ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
「あ!そういえば父様やみんなは何処にいますか?」
「う...やっぱ...気になる?」
俺の歯切れの悪い言葉に、シアとユエは首を傾げている。そして、ハジメが観念したかのように俺に話しかけてくる。
「なぁ弓人...あいつら呼ぼう...どうせバレることだ」
「はぁ...分かったよ...」
俺はため息と共に指を鳴らす。すると、周囲から複数の影が飛び出してきた。
「団長!お呼びでしょうか!」
「団長って呼ぶな。シアがお前たちが気になったらしい」
「おおシアか!10日ぶりだな!」
「と、父様...?何だか雰囲気が...それにみんなも...」
今のカムたちは、あの優しげな雰囲気は無くなっており。何処か凛々しさを感じられるようになっている。そして、シアの記憶にあった穏やかな声色ではなく、ハキハキとした力強い話し方になっていた。
「それとリーダー!ターゲットの魔物を狩ってきました!」
「お、おぅ...」
彼らの手には、今回ハジメが試験として指定したここらでは上位の分類に入る魔物の亡骸があった。これで彼らには残すところ俺の試験だけの状態だ。
「ど、どういうことですか!?ハジメさん!父様達に一体何がっ!?」
「お、落ち着け!ど、どういうことも何も...訓練の賜物だ......」
「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!?完全に別人じゃないですかっ!ちょっと、目を逸らさないで下さい!こっち見て!」
樹海にシアの焦燥に満ちた怒声が響く。ハジメはどうにか宥めようとしているが効果はあまりない。そして、俺の方にはユエが近づいてきた、
「......もしかして、さっき歯切れが悪かったのって...」
「まぁ...そういうことだ...」
「......どうしてああなったの?」
「いやぁ...アイツらが俺たちの昔話を聞きたいって言ったから...前世の俺が冒険者の時の話をしたら...」
「......憧れちゃったと?」
「まぁ....うん....」
訓練の合間の休憩時、彼らがどうしてもと言うため。話をしたのが始まりだ。
俺が冒険者として歩んできた話を、彼らは英雄譚を聞く子供のように目を輝かせ聞いていた。そして、俺も悪い気がしなかったので話を続けてた結果。彼らは俺のことを『団長』と呼び始めてきた。
訓練に積極的になったのはいいが前世でも呼ばれることのなかった『団長』呼びは、いまだに慣れない。
「シア...私たちは目が覚めたんだ。」
「父様...」
「もう、逃げて怯えるだけの我々じゃない!だから安心して行ってきなさい!」
「父様!」
確かに、言葉遣いや雰囲気は変わったかもしれない。けれど、彼らは彼女にとって大切な家族のまま変わっていないことを知ったシアは明るい表情を浮かべる。
「シア...すまなかった...訓練の結果とはいえ...」
「本当ですよ!...けど、許してあげます。ハジメさん」
頭を掻き申し訳なさそうにするハジメを、シアは笑顔で許す。一段落つきそうと思った矢先、霧の中から1人のハウリアが飛び出してきた。
「団長!観測隊からの報告があります!」
「団長はやめろ...で?報告内容は?」
「はい!大樹へのルートに、完全武装した熊人族の集団を発見しました!おそらく我々に対する待ち伏せかと!」
「そうか、あの時俺が倒したやつはいたか?」
「いえ!いなかったため!おそらく一部の者の独断かと!」
「そうか...なら丁度いいな」
俺はカムたちの方へ顔を向ける。そして、彼らに俺からの最終試験を言い渡した。
「俺からの最終試験を言う!内容は『お前たちの力のみで熊人族の集団をどうにかしろ』だ!」
「我々の力のみですか?」
「そうだ。俺たちからは何も言わないし、力も貸さない。」
「了解しました!お前たち!作戦会議だ!」
「「「「「了解!」」」」」
彼らは集まり、作戦会議を始めた。すると、後ろからシアが不安そうな顔で問いかけてきた。
「あの...大丈夫でしょうか...?」
「安心しろ、熊人族にやられるような柔な鍛え方はしてない。」
「いえ...そっちではなくて...」
「問題ねぇよ、アイツらは殺しなんかしない。少なくとも今回はな」
そんなことを話していると、作戦会議が終わったカムたちが俺の方を向く。
「団長!我々はいつでも行けます!」
「......もう団長でいいや。んじゃスタート」
「行くぞお前たち!作戦開始!」
「「「「「了解!」」」」」
