散らす、そんな夢。試しにネットで調べてみても出てくるのはギリシャ神話の話ばかりで、あのような物語には掠りもしない。

 

 そして胸に残る、喪失感と罪悪感

 

 これが何日も続けば嫌でも記憶に残ってしまう。知り合いに話そうものなら痛い奴扱い間違いなしであろう。

 

「って、朝飯食って学校行かねぇと」

 

 こうして俺、三星弓人(みつぼしゆみと)の1日はまた始まっていく。

この時にはあんなことになるとは欠片も考えていなかった。

 

「はぁ〜、もういっそのことあの夢を書いて本でも出そうかなぁ...」

 

 そんなくだらないことをボヤいていると、見知った背中が見えてきた。

 

「おっす、今日も眠そうだな()()()

「あっ、おはよう弓人」

 

 こうして俺は友人の南雲ハジメと共に学校へ向かってゆく。

 

「その感じだと、また親の手伝いか?」

「うん、母さんの漫画の締め切りがギリギリだったからほぼ徹夜でベタ塗りをしてたよ」

「それは災難だったな、どうだ?ジュース1本でノートの写しを請け負うが」

「よし買った」

 

 そんなことを喋りながら教室のドアを開けるとクラスから敵意を孕んだ視線がハジメに向けられた。そして

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

 何が面白いのかゲラゲラと笑う男たち

 

 ハジメに話しかけてきた男子生徒は檜山大介といい取り巻きの斎藤・近藤・中野と共に飽きずにハジメを馬鹿にする小悪党達である

 

「朝から元気だな四馬鹿」

「あぁん?なんだよ三星、お前には関係ねぇだろ」

「こっちは朝から寝不足のせいもあってお前らの金切り声で頭がいてぇんだわ」

「あ゛ぁ!?喧嘩売ってんのか!」

 

 このようにハジメが馬鹿にされたら、弓人が煽りハジメへのヘイトをそらす、これもいつもの事である。

 ハジメは世間一般から言われる要素は無いと思う。身だしなみは最低限整っており、コミュニケーション能力は積極的では無いにしろできないわけではない。ではなぜここまで馬鹿にされているのか、それは近づいてきた()()にある。

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

 ニコニコと微笑みながら近づいてくる彼女の名は白崎香織、俺とは昔からの友人で俗に言う幼馴染というものだ。

 学校では二大女神と呼ばれておりその端正な顔立ちから男女問わず人気である。そしてハジメにもフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、この事態の原因でもある。

 それは、彼女はハジメによく構うのである、傍から見れば不真面目なハジメを気にかけているように見える。実際はそれだけでは無いのだが。

 それに対してハジメは『趣味の間に人生』をモットーに生きているため授業中の居眠りなどの授業態度の改善をしようとしない。

 そのためクラスメイトから「なんであいつだけ」と嫉妬の対象になってしまい女子からは「不真面目な奴」と言う認識で侮蔑の視線を向けられるため、このような状態になっている。

 

「あ、あぁ、おはよう白崎さん」

「なぁ香織、俺もいるんだが?」

「あ!弓人君、おはよう!」

「やっぱり気づいてなかったか...」

 

 それに対して更にハジメへの眼光が鋭くなるクラスメイトたち、挨拶くらい別にいいだろうに...そう思わずにいられなかった。そんなことを思っていると2人の男子生徒と1人の女子生徒がこちらに歩いてくる。

 

「南雲君、弓人おはよう。毎日大変ね」

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

 3人の中で唯一挨拶してきたのは女子生徒の名は八重樫雫。香織の親友であり彼女も幼馴染でポニーテールにした長い黒髪がトレンドマークであり彼女の実家は剣術道場をしているため、そこで彼女とは出会った。

 次に少し臭い台詞を吐きながらきた男子生徒は天之河光輝、いかにも勇者の名前のようなこいつは容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能の完璧超人だ。こいつとは雫の道場で出会ったのだが、あまりそりが合わない。そのため事あるごとにぶつかり雫や香織が間に入るのがお約束になっている。

 最後に投げやりに話しかけてきた男子生徒は坂上龍太郎、脳筋である。

悪い奴では無いのだが努力といった根性論が好きなため、基本的に努力をしないハジメみたいな人間は嫌いであり、基本どっちつかずの俺ともあまり良好ではない。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河君、坂上君。まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

