ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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如月:峡谷の白兎
24星:谷にて跳ねる青兎


 

 魔法陣からの輝きが視界を染め上げる。奈落の澱んだ空気からどこか新鮮な空気に変わった気がした。

 

 やがて光が収まり、俺たちの目に映ったものは...

 

「......なんでやねん」

「ま、そりゃそうだな」

 

 地上...ではなく洞窟だった。魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていたハジメは、代わり映えしない光景に思わず半眼になってツッコミを入れてなんとなく予想できていた俺はそこまでショックではなかった。

 

「...秘密の通路は、隠されてるから秘密。だからハジメ...落ち込まないで」

「でも...なんかなぁ〜」

「気持ちは分からんでもないが切り替えて行くぞ」

 

 俺たちは洞窟の先へと進んでいく。道中に封印が施された扉や罠があったがオルクスの指輪に反応し解除されてゆく。

 

 暫く歩みを進めると、光が見えた。俺たちにとっては数ヶ月ぶり...ユエにとっては300年ぶりとなる陽の光だ。俺たちは逸る気持ちを抑えながら...しかし歩みを早めていく。

 

 そして俺たちは、本当の意味で地上へと辿り着いた。

 

 

【ライセン大峡谷】

 

 断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息することから。地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。

 

 俺たちは、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。それが地の底と言われているが太陽の光が降り注ぎ青空と白い雲が見える地上には違いない。

 

「念願の地上だぜ、2人とも」

「...戻って来たんだな...」

「.......んっ」

 

 2人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり叫んだ。

 

「よっしゃぁああああ!! 戻ってきたぞ、この野郎おおお!!!」

「んーー!!」

 

 両手を突き上げ、歓喜する2人を微笑ましく見守っていると複数の反応が感知範囲に現れた。

 感知した方向を見てみると、魔物の群れがこちらの方へと近づいてきていた。

 ハジメたちも気づいたのか、魔物たちの方を見ている。

 

「全く無粋なヤツらだな。...確かここって魔法使えないんだっけ?」

「......分解される。でも力づくでいく」

 

 2丁のリボルバーを取り出すハジメは、ユエに問いかける。座学でライセン大峡谷は魔法が使えないと学んでいたからだ。

 それに対してユエは通常の10倍魔力を込めれば使えると答える。

 

 そして臨戦態勢に移る2人に、俺は待ったをかけた。

 

「2人とも。あれ、俺1人でやらせてくれないか?」

「俺は構わないけど...なんでだ?」

「【ランクアップ】した際の体のズレを治しておきたくてな」

「......ん、分かった」

 

 2人から了承を得て、俺は弓矢とナイフを取り出す。

 そして地を蹴った瞬間、群れの先頭にいた魔物の首が切り落とされた。

 

「やべっ...踏み込みすぎた」

 

 本当は喉を切り裂くだけのつもりが、前に出過ぎたようだ。

 突然、同胞の1匹が死んだことに魔物たちは呆然とする。そして、俺の方を見て気づいてしまった。

 

 狩る側だと思っていた自身たちが狩られる側だったということに。

 

「お前らに恨みはないが...練習台になってくれ」

 

 ここからは、一方的な蹂躙であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 弓矢とナイフをしまっていると、2人が近づいてきた。

 

「体のズレは治ったか?」

「完全には治ってない。分かっていたけどここら辺の魔物は奈落の奴らに比べて弱くてな...」

「......ユミトが化け物」

「ひっでぇ...あとは武器だな」

「......壊れた?」

「いんや、今の俺にはこのナイフはちょっと軽すぎてな...ハジメ、後で片手剣作ってくれないか?形状は任せる」

「了解、とりあえず移動するか」

 

 ハジメは、右手の中指にはまっている『宝物庫』に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を2台取り出す。

 

「とりあえず行き先は?」

「ここは七大迷宮があると考えられる場所だ。とりあえず樹海側を探索しに行くか」

「......なんで樹海?」

「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

「......確かに、後私はどっちに乗ればいい?」

 

 俺とハジメ、どっちの後ろに乗れば良いか聞いたため、少し考え俺は口を開いた。

 

「ハジメの方に乗ってくれ」

「......ん」

「なんで俺の方なんだ?」

「俺はバイクに乗ったことないからユエを乗せて事故ったら洒落にならん」

「あ〜...」

 

 こうしてハジメはユエを乗せ、俺は単独でバイクを走らせる。しばらく走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。距離からしてもう30秒もしない内に会敵するだろう。

 

 バイクを走らせ突き出した崖を回り込むと、双頭のティラノサウルスが兎耳を生やした少女を襲っていた。

 

「ハジメ、ユエ、何だあれ?」

「......兎人族?」

「兎人族って谷底が住処だったりするのか?」

「いや、図書館の本が正しかったら兎人族は樹海に住んでるはずだ」

「じゃあなんでこんな所に」

 

 すると、少女は俺たちの存在に気付き助けを求めながら走ってきた。

 

「だずげでぐだざ~い!ひ〜!、死んじゃう!死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

「...とのことだが」

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

「お前ユエの時もそうだけど人の心ねぇのか?」

「......ハジメ、めっ!」

「ちっ...分かったよ...」

 

 ハジメはドンナーを構え、2度引き金を引く。放たれた弾丸はティラノの双頭を打ち抜く。頭を撃ち抜かれたティラノは倒れ、その衝撃により少女は何故かハジメの方へと吹き飛んでゆく。

 

「きゃぁああああー!う、受け止めてくださぁあああい!」

 

 泣き腫らした顔で、手を伸ばす少女。それに対してハジメは

 

「いや...ちょっと無理です...」

「えぇー!?」

 

 一瞬でバイクを後退させ少女を避けた。それにより少女は顔面を地面にぶつけ痛みで悶えている。

 

「......ハジメ?」

「うっ...いや...あの...」

「ユエ、ハジメは女性経験が少ないせいでこういうことには慣れてないんだ」

「......なるほど、ハジメは照れ屋」

「やめろぉ!そんな目で俺を見るなぁ!」

 

 2人でハジメに優しい目を向けていると、痛みが治まったのか少女が起き上がりハジメへ近づいて行く。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

「いや!ちょっ!近!」

 

 少女は、豪胆な性格のようだ。

 





 この作品のハジメは奈落の魔王化までキマってないのでなんだかんだ助けるツンデレ系になっています。
 後、女性経験が少ないためシアのような美少女に近づかれたりすると普通に照れます。
 ユエに対しては仲間という部分が大きいため現在はそこまで照れたりはしません。

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