ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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38星:護衛任務

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「...もっとユンケル?...商隊のリーダーって大変なんだな」

 

 彼の名前から、某栄養ドリンクを思い出したのかハジメの視線が優しい。だがそんなことを知る由もないモットーは首を傾げている。

 

「まぁ、期待は裏切らないと思うぞ。ユンケルさん、他の冒険者はどこにいるんだ?」

「他の方は馬車の方で待機してますが如何されましたか?」

「ちょっと護衛の打ち合わせにね。そういうことだからハジメ、ちょっと行ってくるわ」

 

 俺はそう言うと、ハジメの返事を待たずに冒険者たちの方へ近づいていく。

 

「お前ら、今回の護衛の打ち合わせをしたいから誰か通行ルート知ってる奴いるか?」

「それなら俺が知ってる。説明するから地図を見せてくれ」

「後は、馬車の外に....」

「交代の時間は....」

 

 地図を囲んで、冒険者たちと話している俺を見て。ハジメとユエは感心したように、そしてシアは信じられないものを見る目で俺を見ていた。

 

「え?ハジメ、あれ本当にユミトさん?そっくりさんとかじゃなくて?」

「お前なかなかに失礼だな...そういえば前世は冒険者って言ってたからその経験か?」

「でもユミトさんってあれじゃん。考えるより殴ってみろってタイプじゃないの?」

「......ユミトはそんなんじゃない」

「あ、ごめんなさい...ってユエさん、怒ってます?」

 

 3人がそんなことを話しているとは知らない俺は、打ち合わせも終わり3人の所へ戻っていく。

 

「打ち合わせが終わった。とりあえず今日、俺たちは馬車で待機すれば良い」

「了解だ」

「中々の手際、『青』と聞いていたのですがキャサリンさんが仰ってた通り優秀な冒険者だ」

「昔取った杵柄だよ」

 

 そして出発する時間が近づいてきたため、俺たちは馬車に乗り込む。

 

 こうして、フューレンまでの護衛が始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 現在、護衛開始から3日経過しているが、順調に進んでいる。

 

 今日も、特に問題が発生することなく野営の準備が行われていた。

 

 本来護衛系の仕事をする際、周囲の警戒をしながら食事をとるため、商人とは離れて簡素な携帯食で済ませることが多いのだが。今日はシアが作ったシチューとふかふかなパンを冒険者たちに振る舞っていた。

 

「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

「私はもうハジメのものだから嫌でーす」

「ホント兄ちゃんが羨ましいぜ! あんなに可愛くて料理も上手い! 最高の嫁さんだな!」

「嫁!?待て待てシアとはまだそんなんじゃ」

「『まだ』ってことは時間の問題だな」

「やめろぉ!」

 

 最初の時は遠慮しがちだった冒険者たちも、今ではハジメを弄るくらいに溶け込んでいる。ハジメは賑やかな食事が嫌いではないため、揶揄われて顔を赤くしているが嫌とは一度も言っていない。

 

 こうして、3日目も平和に過ぎていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 更に2日経過して、残すところ1日になった日、俺の探知に反応が現れた。

 

「森の方から魔物の群れが来る。数は100以上か?」

 

 俺の言葉に周囲の冒険者たちに緊張が走る。現在俺たちが進んでいる道は、大陸1の商業都市へのルートであるため、整備が整っており危険な場所ではない。魔物が出る話を聞いても大体は20前後、多い時でも40前後がほとんどだ。

 

「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

 護衛隊のリーダー...ガリティマが、いっそ隊の大部分を足止めにして商隊だけでも逃がそうかと考え始めた時、その考えを遮るように提案の声が上がった。

 

「大丈夫だ。俺たちでやる」

「えっ?」

 

 まるで気負った様子を見せない俺に、ガリティマはつい間抜けな声で聞き返した。

 

「だから大丈夫だって。俺たちでやるから」

「いや、お前たちは『青』なんだろ!?ただでさえ100という異常な数なんだ!いくら腕に覚えがあると言っても」

「これは見せたほうが早いな...ユエ、頼むわ」

「......ん」

 

 ガラティマを無視して俺たちは魔物たちが来る方向をむく。ガリティマは俺の話を信じていないため、ユエの魔法を放ったあといつでも出れるように冒険者たちに指示をしている。

 

「あっ...ユエ、魔法打つときには形でも良いから詠唱しとけ」

「......詠唱?......えいしょう」

「もしかして知らないとか?」

「......大丈夫、今考えた」

「なら良い、接敵10秒前だ」

 

 ユエは右手を森の方へ向けると、唄うように詠唱を開始した。

 

「『彼のもの、奈落の暗闇を月光で照らす』」

 

「『古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん』」

 

「『天すら撃ち落とす矢とならん』」

 

「『我、最強の片割れなり』」

 

「『雷竜』」

 

 ユエの詠唱が終わり、魔法が放たれる。その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れた。その姿は、蛇を彷彿とさせる東洋の龍だ。

 

 そしてユエが腕を振り下ろすと共に、雷の龍は魔物の群れがある方向へと襲い掛かる。

 

 その瞬間、轟音が周囲を叩きつけた。

 

「うわっ!?」

「どわぁあ!?」

「きゃぁあああ!!」

 

 轟音と龍が爆ぜたことによる光で、全員が耳を押さえ目を閉じる。そして目を開けると。焦土が出来上がっていた。

 

「......やりすぎた」

「おいおい、あんな魔法、俺も知らないんだが...」

「ユエさんのオリジナルだってさ、ユミトさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたんだって」

「ユエ、あの詠唱式はなんだ?」

「......ユミトの真似、嫌だった?」

「嬉しいよ。ありがとな」

 

 頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める。周囲が静かなため冒険者たちの方を向くと、そこには目を点にした冒険者たちが次々と再起動し始めた。

 

「おいおいおいおいおい、何なのあれ? 何なんですか、あれっ!」

「へ、変な生き物が...空に、空に...あっ、夢か」

「へへ、俺、町についたら結婚するんだ」

「動揺してるのは分かったから落ち着け。お前には恋人どころか女友達すらいないだろうが」

「魔法だって生きてるんだ! 変な生き物になってもおかしくない! だから俺もおかしくない!」

「いや、魔法に生死は関係ないからな? 明らかに異常事態だからな?」

「てめぇ、ユエが異常だとぉ!?」

「ユミトの旦那!?」

「お前らに教えてやる!ユエは天使、これで全て解決だろうが!」

「「「「なるほど!流石はユミトの旦那!」」」」

 

「ここにはバカしかいないのか...」

「ユミトさん...」

「.......天使、えへへ」

 

 こうして馬鹿たち(おれたち)を連れて、護衛任務は無事遂行された。

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