ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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26星:帝国兵とそっち側

 

「この度は助けていただき誠にありがとうございます。私はハウリアの族長をしております、カムと申します。」

 

 そう言って、カムを筆頭にハウリア族は深々と頭を下げた。

 彼らは、『ハイベリア』と呼ばれるワイバーンに襲われていたが幸運にも俺たちが来る間に犠牲者は出なかったようだ。

 

「礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ?それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに...」

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから...」

 

 その言葉に俺は感心するが少し呆れてしまう。シアのために一族全員で故郷に出るほど情が深いのは聞いていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは考えが甘すぎる。そんなことを考えながら俺たちは樹海へと向かっていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一行は、階段に差し掛かった。ハジメを先頭に順調に登っていく。するとシアが不安そうに話しかけてくる。

 

「帝国兵はまだいるでしょうか?」

「ん?どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが...」

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら...ハジメさんとユミトさん...どうするのですか?」

「どうするって何が?」

「......」

 

 質問の意図がわからず首を傾げるハジメに、意を決したようにシアが尋ねる。俺は何も答えない。

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵...人間族です。おふたりと同じ。...なので」

「お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

「はい、見ました。帝国兵と相対するおふたりを...」

「だったら...何が疑問なんだ?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと...」

「問題ない」

 

 2人の会話に、俺は割り込んだ。2人が俺の方を向く。

 

「この仕事を受けた時点で、想定はしていた...だから問題ない」

 

 淡々と話す俺に2人は何も言わない。いや、おそらく言えないのだろう。

 

 今の俺は、ひどく冷たい顔をしているはずだ。

 

 そして、遂に階段を上りきり、ハジメ達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。

 登りきった崖の上、そこには……

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

 三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員が軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、俺たちを見るなり驚いた表情を見せた。

 

 だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

「小隊長!白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで3日も待たされたんだ。役得の1つや2つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。2、3人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長!話がわかる!」

 

帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。

 

 帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやく俺たちの存在に気がついた。

 

「あぁ?お前誰だ?兎人族...じゃあねぇよな?」

「ああ、人間だ」

 

 俺が口を開くより先に、ハジメが帝国兵に答える。

 

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか?そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

 勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、ハジメに命令した。

 

「断る」

 

 それに対して、一蹴するハジメ。

 

「...今、何て言った?」

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺たちのもんだ。あんたらには1人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

「小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

 

 表情を消す帝国兵、だがハジメの後ろを見て下卑た笑みを浮かべる。背後のユエに気付いたのだろう。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇらが唯の世間知らずの糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。てめぇらの四肢を切り落とした後、後ろの嬢ちゃんを目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

「つまり敵ってことでいいよな?」

「あぁ!?まだ状況が理解できてねぇのか!てめぇは、震えながら許しをこッ!?」

 

 最後通告を無視し、襲い掛かる帝国兵にハジメはドンナーを取り出し引き金を引く...

 

 

 

 前に帝国兵の首が飛んだ。

 

「......なんのつもりだ、弓人」

「.......」

 

 ハジメの言葉を無視して、血の滴るナイフを持ったまま前に出る。

 相変わらず、この感触には慣れそうにない。

 

 どうやら帝国兵たちは、今だになにが起こったのかわからないらしい。いきなり隊長の首が飛んだことに、混乱しているようだ。

 

 俺は淡々と、弓矢を取り出し帝国兵5人の顔を射抜く。

 ようやく状況を理解した帝国兵たちが、臨戦態勢に入る。

 

 数分後、そこには惨状が作られていた。

 

「ひぃ、く、来るなぁ!い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!」

 

 唯一生き残った帝国兵は、その顔を恐怖で歪ませ命乞いをしながら這いずるように後退る。

 俺はそいつの首を掴み持ち上げる。

 

「答えろ、他の兎人族はどこへやった?」

「...は...話すから...助けて...」

「質問に答えろ」

「ぐぇ...多分...全部移送済みだと思う...人数は絞ったから...」

 

 『人数は絞った』つまりそういうことだろう。俺は掴む力を強める。

 

「ま...待って...なんでもする...助け...」

 

 ドパァンッ!

 

 俺が首をへし折るより先に、兵士の頭が吹き飛ぶ。何度か痙攣をした後、動かなくなった。

 

「...ハジメ」

「『なんで』とか聞くなよ?()()()()に行くなら俺も一緒だ」

「.....」

 

 息を呑む兎人族達。俺たちの行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずと俺に尋ねた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

「仮に見逃すと今回以上の兵を連れて来る」

「......それに、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」

「そ、それは...」

「......そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目を2人に向けないで」

 

 ユエは静かに怒っているようだ。守られておきながら、弓人とハジメに向ける視線に負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである。当然といえば当然なので、兎人族達もバツが悪そうな表情をしている。

 

「ふむ、お二方、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな...少々、驚いただけなのだ」

「ユミトさん...ハジメさん...すみません」

 

 シアとカムが代表して謝罪するが、俺は気にしてないという様に手をヒラヒラと振る。

 

 ハジメは、無傷の馬車や馬のところへ行き、兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、せっかくの馬と馬車を有効活用し、魔力駆動二輪を『宝物庫』から取り出し馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとった。

 

 無残な帝国兵の死体はユエが風の魔法で吹き飛ばし谷底に落とした。後にはただ、彼等が零した血だまりだけが残された。

 

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