ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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20星: ■■の■■な■■【半月】

 

「よかった...」

「弓人!」

「ユミトォ!」

 

 弓人が倒れていく。神水を持って走る。ハジメの頭は自身に対する怒りに満ちていた。

 なぜ、完全に死んだか確認しなかったのだと

 なぜ、気を抜いてしまったのだと

 なぜ、また守られてしまったのだと

 

 三星の容体は、お世辞にも良いものではなかった。

 彼の全身から血が流れ、ところどころに焼け爛れた跡がある。

 体の欠損がなかったことは彼の【発展アビリティ】『頑健』があったお陰もあるが、それでも奇跡であろう。

 

 ハジメとユエは2人がかりで弓人を抱えると、急いで柱の裏へと移動する。

 そして神水の1本を傷口にかけもう1本を弓人に飲ませる。

 意識は失っているが何とか飲み込んでくれた。

 しかし、止血の効果はあったがいつもの様に即座に修復しない。

 

「どうして!?」

「くそっ!あの光には回復阻害の効果があるのか...もっと飲ませるぞ!」

 

 手持ちの神水をありったけつかう。

 恐らく、この戦いの中で起きることはないだろう。

 ハジメは、覚悟を決めた。

 

「ユエ...弓人を頼む...」

「ハジメ?」

「あいつは、俺に任せろ」

「ダメ!無茶だよ!」

 

 ユエは必死に止める、弓人に続いてハジメまで傷つくことが耐えられなかった。しかしハジメは、止まらない。

 

「...俺はずっと...弓人に守られてばかりだ...日本にいた頃も...王宮にいた時も......ここに落ちた時だって...ずっと守られてた...だから!今度は俺が守る番だ!」

「......待って!...なら...私も行く...今度は...私が助ける番!」

「ユエ...分かった!力を貸してくれ!」

「んっ!」

 

 ハジメはユエを背負うと、ヒュドラに向かって走り出す。

 親友を守るために。

 親友と故郷へ帰るために。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ここは...?」

 

 俺は今、どこかの森にいる。

 何か大事なことがあった気がするが、靄がかかったかの様に思い出せない。

 何故か、この先へ進むべきだと感じたため。歩いていく。

 

 暫く進むと、川へ出た。初めてくる場所のはずなのに、どこか懐かしさを覚える。だめだ、うまく思考が回らない。

 

「また私の水浴びを覗くつもり?なんてね」

「!」

 

 背後から、女性の声が聞こえた。

 何故か聞き馴染みがある...安心感を覚え...とても悲しくなる声だ。

 俺は振り向こうとするが、金縛りにあったかの様に動かない。

 声も、何故か出ない。

 女性は、構わず俺に話しかける。

 

「貴方には、まだやるべき事が残ってるでしょ?」

 

 やるべき事...頭の靄が少し晴れる。そうだ、俺は仲間たちと戦っていた。

 

「今ならまだ間に合うわ、早く行きなさい」

 

 まだ間に合う...頭の靄が少し晴れる。そうだ、ヒュドラはまだ生きている。

 

「約束....守るんでしょ?」

 

 約束...頭の靄が完全に晴れる。その瞬間、浮遊感が襲う。

 

「貴方とは...もう会えないかもしれない...けど!ずっと帰りを待ってるから!」

「......行ってくるよ、アルテミス」

「っ!えぇ、いってらっしゃい...オリオン!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 意識が、覚醒する。

 体には、まだ鈍い痛みがある。けれど、動ける。

 ヒュドラの方を見ると、ハジメがユエを背負い戦っていた、しかし、ヒュドラの弾幕が厚く。攻めあぐねている。

 

 俺は、目を閉じて意識を集中させる。

 

 

 何で...忘れてたんだろうなぁ...この【魔法】を...

 

 

「『我が宿命、月女神に請い願う。』」

 

「『肉体に剛力を、精神に冷徹を。』」

 

「『そして我が運命をここに定めよう。』」

 

「『其は、女神の無垢な加護。』」

 

「【アルテミス・アグノス】」

 

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【アルテミス・アグノス】

・階位昇華

・発動対象は術者本人限定

・発動後、術者本人に反動あり

・詠唱式『我が宿命、月女神に請い願う。』

    『肉体に剛力を、精神に冷徹を。』

    『そして我が運命をここに定めよう。』

    『其は、女神の無垢な加護。』

 

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