カムの言葉と共に彼らは霧の中へと消えてゆく。そして俺たちはのんびりとした足取りで熊人族がいる場所へと歩いてゆく。おそらく、俺たちがついた頃には終わっているだろう。
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「何なのだこれは!?一体どうなっているんだ?!」
熊人族の1人レギンは目の前の光景が信じられないでいた。
彼は、熊人族族長のジンの右腕であり、ジンに対して絶対の信頼を寄せていた。
だから、信じられなかった。そのジンが1人の人間に倒されたことが。そして、処刑するはずのハウリアたちに手を出すなと言ったことが。
そのため、彼は族長たちの静止を振り切って、一部の同胞と共に報復へ乗り出した。
その数は50人、仇の人間の目的が大樹であることを知ったレギン達は、もっとも効果的な報復として大樹へと至る寸前で襲撃する事にした。
相手はたかが人間と兎人族。その考えが間違いだったと気付くには遅すぎた。
「2番隊!常に移動し続け撹乱しろ!」
「「「了解!」」」
「族長!例の準備完了しました!」
「分かった!タイミングは俺が指示する!」
「了解!」
四方八方から襲ってくる礫と矢、そして短剣を持ち遅くかかってくるハウリア。そこには温和で平和的、争いが何より苦手な兎人族の面影は皆無だった。必死に応戦する熊人族達は動揺もあらわに叫び返した。
「ちくしょう!何なんだよお前等!!」
「こんなの兎人族じゃないだろっ!」
「うわぁああ!来るなっ!来るなぁあ!」
奇襲しようとしていた相手に逆に奇襲されたこと、亜人族の中でも格下のはずの兎人族の有り得ない強さに動揺が隠せず。ジリジリと追い詰められていく。そして、熊人族全員が1箇所に固まったことで彼らの作戦は完了した。
「今だ!やれぇ!」
カムの叫びと共に上空から熊人族に覆い被さってくる網。突然の事に、冷静な対処が出来ずもがく熊人族。だが、彼らにハウリアたちが弓を向けたことで、彼らはもがくのをやめて降伏した。
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「終わったみたいだな。」
俺たちがついた頃には、戦闘は終了しており。熊人族は武器を取り上げられて縄により拘束されている。
力づくで引きちぎることは可能だろうが、少しでも変な動きをしようものなら、すぐさまハウリアたちが動くだろう。
「団長、負傷者は0で熊人族全員の拘束が完了しております」
「あいよ、...んであんたがリーダーかな?気分はどうだい?」
俺は、主犯格であろうレギンに問いかけると。俯いていたレギンは顔を上げ口を開いた。
「......俺はどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、部下は俺が無理やり連れてきたのだ。見逃して欲しい」
「なっ、レギン殿!?」
「レギン殿!それはっ...」
レギンの言葉に部下達が途端にざわつき始めた。レギンは自分の命と引き換えに部下達の存命を図ろうというのだろう。動揺する部下達にレギンが一喝した。
「だまれっ...頭に血が登り目を曇らせた私の責任だ。兎人...いや、ハウリア族の長殿。勝手は重々承知。だが、どうか、この者達の命だけは助けて欲しい!この通りだ」
額を地につける勢いで頭を下げるレギン、カムは少し考えるそぶりをしてレギンに告げた。
「お前たちは誰も殺さない...だが、1つ条件がある」
「......なんだ?」
「ここであったことを包み隠さず長老たちに報告しろ」
「なっ!?お前...まさか!」
「そうだ。お前たちには生き恥を晒してもらう」
レギンはしばらく唸った後、カムの条件を飲んだ。彼らは拘束から解放されると、足取りを重くしながらフェアベルンへと帰還しようとする。
「待ってくれ。俺から長老たちに1つ伝言がある」
「分かった...その伝言は?」
「『貸し1つ』」
「っ!...分かった...必ず伝えよう」
こうして熊人族が完全に姿を消したのを確認して、俺はカムたちの方を向く。カムたちは何処か緊張したような顔つきで俺を見ている。
「お前ら合格。おつかれ」
「......へ?」
「どうした?喜ばないのか?」
あまりにもあっさりとした俺の合格宣言に、全員が呆然としていた。だが、段々と実感したのか全員の体が震え始め、そして。
「「「「「やったーーーーー!!!!!!」」」」」
歓喜の叫びが、森中に響いた。
裏話
彼らが強くなって調子に乗り始めた時には
ハジメと主人公がボッコボコにしてその自信をへし折ってました。
だから合格通知が貰えるまで「俺たちって本当に強くなってるの?」な心情です