ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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現状、主人公のユエに対しての感情

「妹みたいなもん、ユエが俺に甘えてくるのも家族の温もりとかが寂しいからだろうな」
「......むぅ」
「いて、なんで殴るんだよ?」
「......知らない!........バカ」


39星:冒険者ギルド フューレン支部にて【上弦】

 

「あなた達のお陰で無事到着できました。またご縁が有ればよろしくお願いします」

 

 フューレンに入るために、門の行列に並んでいると。モットーが一足先に感謝の言葉を俺たちに言ってきた。

 

「依頼だからな。まぁ気にすんな」

「それでもですよ。お嬢さんのお陰で馬車を捨てたりせず済みました。ありがとうございます」

「......ん、どういたしまして」

「では、こちらが今回の報酬となります。」

 

 モットーはそう言いながら報酬の入った袋を渡してくる。俺はそれを受け取り中身を確認すると、依頼者に提示されていた額より多く入っていた。

 

「何か多くねぇか?」

「お連れ様の分、色をつけさせていただきました。流石に4人分は我々も生活があるので入っていませんけど...」

「いや、十分すぎる。悪いな何から何まで」

「なら、そのアーティファクトを手放すことがある際、ぜひ我々に売っていただけると幸いです」

「商魂逞しいねぇ...覚えておくよ」

「後、お嬢さんの魔法...竜を模したとおっしゃってましたが教会に知られると色々と面倒になりますのでお気をつけて」

「......ん」

 

 こうして話していると、ついに俺たちの番になりモットーが手続きを済ませる。そして俺たちは無事にフューレンに入ることができた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ようこそ、冒険者ギルドフューレン支部へ。案内人のリシーと申します」

「そうそう、こう言うので良いんだよ」

「ハ〜ジ〜メ〜?」

「うっ...シア...これは男なら誰しも考えるシチュエーションというか...」

 

 容姿の整っている案内人の女性を見て、ハジメは「これぞファンタジー」と言わんばかりに頷いていると、シアから睨まれ目を逸らしながら言い訳を始める。

 

「あ〜、うちの連れが悪いな。宿を探してるんだがお勧めとかあるか?」

「お勧めですか...それなら観光区の宿をお勧めします。少々値は張りますがサービスはかなり良いものとなっています」

「なら観光区の中で、『飯が美味い』『風呂がある』『責任の所在が明確』な宿はあるか?」

「少々お待ちください....って責任の所在ですか?」

 

 おそらく前半2つの質問はよく聞かれるのだろうが最後の質問は聞かれたことがないのだろうか首を傾げている。

 

「そそ、うちの連れは見ての通り目立つからな。まぁ保険だし難しそうなら考慮しなくていい」

 

 俺の言葉に、リシーは俺の側でサンドイッチを頬張っているユエと未だにハジメへ詰め寄っているシアを見て納得する。

 

「それなら警備が厳重な宿を紹介しましょうか?」

「それでも良いんだが...欲望に目が眩んだ奴が力づくで! とかになったときにこっちも抵抗するからなぁ...」

「なるほど、そのための責任の所在ですね。かしこまりました。他になにか要望はございますか?」

 

 リシーがそう言うと、ユエはサンドイッチを頬張るのを止めて要望を言う。

 

「......ベットは大きいほうがいい」

「ユエさんって、ベッドが大きいほうが好きなんですか?」

「......小さいと落ちそうになる」

「それは俺のベッドに入り込んでくるからだろ」

「......ユミトと寝る」

「だから誤解を生む言い方はやめなさいっての!」

 

 ユエの言葉に周囲から嫉妬の視線が俺を襲う、目の前のリシーも顔を赤くさせながら俺の方をチラチラとみている中、どこか粘着質で気持ち悪い視線を1つ感じた。

 

 ハジメも感じたようで同じ方向を見ると、そこには太っていてお世辞にも清潔とは言えないような男がユエとシアにむけて気持ち悪い視線を向けていた。

 

「げっ...」

「リシーちゃん。あいつ知り合い?」

「知り合いというかあの方は...」

「お、おいガキども!」

 

 リシーから説明を聞こうとした瞬間、目の前の男は金切り声を上げながら俺たちに話しかけてきた

 

「100万ルタやるから、その兎をこ、こっちに渡せ。そ、そっちの金髪は、わ、私の妾にしてやるから。い、一緒にこい」

「「あ゛?」」

 

 いきなり意味のわからないことを言い始めた豚を睨みつけてやると、豚は悲鳴を上げながら後方へ倒れ込む。反応を見るにハジメが『威圧』を使ったのだろう

 

「ごめんねリシーちゃん。宿は自分の足で探すことにするよ」

「え? あ、はい」

 

 『威圧』の範囲をあの豚のみにしていたため、要領を得ていない生返事を返すリシーを見て俺たちはここを離れようとすると

 

