ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
現在、俺たちは森から離れバイクを走らせている。なぜ迷宮から離れているかというと。今の俺たちでは迷宮に入ることができなかったからだ。
ハウリアたちの案内で大樹へとたどり着いた時、その大樹は完全に枯れており、迷宮の入り口らしきものは見当たらなかった。
そして、大樹の根元に建てられていた石板を見つけ近づくと、オルクスの指輪に反応し文字を浮かび上がらせた。
『四つの証』
『再生の力』
『紡がれた絆の道標』
『全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう』
これにより俺たちは、『再生に関する神代魔法を手に入れ、4つ以上の迷宮を攻略する必要がある』と仮定し、シア以外のハウリアたちにはこの森の防衛を頼み、他の迷宮の攻略へ目的を変更した。
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「あの、ハジメさん」
「ん?どうした?」
「次の目的地って決まってるんですか?」
「そういや言ってなかったな。次の目的地は【ライセン大峡谷】だ」
ハジメの告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。次の目的地はそのどちらかだと思っていたのだろう。その疑問を察したのかハジメが意図を話す。
「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからな。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだし、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろ?」
「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか...」
思わず頬を引き攣らすシア。つい先日一族が全滅しかけた場所でもあるため、そんな場所を唯の街道と一緒くたに考えている事に内心動揺する。
「お前なぁ、少しは自分の力を自覚しろよ。今のお前なら谷底の魔物もその辺の魔物も変わらねぇよ。ライセンは、放出された魔力を分解する場所だぞ?身体強化に特化したお前なら何の影響も受けずに十全に動けるんだ。むしろ独壇場だろうが」
「それに、戦闘はユエから合格貰ったんだろ?」
「......師として情けない」
「うぅ~、面目ないですぅ」
俺たちから呆れられた視線を向けられ、シアは無理矢理話題を逸らす。
「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」
「そうだな...食料とか調味料関係を揃えたいし、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があったと思うんだよ」
「はぁ~そうですか...よかったです」
ハジメの解答に安堵のため息を吐くシア。それに対して訝しそうに「どうした?」と聞き返すハジメ。
「いやぁ~、ハジメさんとユミトさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして...ユエさんはハジメさんかユミトさんの血があれば問題ありませんし...どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。ハジメさんたちもまともな料理食べるんですね!」
「おい待て、俺はただの人間だから魔物の肉を食ったら死ぬわ」
「ただの人間は完全武装した父様たちを素手で全滅させませんよ!」
「だな、それには同意だ」
「......同じく」
「ひっでぇ...」
ある意味、非常に仲の良い様子で騒ぎながら草原を駆ける俺たち。
日も落ちてきた頃、前方に町が見えてきた。どうやら野宿をせずにすみそうだと俺たちは顔を綻ばせ町へと近づいていく。
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「あ、そうだハジメ。プレートの隠蔽しとけよ」
「あっ、忘れてた。よく覚えてたな?」
「メルド団長が教えてくれたんだよ。まぁ俺のは表記の仕方から隠蔽の施しようがなかったんだが」
「おい!?じゃあどうすんだよ!」
「まぁ、なんとか言いくるめするさ」
「お前なぁ...あぁそうだ。シアこいつをつけてくれ」
「え...もしかしてプレゼントですか!ありがと...ってはあああ!?」
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「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
町の門へとたどり着くと、そこには門番らしき男が俺たちを止め。おそらく規定通りの質問を投げかけてきた。それに対してハジメが門番に対応した。
「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」
そう言ってハジメはプレートを提出する。ステータスの隠蔽が施されているが男は特に気にした様子もなくプレートを返却した。
「じゃあ次はお前たちの方を見せてくれ」
「あ〜...それなんだが...ちょっと問題があってな」
「うん?」
俺の言葉に、眉を吊り上げる男。それに対して俺は嘘の理由をつけた。
「ちょっと前に魔物に襲われてな、その時に壊れたみたいでよ」
「こ、壊れた?」
「そうそう、ホレ」
そう言って俺は隠蔽の施されていないプレートを渡した。何処か疑いの眼差しを向けていた男も、俺のプレートを見ると目を白黒としていた。
「本当に壊れてるな...」
「だろ?しかもこいつのプレートも無くしちまうし本当についてねぇ...」
「そうか...じゃあその兎人族は...そういうことか」
「そゆこと」
「なるほど、随分な綺麗どころを手に入れたな。まあいい、通っていいぞ」
こうして一悶着あったが、俺たちは無事に【ブルックの町】へ入ることができた。
町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。
こういうのを見ると、ようやく『戻ってこれた』と実感することができる。ハジメたちも実感しているのか1人を除いて全員の気分が高揚していた。
「なぁ...そろそろ機嫌直してくれよ...」
「つーん!」
「仕方ないだろ...兎人族は奴隷として人気あるんだから...」
「つーーん!」
「しかもお前は白髪で物珍しい上、か...可愛いんだし...」
「かわっ!?......つーーーん!」
結局、『叶えられる範囲で1つお願いを聞く』という条件で彼女の機嫌はようやく直った。
どうしてこうなったか知らんがとにかくヨシ!(現場猫)