「おっす雫、俺はいつも通り思ったことを言ってるだけだ」

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

 いつものごとく天之河がハジメに忠告して内心鬱陶しいと感じている時に香織から爆弾が投下された。

 

「光輝君何言ってるの? 私は南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

 その爆弾により教室は騒然となりクラスメイトからはもはや殺意に似たものをぶつけられている。

 

「え?...ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

 それに対して天之河の中で香織の発言はハジメに気遣ったものだと解釈されたらしい。こいつは自分の正しさを疑わないせいで、変なご都合解釈が生まれてしまう、それが俺とそりの合わない原因の一つでもある。そんなことを考えているとその矛先が俺にも向けられた。

 

「そして三星もだ、挨拶も返さないしいつもギリギリで学校に来てもう少ししっかりしたらどうだい?」

「はいはい、気をつけますよ」

「またそんな投げやりに応えて...昔から君は「そんなことより席に座らせてくれよいい加減鞄持ってる腕が疲れるんだわ」

「いい加減にしろ!」

「それと早くしないと先生が来るぞ」

「っく!話は次の休憩時間だからな!」

 

 こうして天之河とそばにいた坂上は自分の席へと戻っていった。

 

「ごめんなさいね?南雲君、二人共悪気はないのだけど...」

 

 そう言って一人残り申し訳なさそうに謝る八重樫さんにハジメは苦笑いという回答をした。

 

「それと弓人、もう道場には帰ってこないの?」

「またそれか?何度も言っただろ」

「でも、あれはあなたが悪いわけじゃ無いし...」

「もう良いんだよ、勉強に集中したかったし」

 

 俺は高校に進学する際に道場を辞めている、理由は天之河との対立である。天之河は道場でも人気があったこともあり、事あるごとに口論になっていた俺は、道場では肩身が狭かった。そのことが煩わしく感じた俺は雫や師範からの説得を受けたが辞めることにした。そのため雫からは道場へ戻ってくるように言われるが、今のところ戻るつもりはない。

 そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。そしていつも通りの授業が始まった。

 

 

 

 

「ほれ、これノートな」

「ありがとう、ジュースは放課後でいい?」

「ん?別に良いが教室出なくて良いのか?」

 

 昼休みになり、俺はハジメに約束のノートを渡すと寝ぼけているのかハジメは10秒チャージのゼリー飲料を飲み即座に机に突っ伏して寝ようとしていた。

 

「南雲君珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」

 

 香織は弁当を持ってハジメのところに来た。いつもはすぐに教室から出るハジメも徹夜明けの月曜日が効いていたのか今回は逃げそびれたらしい。

 

「あ~、誘ってくれてありがとう白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」

 

「えっ!お昼それだけなの?ダメだよ、ちゃんと食べないと!私のお弁当分けてあげるね!」

 

 最後の抵抗としてゼリー飲料のパッケージを見せながら断ったがそれを香織に即座に切り捨てられた、助けを求め俺の顔を見てきたハジメに向かい一言。

 

「強く生きろ」

「裏切り者!」

 

 神はいないのか!?そんなことを考えていた中ハジメに思わぬ助け舟が来た。

 

「香織、こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く天之河に一種感心を覚える中、天然の香織は

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

「ブフッ!」

 

 素で聞き返し一刀両断した香織に思わず雫が吹き出し俺は笑いを堪える羽目になった。

 しかし、学校で有名な4人組に囲まれているハジメが不憫なためそろそろ助け舟を出そうと腰を上げかけた時。

 

 

 その瞬間、周囲が凍りついた。

 

 

 ハジメの目の前、天之河の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様、俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 そして俺の背中が熱を持ち、そのおかげもあり他より早く動くことができた。

 

「っ!なにボーっとしてんだ!早く逃げろ!」

 

 俺は叫ぶように周囲に言うとようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた畑山先生が咄嗟に「皆!教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣が教室全体を満たし光ったのは同時だった。

 

 数秒か数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

 






とりあえず文章にできたこの2話を投稿させていただきます。
次の話もある程度構成が出来ているので早い段階で投稿できると思います。

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