ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
「よかった...」
「弓人!」
「ユミトォ!」
弓人が倒れていく。神水を持って走る。ハジメの頭は自身に対する怒りに満ちていた。
なぜ、完全に死んだか確認しなかったのだと
なぜ、気を抜いてしまったのだと
なぜ、また守られてしまったのだと
三星の容体は、お世辞にも良いものではなかった。
彼の全身から血が流れ、ところどころに焼け爛れた跡がある。
体の欠損がなかったことは彼の【発展アビリティ】『頑健』があったお陰もあるが、それでも奇跡であろう。
ハジメとユエは2人がかりで弓人を抱えると、急いで柱の裏へと移動する。
そして神水の1本を傷口にかけもう1本を弓人に飲ませる。
意識は失っているが何とか飲み込んでくれた。
しかし、止血の効果はあったがいつもの様に即座に修復しない。
「どうして!?」
「くそっ!あの光には回復阻害の効果があるのか...もっと飲ませるぞ!」
手持ちの神水をありったけつかう。
恐らく、この戦いの中で起きることはないだろう。
ハジメは、覚悟を決めた。
「ユエ...弓人を頼む...」
「ハジメ?」
「あいつは、俺に任せろ」
「ダメ!無茶だよ!」
ユエは必死に止める、弓人に続いてハジメまで傷つくことが耐えられなかった。しかしハジメは、止まらない。
「...俺はずっと...弓人に守られてばかりだ...日本にいた頃も...王宮にいた時も......ここに落ちた時だって...ずっと守られてた...だから!今度は俺が守る番だ!」
「......待って!...なら...私も行く...今度は...私が助ける番!」
「ユエ...分かった!力を貸してくれ!」
「んっ!」
ハジメはユエを背負うと、ヒュドラに向かって走り出す。
親友を守るために。
親友と故郷へ帰るために。
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「ここは...?」
俺は今、どこかの森にいる。
何か大事なことがあった気がするが、靄がかかったかの様に思い出せない。
何故か、この先へ進むべきだと感じたため。歩いていく。
暫く進むと、川へ出た。初めてくる場所のはずなのに、どこか懐かしさを覚える。だめだ、うまく思考が回らない。
「また私の水浴びを覗くつもり?なんてね」
「!」
背後から、女性の声が聞こえた。
何故か聞き馴染みがある...安心感を覚え...とても悲しくなる声だ。
俺は振り向こうとするが、金縛りにあったかの様に動かない。
声も、何故か出ない。
女性は、構わず俺に話しかける。
「貴方には、まだやるべき事が残ってるでしょ?」
やるべき事...頭の靄が少し晴れる。そうだ、俺は仲間たちと戦っていた。
「今ならまだ間に合うわ、早く行きなさい」
まだ間に合う...頭の靄が少し晴れる。そうだ、ヒュドラはまだ生きている。
「約束....守るんでしょ?」
約束...頭の靄が完全に晴れる。その瞬間、浮遊感が襲う。
「貴方とは...もう会えないかもしれない...けど!ずっと帰りを待ってるから!」
「......行ってくるよ、アルテミス」
「っ!えぇ、いってらっしゃい...オリオン!」
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意識が、覚醒する。
体には、まだ鈍い痛みがある。けれど、動ける。
ヒュドラの方を見ると、ハジメがユエを背負い戦っていた、しかし、ヒュドラの弾幕が厚く。攻めあぐねている。
俺は、目を閉じて意識を集中させる。
何で...忘れてたんだろうなぁ...この【魔法】を...
「『我が宿命、月女神に請い願う。』」
「『肉体に剛力を、精神に冷徹を。』」
「『そして我が運命をここに定めよう。』」
「『其は、女神の無垢な加護。』」
「【アルテミス・アグノス】」
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【アルテミス・アグノス】
・階位昇華
・発動対象は術者本人限定
・発動後、術者本人に反動あり
・詠唱式『我が宿命、月女神に請い願う。』
『肉体に剛力を、精神に冷徹を。』
『そして我が運命をここに定めよう。』
『其は、女神の無垢な加護。』
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