ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
『
オラリオの
それは突然に、冒険者を絶望の淵へ突き落とす。
どこまでも悪辣な
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「だああ!ちくしょぉおおー!」
「......2人とも、ファイト」
「あのユエさん!?ちょくちょく血を吸うのやめてくれません!?」
俺は、ユエを背負いハジメと共に走っている。
なぜこの様な状態になっているのか。
それは、
「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」
100を超える魔物の群れに追われているからだ。
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時は少し遡る
俺たちが準備を整えて、攻略を再開してから楽に10層ほど降りて来れた。
蠍の甲殻を利用し、装備が充実したこともあるが。
1番の理由は、やはりユエの存在が大きい。
全属性の魔法を無詠唱で放つことができるため。2人の時に足りなかった決定打と殲滅力が手に入った。
彼女は、回復と結界系の魔法は苦手だが、ユエには【自動再生】があり、俺たちには神水があるため些細な問題だ。
こうして俺たちは、樹海を思わせる現在の階層へ足を踏み入れた。
そして探索をしていると、何故か頭に1輪の花を咲かせたティラノサウルスがいた。
そのシュールな光景に固まっていると、そいつは俺たちを見つけ咆哮と共に襲いかかってきた。
俺とハジメは迎撃しようと武器を構えるが、それよりも早くユエが動いた。
「『緋槍』」
ユエの放った炎の槍は、ティラノサウルスの口内目掛けて飛翔し、その勢いを衰えることなく焼き貫いた。
「「......」」
いろんな意味で思わず押し黙る俺たち。
最近の戦闘はずっとこの調子だ。
始めの頃は、ユエは俺たちの援護に徹していた。しかし、途中からハジメに対抗する様に先制攻撃で瞬殺する様になってきた。
最近俺の役立たず感が否めない。
基本的に俺が前衛に立つのだが、俺が短剣で1体殺してる間に、ハジメとユエは魔法と銃火器で3、4体殺している。
魔法を使うにしても、詠唱している間に決着がつくことがほとんどでストックを作るにしても
もしかして、自分が足手まといだから即行で終わらせているとかじゃないよな?と内心不安に駆られる。もしそんなことを本気で言われたら丸十日は落ち込む自信があった。
俺は構えを崩し、苦笑いしながらユエに話しかけた。
「あ〜、ユエ...ちょっと張り切りすぎじゃないか?」
「そうだぜ、俺たち...あまり動いてない気がするんだが...」
どうやら、ハジメも同じく不安だった様だ...
「......私、役に立つ。......仲間だから」
ユエはどこか誇らしげな顔をしている。
どうやら、援護だけしているのが我慢ならなかったらしい。
その健気な姿を見て、不安が吹き飛び思わず笑ってしまった。
「はははっ、ユエはもう十分役に立ってるよ。でもユエは魔法がすごい分接近戦は苦手なんだから、前衛は俺に任せてくれ。このままじゃ役立たずだ」
「....あっ、ちがっ、そんなつもりじゃ...」
「分かってるから気にすんな」
俺が役立たずになるという言葉に反応して、落ち込むユエに、俺は気にしないでいいと頭を撫でる。柔らかな髪質の髪を撫でていると気持ちが良いのかユエは目を細め、ハジメは暖かく見守っている。
しばらくそうしていると、ハジメの『気配感知』に反応があった。
「2人とも、複数の反応がこっちに来る。しかも統率が取れてるのか俺たちを囲む様に動いてる」
「了解だ。ここだと戦いづらいから移動しよう。ユエもそれでいいか?」
「.....ん、分かった」
そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長2メートル強のラプトルのような魔物がいた。
頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。
「......かわいい」
「......流行りなのか?」
「......流行りというよりか...まさか」
俺は1つの仮定が生まれたため、ラプトルに向けて矢を放つ。
放たれた矢は、吸い込まれる様にラプトルの
ラプトルは一瞬ビクンと痙攣したかと思うと、その場に倒れ込んだ。
「......死んだ?」
「いや、生きてるっぽいけど...」
ハジメの見立て通り、暫く痙攣した後、ラプトルは起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけると親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。
「え~、何その反応、どういうこと?」
「......イタズラされた?」
「そんな背中に張り紙つけて騒ぐ小学生じゃねぇんだから...」
「いや、ある意味ではイタズラだぜ...寄生っていうな」
ラプトルは花を暫く踏みつけていると、満足したのかどこか嬉しそうに鳴いた。そして、周囲を見渡していると、俺たちに気づいて襲ってきた。
俺は再び矢を放ち、ラプトルの眉間を打ち抜き絶命させた。
「で?さっき言ってた寄生ってのは?」
「日本で聞いたことがあるだろ、冬虫夏草ってヤツ。おそらくあれに似たタイプのやつだな」
「.....トウチュウ?」
「ん?あぁ、冬虫夏草ってのは虫に寄生して繁殖するキノコの一種なんだ」
冬虫夏草を知らないユエに説明をしていると、ハジメは俺の仮説に理解を示した。
「つまりあれか、あの花にこいつらは操られてるってことか」
「そっ、そうじゃなきゃあんな風に統率はとれないし、花が無くなってあんな反応はしない」
「なるほどなぁ、まぁ結局殺さなきゃいけないっぽいけどな」
そう、花を撃ち抜いたとしてもアイツらは襲ってきた。襲ってきたなら殺さないといけないことには変わりはない。
探索を再開しようとした瞬間
空気が変わった。
これは、前世の時に体験した...あの空気だ。
「っ!ハジメ!ユエ!早くここから離れるぞ!!!」
「どうしたんだよ急に......ってなんだよこの気配の数は!」
「......ユミト?ハジメ?」
『気配感知』を持たないユエはまだ気づかない
「ユエは俺が背負う!」
「了解した!」
「...え!?ユミト!?なんで!?」
「説明は後だ!急げ!『