ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
恐る恐る目を開けるとそこには巨大な壁画があった。そには後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。一般的な感性から見ても美しいと感じられる絵なのだが、これに対して俺は妙な
周囲を見渡すと、教室にいた俺たちは大理石の広間にいるらしい。隣にいるハジメに目を向けてみると、この手の漫画やラノベを読んでいることもあり呆然としているクラスメイトと違い比較的冷静でいられたようだ。
「なぁハジメ...これって...」
「うん...多分そう言うことだと思う...」
「まじかよ...そんなファンタジーやメルヘンじゃあるまいし...」
そんなどこかで聞いたことのあるような台詞をぼやいていると。
「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
と豪華な服を着た聖職者が、錫杖を鳴らしながら前に出て好々爺然とした微笑と共に話しかけてきた。
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現在、俺たちはイシュタルと名乗った聖職者に連れられテーブルが幾つも並ぶ広間にいた。俺は雫の隣に座り、その隣にハジメが座ったあたりで全員が席に着いたのかメイド達がカートを押しながら入ってきた。
日本では一部の店でしか見ることができないメイド服、さらにそのメイド達の容姿が整っていることもあり思春期の男子生徒の大半は凝視しそれに女子生徒は冷たい眼差しを向けている。
そんな俺も思春期の男の子という業から逃れられず自分好みのメイドがいないか目を向け...ようとした瞬間、背筋に悪寒を感じ咄嗟に振り返ったがそこには誰もいない。
「どうしたの弓人?急に振り返ったりなんてして」
「いや...急に悪寒が...」
「なにそれ?」
「でも...いやすまん雫、俺も冷静じゃなさそうだ...」
少々強引に話を終わらせた直後、イシュタルが口を開いた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そして話した内容を要約すればこうなる。
この異世界はトータスと言う
現在、人類と魔族の戦争が何百年も行われている
しかし最近になり、魔族の戦力が増大し押され始めた
どうしようかと困っていたところ、神エヒトからの増援として俺たちは呼ばれた
といったところだ。これを聞くとよくある異世界系の小説が思いつくがそれをされる立場になるとは思いもしなかった。
そしてイシュタルは神託を受けた時を思い出しているのか恍惚としていた。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
そんな中、ぷりぷりと効果音が付きそうな怒りを表したのは畑山先生。彼女は転移する前、教室にいた中で唯一の大人である。彼女はその庇護欲をそそる容姿から『愛ちゃん』という愛称で呼ばれているが、俺は彼女の生徒に対する真摯な思いを尊敬して、畑山先生と呼んでいる。
しかし、それに対するイシュタルの解答はある意味予測できる物であった。
「お気持ちはお察しします。しかし...あなた方の帰還は現状では不可能です」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな...」
畑山先生は脱力し、席に腰を落とす。どこか他人事であったクラスメイトも自身の状況を把握し始めたのか口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで...」
生徒達に動揺が走る中、俺は隣にいるハジメに話しかけた。
「なぁハジメ、これは状況としたらどれくらいだ?」
「えっと、予測したパターンだと悪い方だけど...最悪のパターンではないよ」
「その心は?」
「最悪なのは召喚者を奴隷扱いするパターンだったりするからね、これは比較的にマシな方だと思う」
そんなことをハジメに聞きながらイシュタルの方へ目を向けると、彼は特に口を挟むこともなく静観していた。しかし、その目には侮蔑が込められてると感じた。おそらく「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」あたりであろう。
未だパニックが収まらない中、天之河が立ち上がりテーブルを強く叩いた。その音に驚き注目する生徒達。そして全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ...俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない...イシュタルさん、どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
その瞬間、彼のカリスマが発揮され絶望していた生徒たちに活気と冷静さが取り戻され、それに続くようにまた席を立つものが現れた。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな...。俺もやるぜ?」
「龍太郎...」
「今のところ、それしかないわよね。...気に食わないけど...私もやるわ」
「雫...」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織...」
いつものメンバーが天之河に賛同する。愛子先生は涙目で駄目だと訴えているが光輝の作った流れの前では無力でクラスメイト全員が賛同するのは時間の問題だった。これはまずい、そう思った俺はおもむろに手を上げた。
「あのイシュタルさん...話の腰を折るようで悪いんですが少し良いですか?」
「む?どうなされましたかな?」
「今回の件に関して、3つほどお願いがありまして」
「ふむ、申してくださいませ」
「では、1つ目は戦争が始まるまでに訓練する場所と指導する人を用意して下さい。俺たちは戦争とは程遠い環境で育ってきたのでいきなり戦えと言われてもおそらく不可能です」
「それには問題はありませぬ、皆様にはハイリヒ王国にて訓練を受けていただきます」
よし、1つ目はOK。これでいきなり戦争しろなんて状況にはならないのが分かった上訓練の場所も用意してくれている。
「では、2つ目は戦争参加を志願制にしてその期間もある程度は用意して頂きたい」
「なっ!?おい三星!お前はこの世界の人たちがどうなっても良いって言うのか!」
「天之河、今俺はイシュタルさんと話してるんだ、だから黙っていてくれ」
「...理由をお聞かせ下さりますかな?」
「理由はここにいる全員が戦争で戦えると思ってないからですよ。今はその場の流れで参加しようとしてる奴もいるでしょうし、訓練してみても戦力にならない奴も出るでしょう。戦えない兵士ほど士気を下げる物はないと思いませんか?」
「...良いでしょう、では1ヶ月です。それまでに参加するか選んで頂きたい」
これで2つ目もOKだ。今は異世界に連れてこられたショックや天之河のカリスマで勢いのまま参加しようとしてたクラスメイトも1ヶ月あれば冷静な判断はできるだろう。
「ありがとうございます。では3つ目はあなた達が崇拝するエヒト様についてです。俺たちの住んでいた世界では様々な宗教がありましたがエヒトを崇拝する宗教どころかエヒトという神も聞いたことがありません」
「なっ!?」
「そのため、そちらの教えに背くようなことをしたとしても大目に見てほしく、他にはこちらの世界の宗教に入っていた者を異教徒として排除したり改宗を促すようなことはしないで頂きたい。」
「......良いでしょう....確かに聞き入れました...」
よし!これで最初の全員参加をしようとした時に比べてかなりマシになった。
イシュタルの目の奥には「余計なことをしやがって」といった感情が見てとれた。だが、このおかげで戦争が始まるまでの間の安全はとれたはずだ。
「ちなみに...あなた様は、信仰している神はいますのですか?」
「俺ですか?...俺の信仰している神は...」
「月の女神アルテミスです」
思ったより筆が乗ったため投稿します。
次の話も今日中に書けたら投稿します。