ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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予約投稿を忘れてて申し訳ございません


15星:奈落を照らす小さき月【下弦】

 

「すみません。間違えま「待て待て待て待て」

 

 そう言って扉を閉めようとするハジメの肩を掴み、俺は止めに入る

 

「何で止めるんだよ、弓人」

「いや止めるだろ。いきなり扉閉めるとか人の心ないのかよ」

「いやいや...こんな所に封印されてるなんてどう考えても厄ネタだろうが...」

「だからっていきなり閉める奴がいるかよ!あの子見てみろよ!突然のこと過ぎてポカンとしてるぞ!」

 

 そう言って少女の方に目を向けると、唐突な出来事に呆然としていたが、自分が見捨てられそうになっている現状を理解したのか掠れた声で必死に懇願する。

 

「ま、待って!...お願い!...助けて......」

「嫌です」

「だからやめろ!...もういい、俺は行くぞ...」

「お、おい!弓人!」

 

 少女の懇願を無視し、無慈悲に扉を閉めようとするハジメを放って。少女の所へ近づく。

 

 封印されている少女が可哀想なためというわけではない。

 ここに封印されているならある程度ここを知ってるのではないか。

 助けることで、知ってることを話してもらうという打算的な理由なだけだ。

 

「悪いな、お嬢ちゃん。ウチの連れが愛想悪くて」

「お願い......なんでもする.....だから.....」

「じゃあ、お嬢ちゃんについて全部話してくれ。助けるかはそれからだ」

 

 少女はゆっくりと話し始めた。

 

 少女は先祖返りの吸血鬼で、とてつもない力を持っていると

 少女は国のために力を使ったが、叔父と家臣に裏切られたと

 少女は自らの力で死なないため、ここに封印されたと

 

「国のためにって言ってたが、お嬢ちゃん王族だったのか?」

 

 少女は無言で首を縦に振る

 

「死なないって言ってたが、どう言う意味で死なないんだ?」

「勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「実質不死ってことか....すごい力ってそれか?」

「これもだけど......魔力、直接操れる.....陣もいらない」

「なるほどねぇ...」

 

 少女の事については大体聞けたな...

 

「お願い....助けて.....」

「とのことだが....それでもお前は見捨てるのか?()()()?」

 

 俺の後ろで、黙って聞いていたハジメに問いかける。

 

「この子は裏切られただけらしいぜ」

「お前...俺の協力無しでこいつを助けること出来んのかよ...」

「無理だな、だからお前に聞いている。助けるのか、助けないのか」

「弓人...お前は助けたいんだろうな...」

「あぁ、最初は脱出のための情報を聞き出すためのつもりだった。けど、この子のことを聞いて同情しちまった...助けたいって思っちまった。だから頼む、ハジメ」

 

 暫く沈黙が続いた

 そして、

 

「ちっ!貸し1つだぞ!」

 

 頭を掻き舌打ちと共に右手を少女を封印している石に置く。

 

「あっ」

 

 女の子がその意味に気がついたのか大きく目を見開く。ハジメはそれを無視して錬成を始めた。

 

 ハジメの魔力が放電する様に迸る。

 しかし、いつもの様に、即座に変化しない。

 まるで抵抗するかの様に魔力が弾かれる。

 

「ぐっ、抵抗が強い!だが、今の俺なら!」

 

 ハジメはさらに魔力を込める

 部屋全体が魔力により照らされ、少女を封じる周りの石が徐々に震え出す。

 

「まだまだぁ!」

 

 最後にダメ押しと言わんばかりに魔力を込める。

 今や、ハジメ自身が紅い輝きを放っていた。

 その結果、少女を封印していた石が融解するように流れ落ちていく。

 ついに、彼女の枷が解かれた。

 

 少女は立ち上がる力がないのかその場で座り込んでいる。

 俺は少女の方へ近づき、剥いでいた爪熊の皮を彼女の肩へ被せ、神水を口元へ持っていく。

 

「ゆっくり飲め、回復効果のある水だ」

「......ありがとう」

「礼を言うなら、あっちの素直じゃない奴に頼む」

 

 そう言い、息を切らせ地面に座り込みながら神水を飲むハジメへ指差す

 ハジメは、何処か照れ臭そうに頬を掻きながら口を開く。

 

「別に俺は...弓人がどうしてもって言うから...」

「2人とも......名前、教えて...」

「あぁ、そういえば言ってなかったな俺は三星弓人、あっちのツンデレは南雲ハジメだ」

「おい!ツンデレって何だよ!」

「ユミト...ハジメ...」

 俺たちが軽い漫才をしている横で、少女は何度も俺たちの名前を呟く。

 覚えるために、決して忘れない様に。

 

「んで...えぇと...お嬢ちゃんの名前は?」

「......名前、付けて」

「は?付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

 長年封印されていたこともあり、ありえると思ったのかハジメが質問する。

 しかし、少女は首を横に振り答える。

 

「もう、前の名前はいらない。.....2人の付けた名前がいい」

「と言ってもなぁ...弓人、お前なんかあるか?」

「ルナ...セレネ...うーん違うなぁ...」

「もう考え始めてるし...しかも何で全部月関連なんだよ...」

「いや...だって、この子の髪と瞳が月みたいだろ?」

 

 俺の言葉に、何処か納得したハジメが何か思いついたのか俺に話しかける。

 

「じゃあよ『ユエ』なんてどうだ?」

「中国語か...それ、いいな」

「決まりだな、今日からお前の名前は『ユエ』だ」

「『ユエ』?」

 

 聞きなれない名前のため、聞き返す少女

 

「ユエっていうのは、俺たちの故郷で月を意味する言葉なんだ。理由は...さっき弓人が言ったみたいなお前の髪と瞳が夜空に浮かぶ月みたいだからさ」

 

 何度か、自身の中で反芻させ、そして何処か嬉しげに顔を向けてくる少女...いや、ユエ。そして

 

「...んっ。今日からユエ。ありがとう」

「おう、取り敢えずだ......弓人」

「あぁ...上からだな」

「?」

 

 ユエは俺たちが何を言ってるのか分からないと首を傾げる。

 そして、『俺たちの真上』から落ちてきた。

 俺は咄嗟にユエを抱え、ハジメは『縮地』を使い、その場から離れる。

 そして俺たちがいた位置に、そいつはいた。

 

 そいつは、体長5メートルほどだろうか

 4本の強靭な腕とハサミ、そして8本の足を動かしている

 その背には、先端に針がある2本の大きな尾があった

 そいつは、蠍の姿をした魔物であった。

 

「弓人!俺がこいつの気を引くからその内にユエを...弓人?」

「....ユミト?大丈夫?」

「......くそっ!嫌なもん思い出させやがって!」

 

 俺はユエをその場に置くと弓を取り出し構える。そして、

 

「覚悟しやがれ!この蠍野郎!!!」

 

 俺の咆哮が開戦の合図となった。

 





個人的な解釈なのですが

ハジメとユエが恋仲になった理由って
あの奈落の極限状態で出会った事による
共依存からのスーパー吊り橋効果だと思うのですよね
なので、主人公がいる状態のため恋仲になるのは難しいと感じたため、
今回はユエとの恋愛描写はない予定で書いています。

まぁ、今後の展開(行き当たりばったり)次第でなるかもしれませんが

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