ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
前回書き忘れていたおまけ
「なぁ、シア...もしかして弓人やユエも呼び捨てにするのか?」
「ううん、この私を見せるのは......ハジメだけだよ」
「〜〜〜!耳元で囁くのはやめてくれ!」
「もしかしてハジメ照れてる? いつもはカッコいいのに可愛いね」
「お、お前ぇ!」
「きゃー!」
37星:次なる目的地へ
現在俺は、情報収集のためにブルックの町にある市場へ足を運んでいる...というのは建前で。
ハジメはミレディから貰った鉱石で新しい兵器の作成。シアとユエはガールズトークに花を咲かせているせいで俺だけが手持ち無沙汰だったためである。
俺は適当にぶらつきながら、目に入った青果店へと近づいていく。
「よう、儲かってるか?」
「おぉあんちゃん。今日は彼女と一緒じゃ無いのか?」
「悲しいけどユエとはそんなんじゃねぇよ。...ん?なんかいつもより品揃えが良いな」
「おっ、やっぱり分かるかい?これも『豊穣の女神様』の賜物だよ」
「『豊穣の女神様』?なんだよそれ」
聞きなれない単語に反応すると、青果店の親父は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。
「仕入れ先から聞いた話なんだけど、希少な作農師の天職を持った女性が各地の農村や未開拓地に足を運んでいるんだってよ」
「そんで流通量が増えたから、ここの品揃えも良くなったって訳か」
「そういうことだ。それでその女性がえらい別嬪さんらしいから誰かが『豊穣の女神様』って言い始めてそれが広まったらしい」
「別嬪さんねぇ...」
俺は作農師で1人心当たりがいたが、別嬪さんという言葉に人違いだと結論をつける。あの人は確かに容姿は整っているが別嬪というより可愛らしいの方に部類されるだろう。
「ふーん...他になんか珍しい話とか無いか?」
「珍しいねぇ...そういえば『ウル』って町に珍しい料理を出す店があるって話を聞いたな」
「珍しい料理ねぇ...どんな料理なんだよ」
「たしか麦とは違う穀物を使った料理って聞いたな...」
「っ! それって『米』じゃないか!?」
「おぉそれだ!『コメ』だ『コメ』」
それを聞いた瞬間、俺は親父に『ウル』の場所とその店の名前を聞き。ハジメたちのいる宿へと急いで戻った。
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「...よし、新しい兵器も弓人に頼まれてた剣も完成したな」
「終わった? じゃあさハジメ、デート行こうよ!」
集中していた作業も終了し、一段落ついていたハジメにシアが後ろから抱きついてくる。
「デ、デート!?い...いや、弓人が戻ってきたらこいつを渡したいし...」
「あ...そ、そうだよね...ごめん」
「い、いや!別にシアとのデートが嫌なわけじゃ無いぞ!むしろ行きたいというかなんというか...」
「...ふふふ、ごめんごめん!ちょっとからかっただけで気にしてないよ」
「なっ...お前なぁ!」
「きゃー!たすけてー、おそわれちゃーう!」
「......ふふっ、2人とも楽しそう」
シアがハジメに対して言葉を崩して以降、こうしてシアがからかってハジメもどこか満更でもない距離感になっている。それをユエは微笑ましそうに見ていると突如部屋の扉が勢いよく開けられた。
「ハジメ!『ウル』に行くぞ!」
「うぉ!?びっくりしたぁ!」
「......どうしてウルに行くの?」
「それはなユエ...ウルには米を出す店があるらしい」
「本当か弓人!?」
俺の言葉にハジメが反応して、大きく目を見開く。
「あぁ、市場の奴に聞いた話だと確かな筋らしい」
「ねぇハジメ、コメって何?」
「米っていうのは、俺たちの故郷で主食だった食いもんだ」
俺たちが故郷で食べてたもの、その言葉に2人は反応し興味を持った。
「......食べてみたい」
「そうですねユエさん。ユミトさん、ウルにはどれくらいかかるんですか?」
「そうだな...話によると馬車で6日かけて『フューレン』に行って。その後更に3日ほどかければ到着するらしい」
「じゃあ、バイクでも2、3日かかるかもな...よし、準備を済ませて明日行こう」
「そうこなくっちゃな」
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この町へ来てから1週間、ここの冒険者ギルドには世話になったため。礼も兼ねて顔を出しにいくと。
「おや? 今日は全員いるのかい?」
「ああ。明日にでも町を出るんで、あんたには色々世話になったし、一応挨拶をとな。ついでに、目的地関連で依頼があれば受けておこうと思ってな」
ハジメの言葉に、受付の女性...キャサリンが驚いた顔をし、俺たちを見ていた周囲の男性冒険者たちに動揺が走った。
「な!? それは本当か!?同志ユミト!」
「あんたがいなかったら!