「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキどもを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

 豚は喚き散らしながら護衛の男を呼ぶ。すると、後方から1人の男が俺たちの方へと歩みを進めていく。

 

「めんどくさ、さっさっと済ませるか」

「弓人、お前がやるのか?」

「あの時の熊公みたいに1発殴らせてから正当防衛してくるわ」

「......待って」

 

 俺が相手をしようとすると、ユエが待ったをかけて俺の前に出る。

 

「......私たちがやる」

「え? ユエさん、私もですか?」

 

 ユエの言葉にレガニドと呼ばれた男は一瞬呆けるが、そのあと大笑いし始めた。

 

「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって? 中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ? 夜の相手でもして許してもらおうって「......うるさい」ッ!?」

 

 レガニドの頬に一迅の風が吹き、皮膚を薄く切る。反応することができなかったことに冷や汗をかきながら必死に分析する。

 

「......私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させる」

「ああ、なるほど。私達自身が手痛いしっぺ返し出来ることを示すんですね」

「......そう。せっかくだから、これを利用する」

 

 そう言ってユエは、先程とは異なり厳しい目を向けているレガニドを指差した。

 

「まぁ、言いたいことはわかった。確かに、お姫様を手に入れたと思ったら実は猛獣でしたなんて洒落にならんしな。幸い、目撃者も多いし...うん、いいんじゃないか?」

「ちょっと、猛獣って酷くない?」

 

 ハジメの言葉に文句を言いながら今度はシアが前に出る。そして背負っているドリュッケンを取り出すと、軽く一回転させて構える。

 

「おいおい、兎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ? 雇い主の意向もあるんでね。大人しくしていて欲しいんだが?」

 

 ユエから目を離さずにレガニドは、そうシアに告げる。しかし、シアはレガニドの言葉を無視するように、逆に忠告をした。

 

「腰の長剣。抜かなくていいんですか? 手加減はしますけど、素手だと危ないですよ?」

「ハッ、兎ちゃんが大きく出たな。坊ちゃん! わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜ!」

 

 亜人族最弱で有名な兎人族に言われたことで、剣を抜き怒りを露わにする。そして、ユエを警戒しながらシアに襲い掛かる。

 

「やぁ!!!」

「ッ!?」

 

 シアは迎え撃つようにドリュッケンを叩き込む。レガニドは長剣で受け止めた瞬間、予想していた以上の衝撃がレガニドに叩き込まれた。

 

「重すぎんだろ...」

 

 拮抗することも叶わず後方の壁に叩きつけられるレガニド。立ちあがろうと顔を上げた瞬間、椅子やテーブルといったものが宙に浮いているのを見てこの後の展開を察した。

 

「あ〜...割に合わない仕事はするもんじゃねぇな...」

「......ごめんね」

 

 ユエは一言謝罪を入れたのち、詠唱を開始する。

 

「『舞い散るは花』」 

 

「『風に抱かれて砕け散れ』」

 

「『風花』」

 

 宙に浮いていたテーブルや椅子が、一斉にレガニドに叩き込まれ。レガニドは完全に沈黙した。一応生きているようで、体が軽く痙攣している。

 

「......やりすぎた」

「もう少し、調整の練習がいるな」

「......むう、難しい」

 

 俺はユエの頭を軽く撫でた後、目の前で呆然としている豚の方へ歩いていく。豚は近づいてくる俺を見ると、再び喚き散らし始める。

 

「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

「てめぇがどこの誰かなんてどうでもいい」

 

 俺は豚の胸ぐらを掴むと一気に持ち上げる。

 

「ぐぇ...は、はなせぇ!」

「けどてめぇが俺の仲間に手を出すってんなら...ここで殺すぞ」

 

 最初に睨みつけた時とは比較にならない殺意をぶつけてやると、豚は情けない悲鳴と共に股間を濡らしながら気絶した。

 

「汚ねぇな...リシーちゃん。うるさくしてごめんな」

「いえそんな!...ですが申し訳ございません。一応規則としてあちらで事情聴取にご協力願います」

 

 俺は気絶した豚を放り投げ、ハジメたちの下に戻ろうとした所、状況を知っているリシーは申し訳なさそうにギルド職員たちの方へ手を向ける。

 

「あ〜...良いよ。騒ぎになったんだし仕方ないさ」

「はい...ご協力感謝します」

 

 気にしないように笑いながら返すと、ホッとした様子で頭を下げてくる。

 

 こうして俺たちは、ギルド職員たちの方へ歩いて行った。

 

 





Q.モットーはシアが欲しくなかったの?

A.「流石に恋仲を裂くほど外道になった覚えはありませんよ」とのこと

Q.アーティファクトの件を食い下がらなかったのは?

A.「これでも商人の端くれ、意味のない商談はしませんよ」とのこと

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