ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
主人公の見た目についてなのですが...
とりあえず、星1の大英雄さんみたいなイメージでお願いします
絵心がないのでイラストとか描けず申し訳ございません
本編です
「私を避けたお詫びとして家族を助けてください!」
峡谷に少女『シア・ハウリア』の声が響く。どうやら他にも仲間がいるようだ。ハジメが何度も振り解こうとしているが、掴んだ手を決して離そうとしていない。
「おま...ちょっ...離せ!」
「嫌です!助けてくれるまで離しません!」
「この...良い加減にしやがれ!」
「アババババババババ!?」
シアに手を握られ、羞恥に耐えられなくなったハジメが『纏雷』を使った。
威力は調整してるがそれでも動けなくなる威力はある。しばらくして『纏雷』を解除すると、痙攣しながら崩れ落ちてゆく。
「たく...さっさと離せってんだよ...」
「......ハジメ、顔赤い」
「そういえば、お前ケモミミ好きだったな」
「はぁ!?お前なんで知って...」
ハジメが俺の暴露に対して問い詰めようとした瞬間、倒れていた彼女がゾンビの如く起き上がりハジメの脚にしがみついてきた。
「に、にがじませんよ~」
「えぇ...なんで動けんだよ...」
「......怖い」
「ユエ、だからといってわざわざ俺の方に来て俺を盾にしないでくれ」
「うぅ~何ですか!さっきからちょっと酷すぎると思います!断固抗議しますよ!お詫びに家族を助けて下さい!」
頬を膨らませながらハジメに詰め寄るシアに、ハジメはついに折れたようだ。
「分かった...話は聞いてやるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ...だから離れてくれ...近い」
笑顔を向けるシアに、顔を逸らしながら離れるよう促すハジメ。思春期の彼には、彼女の肌面積の多い服装は少々過激なようだ。
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「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は...」
語り始めたシアの話を要約するとこうだ。
兎人族『ハウリア』は【ハルツィナ樹海】にて集落を作り暮らしていた。
本来魔力を持つことのない亜人族の中でシアは魔力と『未来視』という固有魔法を持って生まれた。
異端児として扱われる彼女を守るため、兎人族全体で存在を隠していたが、先日遂にバレてしまった。
このままでは処刑されてしまうため、一族総出で山脈へと向かった。
しかし、運悪く帝国兵に見つかってしまい全滅を避けるため峡谷へと逃げ込んだが、今度は魔物たちに襲われてしまい現在にいたる。
「...気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
「断る」
「即答ですか!?な、なんで!?」
「俺たちにメリットが無い。以上、行こうぜ2人とも」
「いや、メリットはあるぞ。なっ、ユエ」
「......ん、樹海の案内を頼める」
「あ〜...なるほどなぁ...」
樹海は、亜人族以外では必ず迷うと言われている。亜人族を脅して案内させるという手もありはするが、あまり使いたく無いため、協力を仰げるならそれに越したことはない。ただし、彼女たちを助けるということは帝国兵と敵対するという厄介事を抱えているため逡巡するハジメ。
するとユエは、真っ直ぐな視線を向けハジメに告げる。
「......大丈夫、私達は最強」
これは、地上に出る時に俺が言ったセリフだ。互いに守り合えばどんな敵にも負けはしないと、それを聞いたハジメは笑みを零す。
「だな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」
家族たちが助かると知り、嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。
「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それで皆さんのことは何と呼べば...」
「ん?そう言えば名乗ってなかったか...俺はハジメ。南雲ハジメだ」
「んで、俺の名前は弓人。三星弓人だ」
「......ユエ」
「ハジメさんとユミトさんにユエちゃんですね」
3人の名前を何度か反芻し覚えるシア。しかし、ユエが不満顔で抗議する。
「......私、年上」
「ふぇ!?」
ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。ユエはそこまで気にしていなかったらしく、ただ彼女の勘違いを指摘しておきたかったらしい。
「とりあえず、さっさと行こうぜ」
「あの...できたら...ハジメさんの後ろが良いな〜って...」
「ん?良いぞ。じゃあユエは俺の方な」
「......ん、お願い」
「ま、待て!俺はまだ良いって...」
「あの...やっぱり迷惑でしたか...?」
「〜〜〜!...分かったよ...んじゃ後ろに乗ってくれ」
こうして、シアを乗せてハウリアたちの元へとバイクを走らせていく。
その際、シアはこのバイクやハジメの武器について質問し、ハジメは簡素ではあるが1つ1つ答えていく。
「え、それじゃあ、皆さんも魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると...」
「ああ、そうなるな」
「......ん」
「俺は...ちょっと違うがそんなもんだと思ってくれ」
しばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様にハジメの肩に顔を埋めた。そして、涙をこぼす。
「...いきなり何だ?騒いだり落ち込んだり泣きべそかいたり...情緒不安定なヤツだな」
「……大丈夫?」
「大丈夫です...ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら...何だか嬉しくなってしまって...」
シアの言葉に、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙ってしまった。表情は見えないが、俺にしがみつく力が強まった気がした。おそらく、ユエは自分とシアの境遇を重ねているのだろう。
俺は、しがみついているユエの手に、自身の左手を重ねた。
「大丈夫だ、ユエには俺たちがいる」
「......ユミト...ありがとう」
「気にすんな。仲間だろ?」
「.........ん」
ユエの強張りが解けたような気がした。そうして暫くシアの案内でバイクを走らせると、遠くで魔物の咆哮が聞こえた。どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようだ。
「ハジメさん!もう直ぐ皆がいる場所です!あの魔物の声...ち、近いです!父様達がいる場所に近いです!」
「だぁ~、耳元で怒鳴るな!聞こえてるわ!飛ばすからしっかり掴まってろ!」
「ユエ!俺たちの方も飛ばすぞ!」
「......ん!」
そうして走ること2分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。