「頼む!行かないでくれぇ!」
懇願する男性冒険者たちの前に立ち、俺は口を開く。
「お前たち...俺は新たな『浪漫』を探しに行く!だからここでお別れだ!」
「「「同志ユミトおおおおおおおお!!!」」」
「私はあの子が捕まらないか心配で仕方ないよ...」
「俺が殺してでも止めるから安心してくれ」
馬鹿を見る目を向けてくるハジメと、女性たちを極力無視して。俺は受付に顔を戻す。キャサリンは何か言いたげだったが、言っても無駄だと感じたのかため息をして話を変える。
「で、何処に行くんだい?」
「ウル、そのためにも1度フューレンを経由する」
「フューレン...なら丁度いいのが1つあるよ」
キャサリンはその言葉と共に、1枚の依頼書を見せてくる。その内容は、商隊の護衛依頼だった。
「空きは丁度2人だけど、受けるかい?」
「連れを同伴するのはOKなのか?」
「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃん、シアちゃんも結構な実力者だ。2人分の料金でもう2人優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」
「そうか...どうする?弓人」
「う〜ん...どうすっかなぁ...」
正直金には困っていないし、移動するならバイクを走らせた方が早い。そう考えていると。袖を引っ張られ、目を向けるとユエがこちらを見ていた。
「......急ぐ旅じゃない」
「そうですね。ハジメ、私こういう依頼やったことないからやってみたいな」
「とのことだが弓人、依頼受けてもいいか?」
「良いぞ、別に俺も急いでいる訳じゃねぇしな」
「決まりかい?先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」
「了解した」
ハジメが依頼書を受け取ると、キャサリンは何かを思い出したかのように1通の手紙を渡してきた。
「これは?」
「あんたたち、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」
「お偉い人にって...あんた何者だよ?」
「悪いけど詮索は受け付けないよ。良い女には秘密が付き物さね」
「ははは!違いねぇ!」
「素直でよろしい!色々あるだろうけど、死なないようにね」
謎多き、片田舎の町のギルド職員キャサリン。ハジメ達は、そんな彼女の愛嬌のある魅力的な笑みと共に送り出された。
こうして俺たちは、世話になった人たちへ挨拶に回った。
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おまけ(没茶番)
「えー!?師匠行っちゃうんですか!?」
「そうだ、だからここに泊まるのも最後だ」
「そんなぁ...私まだ師匠に聞きたいことが沢山あるのに...」
「我が弟子、お前には俺の全てを教えた。後はお前の努力だ」
「師匠.........けど、そこのお兄さんのせいで1度も成功してないですよ」
「お前にはこの言葉を教える...『手に入らないからこそ。美しいものもある』」
「師匠!」
「うーわ、言葉単体で聞くと良いこと言ってるのに、ユミトさんが言うと一瞬で最低なものになってるよ」
「あいつ...前世思い出してから色んな意味でぶっ飛んでないか?」
「......ユミト、めっ!」
「あ、はい。ユエさんすんません」