ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

25 / 119

現時点で、ユエの主人公達への印象は

弓人←自分を助けてくれた優しい人
ハジメ←素直じゃないけどいい人

と言った感じです。

まぁ、即座に扉閉めようとした人と自分を助けたいと言ってくれた人だとちょっと印象変わりますよね




16星:封印が解かれし吸血姫

 

 

 オラリオの迷宮(ダンジョン)には迷宮の孤王(モンスターレックス)という存在がいる。

 特定の階層に存在する、いわゆるボスモンスターというものだ。

 そいつは、迷宮(ダンジョン)のモンスターの中でも一線を画す強さを持つとされ、少人数のパーティでの討伐は不可能とされている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 俺は眼前の蠍に向けて弓を引く。

 引き絞られた弓から音速の矢が解き放たれた。

 しかし、尻尾の針から放たれた毒液によって、届く事なく消滅する。

 その隙に、ナイフを取り出し蠍の足の1本を切り付ける。

 金属同士がぶつかり合うような甲高い音が響き渡る。

 しかし、足には傷ひとつ付かなかった。

 

「ちっ!想像以上に硬い!」

 

 このままではナイフが先に壊れる。そんなことを考えていると、聞き馴染みのある破裂音が聞こえた。

 

 ドパンッ!

 

 ハジメのドンナーから放たれた弾丸は蠍の額に打ち込まれ火花を散らす。

 

「おい弓人!急にどうした!らしくもねぇ」

「ハジメか...問題ない、俺はいつも通りだ」

「お前...終わったら聞かせてもらうぞ...」

 

 俺の違和感に何か勘づいたハジメは、俺の隣に立ちながら俺に全てを打ち明けるよう言う。俺はそのことをあえて無視し、話しかける

 

「それよりあいつをどうする、甲殻の硬さはこのナイフ以上ときた」

「......あの甲殻が鉱石由来なら、俺の『錬成』でいけるはずだ」

 

 ハジメは俺を軽く睨みながらではあるが答える。

 

「なら俺がもう一度前に出る。ハジメはその隙にあいつの甲殻を鑑定しろ」

「...いや、俺が前に出る。弓人...お前は後ろにさがれ」

「...聞き間違いか?俺に下がれって聞こえたんだが?」

「いや、聞き間違えじゃない。下がるんだ」

 

 恐らく、俺はかなり苛立っているのだろう、その苛立ちを隠すことなくハジメを睨みつける。

 

「ふざけてんのか?どう考えたって近接戦闘に慣れてる俺が前に出るべきだろうが」

「確かにその通りだ。それが、普段の弓人ならな」

「んだと?」

「今のお前は頭に血が昇ってる。それに...後ろを見ろよ」

 

 俺は促されるまま後ろを見る。

 そこには、心配そうに俺を見つめるユエがいた。

 

「俺の知ってる三星弓人は、あんな風に人を心配させる様な人間じゃない筈なんだが...おれの勘違いだったか?」

「......すまん、前衛は頼んだ」

「あぁ、任せろ」

 

 ハジメはドンナーを構え、『縮地』を使い前へ飛び出す。

 俺は、蠍から一度離れるため後方へと下がる。そこへ、俺を心配したユエが近づいてきた。

 

「......ユミト...大丈夫?」

「ごめんな、心配させちまって」

 

 俺が笑いながらそういうと、心なしかホッとした表情を浮かべてくれた。

 そして、ハジメの援護をするため弓を構え蠍の方に意識を向ける。

 

 ハジメが飛び出すと、蠍はハジメを迎撃するべく、毒液を放った方とは違う尻尾からとてつもない速度で1本の巨大な針を射出した。

 その針は、空中で爆発したかと思えば、中から一回りほど小さな針が散弾の様に撒き散らされた。

 俺は矢を連続で放ち、針を撃ち落とす。何本か撃ち落とせなかったが、ハジメは『風爪』と『豪脚』を使い冷静に対処する。

 そして、懐から手榴弾を取り出すと蠍に向かい投げつけた。

 蠍は、再び散弾針と毒液を使おうと尾を初めに向けた瞬間、手榴弾が爆ぜ、爆炎が舞い上がった。

 これは、サメの階層で手に入った『フラム鉱石』を利用した『焼夷手榴弾』である。

 熱による攻撃で、蠍にダメージは入ったが蠍はまだ倒れない。

 

「キシャァァァァア!!!」

 

 怒りにより我を忘れた蠍は、針や毒液を撒き散らす。

 ハジメは、『空力』や『風爪』を使いなんとか回避する。

 俺は、飛んでくる針を撃ち落とすが、全てを撃ち落とすことは出来ず、オレとユエの所へ向かってくる。回避は不可能だと感じた俺は、ユエの前へ飛び出し針を何本かその身でうける。

