ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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23.5星:クラスメイトside 帝国と勇者たち【上弦】

 

 これは、弓人たちがヒュドラに勝利した頃まで遡る。

 勇者一行は、一時迷宮攻略を中断しハイリヒ王国に戻っていた。

 ベヒモスに勝利した後、未踏の迷宮攻略は難航していたこともあり、一度体制を立て直すという結論が出た。

 

 本来、休養だけなら宿場町ホルアドでもよかった。だが『ヘルシャー帝国』から勇者一行に会いに使者が来ることになったため王宮まで戻る必要があった。

 

 しかしここで1つ疑問が生まれる。『何故このタイミングなのか』と

 

 それは、元々エヒト神による『神託』がなされてから召喚されるまでほとんど時間などなかったかららしい。

 そのため、同盟国である帝国に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい召喚直後の顔合わせができなかったためだ。

 

 もっとも、仮に勇者召喚の知らせがあっても傭兵が建国した完璧実力主義の帝国は動かなかっただろう。

 そんな彼らが動いた理由は『勇者一行が【オルクス大迷宮】の最高攻略階層を更新した』ため興味を持ち王国と教会に掛け合った所、時期的にも丁度いいとのことで了承した。

 

 馬車が王宮に入り、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けて来るのが見えた。10歳位の金髪碧眼の美少年である。光輝と似た雰囲気を持つが、ずっとやんちゃそうだ。その正体はハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒである。彼は犬耳や振り回された尻尾を幻視してしまう勢いで駆け寄ってくる。

 

「香織!よく帰った!待ちわびたぞ!」

「ランデル殿下。お久しぶりです」

 

 どうやら彼の視界には白崎しか映っていないようだ。

 彼は、勇者召喚の翌日からこんな風にアプローチを続けている。なお、白崎はランデル王子のことを弟のように思っているため一方通行のようだが。

 白崎に傷ついてほしくないランデル王子は、どうにかして戦いから遠ざけるようアプローチするが、彼女の意志は強く遠回しに断られる。

 その問答中、相も変わらず空気の読めない善意の塊が横槍を入れる。

 

「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」

「香織を危険な場所に行かせることに何とも思っていないお前が何を言う! 絶対に負けぬぞ!香織は余といる方がいいに決まっているのだからな!」

 

 自身にとって恋敵のような存在の天之河が割り込んだことで、敵意を剥き出しにして反論する。当の天之河本人は年下の少年を安心させるつもりで言っただけなので、何故睨まれるのか分からない様子だ。

 

 すると、涼やかだがどこか少し厳しさを含んだ声が聞こえてきた。

 

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう?光輝さんにもご迷惑ですよ」

「あ、姉上!?...し、しかし」

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて...相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「うっ...で、ですが...」

「ランデル?」

「よ、用事を思い出しました!失礼します!」

 

 どの世界も弟は姉に弱いらしく、ランデル王子は踵を返し去って行く。

 その様子を見て、リリアーナ王女は白崎たちへ謝罪する。

 

「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致します」

「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を使ってくれただけだよ」

「そうだな。なぜ、怒っていたのかわからないけど...何か失礼なことをしたんなら俺の方こそ謝らないと」

 

 2人の回答に苦笑いするリリアーナ王女、姉として弟の恋心を応援したい部分はあるが、白崎の反応を見て同情してしまう。

 

「いえ光輝さん、ランデルのことは気にする必要ありません。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも...改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思います」

 

 花の咲いたような微笑みに、男子たちは顔を赤く染め見惚れてしまう。

 整った容姿に、王族としての気品や優雅さが合わさった笑みには、女子たちもうっすらと頬を染めてしまう。

 

「ありがとうリリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺もまた君に会えて嬉しいよ」

 

 それに対してキザな台詞と共に爽やかな笑顔を返す天之河。

 下心の無い本心からの台詞に多くの女性は頬を染めるだろう。だが、

 

「ありがとうございます。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎください。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

 

 特に慌てることもなく、微笑みながら天之河たちを促す。

 特に気にすることなく歩いて行く一行の中、1()()だけ、彼女の反応に心当たりがある人物がいた。

 

「まさか...」

「どうしたの?雫ちゃん」

「いえ...何でもないわ」

 

 天之河のあの笑顔に、特に反応しない人には2つパターンがある。

 

 1つは、自身や白崎のように彼の悪い部分を知っている人

 

 そしてもう1つは、個人的には嬉しくないパターンだ

 

「多分...気のせいよね...」

 

 八重樫は、あまり考えないようにした

 





ナンデダローナー

違うんです!指が勝手にこう書いてしまうんです!

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