ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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普段礼儀正しい敬語の子が特定の人物にだけ口調を崩すのって良くないですか?



本編です


36星:人工呼吸

 

 現在、俺たちは激流に身を任せて密着している。

 

 ミレディの住処から流されて地下トンネルのような場所で息を止め...約1名は違う意味で息ができていないが水中を進んでいる。

 

 すると、ハジメをホールドして密着状態を堪能していたシアが視界の端に何かが見え、そこに顔を向けると。

 

 人面の魚と目があった。

 

 人面...しかもおっさん面の魚と目が合う。そんな情報量の多い状態に、シアは背景に宇宙が見える状態で固まっていると

 

(ちっ...何見てんだよ)

「ぶふぉあ!?」

 

 突如シアの脳内に舌打ち付きの声が響いた。思わぬ不意打ちにシアは盛大に息を吐き出してしまった。

 そしてハジメは、突如シアの抱きしめてくる力が弱まったため顔を真っ赤に染め睨みつけた瞬間、シアは意識を失っていたため。大慌てで抱き寄せていた事を前方で流されていた俺とユエは知るよしもない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ここは、ブルックの町とその隣町の中間にある街道。そこに1台の馬車と数頭の馬が進んでいた。

 

「ソーナちゃぁ~ん、もうすぐ泉があるから其処で少し休憩にするわよぉ~」

「了解です、クリスタベルさん」

 

 数名の冒険者に護衛されながら、弓人たちが泊まった『マサカの宿』の看板娘ソーナとシアの服を購入した服飾店の店長クリスタベルという漢乙が隣町からブルックの町へと帰還していた。

 

  ブルックの町まであと一日といったところ。クリスタベル達は、街道の傍にある泉でお昼休憩を取ることにした。

 

 泉に到着したクリスタベル達が、馬に水を飲ませながら自分達も泉の畔で昼食の準備をする。ソーナが水を汲みに泉の傍までやって来た。そして、いざ水を汲もうと入れ物を泉に浸けたその瞬間、

 

 突如、泉の中央が泡立ち一気に水が噴き出始めた。

 

「きゃあ!」

「ソーナちゃん!」

 

 悲鳴を上げて尻餅をつくソーナに、クリスタベルが一瞬で駆け寄り庇うように抱き上げ他の冒険者達のもとへ戻る。そして全員が警戒する中、ついに水泡の正体が出現した。

 

「ぶはぁ!」

「.....けほっけほっ」

「おいシア!しっかりしろ!」

「.........」

 

 魔物だと警戒していたその正体はただの人間だったことに、全員が呆然としている中、その人物に見覚えのあるソーナは驚きの声を上げた。

 

「師匠!なんでここに!?」

「ん?...ってお嬢ちゃんじゃねぇか。ていうことはここはブルックの町か?」

「い、いえ...ここはブルックの町と隣町の間にある泉です」

「あ〜...それじゃすぐに風呂は入れそうにないなぁ...」

 

 そんな緊張感のかけらもない雰囲気に、冒険者とクリスタベルはため息と共に脱力した

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「シア! くそ...息をしてねぇぞ」

「......シア!お願いだから目を覚まして!」

 

 俺たちは水面から上がり、意識のないシアを仰向けに寝させる。シアは、顔面蒼白で白目をむき呼吸と心臓が停止していた。よほど嫌なものでも見たのか、意識を失いながらも微妙に表情が引き攣っている。

 

「ユエ、人工呼吸を!」

「……じん…何?」

「あ~、だから、気道を確保して…」

「???」

「くそ...この世界には心肺蘇生がないのか」

 

 ハジメは覚悟を決め、シアの口に自身の口を合わせ人工呼吸を開始した。

 

「ハジメ!?急に何を...」

「大丈夫だユエ。あれは人工呼吸、息をしていない奴にあんな風に空気を送り込んで呼吸させる方法だ」

「......あれでシアは助かるの?」

「手遅れじゃなかったら...俺たちは知識として知っているが実際にやるのは初めてだろうしな」

 

 何度目かの人工呼吸のあと、遂にシアが水を吐き出した。水が気管を塞がないように顔を横に向けてやるハジメ。体勢的には完全に覆いかぶさっている状態だ。

 

「ケホッケホッ...ハジメさん?」

「おう、ハジメさんだ。ったくこんなことで死にかけてんじゃっ!?」

 

 ハジメが安心した、表情をしていると突如ハジメは突き飛ばされる。そしてシアは顔を真っ赤に染めて自身を抱きしめるようにしながら後方を後ずさる。

 

「なななななな...何してるんですか!?人が抵抗できないからって!!!」

「あれは歴とした救命措置で...って、お前、意識あったのか?」

「いえ...意識はなかったですけど分かるんです...ハジメさんが私に...キキキキキスしたって!」

「あれはあくまで救命措置であって、深い意味は...」

「はぁ!?寝ている人にキスする救命措置がどの世界にあるのよ!?」

「俺らの故郷にはあったんだよ!」

「だ...だからって!私初めてだったんだけど!!!」

「そ...そんなもん俺もだよ!」

「え...け、けど!あんなのが初めてなんて嫌!やり直しよ!」

「あぁ良いぜ!やってやるよ!」

 

 顔を真っ赤にして言い争いしていると、突如シアは目を瞑り唇を突き出す。ハジメは売り言葉に買い言葉と言わんばかりにシアの肩に手を置く。そして...視線を感じたためそこを見ると。

 

「師匠!私たち凄いものを見ています!」

「あら〜、若いって良いわね〜」

「......大胆」

「抱けー!抱けー!」

 

 野次馬根性丸出しで俺たちが見ていた。ハジメは一瞬固まるとわなわなと震え出し、腰のホルスターからドンナーを取り出した。

 

「てめぇら!何見てんだ!」

「やっべバレた!逃げるぞお前ら!」

「......ちっ」

「お、お邪魔しましたぁ!」

「ごめんなさいねぇ〜」

「逃げてんじゃねぇ!てめぇら皆殺しだあああ!!!」

 

 全力で逃げる俺たちを、ハジメは顔を真っ赤に染め上げ追いかける。取り残されたシアは半目でハジメの背中を睨んでいた。

 

「......いくじなし。けど...そっか、ハジメさんも初めて......えへへ」

 





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