 針が体に突き刺さるが動けないほどではない。俺は失血の危険があるため針を抜かず弓を構えようとした時、ユエが問いかける。

 

「......なんで」

「なんでって、仲間だからな」

「......仲間?」

「あぁ、お前を助けて、お互いに名前を知った。なら俺たちはもう仲間だ...だから俺は仲間を決して見捨てない」

「......ユミト...」

 

 ユエに話しかけながら、俺は考える、このままだとジリ貧だと感じたからだ。

 どうにかあいつの動きを止める方法がないか考える。

 そして、閃いた。

 

「ユエ!お前、すごい力あるって言ってたよな!あの蠍の動きを止めることはできるか?」

「......多分、けど魔力が足りない...」

「神水...だと回復するのに時間がかかる...もしかしたら」

 

 俺は即座にナイフを取り出すと左手の甲を軽く切る。俺の行動にユエが驚愕し俺を心配する様に叫ぶ

 

「ユミト!?何を!」

「ユエ、お前は吸血鬼だったよな...なら、血で魔力の回復は可能か?」

「...できるけど...まさか!」

「あぁ、俺の血を飲め。それで...俺たちと戦ってくれ」

 

 ユエは暫く、俺の差し出した左手と俺の顔を交互に見る。

 そして、覚悟を決めた目で俺の手を取った。

 

「ん!信じて...」

 

 その言葉と共に俺の手の甲に口をつけ舌を這わせるユエ。

 そして、俺の血を啜り、嚥下する。

 

「......ごちそうさま」

「よし!ハジメ!ユエが魔法を使うからそこから離れろ!」

「ユエが!?だが、了解だ!」

 

 俺が声をかけると、ハジメは『縮地』を使い蠍から離れる。

 それを確認したユエは、蠍に向けて片手を掲げた。

 それと同時に、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がり、

 

 黄金色の魔力が部屋全てを照らした。

 

 そして、神秘に彩られたユエは

 魔力と同じ色の黄金の髪をなびかせ

 ただ一言呟いた。

 

「『蒼天』」

 

 その瞬間、蠍の頭上に巨大な青白い炎が生まれた

 蠍は、炎の熱にやられ悲鳴を上げて離脱を図る

 しかし、それよりも早くユエが指を振り下ろす方が早かった。

 

 突如、巻き起こる閃光

 

 俺たちは、その閃光により前が見えず思わず腕で顔を覆う。

 

 そして閃光が落ち着いた時、その場にいたものは、甲殻が赤熱化し表面が融解して悶え苦しんでいる蠍であった。

 ハジメの手榴弾やドンナー、俺のナイフでも傷ひとつ付かなかった蠍の甲殻にダメージを与えた少女を称賛しようとユエの方に目を向けると、彼女は魔力切れにより肩で息をし、座り込んでいた。

 

「ユエ、大丈夫か?症状から見ると精神疲弊(マインドダウン)一歩手前だが...」

「......マイン?...最上級使ったから......疲れた」

「お疲れさん、ありがとな。後は俺とハジメに任せてゆっくり休んでくれ。だろ?ハジメ!」

「あぁ!ありがとよ、ユエ!」

「......ん、頑張って2人とも」

 

 お互いにユエに礼を言い、蠍にとどめを刺すべく俺は弓を構えた。

 ハジメはポーチから閃光手榴弾を取り出すと、蠍の頭上へ向けて投げつける。そしてドンナーで打ち抜き、閃光を撒き散らす。

 蠍の目が光で眩んだが、蠍は暴れることはなく冷静にハジメを待ち構える。

 しかし、ハジメは『気配遮断』と『縮地』を使い、気づかれることなく蠍の背に着地した。

 

「やっぱりこいつの甲殻の正体は、鉱石による鎧か...けど俺なら問題ねぇ!『錬成』!」

 

 ハジメが錬成魔法を使ったことにより、蠍の鎧は剥がれ、本来の甲殻が露出した。蠍は自身の背にハジメがいたことに気づき、振り落とそうと暴れる。

 

「ここまできたら俺の出番は終わりだ...最後は頼むぜ、なぁ!弓人!」

「『放たれしは必中、我が矢の届かぬ獣はあらじ』」

「【オリオン・オルコス】」

 

 一閃

 放たれた白き矢は、蠍の肉を貫き、その胴体へ風穴を開けた。

 50層の戦いは、俺たちの勝利で幕を閉じた。

 

==========================

 

三星弓人 Lv.5

 

  力: E : 478 → E : 490

 耐久: F : 326 → F : 350

 器用: F : 385 → E : 400

 俊敏: E : 440 → E : 450

 魔力: F : 357 → F : 371

 頑健: E

対魔力: G

千里眼: G

 

==========================


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。