ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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34星:迷宮最後の試練【半月】

 

「さぁ、第二ラウンドと行こうか!」

 

 その言葉と共に、ミレディはモーニングスターを射出し自身も俺たちに向かって突撃して来る。

 

「ハジメさん!ど、どうしましょう!?」

「まだ策はある。その為にも...弓人!」

「任せろ!」

 

 襲いかかって来るモーニングスターを俺は全力で殴りつける。ミレディの拳の時とは比にならない衝撃が周囲を襲う。

 

「えぇ...流石にこれも止められるのは想定外なんですけど」

「おい!ちょっと引いてんじゃねぇよ!」

「だって私の武器にヒビ入ってるじゃん...怖」

 

 戦闘中なのに少し泣きそうだ。しかし少しでも気を抜いたら力負けしそうなほど、今回の力比べは拮抗している。ゴーレムの彼女とは違い生身である俺は体力という限界があるため長くは持たないだろう。

 

「良し。ユエ!シア!弓人が抑えてるうちに行け!...大丈夫だ弓人。俺は引かないぞ」

「......ん。ユミト、私も引かない」

「行きます!...私もですよ!」

「慰めの言葉をかけるのはやめろぉ!」

 

 全員からの同情した視線に心が痛む。

 

 ユエとシアは、俺が受け止めているミレディの腕に乗り走る。ミレディは攻撃を中断しそれを煩わしげに振り払おうとする...が

 

「......当然読んでる」

「ハジメさん!」

「喰らいやがれ!」

 

 それを予測していたハジメは、シュラーゲンをミレディに向かって放つ。電磁加速された弾丸は、爆音と共にミレディに叩き込まれる。

 

「うわぁ!?」

「行け!シア!」

「はいです!」

 

 ハジメの言葉に反応して飛び出したシアは、ドリュッケンをミレディの右肩へと叩き込む。

 

「そして...こうです!」

 

 ドリュッケンの口から大量の爆薬が炸裂し爆音を轟かせる。ハジメのシュラーゲンとシアの叩きつけ、2つのインパクトによってミレディはバランスを崩してしまう。

 

「......ナイス、シア」

 

 ユエは、バランスの崩したミレディに向かって水の刃を放つ。しかし、その刃はミレディの両腕を切り裂いた。

 そして、ミレディが落下してしまい空中に投げ出されたシアはハジメが、ユエは俺が抱き止める形でキャッチする。

 

「......作戦成功」

「だな、この調子で終わらせよう」

「ハジメさん!私頑張ったので褒めてください!」

「調子に乗んな...これが終わったらな」

 

 近場の足場に着地し、ミレディを見据える俺たち。ミレディは、即座に修復をしたりせず、天井を見つめたまま目を強く光らせていた。

 

 この瞬間、再び俺の【直感】が危険信号を放ち始めた。それを裏付けるようにシアの表情が青ざめる。

 

「皆さん!逃げてください!天井が降ってきます!」

 

 その直後、それは起こった。

 

 空間全体が鳴動する。低い地鳴りのような音が響き、天井から破片が落ちてくる。

 

「っ!?こいつぁ!」

「ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に〝落とす〟だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~」

 

 地響きが止まると同時に、天井のブロックが落ちて来る。しかもそれは、ただ落ちるのではなく俺たちに向かって落ちるような軌道をしていた。

 

「シア!振り落とされないようしっかり掴んでろ!」

「はいです!」

「ユエ、少し荒っぽくなるかもしれないが我慢な」

「......ん、気にしないで」

 

 ハジメはオルカンを再び取り出すと、ロケット弾を全発放つ。それにより大量の爆発と共にブロック群が粉々になっていく。

 

 そして、密集していたブロック群に綻びが見えたため、俺たちは落ちて来るブロックを乗り移りながら回避する。

 

 そして、この調子なら問題ないと思えた瞬間。再び【直感】が働く。俺は反射的に仰反ると俺の顔があった位置に、ブロックの破片が恐ろしい速度で通り過ぎた。

 

「弓人!?」

「問題ない!ギリギリ回避できた!」

 

 しかし、このままだと不味い。未だ落下し続けて来るブロック群に加え、砕いた破片にも意識を割かないといけない。()()()()()()確実に押し潰されてしまう。

 

「ユエ...ハジメの方に行ってくれ」

「......なんで?」

()()を使う。並列詠唱のできない俺は詠唱で動けない...だからハジメの方に行くんだ」

「だめ!......ユミトが危ない...」

「安心しろよ。お前たちを残して死んだりしない」

 

 しばらくしがみついたまま離れようとしないユエ。しかし、俺が安心させるために頭を撫でてやると、渋々といった形ではあるが離れてハジメの方へ移った。

 

「弓人...やるんだな?」

「あぁ、だから何があっても信じてくれ」

「分かった...」

 

 ハジメの方もこのままでは不味いと思っていたのか特に言及はしてこなかった。俺の()()を知らないシアは足を止めた俺を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

「ユミトさん!?な、なんで!?」

「シア、弓人なら大丈夫だ」

「けど...ハジメさん!」

 

 シアが止まるよう叫ぶがハジメは無視して走り続ける。ミレディは、俺が止まったのをチャンスだと思ったのかブロック群を俺めがけて落とし始める。

 

「『我が宿命、月女神に請い願う。』」

 

「『肉体に剛力を、精神に冷徹を。』」

 

「『そして我が運命をここに定めよう。』」

 

「『其は、女神の無垢な加護。』」

 

 俺が詠唱を完了しきると同時にブロック群が俺に落とされ、俺のいる場所にブロックの山が完成された。

 

「急に止まったのは分かんないけど...一番厄介だった彼が最初にいなくなっちゃったか〜」

「まるであいつが死んだみたいな言い方だな?」

「いくらあのフィジカルでも〜、あれを食らって無事なやつはいないでしょ?」

「そうか...なら教えてやるよミレディ・ライセン」

 

 ブロックの山から地響きが聞こえる。

 

「俺の親友...三星弓人は」

 

 ブロックの山の内側から何か衝撃が生まれている

 

「その程度じゃ死なねぇよ」

 

 そして、ブロックの山が内側から吹き飛ばされた。

 


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